1殺し屋
『続いてのニュースです。七年前に起きた、武蔵野市主婦殺害事件の容疑者と思われる男の名前が警察の捜査によって、明らかになりました。‥今日未明、2017年に起きた主婦殺害事件の容疑者を名乗る男から脅迫文が送られてきました。』
「ついに、報道されましたね。」妻はため息を吐きながらテレビに夢中になっていた。その綺麗な横顔を見ながらああと言った。
いつ頃だっただろう?確か一昨日に武蔵野警察署から連絡が入った。
『剣城さん!』
『はいもしもし。随分と慌てているな。』
『そりゃそうですよ!剣城さんのお母様が殺害された事件のことで‥』
『何か分かったのか?』
『はい!犯人と思われる男から脅迫文が送られてきたんですよ!そこには警察しかしらない情報や我々も知らない情報が書かれてあったんですよ!本物かどうかを今、調べている途中ですが。』
『なんだって?まさかホシからこちらに出向いてくれるなんて。』
『名前も書かれていました!』
『本当か?!東政宗と書いてあるだろう。』
『それが‥』
『え?』
『剣城さんが聞いた名前と一致しないんですよ。』
『そうか。教えてくれて、ありがとう。今そちらに向かう。』
『今日は大忙しですから。マスコミも黙ってはいないでしょう。ですから、なるべく他の人とは違う時間帯で来てください。』
『分かった。』
震える手で電話を切った。俺は立つことすらできなくなり崩れるように倒れた。二階建ての木造住宅の古びた階段がギシギシと音を立てていた。妻が一階の異変に気づいて慌てて降りてきたのだ。「忠信さん!どうしたんですか!」妻が動揺しているのでとりあえず落ち着かせた。
『署から連絡があった。母親を殺した犯人の名前が分かったらしい。』妻は驚いた表情の中に嬉しさが込み上げているのを手で抑えていた。
『多田総。君も会ったことあるだろう。』『え、多田さんて、あの?』俺の顔は青ざめていた。鏡がそう訴えていた。妻の顔も青ざめていた。まるでどこかの民族みたいだ。
『同姓同名という可能性もなきにしもあらず。あんなに優しかった多田さんが人殺しなんて。』
そう。多田総という男は、俺が警察学校時代に同部屋で仲の良かった同期。妻とも面識があり、心穏やかな人だ。しかし、彼が警察学校を辞めてからのことは僕も含め誰も知らなかった。まさかこんな形で知ることになるなんて。
『でも、これは絶好のチャンスかもしれませんよ。あなたなら、彼のこと詳しいのでは。よく行く場所や思い出の地とか。』男同士でそんな所ないよと言いたかったが、妻の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。今は妻も私も興奮状態にあるからだ。妻は黙った私の表情を覗き込みながら小さな声で言った。『今日の仕事は大一番ですね。頑張って。』妻に鼓舞されてやる気が漲ってきた。『ありがとう。それじゃあ、行ってくる。』彼女は行ってらっしゃいの口づけを私の頬にやった。
これが、一昨日の出来事だ。これで知るべき情報は手に入れた。犯人の名前さえ分かればあとはアイツらに任せられる。自分自身で捜査を進めつつも彼らの手を借りる。
俺は辞表と書かれた白い封筒を右ポケットに深く詰め込み家を出た。
〔今日で引退か〜。お前と離れるのも辛いな。〕
コアは私の横を歩いていた。並行に歩きながら一人で独り言を呟いていた。私は無視をしたまま、ただただ歩いていた。
〔貝ちゃん、今年でいくつ?〕
〔もうすぐ30だけど。〕
コアは驚きながら真上に飛び跳ねた。
〔貝ちゃんが30ってことは、俺は一体何歳なんだよ?!〕
〔それくらい自分で考えてよ。〕
私は歩くスピードを早めた。
〔あ〜!ダメダメ!貝ちゃんは走っちゃダメ!〕
私はコアに早歩きを止められた。
〔いいから!あんたは自分の心配しな!〕
〔自分の心配って?〕
コアはとぼけながらこちらを見つめた。
〔ほら、結婚とかしないわけ?〕
〔マジでそれは地雷だからやめて!〕
私とコアは互いに笑い合った。一瞬にしてその場所は、私たちだけの空間になった。
プルルルル
〔もしもし?あぁ〜!ごめんごめん!今戻ってる!〕
私は、“ある人“から電話がきた。
〔もしかして‥‥さん?〕
〔はぁ?なんで分かんのよ。〕
コアは明るく微笑んだ。
1殺し屋
「今日のホシはこいつだ。」私は依頼者からDMで届いたホシの顔写真をボスのジョセフに見せた。名前は東政宗。「了解。」その時、少し焦った様子のジョセフが小さく頷いた。そして、再び書斎室の机に顔を向けた。昨日から溜まりに溜まった仕事があるらしい。「もう一つ報告。」私は静寂で気まずいこの部屋の雰囲気をぶち壊すように言った。ジョセフは睨みつけるように私の顔を見つめた。初めはこの顔が怖かったが、元からこういう顔立ちなんだと気づいた。「昨晩のカタをはめた奴なんだが、逃走を図ったんだよ。だからロルバンに殺してもらった。銃殺だよ。」
