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殺し屋JK、ターゲットは父親でした。  作者: 椿原菜湖
殺し屋JK、ターゲットは父親でした。勝浦編1
38/69

38兎は闇に生まれる1

「何をそんなに改まっているんだ。」

「あ、あぁ。すまねぇすまねぇ。実は、お前に聞きたいことがあって。」

ふとヨナスの方に顔を向けると、俺のことを怪奇の目で見ていた。思わずその顔に驚いてしまった。

「今度はなんだ。人の顔をジロジロと見やがって。」

ヨナスはため息をついた。そして、顔だけを窓の方に向けた。

「飽きずに最後まで聞いて欲しい。俺とセレナは、お前に言われた通り、白川の家に突入した。」

「おまえの眼鏡についていたカメラ機能は本当に感激した。全身が震えた。」

ここ最近、ヨナスはよく発言するようになった。そんな口を利ける立場じゃぁないのに。こいつの意思で喋っているわけじゃないな。ヨナスの発言を促進させているのはおそらくセレナ。彼女だけは毎日のようにヨナスとニクラスの見舞いに行っている。

なぜそんなにも二人のことをこだわるのか。俺は理解ができなかった。

俺は構わず質問を続けた。

「その時に俺は、大量の資料を回収した。今さっきまで、回収した資料を調べてたんだ。そしたら、白川家なのにラビアサのメンバーの資料があったんだ。」

「あぁ〜あれか。ふんっ、あれな。」


カチッ


「その資料は、誰が作った。また、誰が白川家に置けと指示を出したんだ?」

俺は立ち上がり、自身の持っていたトカレフのトリガーを引いた。その銃口を、ヨナスに向けた。

銃口を向けた瞬間、ヨナスは少しだけ息を呑んだ。流石のヨナスでも銃を向けられると怯えるんだなと同時に思う。

「‥‥お前は、片手に銃を持っていなければ何もできないのか?」

は?こいつは何を言っているんだ?

「俺の質問に、答えろ。」

俺は目をすごめてヨナスを睨んだ。すると、ヨナスは再び窓の方を向いた。一呼吸置いた後、重い口を開いた。

「勝地だ。」

「は?」

「勝地だよ。ki殺し屋のヘッド、ジョセフの右腕だった人だ。この名を、お前も知ってるだろ。」

俺は、体が硬直して動かなくなってしまった。

勝地って、うちのメンバーが殺した奴だろ?そして、俺のことを撃った奴だろ?

勝地がラビットアサシンの当主だということは貝ちゃんからすでに聞いていた。情報伝達はされていた。

でも、なぜ勝地?俺は、完全に思い違いをしていた。

「なぜ、勝地が?」

「はぁ。今から、勝地のことを詳しく教えてやるからそれを下ろせ。座って話を聞け。」

勝地のこと?勝地のことはとっくに調べ上げた。勝地が殺された後、俺たちは一切彼のことを調べなかった。もう死んだ人のことは、必要以上調べない方針だからだ。

俺はヨナスに言われた通り、トカレフを構えている腕を下ろそうとした。

しかし、下ろそうとした寸前で腕に力が入った。

「いや、お前はまだ敵判定だ。何があってもこの銃は下ろさない。」

ヨナスは表情を変えずにこちらを見つめた。

「そうか。ならいい。」

俺は息を呑んだ。

勝地=ジョセフの手下=敵。

このデッキが俺たちの中で完全に出来上がっていた。

この方程式をどう覆すというんだ?

「勝地はな、本当にすごい人だったよ。」

ヨナスは窓に顔を向けたまま、話を始めた。



2019.10.25

当時、ラビットアサシンは勝地洋輔を除く5人のメンバーで構成されていた。

当主のナハトシュペーア、副当主のフーリン、クララ、スナイパーのヨナス、ニクラスの5人。

全員の本名は以下の通りだ。


ナハトシュペーア:寿実菜ことぶきみな

フーリン:瀬戸風華せとふうか

クララ:白川春綺

ヨナス:川蔵


ニクラスの本名は、誰も知らない。

5人の初めての出会いは、2014年のフィリピン。白川春綺は世田谷一家相殺事件の犯人として日本国内にて警察に追われている身であった。

『国際便ゲート18番、1時発、フィリピン航空行きはまもなく出発いたします。』

白川春綺は深夜便に乗って誰もいない空港を後にした。

事件が起きた付近にある、捜査を担当していた成城警察は、関東全域の捜査を開始しようとしていた。しかし時すでに遅し。白川春綺は飛行機に乗ってフィリピン航空に着いて荷物検査を終えていた。

