10兎マークの勝地さん
「うっ、」
侵入者が撃った弾は見事に私の左肩を貫通した。ちゃんと肩ではなく、少し外れた肩の位置だ。
「くそ。外したか。」男は嘆いた。私は男が弾の確認をしている間に足を動かした。
ドン!
「うわっ!」私は右手で左肩を抑えながら男を壁に叩きつけた。そして、男の持っていた拳銃を奪い取った。
「待てっ!!!」男は低い声で叫んだ。私は決して振り返らずに玄関に向かった。少しずつだが足音が近づいてきている。
バンバン!
躊躇することなくトリガーを引いた。しかし止まらない足音。二発とも外れたな。
相手から武器を奪ったとはいえこちらが圧倒的に不利。ここは逃げるしか術がなかった。
ガチャン!
私は扉を思い切り開けて遠くに逃げた。走って走って息が絶えるまで走り続ける思いだった。
「はぁ、はぁ、はぁ、」目的地のないマラソンは何を言おうと苦しいものである。
私はしばらく走り続けた。後ろを振り向いたが誰も追ってきていなかった。撒けたようだ。
ポケットに入っているスマホを確認すると撃たれてから20分が経過しようとしていた。徐々に左肩の痛みが増してきた。撃たれてからこんなにも時間が経つと命に関わる恐れがある。早急に手当をしなければ。
「痛ったい。」私は信号を渡り道路を挟んだ病院に着いた。コアのいる病院に行こうとも考えたがさすがに怪しまれる。私は荻窪近くの病院に駆け込んだ。
「はぁ、はぁ、あ、あの、」左肩から溢れる血を必死に抑えた。私は自分の右手に目をやった。と同時に受付の女性も私の手に目をやった。
「えっ?!」彼女は驚きながらも受話器に手を伸ばした。
「もしもし!若い女性が左肩を撃たれたようです!至急受付まで来てください!」電話の向こうでは慌てた様子の男の声が聞こえた。その声のせいで更に痛みが増してきた。私はついに耐えきれずに膝を床につけた。
「痛い、痛い。」産まれたての赤子のように泣きじゃくった。
私は痛い痛いと無駄な弱音を吐くしかできなかった。受付嬢はカウンターを乗り越えた私の方に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?!い、いや大丈夫じゃないですよね。ん?ていうかなんで銃で撃たれてるんですか?!え?!え?!どゆこと?」
この女は私の最も苦手なタイプだな。天然な女は嫌いだ。あらゆる判断を全て自分の感情に任せている感じを表面的に出すあの感じが苦手だ。
「大丈夫ですか?!立てますか?」私は大勢の看護師に支えられながら担架に寝っ転がった。何だか眠たくなってきたな。医療ドラマで見るような担架を押しながら走るなんてことはなかった。案外スローリーで担架を押していた。多分。
屋根の色が純白からなんとも言えない色になった。初めて見るような色だ。
私は、いつの間にか眠ってしまっていた。
「かい?貝!」
目を覚ますと目の前にジョセフがいた。何でいるの?徐々に感覚が戻ってきた。私は今、ふかふかのベッドにいるようだ。そして、頬に水滴が垂れるのを感じた。自分の涙だ。
「た、高野。」私はジョセフの偽名を口にした。
「え?高野?俺は高野じゃないぞ。」‥あれ?ジョセフじゃない?私、わざわざ気を利かせてジョセフの偽名を言ってあげたのに。病院だからと思って。
「だ、れ。」ジョセフだと思っていた男は小声で喋りかけた。
「コープス!俺、コープス!」この男、コープスだったのか。私は、勘違いをしていたんだな。あんなクソ男のことを。いてほしいと少し期待をしてしまっていたんだな。馬鹿みたいに。ほんと、私、バカだ。
「やっと分かったな。」私はうんと頷いた。
「お前は肩を撃たれたっぽくて治療を受けたんだよ。何か医者から色々言われてよく分かんなかった。一応親戚っていう設定だからさ。銃弾が身体を通ったってことで警察にも話がいったよ。俺頭悪いからよく分からんかった。」コープスは狭く深くの性格で特定の分野以外は何も詳しくないのだ。