昨日の依頼者から届いた依頼のターゲットが私たちの存在に気づき、逃走をはかった。そういった場合には、私が殺すこともあるが、大体は手下のロルバンに殺させることが多い。まるで脱獄した死刑囚を追いかける警察だ。
ジョセフは壁に貼ってある〝Ki殺し屋〝という書体を見て頬杖をついている。私の才能を見つけ出してくれたとはいえ、その横顔はどうも素敵に見える。鼻がシュッと高くて、顎も尖ってて。綺麗な顔立ちだなと思う。
私もジョセフもボヤッとしていると、扉がガチャっと勢いよく開いた。私とジョセフは同時に目を見やった。そこには僅かながらの汗をかいた私の相棒、コアが仁王立ちしていた。「ひょう〜怖ぇ〜!」コアはちょっとチャラい雰囲気がある。初めて会った時、異様に馴れ馴れしかったからだ。
「なんで二人ともそんなに怖い顔すんだよ!」ジョセフは呆れ気味に話した。「人の顔ディスるなんてお前は酷でぇ趣味してんな。そんなことより昨日の依頼の詳細を共有しろ。」私もジョセフに賛同すると言いたいところだが、今言ったら話が広がってしまう。面倒だから言わないでおいた。
ジョセフは必ずこの三人が集まっている時にお互いが保有している情報を共有する。お互いに誤解が生まれないようにするためだ。
「うぃっす。名前は周造然33歳男性。」「中国か。こっちに来て何やらかしてるんだよ。まぁええわ。オメェらハジキは持ったな?」私とコアは目を見合わせて持ったという合図をジョセフにした。「銃なんて持ち歩くくらいなら、家で映画を見ていたい。」
私のスマートフォンには保存したままで、今年中には見切れない程の映画やドラマが溜まっている。「俺、一昨日さ、宮古島行きの最終列車っていう映画観たんだけど、感動しすぎて目がパンパンになったよ。」だから昨日あんなに目が腫れていたのか。納得した。
宮古島行きの最終列車とは医者と女子高校生の恋物語だ。コア曰く、男でもキュンキュンするらしい。そんなものは今まで見たことなかったが、一度は見てみようと思う。「無駄話はいい。周の概要をもう一度確認してから、次の依頼にうつれ。」コアはほ〜いと言って部屋を出た。私もは〜いと言って部屋を出た。私とコアは歩きながら周の資料を読み返した。
周造然とはコアの弟の彼女が通っている酒屋のレジ打ちアルバイトだ。彼のルーティンは、昼は酒屋で働き夜から朝まで歌舞伎町で飲みまくる。これが当たり前だと証言していた。
ナンパした女がたまたまコアの弟の彼女であり、女が彼氏持ちであったことを知っているのにも関わらず女をホテルに連れ込み、強姦をして意識不明の重体に追い込んだクソ野郎だ。女の姿を最初に見たのはホテルの清掃員だという。発見時は顔全体に痣を塗っており、全身には痛ましい打撲が描かれていたという。
そんなクソ野郎を殺すべく、私たちはコアの周到なやり口で周造然を殺した。
「女も女で断ればよかったのになぁ。まぁベロンベロンだったんだろうけど。」ため息を吐きながらコアが話した。「私は関わってないから知らない。」私はその当時の様子を見ていない。だから想像するしかない。しかし、想像してみてもそんなに残酷だったのかとか、可哀想にとか思わなかった。
女も男もどちらにも非があると思うからだ。
私たちはただ殺すだけ。仕事だ。お金を貰っている。仕事中に私情を持ち込むことなんてご法度だ。
私たちは依頼者からの依頼を受けてターゲットを殺しにかかる、
”殺し屋”だ。
今まで私たちは数多くのターゲットを殺し、多額の給料を貰ってきた。そこらの女子高校生が殺し屋をやるなんて私も最初は否定的だった。犯罪に値するし、もしも警察にバレたら極刑は免れないだろう。常に死と隣り合わせなのだ。
最初はこんな色んなことを考えた。恐怖の落とし穴に落とされて眠れない夜もあった。
しかし、私にとって父であるジョセフからの願いだから断るわけにはいかなかった。断ったら十分な衣食住を送ることができなくなってしまうかもしれない。殺し屋をやるという恐怖より、今の生活がなくなってしまうという恐怖の方がデカかった。
正直、殺し屋という犯罪組織に飛び込んでみたら、案外この仕事は嫌いじゃなかった。絶対に警察にバレることはない。仲間もみんないい人たち。ほとんどおじさんだけど。