彼女はまず最初に、フィリピンのギャング集団と繋がりを持つようになった。なぜか、それは知られていない。ヨナス本人も本当に知らないようだった。

彼女は日本で家族を皆殺しにし、自分は日本で指名手配犯になっていると言えばフィリピンのギャング集団内では簡単にのし上がれるらしい。

あっという間にフィリピンのギャング集団のリーダーとなった白川春綺は、別のギャング集団と衝突した。

そこの集団の名は、フィリピンで最も有名かつ醜悪と呼ばれていたチーム『カスクラム・スクラム』だ。ここのワンツーといえば、現在ラビットアサシンのメンバーであるヨナスとニクラスであった。

二人はフィリピンのみならず、世界中で知られている二人であった。全世界のギャング集団が憧れる人と言っていいほどだった。

カスクラムは一体何をして醜悪と呼ばれたのか。その理由は、ニクラスにある。

ニクラスは全てが謎に包まれていた。ニクラスの声を聞いたことがあるのはヨナスのみ。カスクラムのNo.3すら彼の声を聞いたことない。

カスクラムが結成された時は、二人だけのチームだった。このチームが有名になったのは結成された時から三ヶ月後のことだった。

フィリピン国内で衝撃的なニュースが走った。それは、ニクラスがフィリピン政府の幹部23人を撲殺したのだ。全て素手による殺害だった。

この事件は世界中で多く報道された。日本でももちろん。この事件は『フィリピン騒動』と呼ばれた。

フィリピン騒動を起こした本人は、姿を暗らませていた。この騒動は特別ヨナスが指示したわけじゃない。

しかし、ギャング集団の一人が事件を起こしたのはニクラスと特定した。

その影響でカスクラムは一気に頂点へと登り詰めた。



「あの時が、一番幸せだった。ニクラスは、俺の全てだ。」

ヨナスは俺の質問に答えることなく、ラビアサが出来るまでの経緯を話し始めた。こんなの興味ねぇよ、と思ったが、俺は眼鏡の縁を触って録音機能を起動させた。



『ヨナスさん。』

ヨナスはこの頃からヨナスという名前を使用していた。ニクラスも同じだ。

二人はカスクラムとして著名人になり、金には困らなくなった。生涯暮らしていける金を手に入れたのだ。

そこで現れたのが、白川春綺率いるギャング集団『ラビットアサシン』だった。

フィリピンの二大ギャング集団と呼ばれたこの2チームが衝突するという前代未聞の出来事が起こったのだ。それは、『フィリピン衝突』と呼ばれていた。



「フィリピン衝突?」

ヨナスの話を聞いている最中、俺は不思議に思うことがあった。まず、なぜクララは日本で全国指名手配されているのにフィリピンで堂々と暮らせるのか。

白川春綺という名前は知らなかったが、かなり前に世田谷区で一家が殺し合うという事件自体があったということは知っていた。知った当時は日本でもこんな事件が起きるんだなとただ思うだけであった。

よく駅に行けば白川春綺の手配ポスターの目が合う。そんな感じで、この事件のことについて重く受け止めてなかった。

「この出来事は、俺が30にもなっていない時に起きたの。発端はクララがニクラスに接触をしたことがきっかけ。」



『あなたが、カスクラムのニクラス?』

白川春綺ことクララは自身のチームであるラビットアサシンの幹部二人を連れてニクラスに接触を試みた。ヨナス曰く、チームの攻撃範囲を広げるために自分たちを戦力としてラビットアサシンに歓迎しようとしたらしい。

クララは背が低く、体重も軽かった。幼少期の成長途中に栄養のない食事を摂ったかららしい。

クララは白川家の中でも優遇されていた人間だったため、脂物やら大量の糖を含む食事を自動的に摂らされていたのだ。そのため、幼い頃はBMIが27以上あったのに対して現在はBMIが20にも満たない身体になってしまったという。

そんな身体の彼女がギャング集団の当主を張っていたのは彼女自身の過去と反映しているだけだった。力もなければ権力も金もない。フィリピンでは、人を殺した数だけ偉くなれる仕組みになっていたのだ。

