31血と星空のあいだで
私は静かに立ち上がり、扉に向かって銃口を向けた。
少しの息遣いも許されない。私は無言のまま銃口を向け続けた。
この家に侵入してくる奴なんて、私たちをつけたラビットアサシンの人間か警察としか考えられない。
私はコアと目を合わせ、教景を守れと指示を送った。
コアは軽く頷きながら教景を押入れへと押し込んだ。
コツ、コツ、コツ
徐々に足音が近づいてきた。
「‥‥。」
私の息を呑む音だけが部屋に響いた。何者かも分からないのに会ったことあるような威圧感に襲われている。仲間だろうが敵だろうが私が嫌っている相手に違いない。
階段を登り足音が止み、間を与える時間もなく再び足音が聞こえた。
今度はこちらに近づいてきている。しかし、私は決して動じることはなかった。たかが人間だ。同じ人間なんて恐怖すら感じない。
コツン
おそらく、足音が扉の目の前で止まった。私たちのいる部屋の扉の前で。
「‥‥。」
しくじるな。よく考えろ。相手の動きを見極めろ。先にその場の雰囲気を掴んだもん勝ち。
ガチャン!
パァン!
『かっ!』
『セレナ!クソッ!うわっ!』
『‥‥なんだ。kiもこんなもんか。』
「?!」
なんだ。ただの幻想か。落ち着け。目の前のことだけに焦点をあてろ。
‥‥来る!
ガチャン!
「動くな!」
目の前に現れたのは、一人の警察官だった。
「銃を置け。」
「‥‥。」
私は静かに銃を置いた。
「そのまま動くな。手を上げろ!」
言われるがままに両手を上げた。私の視線は警察官の膝丈ほどの高さに下がった。
「よし。そのまま動くな‥‥くわっ!」
ゴン!ガチャァァァン!!!
「貝ちゃん?」
後ろからコアの声がした。
私はいつの間にか、警察官を蹴り倒していた。何だろう?この感覚は。自分の意思で蹴ったわけではないのに、警察官は伸びてしまっている。
「何だよポリかよ。」
コアはしゃがんで警察の頬に銃口を優しくあてた。
「ごめん、その‥‥撃たなくて。」
「ん?あぁ、結局貝ちゃんの蹴りで倒れちゃったし。てか、警察がいるならヤバくね?早くつらがろうぜ。」
コアは扉に向かい、一旦扉を閉めた。
私は床に置いたトカレフを拾い上げた。そして、教景を押入れから引きずり出した。
「こっからどうやって車まで行くよ?」
コアは私の目を見て言ってきた。
「教景、足痛むのか?」
「いたたた!」
私は教景の足の痛む箇所を手で押した。教景の小さかった声も、徐々に荒げていった。
「バカっ!静かにしろ。」
コアは教景の頭を叩いた。
ゴンゴンゴン!
砕けた会話をしていると、ものすごい勢いで扉が叩かれた。私は咄嗟に教景の前へ出て、トカレフを構えた。
すると、低くゆったりとした声で一人の男がこちらに声をかけた。
『こちら、成城警察署です。部屋の中にいる者は、直ちに、武器を置いて出てきなさい。』
成城警察?扉越しで聞きにくくなっているとはいえ、確かにそう言った。どういうことだ?今さっき侵入してきた警察官は?
『直ちに、出てきなさい。君たちは既に囲まれている。』
ほんとに、どういうことだ?
私はコアの方に視線をやった。すると、指で合図をしてきた。
『援護してくれ』
『はぁ?無理だよそんなの』
『無理じゃない頼む』
コアは教景の体を軽々と持ち上げておんぶをした。
『俺はとにかく走って車に行く。その間のポリ達は頼んだ』
いきなりの無茶を言われてしまった。
ポリ達といっても、きっと何十人もいるんでしょ?そいつらをかわしながら車までなんて、流石の私でもバカだと思う。
コアは片手を自分の顔に近づけて、お願いのポーズをした。
私は、仕方なく受け入れることにした。このまま仲間の迎えを待つという判断もできる。しかし、それよりも先に警察に侵入されたら取り返しのつかない。
私はトカレフの残弾を確認した。十分にある。途中からはコアのトカレフを使おう。
コアに目を向けると、今にも扉を破壊しそうな体制をとっていた。
「3、2、1。」
ガチャン!
始まった。人生で一番警察官との距離が近い。
「お、お前ら、動かなうわっ!」
パァン!
「捕まえろ!うわっ!」
パァン!パァン!パァン!