おじさんしかいないから野球に詳しくなった。よくおじさんたちは野球観戦に行っている。私も彼らの背中を追いかけて常にひっついていた。その影響で、前に比べて野球に詳しくなった。巨人とか阪神とか横浜とか。私は巨人を応援している。
野球観戦も楽しいけれど、同い年の友達が欲しいという思いも捨てきれずにいた。最近の流行とかを一緒に分かち合ってみたい。
だいぶ前に、学校では静かで気の強い女の子としか見られていないと同級生から直接言われたことがある。それはそうだ。特に仲のいい友達もいないし、極力人と話さないようにしてた。休み時間は勉学に専念して常時いい成績を取れるようにしていた。
今回の『歌舞伎町強姦事件』はコアと私の一番信頼できる手下、ロルバンの指示のもと、周を殺させた。だから私たちが逮捕されることはまずない。毎回毎回組織の中の下っ端手下らが替え玉として警察に逮捕されていく。そういうのをメディアが放送して国民が過剰に捉えてしまう。それが普通だろう。
テレビでは指示役とか警察側も殺し屋というものを暴いて、手に手錠をかけたいと思っているだろうが、上層部が捕まることはそうそうにない。替え玉を逮捕して替え玉に聞いてもそいつはなにも言えないのだ。
なぜなら、替え玉である人間は意味もわからず急に自首してこいと言われる。それから、こちらがそいつに脅しをする。家族を殺すだのお前の命はないだの色々だ。精神ダメージを与えて自分は悪いと洗脳するのだ。だから警察側もこちらの内部も分からないし、こんなに大きな組織だとは思いもしないだろう。
「セレナ。さっき言った宮古島のやつさぁ、お前も見ろよなぁ。」私ははいはいと言ってこっそり携帯を取り出して保存した。あらすじを読む限り面白そうな作品だ。
スマホの画面に夢中になっていると、コアにバレてしまいだる絡みが始まった。「保存しちゃってんじゃん!」やべぇ、めんどくせぇ。「気になるから保存しただけ。」「そんなこと言っちゃってぇ!本当に俺のこと大好きなんだからぁ!」別に好きな訳ではなく観たいという興味本位だ。自意識過剰も大概にしろよな。そう言ってやりたかったが、そう言うとまただる絡みされて面倒だ。「無視ぃ?悲しすぎる!」私はフル無視して黙り込んでやった。引き続きコアは悲しい顔してるけれど。
コアと無駄なやり取りをしていると、ポケットの中から振動を感じた。手に取って確認してみるとロルバンからだった。
『すまない。今日はgirlの方へ行く。』そう言い残して電話を切られた。「ロルに会いたいなぁ。」コアは年が近いロルバンと仲が良かった。
私は高校生だから同い年の子なんて勿論いない。一番仲のいい人といえば、ボスのジョセフだ。ジョセフの里子ということもあり相当気に入られている。だから、ジョセフとよく出かけたり、話したりしている。学校はどうだとか、友達とは上手くいってるのかとか。なんの変哲もない親子同士の会話だ。次に仲が良いのはコアだ。相棒だし、多分、相性というものが良いのだろう。私はコアのことをよく面倒だなぁと思うことがあるけど。
「今日の夜、春輝と会ってくるわ。」コアはコロっと表情を変えて言った。
春輝とはコアの実の弟だ。「了解。春輝さんこそ、うちの殺し屋に入ればいいのに。」「人を殺すなんて死んでも出来ねぇだろ。」「ふぅーん。」
春輝は中学生の頃からグレ始めたらしい。バイクに乗ってタバコを吸って酒を飲んで。両親に愛情を注がれすぎて、いきすぎた自由人になってしまったとコアが言っていたのを思い出した。その分コアは春輝が生まれてから両親からは放任気味になったという。コアとコアが十代の頃の生活の話をすると、私もコアも良い気にはならない。だからこの話は墓まで持って行く。
無駄話をしていると、長い廊下のそばに接している一つの部屋から一人の男性が出てきた。
私たちは彼にぺこりと挨拶をされた。お互い微妙な距離で止まったからなんだか気まずい雰囲気になった。何か喋らないと、と思った時、コアがこの空間をぶち破いた。
「お疲れ様!あれ?今日って来る日だったっけ?!」その甲高い声に私も彼も安心したはずだ。私たちが話しているのは、ロルバンと同い年のアルチュールという男だ。彼もまた殺し屋の一員である。
彼は緊急事態収束部隊という部隊に所属している。略して緊収と呼ばれている殺し屋の内部の一つの組織だ。
緊収とは依頼者からの依頼を私たちが実行している間に、依頼者やホシが逃亡した時や警察に殺し屋の内部がバレそうになった時などの緊急事態時に動く部隊のことだ。そして、替え玉として逮捕される人が属する部隊がここだ。だから緊収は数ある部隊の中で所要人数が最も多いとされている。しかし逮捕される人が多いため、入れ替わりの激しい世界だ。