ニクラスは言葉を発したことはない。ニクラスの意思を理解できるのは一緒に番を張っていたヨナスのみ。接触した当時、クララはニクラスが何を考えているのか分からなかった。

『あんた、発話できるのか?』

『クララさん。この人はフィリピン政府を殺したというニクラスで本当に間違い無いですか?』

ラビアサ幹部の一人がクララに話しかけた瞬間、そいつの口が開くことはなかった。

一瞬の隙に、ニクラスはラビアサ幹部の一人を瞬殺したのだ。彼は銃を使うこともなければ刀を使うわけでもない。殺す方法はただ一つ。

人を殺す拳のみ。

クララは口から出す言葉を失い、人間が生活する上で絶対条件である発話という機能を失ったのだ。

『え?』


グシャ!バタン


次に連れのもう一人の幹部も瞬殺された。

身体中に大量の刺青をいれてフィリピンでは知名なラビットアサシンの幹部。

ラビットアサシンの幹部という肩書きだけで皆が恐れ入る。日本で指名手配の当主に認められたということ。これはギャング界のどんなことよりも素晴らしいことである。

体力はもちろん、戦闘力も知的もある人間のみがラビアサの幹部になれるはずなのだ。

そんな人間を二人一気に瞬殺をするニクラスは、当時フィリピン最恐醜悪の男と呼ばれていた。

『お前、何者だ?』

クララがニクラスに話しかけた瞬間、クララの首元にはニクラスの剛腕が巻かれていた。

『う、う‥お‥‥まえは‥』

クララの息が途絶えるその瞬間、ある男がその現場を目撃した。

『あっれ〜?ニクラス何やってんのさ!』

その男こそ、カスクラム当主のヨナスだ。

『ニクラス!落ち着けって。女の子に何やってんの?』

ニクラスはヨナスが来た瞬間にクララの首に巻いていた手を離した。


バタン!


『うわっ!はぁ、はぁ、はぁ‥‥!』

『君、だれ?』

ヨナスは崩れ落ちたクララの目線に合わせて自分もしゃがんだ。

『わ、私は、ラビットアサシンのクララだ。』

ここで初めて、互いの名前を把握したのだ。ヨナスがいなければクララはニクラスに首を絞められて死んでいただろう。

『ラビットアサシンだと?何の用だ?』

『お前らと、手を組みに来た。』

『ん?君は、何を言っているのかな?』

『分からないのか。ニクラスがフィリピン政府の人間を殺した今、お前らは追われてる身なんだよ。すぐにでも警察が逮捕しにくる。その前に、手を組んでチームをデカくした方が捕まりにくくなる。』

クララは右の口角を上げながら話した。窮地から助けられて随分と気分が良かったのだろう。

『ふ〜んそっか。なら、まずは俺らに勝たないとダネ!』

ヨナスは笑いながら話した。この恐怖の喋り方こそ、ヨナス自身が研究した成果だろう。

『ふんっ。そう言われると思ったよ。来週の火曜日、ミンダナオ島に来い。そこで決戦を申し込む。』

なんと、クララはギャング集団最恐のカスクラムに決戦を申し込んだのだ。

これだけでも凄いことだが、それ以降に、か弱い女一人がギャング集団当主にこんなにも強気な態度でいれることが奇跡に近い。

ヨナスはこの女を見て、酷く感激したらしい。



「何だこの女はって思ったよ。それと同時に、彼女を盾にしてチームを裏で操りたいとも思った。」

「何でそう思ったんだ?」

俺はヨナスに質問した。

「もともと俺は当主なんてやりたくなかったんだ。」ヨナスは会話途中でも決してこちらに表情を見せることなく、ただひたすらに窓の外を見ていた。

「でも、二クラスとずっと二人で行動していて、周りに当主になれそうな人材もいなかったしもちろんのこと、ニクラスはそんなこと出来ない人間だから仕方なく俺が当主をやっていたんだ。カスクラムが著名になったのも全てニクラスのおかげだっていうのに、俺が当主なんかになっていい性分じゃなかったんだよ。」

