13ka殺し屋に潜む影
「やはり盗聴されていたか!」
私たちは部屋の中を探し回った結果、充電器の中に盗聴器が仕込まれていたことに気づいた。今までのやりとり、全て外部に漏れていたのだ。
「クソ!」コアはコンセントを踏みつけ破壊した。
「充電器の中も見たはずなのに、いつ?」
私たちは盗聴盗撮に備えて10分おきに確認をしたはずだ。いつどのタイミングで仕込んだんだ?
「俺たちは10分おきに確認したんだぞ。この部屋に入った者しかこんなこと出来ない。」
私は背筋が凍った。この部屋に直近で入室したのは、コア、ロルバン、春輝、そして私の四人だ。鍵もかかっていたしこの部屋に出入りできるのは四人だけだ。
「お前ら、内通者か?」コアが禁断の言葉を発した。
「ふざけんなよ!ここまで一緒にやってきて裏切りなんているわけねぇだろ!」ロルバンはコアの胸元を掴んだ。
「じゃあ何でだよ。俺は春輝の行動をずっと監視していたけど、手足を縛られてるからそんなこと出来ねぇよ。お前らしか考えられないんだ。」
「お前っ!」
ロルバンがコアに殴りかかろうとした。私は見逃さずロルバンの腕を掴んだ。
「やめろ。」
ロルバンは舌打ちをして部屋を飛び出た。
部屋には私とコアの二人だけになった。
「お前も疑いあるからな。ジョセフが一番気に入ってんのはお前だ。裏切ったら許さねぇよ。」
ガチャン!
コアも部屋を出てしまった。
一人になった部屋には私と盗聴相手だけになった。
私はコアが踏みつけたコンセントに手を伸ばした。中の部品が派手に飛び出ており、原型をつとめていなかった。よく見ると一般的に用いられる盗聴器と構造が類似していた。
「おい、聞こえるか。セレナだ。覚えてろよ。」
私は一言言い放ち、部屋を出た。
あれから二日経った。私たち三人は連絡を取り合わないまま冷戦のような状態が続いた。
私は靴箱に革靴をしまい、上履きに履き替えた。朝早いため誰もいなかった。私はいつも一番に教室に入り自習をしている。
「‥‥。」今日も誰もいない。ごくたまに女の子がいる時があるが年に片手で数えられるくらいだ。
私は今日予定している古文単語のテストの予習をした。難しい。高校の勉強は中学より断然難しかった。
ガラガラ
「あ、貝ちゃんおはよう!」基本、二番目に教室に来るのがカーストクラス一位の白野狛音だ。狛音は成績は中の下ではあるが、人当たりもよく優しい人だ。生徒会会長に勤めており学校にアイス機を設置した革命者だ。みんな彼女のことを好きだと言っている。顔も可愛く、ニコッと笑えばみんな笑う。そんな子だ。
「おはよう。」私も彼女に挨拶を返した。
「貝ちゃん貝ちゃん!単語テストって勉強しないとやばいかな??」
「やらなきゃおわる。」
「えーー!!!どうしよう!やばいやばい!」
「いいじゃん英検持ってるんだし課外活動めっちゃしてるし。」
彼女は学校の勉強が出来ないのではなく、しなくていいのだ。狛音はよく本を読んでいる。推理小説やホラー小説が主だ。それに加えて自分で本を書いて出版もしたりしている。英検一級を持っていたり留学に行ったり。とにかく行動力があるのだ。
「貝ちゃんに聞いてほしいんだけどさー。」
私はうんと答えた。本当は単語を覚えたい一心だった。
「私ね、総合型で他大学に行きたいって思ってるんだけど貝ちゃんて自分の将来決まったりしてる?」
確かに考えたことなかった。少しは考えたりしてた。漫画編集者になりたいとだけ。しかし、どうすればなれる?どこの大学に入るのが一般的?自分の夢なんて大きな一つの夢として終わらせていただけだった。
「私は、漫画編集者になりたいかなーって。」
私は初めて兄と妹以外の人間に自分の夢の話をした。狛音は教室に来た後いつもどこかに行ってしまうため話すことなんてなかった。でも、なぜこんなにも夢はついて話し合っているのだろう?