この殺し屋はいくつかの部隊に別れており、各部隊のトップのことを『ヘッド』と呼んでいる。ヘッドの下に『セカンドヘッド』セカンドの下に『サードヘッド』と呼ばれる人がいる。私たちが所属しているのは殺し屋の組織の中で最も地位の高い殺害部隊というところに所属している。その中でヘッドと呼ばれているのはジョセフ、セカンドヘッドがコア、サードヘッドが私という構成になっている。殺害部隊のヘッドがジョセフなのでこの殺し屋で最も位が高いのはジョセフということになっている。アルチュールは緊収のセカンドヘッドだ。
「お二人とも、お疲れ様です。先日の歌舞伎町強姦事件の件、ありがとうございました。ロルバンもいい稼ぎができたと言っていました。」「俺らもしこたま稼いできたよ!ま、セレナは別として。」私はジョーク混じりの睨みをきかせた。私はまだ高校生ということもあり、稼いだお金は全てジョセフが管理している。
私が女子高校生と知っているのは各部署のヘッドだけだ。殺害部署のジョセフ、緊急事態収束部隊のオーディン、事件後収束部隊のククリ、死体処理部隊のコープスだ。事件後収束部隊と死体処理部隊は文字通りの仕事をこなす部隊だ。
「セレナは今日学校じゃないんですか?」アルチュールは腰を低くして小声で言った。
なぜセカンドヘッドのアルチュールが私のことを知っているかというと、ひと月前にロルバンとアルチュールが飲みに行った時にロルバンがアルチュールに私が高校生であることをぽろっと言ってしまったのだ。いつも冷静なアルチュールも流石に驚きを隠せなかったという。その後、直接私に聞いて本当のことだと確信したらしい。それまではロルバンの悪酔いのせいだと思っていたと言っていた。だからか、アルチュールは昔よりも私のことを可愛がるようになった。自意識過剰だけどそう思う。結局はコアも私も自意識過剰なんだろう。
「学校は休み。創立記念日だとかなんとか。どうでもいい。学校よりこっちの方が気を遣わなくていいからね。」アルチュールはそうかそうかと言って再び私たちにお辞儀をして歩き出した。「アルってちょっと面倒なんだよね。コアは仲良いの?」アルチュールと私は思春期の娘と娘が大好きなお父さんって感じ。だからか絡まれるのが本当にめんどくさい。「仲良いよ。この間も三人で飲みに行ったし。俺はアルよりオーディンの方がめんどくさいんだよな。アイツの名前の由来ってさ神って意味じゃん。なぁんか自己中なところあんだよなぁ。」それは私も思ってた。
詳しく言えば、オーディンという名前には『戦いと知の神』という意味があるらしい。その時点でなんだかめんどくさい。
殺し屋の大人たちはみんな色んな意味の持つ名前を独自で命名している。コアはハワイ語で勇敢なという意味がある。ジョセフはパッと思い出して命名したらしい。私のセレナは、名前を考えている時にジョセフが愛用しているセレナのローダウン車に乗っていたからだ。なんとも単純な意味だけれども、とっても気に入っているから結果オーライ。
長い廊下を歩き続け、私たちは殺害部隊専用の仕事部屋に着いた。殺害部隊の仕事部屋は入り口から最も遠い場所に位置している。
DMで依頼がきてもすぐに殺しに行くとはいかないから、ここで依頼者が本当に安全か、依頼者と接触する場所はどこかなど、一日で依頼の整理をして次の日から殺しにかかる。意外手間のかかる作業だ。
私たちは、ジョセフが集めてくれた今回の依頼者、東政宗に関する情報をまとめたA4サイズの情報ペーパーを見ながら仕事の内容を確認し始めた。
「今回のホシは東政宗。依頼者は剣城忠信。接触場所はあちらからの指定あり。場所は武蔵野市の住宅街。接触日時は2024年10月31日。明後日だ。」普段はチャラいコアだけれど、仕事になったら真剣な眼差しになる。良いことだ。
「てことは明日休み?」コアはうんと頷いた。今日は十月二十九日。コアにとっては休みかもしれないけれど、私は普通に学校があるからそちらに行く。「基本情報は確認した。次に依頼者情報についての確認だ。もう一度言うが名前は剣城忠信。年齢52歳。男性。刑事、警察との繋がりなし。証明金1500万。」
証明金とは依頼者が刑事、警察との繋がりがないかを証明するためのお金。いわゆる私たちの収入源だ。証明金が多ければ多いほど、私たちの依頼者に対する信頼度も上がる。
もし依頼者が危険だと判断したら事前にもらった証明金を持って逃走する。そしたら緊収にタマを取ってもらうという流れだ。そうすれば捕まることなく大量のお金を受け取ることができる。