ヨナスは、自分の自由の意思で当主をやっていた訳じゃないんだ。

俺は、とんだ思い違いをしていたのだ。

ヨナスは俺の思考を邪魔するかのように、スラスラと話を始めた。



『ミンダナオ島かー。ちと遠いけど、気が向いたら行ってみるね。』

『気が向いたらって。』

『あれ?納得いかなかったかな?ほれほれ、子供はこんなところにいないで早くお家に帰りなさい。』

クララは幹部たちの死体から拳銃と弾を回収した。

その死体は主に顔全体がひどく損傷しており、どこに目がありどこに鼻があるのかも区別つかないようになっていた。

さすが人を殺す拳を持つ男だ。

『この死体はどーするの?』

『今から私が車に乗せる。』

『え?!君って運転できるの?』

ヨナスはこれでもかとクララを攻撃した。クララは動じることなく、拳銃を次々と回収していった。

出てくる出てくる無くなることのない拳銃達。ヨナスは目を笑わせないで口でひたすら笑った。

『わぁ〜!すごいね!こんなに沢山の拳銃どこで手に入れたの?』

『てめぇに関係ない。そこ邪魔だ。』

クララはヨナスを押どけて幹部一人を悠々と持ち上げた。

『わ!すっごい力持ち!』

クララは外に停めている車に向かうために、地下の階段を登ろうとした。


ガチャン


階段上にある扉が閉まる音がしたのを確認した後、ヨナスはニクラスを見た。

『余計なことするなよ。』

ヨナスは背丈がずうっと上のニクラスを睨みつけた。

『さ〜てと、来週が楽しみだなー!』



「カスクラムの当主、クララに戦闘を申し込まれたんだ。」

俺は今、ヨナスからラビアサが出来た経緯を聞かされていた。最初は貝ちゃんの質問と俺の質問を聞くためにきたのに、いつの間にかラビアサ記の話をしていたのだ。こんなくだらない話に、何も重要なキーワードは含まれていないだろう。

俺は変わらずヨナスに自身の銃口を向けていた。ヨナスは発話最中でも決して動きを焦らせることはなかった。

「俺とニクラスは、戦闘に備えたんだ。‥‥って、お前は俺の話に興味があるのか?」

「あ?」

ヨナスは突然にして意味深な発言をした。

「俺が最初に言った質問、覚えてるか?」

「もちろん。」

「ラビットアサシンの話なんぞ、興味ねぇ。」

「まぁまぁ、最後まで聞けって。」



『ニクラスはどーして余計なことをするかね〜。』

ヨナスとニクラスは、ラビットアサシンの当主、クララに今夜23時にミンダナオ島の中央地下駐車場に呼び出されたのだ。

要件は詳しく語られていない。手を組みたいと言っているばかりである。

二人は互いに考えを出し合った。

なぜ手を組みたいと言ってくるのか。

ラビットアサシンの当主が直接くる意味とは。

クララという者は、手を組み組織をデカくすることによってニクラスが捕まりにくくなると言っている。俺の考えとしては、二つのチームはすでに十分デカい組織となっている。なので、ニクラスが捕まる可能性は極めて低い。

加えて、クララが俺たちと組織を組んだところで彼女の負担が増えるだけだ。目を配る範囲が増え、余計な人材が自分の仕事の邪魔をする。いいことなど一単位もないのだ。

『ニクラスは、どう思う?』

ニクラスは喋らないで有名。彼は無言のまま敵を窮地に追い詰め、殺す。彼の相手をして生き残った者が口を揃えて言う。


【残虐極まりない。】と。


それもそのはずだ。

一度、ニクラスと柔道術の手合わせをしたことがある。俺は構えてニクラスより低い姿勢をとった。

しかし、俺が瞬きをし終わる頃には鼻血を出して床に倒れていた。

俺は誰かを相手に倒す時、必ず息を吸って吐くというルーティンをしている。俺に限らない。この世の人間何も喋らず何も動じせずに人を倒すことなんて不可能である。

ただ、一人の男を除いてだ。

ニクラスの息は死ぬまでに聞いてみたいものだった。

彼は呼吸も何もせずに俺を倒した。

自分で言うのもなんだが、俺は柔道で人を殺す術は熟知していると思っていた。

そんな常識を、ニクラスはひっくり返したのだ。

俺はニクラスに降参した。ありがたいことに、彼はその時から俺のことを慕ってくれていた。

『ヨナスは、長銃の使い、上手いから、遠方から僕を援護する。ラビアサのことを撃ってほしい。』

彼はカタコトな言葉で喋るのが特徴的だ。

彼の言葉は、この世で俺のみが聞けるのだ。

『そうだね。それがいいと思うよ。でも、ニクラス一人でラビアサ相手にできる?多分だけどすごい人数連れてくるよ。』

ラビットアサシンの構成員はおそらく69000人と推定されている。それに対してカスクラムは約58400人。およそ10000の差があるのだ。ラビアサはこれを利用して総動員で攻撃を仕掛けてくるな違いないと即座に思った。