「へぇー。」‥なんかさらっと飲み込んでしまったが結構大事になってるじゃん。ふざけんなよ。警察絡むとかうちらが一番危惧していた事態じゃんかよ。
「お前は一月の下旬に退院出来るってよ。貫通したって言ってもかすった程度だったからな。今が睦月の八日だから10日強ってとこか。」
「あの、計画はどうなるの?」
「あのって、一時的に拠点を鎌倉に移して勝地達をとっ捕まえるって計画?」私はうんと頷いた。
私たちの今後の予定としては、地図に書いてあった赤印を制覇するために第一陣は鎌倉に行く。ki殺し屋の本拠地を鎌倉に移すのだ。そして、依頼をこなしつつジョセフ&勝地ペアを探し出す。これがざっとの予定だ。鎌倉に一斉異動をするのは卯月の上旬となっている。その理由としては大きくて二つ。一つは4月の5日土曜日が学校の創立記念日であり二日間の休みが確保できるからということ。二つ目はコアの退院予定日が4月の1日となっているからだ。ki殺し屋では位が高い人の予定に合わせることが基本となっている。この制度はマジで助かってる。
「早く良くなれよ。」コープスはそう言って部屋を後にした。その直後に医者みたいな奴が入れ替わりで入ってきた。さすがコープス。3人の状況を作らないようにしているな。私は医者の長ーい話をぼーっと聞いていた。
2025.4.4
「早いな。」時はあっという間に過ぎて本拠地一斉異動前日となった。コアは弥生の十日に退院した。逆に私の退院が遅まったくらいだ。しかし計画に狂いは生じない。
あのあと、医師やら警察やら児相から話を聞かされた。でも私はコープスが一番近い親類なんでーと誤魔化した。一番面倒だったのは警察に犯人の特徴を聞かれた時だ。私は素直に答えようとしたけどなんだかムキになってしまい上手く答えられなかった。自分の手この手で彼らを捉えたいという思いがあったんだと思う。そして警察に素直に答えても彼らが捕まることはないだろう。そう確信していたのだ。
「ついに明日一切異動だ。ki殺し屋からka殺し屋に変更する。これは一時的なものだ。勘違いしないように。武器は多く予備を持っていくようにしてくれ。異動の目的は奴らを捉えること。現地では盗聴及び盗撮に注意しながら行動してくれ。では、解散。」
ジョセフが逃亡した現在、ヘッドは不在ということになっている。現在殺し屋内を仕切っているのはセカンドヘッドであるコアだった。彼はもともとコミュ力が異常なほど高いから大丈夫。
私はki殺し屋を出て独りと恐怖の自宅に向かった。
「おっはー!」異動日当日は各部隊ごとに現地集合となっている。私はコアに案内されながら車に乗り込んだ。車内にはすでにロルバンが座っており、寝ていた。昨日夜遅くまで仕事をしていたらしい。
私たちが乗った車は走りを効かせた。少しずつ早まるスピードに景色も早くなる。
武器の運搬は緊急事態収束部隊が行っている。
緊収のメンバーも撃たれているが何とか一命を取り留めた。
私はポシェットにある一枚のカードを見た。
『殺し屋JK
お前には失望した。お前の家にリストを隠しておいた。ジョセフは頂く。俺の名前は勝地洋輔。お前ら殺し屋はいずれ消滅する。気をつけろよ。』
四角に兎のマーク。これは勝地のオフィシャルマークなのか?悔しいがちょっと可愛い。
いやいや、勝地洋輔。こいつはクソ野郎だ。ジョセフの肩を持って共に逃げるなんて。
薄情者め。
でも大丈夫。
時期に私たちが殺しに行くから。
あなたたちが私たちを苦しめたように。人差し指にくるっと力を入れるだけでお前らを殺すことができる。
逃げないで真正面で戦えよ。
私たちの走る車は高速道路を降りて鎌倉の姿を捉えた。
「ん?待てよ。」勝地の住所ってどこだったっけ?
「セレナ?どした?」
「ねぇ、勝地の住所ってどこか分かる?」
「アイツは神奈川の方だった気がするな。鎌倉じゃなきゃいいけどなー。」
私の勘はよく当たる。