26探る者たち
教景は妹の紀香の声に足を止めた。家族が家族を殺す場面に、出くわしたくないのだ、教景は。
教景は13歳。13歳でも事の判別はできた。教景は唯一の武器であるスプーンを握りしめながら、声のする方に向かった。
しかし、後ろから誰かが腕を引っ張った。
そこには、餓死した兄の悠兵がいた。悠兵は力強く教景を引っ張っていた。
『兄さん、なぜここにいる?』
『教景。何をしている。どこに行くんだ。』
『紀香が、俺のことを呼んでいるんだ。』
悠兵の手は、教景の頬に到達した。
パチン!
『そんなことが許されると思ってんのか?!』
教景は驚くしかできなかった。
ろくに食事も食べていない、骨が剥き出しになっている貧弱な腕から突き放されるとは思えない力だったからだ。
『いいか、お前は生きろ。一番上の姉さんが家族を殺している。そこに加わるな。絶対に、生きろ。』
いるはずもない悠兵の姿に、教景は首を出して話を聞いた。
『でも、紀香が、』『逃げろ!もう来るぞ!』
悠兵の怒鳴り声に、教景は我に帰った。
ついに教景は、悠兵がいないことに気が付いたのだ。
『のりかげぇぇー!!!』
徐々に足音が近づいてきた。目の前のドアノブをひねれば外に出られる。今は監視の目もない。
ドン!ドン!ドン!
ついに、教景のいる部屋の扉が叩かれた。教景は感じたことのない恐怖に襲われた。
教景は自分の頬を思いきり引っ張ってから、扉を開けた。
ガチャン!
『はぁはぁはぁはぁはぁ!』
教景は走った。遠くに遠くに走った。自分が生きることだけを考えた。今はあの家から離れないと。
教景は、闇に沈んだ道路を、裸足で駆け抜けた。
2011.3.31
教景が家から逃げてきて一週間ほど経ったある日、教景は、ある人間と出会う。
『のりちゃん!』
それは、福島県に住んでいた母方の祖父母だった。教景は街の公衆電話にて、彼らに連絡をしていたのだ。
“とりあえずそちらに行く。事情はあとで話すから。“
と。
祖父母は心配になりながらも彼の訪問を待っていた。
『おじいちゃん、おばあちゃん‥‥!』
教景は二人にギュッとハグをした。祖母は教景に抱きついた。
『大丈夫?大変だったね。早く上がりなさい。』
抱擁を交わしたのは玄関前。流石に部屋の中に入った。
教景は兄弟の中でも祖父母とのつながりが強かった。彼が何度も家電から福島に電話をしていたからだ。なので、祖父母はある程度のことは知っていた。
『美味しい、美味しい。』
教景は祖母が作った肉じゃがを口に放り込んだ。そして、何度もうまいうまいと言った。
『ゆっくり食べなさい。落ち着いたら、いつでも話を聞くからね。』
『うん‥‥。』
その後、教景は家のこと、姉の春綺のことを話した。姉が家族を殺したと。祖父は急いで警察に電話をし、捜査を依頼した。母、真奈美の父にあたる祖父は、元刑事をやっていたため焦ることはなかった。
『本当に、よく生きて来られたね。』
教景は鼻水を啜り、泣き崩れ、祖母の膝を濡らした。
「‥‥とんだ話じゃねぇか。まるで映画だな。」
コアは目では追えないほどのスピードで教景の喋ることを記録した。
教景は、泣くというよりも恐怖の方が大きかったみたいだ。人が人を殺す瞬間を、見てしまったのだ。それもただの人ではない家族だ。ほとんど接したことがないとはいえ、一応恐怖は覚えた。
私は教景にあることを伝えたい。
「白川、あんたの家は本当に複雑すぎるよ。だけど、あんたがした判断は決して間違いじゃない。自分を信じて前を向け。今日は明日の自分のための自分、明日は明後日のための自分、そうやって自分自身を築いていくんだ。絶対に死ぬなんてこと考えるなよ。」
白川は瞬きと同時に涙を流した。
「よし!それじゃあ、俺らは忙しいんで今日はお開きで。」
白川は立ち上がり、深くお辞儀をして部屋を出て行った。
「さーてと。どうする?」
コアは頬杖をついて私の方を見た。
「まずは白川春綺について調べよう。彼女が家族を殺した後のことについて。」
コアは、おっけーと言ってパソコンを開いた。
新たな依頼の幕開けだ。
教景に話を聞いて一週間経った。私たち殺害部隊は春綺について調べた。その成果を今日、メンバーに共有するのだ。
「では、白川春綺の情報交換会を始めます。彼女は家族への鬱憤から家族を殺しました。その後、全国指名手配されたことから海外逃亡をします。フィリピンです。フィリピンでアルバイトを掛け持ちして生計を立てて暮らしていました。そこで、現在ラビットアサシンのメンバーである射撃の名人であるヨナスと、最恐の肉体の持ち主であるニクラスと出会います。」
私はコアにバトンタッチをした。
「ヨナスとニクラスは、フィリピンでは有名なギャング集団のワンツーでした。しかし、春綺が二人は制圧し、新たなギャング集団を作ります。それがラビットアサシンです。結成当時のラビットアサシンは現在のような殺し屋ではなく、名が有名なだけなチームでした。何をしていたのか、何のために結成したのかは、はっきりとは判明していません。次にヨナスとニクラスについてです。」
コアはロルバンにバトンタッチした。
「ヨナス。本名、川蔵。年齢34歳。出身、福岡県。父親が射撃の屋台をやっていたことから、銃の使いが上手いとされています。コープスを狙撃したのも彼です。とにかくヨナスは迷わず人を殺します。常に細心の注意を払うようにしてください。次に、ニクラスについてです。彼の個人情報は何一つ分かっていません。しかし、一つ分かることとしたら巨大だということです。銃を持っている相手に怯むことなくボコボコにしてしまいます。この二人は古くからの仲間なので常に行動を共にしています。」
緊収のセカンドヘッドであるアルチュールが疑問に持った。
「なぜラビットアサシンはセレナを勧誘したんだ?」
確かに。ラビットアサシンは私のことをトップに置こうとしていた。なぜだ?