『69000対1。無理があるわな〜!流石のニクラスでも』

『できる。僕、できる。69000人なんて。』

彼のこの自信は一体どこから派生されているのやら。毎度不思議に思う。

でも、不思議と思う同時に彼なら出来るという自信が湧いてくる。またこの自信もどこからきているのやら。

『‥‥分かった。ニクラスならできると信じてみるよ。なるべくの負担は俺が持つ。ニクラスは目の前の敵だけに集中しろ。体力は削らず、一回の振りで最低5人は殺れ。ニクラスならできる。』

『僕ならできる。もうすぐ、時間。』

俺は腕時計に目をやると、時刻は21時49分を差していた。

『そろそろ行くか。』

俺は立ち上がり身につけていた腕時計を外し机に置いた。この腕時計は、戦闘には持っていかないと自分と約束しているのだ。

一見は普通の腕時計に見えるが、俺にとっては死んでも捨てられないものなのだ。

『はっはっはっはっ、はっはっはっは!さぁ来いよラビットアサシン。当主の息の根を止めてやるぜぇ!』

俺は壁にかかった東京マルイvsr10gスペックを手に取った。

ニクラスは何も持たずに拳を見てクイッと握っていた。

『今日は、コイツ、調子がいい。』

己の拳をコイツと呼ぶだなんて。最後まで馬鹿な野郎だ。

俺はニクラスと目合わせをして、歩き出した。

この戦いに意味があるかなんて分からない。ラビットアサシンが有利なことだけは分かる。

俺たちは地下から階段を登り地上に出ようとした。すっかり暗くなった空に、俺は懐から取り出した拳銃を一発撃ち放った。


パァン!


銃音は派手に鳴り響き、優雅に飛んでいた鳥が地面にぽつりと優しく落ちた。

『ニクラス、戦闘中、お前は一言も喋ってはいけない。決してカスクラムのことを話してはいけない。分かったか?』

ニクラスは頷いた。俺は試し撃ちした拳銃の形を触り確認した。

残弾は五発。

念の為にポケットから弾を取り出して入弾した。これでマックス6発発射可能になった。もともと6発しか撃たない拳銃になっていた。そのため、常に6発ある状態でいないと一瞬で弾切れになってしまうのだ。

拳銃に加えて、肩掛けに背負っていた東京マルイvsr10gスペックを背中に預けた。

俺の背丈ほどある大きさのため身体にかなりの負担がかかっている。

それに比べてニクラスは羨ましい。手荷物は何もない。その巨大な等身だけで話が済むのだ。

ニクラスの身長は前に測った時は206cm。俺の身長は193cm。俺も平均以上でかなり高い方ではあるが、それ以前にニクラスがやばいのだ。彼が常人ではないのは確かだった。

『ニクラス。』

俺はニクラスの名前を呼んだ。

『あっちは、何人連れてくると思う?』

ニクラスの方を見ると、指文字で人数を表していた。


1人、と。


『え?んなわけないでしょ。』

『僕の勘、よく当たる。』

俺は思わずニクラスの方を見た。普段通りの無感情な表情に、俺は背筋が凍った。

いつもと何も変わらない彼なのに、彼なのに‥‥。いや、考えるのはよそうか。

俺は歩き出して車が停まっている駐車場に向かった。空を見上げれば、いつだって星が浮かんでいた。

俺に続いてニクラスも一緒に歩いてくる。



「ニクラスという男は、常に二歩進んで三歩下がるような男だった。」

「あ、あぁ‥‥てかっ!話し長すぎるんだよカスが!いつになったらお前らがラビアサに加入するんだよ!こちとら時間とって聞いてやってんのによ!」

いつまで俺はこいつの話を聞いてればいいんだ。長すぎる。話のオチがなさすぎてつまらん。実につまらん。

俺がぐちぐちと駄々を捏ねていると、ヨナスがこちらを見据えて言った。

「知りたくねぇのかよ。白川春綺という凶器を。お前らは白川春綺を殺したいんだろう?」

その瞬間、窓から入る風が揺らいだ。俺は目を見開いてヨナスを見た。

俺は全身に鳥肌を覚えた。

なぜこいつが、俺らのホシを知っているのだ?!