隙のない私たちの収入源を獲得する方法だ。
私たちの収入を安定させるため、証明金は400万円を最低金額としている。それが月に何日もあるため、全ての部署の人が安定した金額を手に入れることができる。
「1500万?!すご。相当な恨みでもあんのかねぇ。」証明金は依頼者の恨みも同時に表している。その額が多ければ多いほど殺したい相手に恨みを持ち合わせているのも大きい。1500万円なんてここ最近では高い。
歌舞伎町強姦事件では依頼者がコアの兄弟ということもあり、400万円の六分の一の金額で済んだ。「毎回この額でいいのになぁ。」コアはありもしない願いを口で言った。
午前の仕事を終えて、壁掛け時計を確認すると午後十三時を回っていた。そろそろ空腹の限界がき始めた。午前中ぶっ通しで仕事と睨めっこしていたから朝に沢山食べてもお腹が鳴り止まない。
いまだに無言で仕事を続けるコアに私はさらっと独り言を呟いた。「オムライス食べたぁい。」
これを聞いたコアは壁掛け時計を見てそうだなあと言った。
私はコアに向かってさらにオムライスが食べたいと申し出た。「オムライス?!最高かよ!」私一言言ったんですけどと思ったけど、まぁ別にいいや。
私たちはパソコンを閉じて自分のロッカーに閉まった。
私たちはるんるんになって吉祥寺に新しく出来たオムライス専門店に行くことにした。
コアが運転してくれている車内でメニューを見ていた。そこには種類がたくさんあって、悩んでしまう。ハンバーグが乗ってたり、コロッケが乗っかってたりとりあえずボリュームがすごい。が、いつかは決めなければならならない。
考えているうちに吉祥寺に着いてしまった。吉祥寺は私の生まれ育った場所でもある。
オムライス屋さんのある建物内に入り、入り口を確認するとほとんど人が並んでいなかった。最近できたばかりだから穴場なんだろう。
店員と目があい、すぐに席に案内された。
私は二回目のメニュー確認をした。
「デミグラスオムライスだな。」私が言ったことに気付いたのか、コアは注文ボタンを押してくれた。気が利く人だ。
そして、来てくれた店員さんがものすごい綺麗な女性の方だった。あまりにも綺麗だから胸に着いているネームタグをチラッと見てしまった。
「かしこまりました。少々お待ちください。」彼女は早い足取りで厨房に戻ってしまった。ぼーっとしてたら注文が終わってしまっていた。「ぼーっとしてお前らしくないな。」「あの人めっちゃ美人じゃね?」「だから貝ちゃんずっと見てたんだ。」私は隙をつかれコクリと頷いた。
「名前も見ちゃった。柳小春だって。」「名前も可愛いな。」コアも同じことを思ったのか、厨房の方向に目をやった。その顔は目を見開いて驚いているように見えた。私も同時に目をやった。
彼女は色白の肌をした手でいくつものオムライスを運んでいた。私たちはまるで招き猫になったように、店外には人の行列ができていた。
「食べた食べた!」一気に膨らんだお腹に手をやり赤子を撫でるようにした。お会計に行こうとコアが立ち上がろうとしたら、綺麗な店員、柳小春が丁寧な口調で喋りかけてきた。
「すみません。食後のデザートを提供しておりませんでした。本当に申し訳ありません。」何か忘れているなぁと思ったけど、二人で頼んだショートケーキとロールケーキがきていなかった。私はえー!と言ったけどコアがまぁまぁと言って私を落ち着かせにきた。「今から食べるでも大丈夫ですか?お代はちゃんと出しますので。」何だよコアは受け入れて。いっつもいっつも優しすぎるんだよ。「はい!勿論です!本当にすみませんでした。ショートケーキとロールケーキです。ごゆっくりどうぞ。」私はカッコつけて断ろうとしたけれど、目の前に神々しく光るショートケーキを見ると断るわけにはいかなかった。
「なぁんだ!結果食べるやん。」コアはニヤニヤしながら美味しそうにロールケーキを口の中に放り込んだ。なんとも美味そうに食べるなぁ。「だって、直が優しすぎるんだもん。」
二人で楽しく会話しながらデザートを堪能していると、お皿の底に小さな紙が貼ってあるのを発見した。
「なんこれ。」私はコアに紙を渡した。「何これ?レシート?」コアは折りたたまれた小さな紙切れを開いた。引き続き私はショートケーキを堪能していると、コアが目を見開き、フォークを落とした。「どゆこと?」コアがぼそっと呟いた。私はコアのが持っている紙切れを奪い取り、目で文字を追いかけた。
『ki殺し屋のことについてお話があります。本日、以下の時間にこの場所に来てください。よろしくお願い致します。』
ki殺し屋?
