30死者の家に侵入せよ
ヨナスに教景の在処を聞いて二日が経った。
今日は、世田谷区の成城に行く日だ。
ヨナスによると、成城の家に教景がいるらしい。しかも、死んだ状態で。
「武器は持った?念の為にね。」
私とコアはトカレフと予備の弾を準備した。
そして、白川家の自宅内の構造を調べた。コアがインターネットで調べて、私はヨナスに聞くことにした。
ヨナスのいる病室に向かっている途中、あることが頭をよぎっていた。
それは、ヨナスはなぜ、私たちに成城と教えたのか。嘘だとしても抽象的すぎるというか、本当にありそうなことを言ってきたことが不思議だった。
私だったらその場で思いついた全く接点のない地名を言うと思う。
「何でだ?」
たくさん考えても容易く答えが出る問題ではなかった。
ガチャン
「元気か?」
私はヨナスのいる病室に入った。
「ここからは、メモで会話をしよう。何があっても喋るようなことはするな。」
盗聴に備えて、ヨナスとの会話はメモで行うことにした。
私はメモ帳とペンを二本ポケットから取り出した。その内の一本を、ヨナスに渡した。
ヨナスはゆっくりとペンを握り、私と同じ左手で文字を書き始めた。
怪我人とは思えないほど力強くたくましい字だ。
【土地内に入って玄関までの距離はおよそ十メートル玄関横に二人の警備員あり、入って両脇に階段横に進み三階の一番奥の部屋に資料室】
【了解。コアの眼鏡にカメラを仕掛けておく、コアに指示を出しながら様子を把握して。】
ヨナスは私を見て頷いた。
「これの通りに。しくじるなよ。」
「結局喋るのかよー。」
「てめぇには関係ねぇよ。」
私はヨナスの顔を見ずにメモ帳だけを持って部屋を出た。
トコトコトコ
私はその足でリアムのいる事件後処理部隊の仕事部屋に行った。
「ククリ?リアムいる?」
仕事部屋にはククリがいた。リアムの姿は見当たらなかった。
「リアムなら監視室にいる。」
「ありがと。」
監視室。
そこは、言葉通り地下二階にある、建物全体を監視できる部屋だ。
「めんどくせー。」
私は独り言をぼやきながら順調に階段を降りて行った。
コンコンコン
「誰?」
「私。」
「セレナか。どうした。」
「実は、今からとあるところに行くんだけど、コアの眼鏡に小型カメラを持ってヨナスに指示をしてもらう予定なんだ。そのために、ヨナスを見張っててくれないか。」
私は簡潔に事を話した。
リアムは少し考え込んでから、おっけーサインを出した。
「りょうかーい。とりあえずヨナスを見張ってればいいのね。」
「理解が早いわ。流石早稲田。」
リアムは少し照れながら拳銃の弾を確認した。
「褒めんなって!分かったから。見張るタイミングになったら連絡して。」
私は了解と言って部屋を出た。
道中、ヨナスに撃たれた時のことを思い出した。なぜあの時、彼は私を殺さなかったんだろう。
わざわざ右肩に撃つことなかっただろう。もしかして、ヨナスは“こちら側“の人間なのか?
いやいや、ラビットアサシンのメンバーがki殺し屋の味方なわけない。そんな甘い考えは捨てよう。
「支度できた?」
私はコアを呼び出した。
「行けるよー。裏口から行くから先車行ってて。」
そう言って私に車の鍵を渡した。
少し、緊張してきた。
私は車の鍵を差して車を開けた。まだ未成年のため、車の電源をつけることはできない。
ただ静寂な空間の車は、まるで‥‥
ガチャ
「お待たせ。」
「場所は昨日送った通りの所。」
「了解!」
ブォンブォンブォン!!