俺の口から絶対にホシ情報を流すわけがない。というか、ki殺し屋の条令でホシ情報を殺害部隊以外で流出させてはいけないというものがある。

この掟を破り、敵チームのメンバーである男にホシ本人を知られているなんて。誰が、こんな真似を‥‥!

俺は構えていたトカレフの銃口をヨナスの額に押し付けた。

「なぜ、お前がホシの名を存じているんだ!誰から聞いた!」

ヨナスは後ろに倒れそうになるも、物凄い腹筋で耐えた。そして、笑いながらこう言った。

「さぁ、誰かな。俺の話を最後まで聞いてくれたら教えてやる。」

「て、てめぇ!」

俺の腕には全ての筋肉が浮き彫りとなっていた。身体中の筋肉が反応して今すぐヨナスを殺せと指示しているようだ。

「いいから話を聞け。」

「このままなら。」

「いいだろう。」

銃口を向けられると、人は平常心を失う。しかし、ヨナスという男は平常心を失うどころか笑いながら話をしているのだ。



ブォンブォンブォーーン!


俺は車のエンジンを思いきり踏んだ。

『ガム頂戴。』

後部座席に座っているニクラスに向かって言った。すると、彼は前ポケットから苺味のガムを取り出した。俺は片手運転をしながら左手で受け取り、口に放り込んだ。

『クチュクチュクチュクチュ。』

こうして俺たちは、決戦の地、ミンダナオ島まで車を走らせた。



キキィ!!!


車を近くの駐車場に停めて俺たちは車を降りた。

『ここで分かれる。俺は第五塔の屋根からこいつを構えてる。お前は前の敵だけに集中しろ。必ず、生きて帰るんだ。死ぬなよ。』

俺はニクラスの肩を優しく叩いた。

『うん。必ず、生きる。』

ニクラスはクララに呼ばれた場所に向かって足を向け、歩き出した。

俺はそれに背を向けて歩き出した。

今夜は、何かしらの変化が起きるだろう。

とりあえず、多くの人間を殺す。それに限る。


『ういしょっと。』

俺は東京マルイvsr10gスペックを取り出して自分の身体に合わせて設置した。

俺は縦寸が高いため、長時間身体を寝かせることができない。そのため、俺は座って撃つようにしている。

この長銃の三脚部分を極限まで上に伸ばす。これが俺の神的位置だ。

長銃の設置ができたところで、俺はスコープから狙いを定めた。

決戦地が地下であるため、狙いを定めるのがいつも以上に困難だ。わずかな隙間から見える地下内部にいる敵を正確に撃たなくてはいけないのだ。流石の俺でも容易とは思わない。

『ふぅ。』

深呼吸して、その時を待った。

呼吸をした次の瞬間、銃音が耳に届いた。


パァン!


加えて、女の声がした。

『よく来たな。お前一人か?』

スコープから中の様子を伺った。そこにいたのは、紛れもないラビットアサシン当主のクララだった。

彼女の周りに人間はおらず、援護もいなかった。

『やはり、こうなるとは思っていたよ。私はここに一人で来た。ご覧の通り、幹部を一人も連れてきていない。なぜなら、お前らが二人のみで来ると勘づいていたからだ。正々堂々、一対一で勝負しようかと思ってね。』

内部を見る限り、彼女はひたすらに口先を動かしていた。こちらからは流石に声は聞こえなかった。

対してニクラスは何も喋っていなかった。

『そうだった、君、何も話さないんだったね。噂はたくさん聞いているよ。人を殺す拳を持っているんだってね。私もね、人一倍拳は強いんだよ。人と殴り合うということは、悪いことではない。お前は人を殺す拳かもしれないが、私は自分を守る拳なんだよ。さぁ、力試しといこうか。』


タッ!


その瞬間は誰も目で追えなかった。クララは風のように飛び、ニクラスの背後を素早く取った。

『さぁさぁさぁ!お前のその拳で私を殺してみろ!』

ニクラスは素早く後ろ向き、クララに拳をふった。


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