なぜ、彼女がそんなことを知っている?何がどうなってる?どういうことだ?理解できなかった。
「一旦普通に食べよう。」私は小さく頷いた。コアと私は勢いよくケーキを食べた。
デザートを堪能できたのはほんの一瞬だけ。
「うっし!帰りますか!」いつものコアに戻った。
一時期、コアという人間が二人いると思っていた。なぜなら、驚くほどテンションが高い時もあれば、驚くほど真剣な時もある。オンオフの切り替えが激しいのだろう。
そんなことより今はあの柳小春だ。私たちは立ち上がりお会計に向かった。「料金2460円になります。カードお預かりいたします。」コアは金額の表示を見た瞬間に間髪入れずクレジットカードを渡した。いつもの癖だ。「ありがとうございました。」彼女は何の普通の店員だ。特に目立った行動もしない。しかし、ki殺し屋ということを知っているのは放ってはいけない。
私たちは地下二階の駐車場に行き、コアの車に乗り込んだ。その時コアは車の扉を開けてくれた。「ありがとう。」私はそう言った。
乗り込むまで私たちは無言を貫いた。おそらく各自で考察をしているのだろう。お互い考え始めると止まらないのだ。
まず第一になぜ殺し屋以外の人間がki殺し屋を知っている?
殺し屋にいる女性は私を含めて三人しかいない。事件後収束部隊のヨーナと死体処理部隊のココナリィという二人しかいない。どちらも優秀だから顔は知っているし会ったこともある。
しかし、ヨーナもココナリィも柳小春という女性ではない。見た目が変装しているとも思えない。
彼女が書いた字体からその場で急いで書いたものではなさそうだ。ここではない場所、もしくわ自宅で書いたものだろう。
と、いうことは柳小春という謎の女性はかなり前からki殺し屋という存在を知っていた?そして、私たちのことも知っている?そうでなきゃ、わざわざ私たちの卓にあの紙を置くことはない。そうなってくると何者だ?ますます謎が深まるばかりだ。
「殺し屋の内部の者が外の者に情報を共有してるとか?」コアが赤信号を待っている間にぽつりと呟いた。
いつの間にか暗い駐車場から太陽の当たる外へと出ていた。
「なるほど。殺し屋の中に警察と繋がってる輩がいて、柳小春は刑事で、繋がってるとか!」「何でそんなに嬉しそうなんだよ。」私はそっかと言った。
いや、待てよ。
万が一柳小春が刑事だとしても、わざわざ私たちのオムライス屋さんであの紙を渡す意図が分からない。もし殺し屋の居場所を特定しているのであれば、わざわざあの紙を渡す必要性がない。渡したとしても私たちが指定された場所に行くとは限らない。じゃあなぜ?柳小春の脳内が全く読めない。考えて考えて考えた。自分の脳をフル稼働させて考えた。
あ!
一つの結論が生まれた。
「多分だけど、柳小春はすでに組織のアジトを突き止めていて、近々アジトに侵入してきて、私たちを確保する気じゃないかな?」「じゃあこの紙はなんだ?」コアは小さな紙をひらひらさせながら言った。
「それはあくまで私たちを確保するための保険であって、私たちが指定の場所に来れば簡単に身柄を確保できるけど、そんな簡単に来るとは警察も思ってないだろうからその紙を渡したんじゃないかな?」
その紙はあくまで保険。警察は私たち殺し屋を確保できる段階に入っているんだ。指定した場所に来たらラッキー。でもどうせ来ないと思ってる。アジトに直接行って確保する気だ。
車窓を眺めていると、いつもと変わらない道中だ。ki殺し屋に向かう道は何も変わっていない。
今、殺害部隊のアジトに戻ったらまずい。「コア!アジトには戻るな。ここで私たちが戻ってつけてきた奴らがいたとしたらまずい。」コアは驚いてウィンカーを点灯させた。
「警察も馬鹿な連中だらけだ。保険をかけられたらかけ返してやるよ。」コアはおっけぇ!と元気よく言って車を走らせた。
着いた場所は東京都吉祥寺駅近くのコインパーキング。車を止めて私とコアは歩き出した。私は急いで死体処理部隊のヘッド、コープスに電話をした。
「もしもし、セレナです。」その後、私は二度咳き込んだ。『セレナ?何の用だ?』「あれ?コープス?電話かける相手間違えました。」『了解。』私はにんまりした表情でコアの方に目をやった。
「ほくそ笑みだなぁ。」私は自分の中での任務的なのをこなしていくことが大好き。スッキリするし、自己満足になるからだ。「そんなことより、コープスと合流するぞ。」私は、はーい!と言って奇妙なステップを踏み始めた。
Ki殺し屋。
私たちが所属している殺し屋はJR中央線・総武線、そして井の頭線が通る駅、吉祥寺に位置している。
しかし、ここはあくまで殺害部隊と死体処理部隊のアジトがあるだけである。事件後処理部隊と緊急事態収束部隊はまた別の場所に位置している。その中でいくつも枝分かれしており吉祥寺だけでも七十近くのアジトがある。警察に本当のアジトがバレないようにするためだ。念には念を。ジョセフが言ってた。
私たちが柳小春という女性から警戒されていると判断し、コープスのいるアジトに電話をかけ、咳の数で合図をした。二回なら緊急事態という意味合いだ。これはコアが考えた他者には伝わらず相手にだけ伝えられる暗号らしい。
そんなこんなで歩いて数分。コープスのいるアジトにたどり着いた。現在ここは枝分かれ側のアジトになっている。そして、柳小春が指定した場所でもある。
私たちはトカレフTT-33の軍用拳銃の安全装置を外し、構えた。いつどこでも殺せるように。
ガチャァン!
