第12話 リョウについて
リョウもお風呂でさっぱりして、エマさんが作った豪華な夕飯に舌鼓を打つ。
私の大好きなサンドイッチもある!
美味しい! 美味しすぎる!
パンも柔らかいし、卵のフワフワ感が最高じゃないですか!
エマさんて、公爵令嬢の従者兼メイドとして完璧じゃない?
何、このハイスペック⁉ どこでヴィレッタはエマさんを雇ったの?
「私でございますか? 5年前にレスティア領にて雇っていただきました」
「エマをわたくしの専属メイドにしたのも、才覚に知識、胆力が他の者より群を抜いていたからでございます。わたくしのメイドをしているより、もっと才覚を発揮できる場所はあると思ってはいるのですが……」
「お言葉だけで十分でございます。私は今後もお嬢様に仕える所存でございます」
なんか良いなあ、ヴィレッタとエマさんの関係って。
ちょっと嫉妬しちゃうぐらい信頼関係が厚いのが伝わってきたよ。
美味しい料理を味わい終わり、今後について皆で話し合う。
まずは護衛するにあたって、ヴィレッタのこれからの予定の確認だ。
「夏季休暇が終わり、明日から王立学校で勉学に励む日々となります。平日は夕方まで授業があり、休日は社交界や教会への訪問、他にも4大公爵家の一員として意見を求められることがあり、王宮へ出仕することもございます。……ただ、レスティア家は形骸化したお飾りとしてですが」
「学校かあ。護衛も一緒に通えるのかな?」
「その点はすでに手を打ってあります。学生としてお嬢様と同じクラスに転入できるよう、手続きを済ませてございます」
おお。エマさん完璧! 頼りになる!
「ただ2名が限度でございました。人選はお任せします」
そう締めくくったエマさんに、最初に口を開いたのはベレニスだ。
「私は嫌よ学校なんて。里にいた頃にさあ、ジジババ共のつまらない話で逃げ出したら、めちゃくちゃキレて追いかけ回されたし。他にも居眠りしたら叩き起こされたりした挙句、授業が終わるまで正座させられたりしたからね。あんな場所、絶対行きたくないわよ」
ベレニス……どんな過去だよ。
エルフの里の人たちは、きっとベレニスには相当苦労したんだろうなあ。
容易に想像できたよ。
しみじみ思っていると、フィーリアも続けて告げてきた。
「自分は見た目が、学校に通うのは不自然っす。自分も辞退するっす」
ということは、私とリョウが学生になって、ヴィレッタの護衛をするのが決定ってこと⁉
あれ? ちょっとソワソワしてきたかも。
だって、学校に行けるんだよ! 学生だよ! 青春できるんだよ⁉
小さき王女だった頃の私が夢見たぐらい、王立学校って憧れの場所なんだよ?
学校生活……心躍るワードすぎるよ!
リョウはどうだろう? やっぱり嬉しいよね? と見てみたら目が死んでいた。
あ、あれ? なんでそんな絶望した表情をしているの?
「勉学……俺にこなせる……のか?」
お~いリョウ? そんなに自信ないの?
リョウは頭悪くないし、剣も強いから大丈夫だって!
リョウはフィーリアに代わってくれと言わんばかりに目線を送るが、フィーリアはあえて無視して話を続けていった。
「では自分とベレニスさんは情報収集していくっす。商業ギルドにも顔を出したかったっすから」
「え? 私はこの屋敷を護ってるでいいんだけど?」
「それではベレニス様、私の代わりに掃除洗濯食材の買い出しに料理、屋敷に届く手紙の仕分けや、来訪者からの伝言を記録する業務をお願いいたします」
エマさんが笑顔で告げると、ベレニスは無表情になった。
「フィーリア、一緒に商業ギルドへ行くからよろしくね」
……エマさん、恐ろしい人。
こうして各自の役割が決まったのであった。
その後、就寝前に少し雑談しちゃうのは、女子が4人集まれば仕方がないこと。
そして話題になるはリョウのこと。
「皆様は何故、リョウ様と一緒に旅をしているのでございますか?」
ヴィレッタのふとした質問が引き金だった。
「どうしてと言われたら、う~ん、成り行きかなあ」
「でございましたら、特にリョウ様個人に思い入れはないのでございますね?」
ヴィレッタがずいっと顔を寄せてくる。
うおっ! 改めてマジマジ見るとヴィレッタってやっぱり美人!
スレンダーで凛としていて、私より背が高いし肌が白いし羨ましい……
こんなことをされたら男なら絶対惚れるぞ。
濃い青色の長い髪にキリッとした眉、碧眼の瞳、整った鼻筋、それに薄い唇。
バランスの取れた顔のパーツが、ヴィレッタの美貌をより際立たせているよ。
「思い入れって……いや、まあ、その……あるといえば……あ、あるかな」
なんか変な答え方になっちゃったけどしょうがないぞ……
「何? ヴィレッタ? 傭兵に興味あるの? フフン♪ 趣味が悪いわねえ。あいつは無趣味で剣だけが友達だし、モテているところも見たことないわよ?」
「いえ、特にリョウ様に興味はないです」
ベレニスの軽口にバッサリのヴィレッタ。
……リョウが可哀想なんだけど。
「でもリョウ様って、若い女の子ばっかりに縁があるっすよね。縁があるだけで、何も起きないままなのはツボっす」
フィーリアまでも毒を吐くけど、みんな言いたい放題だなあ。
そこまで言わなくったっていいじゃないか~。
「そりゃあ、ずっと隣に誰かさんがいて、睨みを効かせているってのもあると思うわね」
「それはたしかにあるっすねえ。誰かさんもまた奥手っすからねえ。いやはや、難しい問題っす」
「ん? 誰? 誰かさんて?」
私の問いにベレニスとフィーリアは、顔を見合わせて、ため息を吐いた。
んん? なんか小馬鹿にされている気がするんだけど。
「……そういう感じなのですね。皆様の関係がわかりました。ですのでリョウ様には、わたくしの護衛をしてもらっている間に、最低限の教養と女性へのエスコートの仕方、及び、女性を魅了する笑顔の作り方を覚えてもらいましょう」
ヴィレッタ? 何故にその結論に至るのだ⁉
「いいアイデアね! フフン♪ 目に浮かぶわ。傭兵の涙目が」
「そっすねえ、賛成するっす。リョウ様も、そういうのを学んでおいたほうが、今後動かしやすくなりそうっすから」
ベレニスとフィーリアはニヤリとする。
なんかもう、私1人が取り残されているんだけど⁉
とにかくまあ、こうして就寝前の会話は終わったのだった。
リョウには、なんかわからないけど、ごめん、と心の内で謝っておいた。
次回第13話「王派閥」