「とばしていくぞぉー!」
コアはアクセルを踏んで車を走らせた。
成城までおよそ二時間。現在時刻が二時のため、四時過ぎには到着する予定だ。ちょうどいい。人気の少ない夜の時間帯に侵入したい私たちにぴったりだ。
向かっている途中は、サービスエリアに寄って土産を買ったり、食事を楽しんだりした。この後、不法侵入をする二人とは思えないほどに。
「貝ちゃん?着いたよ。」
「ん?もう着いたの?」
私はコアに起こされて車を降りた。
カチッ
「油断するんなよ。」
コアは眼鏡のフレームに手を伸ばし、スイッチをオンにした。
「聞こえてる?」
私はコアに囁いた。
「うん。」
ここからはコアの行動に従おう。
コアが指で次々と合図をしてきた。
『正門右側につけ』
パァン!パァン!
私が正門脇でトカレフを構えた瞬間、コアのトカレフの発砲音がした。
『侵入開始』
私はコアの後ろについて走って行った。
玄関の前に着くと、そこには、二人の警備員の死体があった。ヨナスのメモ通りだった。ヨナスはコアに対しても同じことを言っているのだろう。ますますヨナスに対する信頼が高まってきた。
『侵入したら常に俺の背中を守っておけ』
私はコアの指示に頷き、コアの背後に立ちトカレフを構えた。
ガチャン!
コアが勢いよく扉を開けた。何者かがいるかもしれない、そのための威嚇らしい。
「‥‥。」
『‥‥。』
私たちの間で沈黙が支配した。喋らずに私はただコアの背後を守っていた。
コアはある場所に向かっているようだった。きっと、ヨナスの指示だろう。
資料室に向かっているんだな。三階へ階段で上がって行ってるからだ。
向かっている途中、誰一人といなかった。絶対に何者かが待ち構えていると思っていた。
『到着』
私は頷き、コアが扉を開けるのを待った。
カチャ
『侵入』
「了解。」
ガチャン!
私は勢いよく扉を閉めた。
ついに、白川家の資料室というやらの部屋の中に到着した。
「ふぅ。しばらく、部屋を調べよう。」
「分かった。」
コアと私はトカレフのトリガーを引き、懐にしまった。
そして、部屋の中の物色を開始した。
私はクローゼットの中をくまなく捜索した。私は教景担当、コアが資料の回収担当に回った。
どこを探しても、教景の姿はなかった。一体、どこにいるんだ?
ガチャ
「あ、いた。」
探していった末に、ついに教景を見つけた。
「おいおい大丈夫か?」
「ぶはぁっ!助かった。」
教景は口にガムテープをしており、両手両足を縛られていた。意外と簡単な結びになっており、たちまちすぐに解けた。
「何してんの?」
私が教景に話しかけると、教景は土下座をした。
「ありがとう‥‥本当に、ありがとう。」
「何で泣き出すんだよ?!」
私も彼も動揺していると、いくつもの資料を持ったコアが小走りで走ってきた。
「どしたのー?え?生きてんじゃん!」
「それな。」
私とコアが教景のことを凝視していると、教景が話し始めた。
「実は、川蔵っていう男からここに隠れてろって言われたんだ。若い男女二人組が来るまで隠れてろって。本当にその通りだった‥‥!」
教景は何度も何度も私たちにお礼をした。
「分かったから。」
「こっち色んな資料見つかったよ。」
コアは近くの机に大量の資料を広げた。
「ありがとう。でも、その前に、教景をどうするか。」
「そうだな。ヨナスがコイツを庇ったってことは、教景を殺そうとしてた誰かがいたってことか。」
「うん。何となく見当はついてる。教景を殺されたら困るからな。もういっそのこと、死んじゃったことにする?」
コアは私を見て大きく驚いた。
「わお!ジーニアスな考えだねー!そうしよ!」
「了解。てことで、あんたは私たちの指示に従って。あんたは私たちが守る。」
「ありがと‥‥本当にありがとう。」
コアの方に目をやると、少し微笑んでいた。
私は立ち上がり、部屋の捜査を開始しようとした、その時だった。
ガチャン!
下の方で大きな音がした。
私はコアと目合わせをした。
『何者かが侵入してきた、仲間でない限り撃て』
私はコアの合図に頷いた。
「誰だ?」
部屋の空気が、一瞬で凍りついた。私とコアの視線が交差し、間もなくトカレフを握る手に力がこもった。