「しぃ〜!」コアはなぜか勢いよく扉を開けてしまう癖がある。これは何かと不便なのでやめて欲しい。
(左、物陰に隠れろ。)
コアは大きなその指で合図を出した。私はコクリと頷き物音一つ立てずに移動した。この建物に人の気配なんて感じられない。すでに死体処理部隊の者は全員移動したと連絡が入っている。しかし、コープスは気を利かせてくれて残ってくれることになっている。どこにいるかは知らないが。
私はトカレフを強く握りしめて少しずつ移動した。
しかし、コアのことを完全に忘れており、コアの異変に気づいた時にはもう、遅かった。
カチャ
安全装置を外す音が聞こえた。
「はぁいアウトぉ。残念でしたね、加藤直之さん。」すぐさまコアの方に目をやると、背後に柳小春ではない別の女性が拳銃を持ってコアの頭に突きつけていた。コアは自分のトカレフを床に置き、両手を挙げていた。誰だコイツ?そして、なぜ女が拳銃を持ち歩きコアに銃口を向けている?
「その拳銃を今すぐ床に置きなさい。」私は慌てずに冷静に見ず知らずの彼女を落ち着かせようとした。
「あんたは確か、藤沢貝?初めまして。私は柳小春の支持者、亀橋梅花。柳小春からの紙は見た?」私たち殺し屋の情報を全て知るために警察がわざと殺さないようにしているだけかもしれない。そんなことならごめんだ。
「うん。見たよ。なぜ呼び出したの?柳小春に会わせて。もし、あなた達が私服警官だとして私たちを殺そうとしても無駄。彼も私もそれ以上の実力者。もし殺してしまったらただの口封じになって、何も聞けなくなるよ?」これは警察の精神を揺らす一つの術だ。
「ほほぉ。頭のいいガキだねぇ。だが、残念!私は警察でもなく刑事でもない。ついてきな。」そう言いながら亀橋はコアに向けていた銃口をおろした。私はコアに目で合図をした。(行く?)(行く。)亀橋に従い、私たちは着いて行くことにした。
過去に各部隊のヘッド、セカンドヘッド、サードヘッドが集まる会議で来たことのあるビルだけど、随分と綺麗なままだ。死体処理部隊のセカンドヘッドのモクという者が異様な潔癖症だとコアが言っていた。だからだろう。埃もないし、綺麗に磨かれたコンクリート造りの床だけがキラキラ目に映った。
下ばかり見ても意味ない。目の前にいる女の特徴を捉えなければ。身長は百五十ちょいに右利き。
コアに指で緊収は呼ぶ?と合図をしたが、コアは首を振って拒否の意を見せてきた。なぜだろうと思ったが、後ろの物陰にコープスの姿が見えた。そうか。コープスは私たちを守るための護衛だけでなく、緊収の役割も補っているのか。頼もしい。
各部署のヘッドの中でもコープスは優秀な成績を収めている。次なる緊急事態収束部隊のヘッドとも噂されているほどだ。
「あんたたち、何歳と何歳?めっちゃ若くね?」私たちは彼女の本当の正体を暴くまでは何も応答しないようにした。「ちっ。無視かよ。もうそろ着く。」私たちは長い廊下の先にある一つの部屋にたどり着いた。亀橋が扉を開けて手招きをしてくれた。私とコアは警戒しながらも慎重に部屋に入った。そこには、普段はコープスが居るはずの書斎の椅子に今日、オムライス屋さんで会った柳小春がいた。シュッとした鼻に尖った顎先。正真正銘のあのオムライス店員だ。
「こんにちは。驚かせてしまってすみません。コード番号は7326478、合っていますか?」
私は驚きを必死に隠した。
コアの方に目をやると、コアはなぜか感動したような表情をしていた。
コード番号とはお互いが殺し屋の一員であることを証明するための番号だ。この番号は殺し屋の人間しか知らない。しかも、下っ端の方の人間はコード番号を教えてくれない。サードヘッドから上の人間だけが知っている。コード番号までもが警察にバレてしまった?それとも彼女は殺し屋の一員なのか?
