37その耳に届く声は
俺は勢いあるまま殺害部隊の仕事部屋を飛び出した。
貝ちゃんを少し困らせてしまったかもしれないな。貝ちゃん、最近様子がおかしかったからな〜。
「う〜ん。貝ちゃんて、人の心がないからな〜。」
独り言のように呟いた。でも、独り言ではないような気がした。まるで誰かに話しかけているような感じ。
「貝ちゃんて何考えてるか分からないし、てか、何で俺って貝ちゃんを守ろうとするんだろう。」
『それは、過去を思い出してみな。』
「はっ?!」
俺は、後ろ蹴りをした。そこには、誰もいない。当たり前だけど、なぜ俺は後ろ蹴りをした?
『さぁ、それはどうしてかな。』
「?!」
聞こえる。誰かの声が、聞こえる。誰の声だ?誰かが俺に話しかけている。しかもこの声はどこかで聞き慣れている声だ。
「クソが。」
俺は止まっていた足を再び進めた。ヨナスの元に向かっている最中も、何度も声が聞こえた。
『セレナを守りたい理由は何だ。』
「んなこと、俺の勝手だ。」
『そうか。コアのことはコアが決める。』
「お前は、誰なんだ。」
『お前が過去を思い出したら教えてやるよ。お前は過去から逃げ続けているんだよ。』
「死ね。」
過去のことなんて、誰も興味ねぇ。俺の過去?そんなの思い出してどうなる。そこに何かヒントがあるのか?んな簡単な話はない。
貝ちゃんを守る理由。そんなの、あの出来事があったからだろ‥‥。
パァン!
『おー!いい腕だね!真ん中に的中だよ!』
その女の子の名前は、藤沢貝。俺の新しい相棒だ。つい先日、相棒が撃たれて死んだ。そいつは何の役にも立たなかった。
ジョセフの紹介で相棒になったが、体も一回りおれより小さく、力もなければ銃術に才もなかった。
なので俺は何度も手下のロルバンを相棒にしろと言った。
しかし、ジョセフは聞く耳を持たなかった。その当時は、なぜロルバンを相棒にしなかったのかと思うだけだった。
役立たずの次は、女子高生?どこのどいつの女子高生が殺し屋をやりたいと言うのか?
俺は初めて貝ちゃんをみた瞬間、率直に思った感想がある。それは、
『こいつ、明日には死ぬな。』と。
小さな手で握る拳銃は実に大きく見えた。
しかし、ボスのジョセフに言われたなら受け入れるしかない。相棒は常にいなきゃ困る。
さっそく今日、貝ちゃんに拳銃の使い方を教えた。
ところが彼女はそれを否定してきた。
『もう知ってるから結構。』
手のひらを見せながら言ってきた。
『あ、あぁ。』
待って待って待ってください。拳銃の使い方を知っているだと?どういうことだ?
俺は貝ちゃんのこの一言に、混乱を巻き起こしていた。
『知ってるって、君、女子高生だよね?』
『セクハラが黙れ。知ってるからなんだ。』
ほほーん。お口の悪い子だ。
『それじゃ、俺は何も手伝わないからな。一人でやりたいなら一人でやってな。』
俺はその場を離れた。こんな迷惑な娘をよこすなんて、あのジジイも頭がイかれてんな。俺は、俺に歯向かうやつが嫌いだ。大っ嫌いだ。
『ねぇ。』
まだ付き纏ってくるのか。
後ろを振り返ると、そこには貝ちゃんがいた。
『なに。』
『射撃場とか、ないのか?』
何なんだこの女は。射撃場?どこでそんな言葉を覚えた?俺はこの女が、大っ嫌いだった。
『射撃場?お前みたいな奴が知ってる言葉じゃねえだろう。』
『さっきも言った。知ってるから何だ。早く教えろ。』
『てめぇ、それ以上の口を利いたら、殺すぞ?』
俺は顔をすごめて貝ちゃんの方を見た。貝ちゃんの大きな瞳に俺の怖すぎる顔が写っていた。これでこいつも懲りるだろう、と思っていたのに。
彼女は表情を変えることなく、俺にビンタをした。
パチン!
『私はお前の相棒だ。案内くらいしようと思わんのかぁ?』
かっちーん。俺を怒らせたようだな。
俺は、自分の拳銃をポケットから取り出した。そして、貝ちゃんの額に当てた。
『頭を地につけろ。』
『‥‥はぁ。お前は、とことんつまらない奴だな。』
ガチャァァァァン!!!
『くわっ!』
俺は小さな悲鳴を上げた。何だ?何が起こった?!俺の身体は、廊下の端まで飛ばされていた。
『あとどれくらいで痛めつけてほしい?』
貝ちゃんは両手に拳銃を握っていた。俺は自分の手に目をやった。いつの間にか自分の拳銃を離していたのだ。いつ取った?いつ取ったんだ?!
俺は、頭の整理がつかなかった。
『今すぐ射撃場に案内しろ。』
俺の相棒の顔の目は、笑っていなかった。口だけ動いていて、肩も動いていなかった。
『わ、分かった。分かったから、落ち着け!』
人間に対してこんなにも本気になったのは、これが初めてだったな。
貝ちゃんとの初めての出会いは、あまり良くない。
「あぁもうクソがっ!」
俺は地面を蹴りつけた。地面に少しの傷が入った。
行った道に目をやると、同じような傷が大量に入っていた。
コンコンコン
「よぉ。久しいな。いつもは林村が看病に来るだろうに。今回は俺だ。」
ヨナスはベッドに座り本を読んでいた。分厚くて、まるで国語辞典のようだ。
俺は近くのパイプ椅子に腰掛けた。
「よいしょっと。元気か?」
ヨナスは喋らないで有名だ。貝ちゃんがヨナスに話を持ちかけた時も、ほとんど話さずに終わったらしい。
「ちょっと、聞きたいことがありましてね。」
「何だ。」
俺は息を呑んだ。
この質問内容がしくじれば、貝ちゃんが怒る。
「‥‥ふぅ。えっとね!」
いや、大丈夫。いつもの俺でいけば何の問題もない。落ち着け。これはたまにあることだ。こんな思い、すぐに消えてなくなる。
俺の心には、いつまでも恐怖心があった。




