17灰の証明1
「教えてよ、おしえろよ!黙ってないで、、あんたのせいで、メイが死んだ。もう二度と帰ってこない。死んだんだ。また、会いたいよ、メイ。」
私は膝から崩れ落ちた。ジョセフを前にした時から感情が崩壊していた。それがいま、最高点に達した。
「メイ、メイィィィ!!!」
涙が止まらなかった。あの声、あの顔、もう一度、見たい、聞きたい。でも、会えない。
「一旦部屋を出ろ。」私はコアに指示させるがまま部屋を追い出された。
扉にもたれて、その場に腰を下ろした。
「メイ、みんな‥」
「ここからは二人で話すぞ。あいつはお前を前にするとあぁなっちゃうから。お前の過去を事細かく全て話せ。」
俺はセレナを外に追い出し、ジョセフと二人になった。
「‥‥話すよ。どうせ盗聴も盗撮もしてるだろ?ここから嘘はなしだ。」
1973.10.31
『うぇーん!うぇーん!』
『多田さん!男の子ですよ!』
『わー可愛い!』
ハロウィンの日に多田総は誕生した。父は警察官の多田勘助。母は高校教師の多田富美子。
『可愛い子だねー。私の一番の宝物だよ。』
出産に立ち会ったのは富美子の母親と姉だけだった。勘助は仕事と言い張り来てくれることはなかった。
『勘助さんは頑固者だねー。』
富美子の母親は二人の結婚に反対だった。それは、二人が駆け落ち同然で結婚したためであった。
『お母さんそんなこと言わないでよー!勘助さんは優しくて一途な人なんだから!』
富美子は勘助の仕事柄を理解し、愛していた。
『富美子!』
総が生まれて十時間たった頃、勘助が仕事を抜け出して病院まで駆けつけた。
『ごめんな一緒にいてやれなくて。ありがとう。本当にありがとう。』
勘助は富美子を抱擁した。
『二人で頑張った結果ですよ。私こそ、ありがとうございます。』
二人の年齢は十歳離れていた。富美子の勘助に対する敬語はどうしても抜けないようだった。
1975.8.9
その報せが届いたのは夜中の二時だった。
ぷるるる!ぷるるる!
『はい、多田です。』富美子の元に勘助が勤務する上司から連絡が入った。
『多田勘助さんの奥様ですか?今すぐ鎌倉総合病院まで来てください。勘助さんの容態が悪化しています。』
富美子の感情は一気に抜け落ちた。しかし、警察という仕事はこういう仕事だと富美子は理解していた。
富美子は母親に電話をした。
『もしもしお母さん?勘助さんが危篤だって。だから総のこと見といてくれない?』
母親は驚くとともに家を飛び出た。
ガチャン
『富美子?!早く勘助さんの元に行っておいで!家のことは任せて。』
母親が多田宅に着く頃には、富美子はダイニングで立ち尽くしていた。
『富美子っ!早く行きなさい!』
富美子はハッとして何も持たずに家を出た。
車に乗り込むと、富美子は徐々に感情をあらわにした。
『かんす‥‥かんすけさん‥』
富美子は約三十分車を走らせた。何度も通ったことのあるその道は、何だか見慣れない。
涙で滲む目。富美子は思い出したくないように運転に集中した。
バタバタバタバタ!
『勘助さん!多田、勘助はどこですか?!』
夜中ということもあり、看護服を着衣した人以外は館内にいなかった。富美子の声だけが響いた。
『多田勘助さんの親族の方ですか?』富美子は派手に頷いた。
『ご案内いたします。』
勘助がいるのはB棟の六階だった。
ガチャ
『あ、多田さんの奥様でしょうか。』
『はい、あの、勘助さんは‥‥』
勘助を担当している医者は勘助を指差した。
『先程まで危篤状態でしたが、回復に向かっています。峠を越えましたね。』
部屋の中には、勘助、富美子、医者二人、看護師三人、勘助の仕事仲間がいた。
『勘助さん‥よかった、よかった!』
富美子は泣きながら勘助の手を握りしめた。
『詳しい説明は後ほどしますので、今日はゆっくりしてください。』
『ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。』
富美子は何度も礼を述べた。
そして、部屋は二人だけの空間となった。
『勘助さん。目を覚ましてください。総も待ってますよ。起きてください。』
富美子は日が昇るまで勘助の手を握り話しかけていた。
コンコンコン
『富美子さん。少し勘助の様子を見させてください。』
医者は勘助の体を何度も触り、容態を確かめていた。
『富美子さん、勘助さんのことてお話があるので別室に来てもらえますか?』
富美子はゆっくりと手と手とを離した。
『勘助さん、今夜かもしれません。側にいてあげてください。』
医者から告げられたのは、再び危篤状態の勘助だった。