「漫画編集とか響きめっちゃ可愛いやん!応援してるね!あ、時間だまたねー!」
狛音は普段通りどこかへ行ってしまった。いつもどこに行っているのかと私は少しばかり気にかけていた。
「原田千代さん。」
「はい!」
「藤沢貝さん。」
「はい。」
朝のホームルームが始まった。私は窓側の前から二番目の席に座っている。前後ろには同級生の男子が座っている。
「起立、気をつけ、礼。」
私は廊下に行き必要な教材を取り出した。
一時間目 化学
二時間目 現代の国語
三時間目 生物基礎
四時間目 数学
五時間目 体育総合
六時間目 言語文化
今日は最悪な時間割の日だ。特に六時間目の言語文化。体育の後にある国語の授業は寝ることが当たり前だ。近頃暑くなり窓から入る夏風は睡魔を誘ってくるのだ。
「起立、気をつけ礼!」四時間目の数学が終わりお昼の時間になった。
基本私は一人で屋上に行きお昼ご飯を済ませている。今日も階段を登りベンチに座りご飯を取り出した。
「いただきます。」
今日のメニューは玄米ご飯に鮭の塩焼き、海苔卵焼きに副菜がたくさん。我ながら健康弁当だった。
ガチャ
お弁当を楽しんでいると、屋上の扉が開いた。
「なーにやってんの。」
そこには、私が所属している弓道部の先輩がいた。彼の名前は瀬戸口涼南。
「お弁当食べてるだけだけど。」正直、彼に対して苦手意識がある。勉強が壊滅的なのにスポーツは全般選手並みにできる。私もスポーツはそこそこ得意だが私なんかを容易に上回っている。
「いつも一人で寂しくないん?ご飯はみんなで食べた方が美味しいよ。」
「‥‥。」
瀬戸口は自分から来たのに無言を貫いた。来たなら何か話せよと思った。
「てかさー勉強っていつどうやってやってんの?俺勉強出来なさすぎてさー。」
人に勉強法を聞くなんて馬鹿でもしない。勉強法なんて人それぞれの違いで成績の差が出るから自分にフィットする方法を探したほうがいい。一時間やって結果が出る人もいれば何日も何週間もやらないと結果が出ない人もいる。私に聞くなんて何の意味もない。
「瀬戸口さんに合う方法でいいと思うよ。」
「分からないなー。」
キーンコーンカーンコーン
「え?もう時間かよ!早く戻るぞ!」
瀬戸口はそう言いながら私の腕を掴んだ。私はカッとなり腕をふい払った。
「やめて。触らないで。」
「え、あ、ごめん。」
瀬戸口は焦った様子で小走りで一人で戻ってしまった。本当に何?ウザいんですけど。
私は少しお怒りで教室に戻った。
「またねー!」
「バイバーイ!」
全ての時間割が終了した。私は今日、このまま鎌倉に行く予定だ。今日はka殺し屋の月一会議の日だ。月一会議の日は基本次の日が休日の日にしている。
今日は何だか行きたくない。昼休みの時から機嫌が悪い気がする。加えてコアとロルバンと喋っていない。二日間も喋らないなんて今まででほとんどなかった。
私は三人のグループラインにメッセージを入れた。
【今から向かいます。到着は六時前になりそうです。】
すぐに既読が一つついた。おそらくロルバンだ。ロルバンは連絡を確認するのも返信するのも早い。
【了解です。】
文字だけで伝わるこの冷戦感。普段はこんな雰囲気ではない。もっと明るい雰囲気が出ている。トークだけで喜怒哀楽が分かるのだ。
『まもなく、一番線に湘南新宿ライン、逗子行きが参ります』
アナウンスが駅内に鳴り響き一斉に車内に乗り込んだ。意外と人はおらず角席に座ることが出来た。
ガタンゴトンガタンゴトン
『まもなく、鎌倉、鎌倉』
うとうとしている間に鎌倉駅に到着してしまった。嫌という気持ちが圧倒的多かった。会いたくない。お互いを疑いながら会うなんて真っ当に話せるわけがない。
「7326478。」私は間違えないようにコードを入力した。コードは武蔵野市のアジトと同じコードだ。
ガチャ
扉がアンロックされた。
階段を降りて第二会議室に向かった。第二会議室は地下三階に位置しており、一番狭い会議室だ。
「よいしょ」私はいつもの席につき他のメンバーを待った。今日参加予定のメンバーは各部隊のヘッド、セカンドヘッド、サードヘッドだ。
殺害部隊の私、コア、ロルバン
緊急事態収束部隊のナル
死体処理部隊のコープス、モク、ジャック
事件後処理部隊のククリ、リアム、ジェイコブの九人だ。
緊急事態収束部隊のトップ二人が欠けたことはかなりの致命傷だ。これも見計らっていたのかもしれない。
ガチャ
「お待たせ。」
次に来たのが事件後処理部隊のリアムとロルバンだった。この二人は爆弾の解体について詳しく、話が合うようだ。
次に来たのはコアだった。いつものフードを被り席についた。
次から次へと残りのメンバーがやってきた。
「全員揃ったか。それでは、部隊合同会議を始めます。よろしくお願いします。」
全員軽く一礼をした。
ジョセフがいなくなったいま、セカンドヘッドだったコアがヘッドになると思われていたが、私がヘッドになりロルバンがサードヘッドになった。これは全てコアの意向により決定された。
「まず、殺害部隊から連絡があります。サードヘッドにロルバン、ヘッドに私セレナが着任しました。今後ともよろしくお願いします。」
みんなから軽い拍手が起こった。しかし一名、腑に落ちていない男がいた。
「んなことどーでもいい。今日話すべきことはそれじゃない。」コアは怒りが込み上げているようだ。
「おいやめろよ。」ロルバンが低い声で怒鳴った。
「簡潔に話します。一階にある病室近くの取調室で盗聴器が発見されました。私たちは10分おきに取調室を
監視していました。しかし、取り調べが終了した後、発見された。よって、この中に内通者がいると判断した。」
一気に雰囲気が変わった。みんなが一斉にお互いを見つめ合った。
バン!
いきなりコアが立ち上がった。
「もう内通者は分かってる。お前だろ?ロルバン。」
「えっ?」
私たちは絶句した。
「ロル、バン?」
私はロルバンの名前を呼んだ。
「セレナ‥‥」
ロルバンの表情がみるみる変色していった。