次々とトリガーを引き、近くにいる警察官を撃っていった。
「危ない!」
こちらに銃口を向けていた警察がいた。私は咄嗟にそいつの頭をぶち抜いた。
「ナイス!」
私は決して声を出さないようにした。声を出してしまったら、女子高生とバレてしまうからだ。
パァン!パァン!
長年愛用したトカレフの弾がきれた。私はトカレフを投げ捨ててコアのポケットからトカレフを取り出した。
パァン!
「このままいくぞ!」
ガチャァァン!!!
玄関扉がものすごい勢いで壊された。
私たちは走り抜け、扉を閉めた。閉めた瞬間にぶつかるような音がしたが、そんなの関係ない。
やっとの思いで外に出ると、数人の警察が構えていた。
「マジかよ。どうする?」
残りの弾数はおそらく七。
「全速力で車に向かって。」
「えぇ?」
「早く!」
私はコアに指示を出した後、コアの真後ろについた。
「3、2、1走れ!」
コアは教景を抱えたまま、光速のように警察に突進した。これがどんな作戦かって?
私が体が大きいコアの後ろにつくことによって、警察から見て左右どちらから出てくるか分からない仕組みになっているのだ。
「こっちだ!」
パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!パァン!
私は、八発のうちの七発で警察官六人を撃った。
「えぇ?!すっご!」
コアは驚きながら車の鍵を取り出した。
「早く車開けろ!」
私は追ってくる警察官に一発撃ち込んだ。
パァン!
「うわっ!」
これで残っている弾はゼロ。家の中から何人もの警察がこちらに向かって走ってきた。
「早く開けろ!」
「ちょっと待て!」
コアは鍵を開けるのに手こずっている。すぐそこに警察が来ている。
「止まりなさーい!!」
「あぁもう!どけ!」
ゴン!ゴン!ゴン!ガチャァァン!
私は車の窓を肘で叩き割った。
そして、教景とコアを車の中に押し込み、私は空いた窓を足場にして屋根に登った。
「早く発進させろ!」
ブォンブォンブォーーン!!
「うわっ!あぶね。コア!車内のアサルトを出せ!」
「アサルト?!ほらよっ!」
私は窓から突起したアサルトライフルに手を伸ばして車の屋根に構えた。
「くそ。急げ急げ。」
アサルトライフルを構え、トリガーを力強く引いた。
ダダダダダだダダダ!!!!
連続に弾が発射された。車の上で私の体が左右に大きく振られた。そのため、弾道が合わない。
「クソッ!死ねぇぇぇぇ!」
ダダダダダダダダ!!!!
ガチャァァァン!!!バァァァァン!
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
追いかけてきた警察車両おそらく五台を運転機能停止にさせた。
私は息継ぎが上手く出来なかった。ふと二の腕に痛みが走り、手で強く押さえ込んだ。
「セレナ!」
車から声がした。少し甲高い声のコアではなく、教景の声だった。
「こっちに降りろ!」
窓から傷だらけの腕が差し伸べていた。
私は迷わず手を伸ばして、車内に座った。
「うわっ!痛った‥‥。」
「セレナ?無事か?」
「なんとか。一応追いかけてくる警察は撃っといた。」
コアは了解、と言いながら蛇行運転を繰り返した。
時間帯は夜中で、車内は暗黒に塗りつぶされた。どんなに赤い人間の血も掻き消すように。
「これから猛スピードで勝浦に向かう。メンバーに連絡を頼む。」
「りょうかい。」
私は自分のスマホを取り出して、ロルバンの電話番号を打ち始めた。
「‥‥。」
しかし、連絡する手前で手が止まった。
そして、リアムの電話番号を入力した。
プルルルルル、カチャ
「もしもし。」
『どうした?』
「これから勝浦に戻る。怪我人がいるから林村を手配しろ。」
「了解。」
リアムは電話を切った。
「怪我人?」
コアが私に問いてきた。
「実は、お前らを援護をしてるときに二の腕にかすったんだ。」
「え?!急いで止血しろ!」
私は運転席横にある救急ボックスから包帯を取り出した。
「おいお前、ちょっと巻いてくれ。」
「あ、あぁ。」
そう言って教景は包帯を使って私の腕を巻き始めた。
弱気な人間とはいえ、一人の男だ。そのたくましい手に少し見惚れた。
「あと何分くらいで着く?」
「夜だから空いてるけど一時間はかかるぞ。」
「結構痛いんだわ。早くしてくれ。」
「了解。」
コアはアクセルを踏みつけてスピードを早めた。
何も見えない空は、星だけが輝いていた。