「ラビットアサシンのトップって勝地だったんだろ?勝地が死んでからトップがいなくなった今、セレナをトップに据えようとしていたのはなぜだ?」
アルが言っていることに同感だ。
「もう少し、調べてみよう。特に勝地が生きていた頃のラビットアサシンに重点を当てろ。」
メンバーは口を揃えて返事をした。
「ふぅ。」
私とコアはヨナスのいる家にきた。
あの後、ロルバンがヨナスの住所を特定。そこにはニクラスも同居しているという情報も手に入った。
そこで、私たちは二人のいる家に侵入しようとした。
二人をki殺し屋監獄に入れ、話を聞くという戦略だ。
ki殺し屋監獄とは、殺し屋界隈の中でも恐れられている監獄の一つだ。ここに捕まれば命はないという噂もある。しかし、私たちは捕えた者たちを殺したことは一度もない。ただ、口封じをしているだけだった。
「コア、多分二人は銃を使って対抗してくると思う。私たちも戦いに備えて準備しよう。」
コアと私は互いのトカレフの残弾を確認し合った。
そしてついに、玄関の扉を開ける瞬間まで来た。
「ふぅ〜。」
私はものすごく緊張した。もしかしたら、死ぬんじゃないか。そんなことが頭を支配した。
しかし、コアがいてくれたから平常心でいられる。
「落ち着いて。いつもの貝ちゃんなら大丈夫。安心して行こう。」
コアの手は私の肩に優しく触れた。
五
四
三
二
一
ガチャァァン!
カチ
私とコアは背中を合わせながらトカレフを構えた。
大丈夫。絶対にしくじらない。
コアは左手で私の手に合図をした。
″人の気配がする“
“了解“
部屋の中を少しずつ前進していく。一歩進むごとに死ぬ気が増えていく。今すぐにでもできるのなら、この感情を撃ちたい。人ではなく。
「だれ?」
目の前に、フラッと一人の男が現れた。しかし、コアは決して後ろを向かなかった。前は私に任せているからだ。
その男の体つきはよく。普通の男性のようだった。手には何も持たず、パジャマのような黒ズボンに紺色の長袖を着衣していた。
「何しに来たの?不法侵入なんだけど。」
体つきから見ておそらくヨナスの方だ。彼の喋り方はおっとりしていた。
「もしかして、藤沢貝?」
私は何も反応せずに、ただただ銃口を向けていた。
「無視かぁ〜。まぁいいや。俺一人でも勝てる相手だしね。容赦しないから。」
ヨナスは私の足元まで腰を下げた。
避けろ!
「クッ!」
寸でのところで私はヨナスの蹴りを回避した。その時、コアは一瞬だけこちらを見た。しかし、再び後ろを向いて銃口を向けた。
「避けられるんだぁ。勝地くんが言ってた通り。」
私は勝地という名前に少しばかり動揺してしまった。
やはり勝地は生前、ラビットアサシンの当主だったのか。
部屋中に目を向けると、いたるところに長銃があった。東京マルイVSR-10 Gスペック。私がラビットアサシンのアジトに連れ去られた時に撃たれた銃だ。私が知っている唯一の長銃。確か30発とか?よく覚えてないや。
「私たちはあんたを殺しにきた。」
「俺たちを?そんなの簡単じゃないよ。」
ガチャァァン!
「君の後ろにいる男の前にはニクラスがいるよ。」
私は、背後に感じたことのない戦慄を覚えた。
ニクラス。
最恐の肉体の持ち主。
体だけでこんなにも気配が違うのかよ。
「さぁ、宴と行こうか。」
プルルルルル
『はい。』
『あ、あぁ、ナハトか?』
『勝地?どうした勝地?!』
ラビットアサシンの副当主、ナハトシュペーアの元に一本の電話がきた。
『俺は、多分死ぬ。今、kiを追いかけた末に、アイツらの車に衝突した。もう、ダメだ。』
『勝地?だめだ!だめだ!どこにいる?』
『ここは、どこだ‥‥?知らねぇな。最後に、願いだ。セレナをラビアサの当主にしろ。』
『おい、おい!勝地!勝地!』
勝地は電話を切りジョセフのトカレフを持ってセレナのいる方に向かった。
『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、死ねよ』
勝地の頭には、ポッカリと穴が空いた。