「実は私、六年前までKi殺し屋の死体処理部隊のサードに配属しておりました。今は、ジャックという者がサードになったと聞きました。その前までは最有力候補であったココナリィがなると思っていました。しかし、ココナリィは今も手下のままで。」
信じられない。目の前にいきなり現れた女性が死体処理部隊だとか、ジャックとかココナリィとか言い出して。私は再びコアの方に目をやった。コアは小さく頷き、達者なその口を開いた。
「死体処理部隊の元サードといえば、メイ?」彼女は口をパァと開けて大きく頷いた。隣にいる亀橋の口元がほんのり緩んだ。
「セレナ、彼女はかつて死体処理部隊のサードだった。メイと言う名前でホシの死体の処理をしていた。そうだよな?メイ。」呼び捨てなんてして呼び慣れている様子だ。
「そんなことより何でここに呼び寄せたんだ?あんな紙渡してリスク犯してまで。連絡してくれればよかったのに。」私は理解が追いつかず、思わず自分が今思っていることを口に出した。
「ごめん、ちょっと、どゆこと?あなたは元殺し屋のメンバーで、私たちをなぜか呼び出してこの状況?」彼女はうんと頷いて柔らかな唇を動かし始めた。
「私はかつて、多田総という男の妻でした。今は離婚していますが、」「多田総?」私が喋り出そうとしたら亀橋が手を出して止めに入った。
「ウメ、ありがとう。お話の続きですが、かつて、多田総から酷い暴力を受けていました。そこで助け出してくれたのが今、死体処理部隊のヘッドになっているコープスです。そこから私の殺し屋の人生が始まりました。しかし、二ヶ月という短さで辞めてしまい、ボスのジョセフという方に挨拶することすら出来ませんでした。そこで、あなたたちに依頼をしに来たのです。多田総を殺してください。この通りです。」彼女は数えきれないお金を渡してきた。やはり何でも知っているのだ。私たちは証明金のことは言っていないのにもかかわらず、依頼時に大量のお金を渡してくるなんて。普段の依頼だったら前もってお金を持ってくるよう伝えている。そんなことは前提で分かりきっているのだ。私はコアの方を見てアイコンタクトを取った。
私はそっと証明金を受け取り、メイと握手を交わした。彼女たちの言い分を受け取ろう。
「私はセレナです。現在は殺害部隊のサードをしています。最初はあなたのことを警察だと疑っていました。申し訳ございません。」私は深々と頭を下げた。死体処理部隊の元サードなんて知らなかったから。
「頭を上げて。貴方が謝る必要ないわ。多田総を殺してくれればそれでいいの。」私はホッと安堵した気持ちになった。
なぜか?彼女の声は安堵を覚える。
顔を上げてメイと世間話をしていると、メイの支持者であるウメが物凄い顔でこちらを睨みつけた。「ウメ。他人を長時間凝視してはいけません。彼女は殺害部隊のサードよ?私たちはすでに引退した身でしょ。子供みたいに抗うのは辞めなさい。」
私たち?もしかして、ウメも元殺し屋の一員だったのか?「あの、私たちって、彼女も殺し屋の人間だったの?」メイはえぇと呟いて私の目を見据えた。「ウメはね、私の一番信頼できる手下だった。あなたもそんな方いる?」私はコクリと頷いた。
そして、聞かれてもいないのにベラベラと喋り始めた。
「私の一番信頼できる手下はロルバンっていってコアと歳が近いの。私は少し離れてるから話も合わないし噛み合わないことの方が多い。私は自分勝手だし気分屋だし。けど、そんな私でも唯一着いてきてくれてるのは彼だけなの。だから絶対に守るって決めたんだ。」一瞬沈黙に包まれた部屋の異変に気付き、慌ててしまった。「ごめんなさい!ベラベラと関係のない話を。興味ないよね。」メイは首を振って私の言うことを否定した。
「とても素敵な手下さんですね。ロルバンさん。」
私は大きな声ではい!と返事をした。
今日はロルバンと広島焼きでも食べに行こう。
「すまない。今日はこのあと用事があるから撤退する。」コアは腕時計を見て扉に向かった。私もその背中について行き、メイとウメに手を振った。メイは丁寧に振り返してくれたが、ウメは早く出て行けと手で合図してきやがった。
今回の依頼は合計で二つ。柳小春が依頼者の多田総。剣城忠信が依頼者の東政宗。今年中にカタをつけてやる。そう心に誓った。
「何か怒涛の一日だったね。明後日は剣城と接触するし。」私はねぇと言ってその場を流した。
メイとの運命的な出会いにより、仕事が増えた。
明日は何しよう。授業が終了したあと久しぶりに部活でも行こうかな。
「ありがとう。」コアが車の扉を開けてくれた。こういう所も優しい。「何聞く?」「やっぱこれっしょ。」私は野球選手の登場曲のリストを再生した。コアはふぉー!と言い車のスピードを上げた。
「サンキュー。じゃあまた明後日。春輝さんと楽しんで。」コアが家まで送ってくれた。コアはあばよ!と言って再び車を走らせた。私は車が見えなくなるまで車を目で追いかけた。
車が右折したタイミングでインターホンを押した。数秒経ったら聞き慣れた声がした。