第11話 従兄妹
湯船から出て着替えているときだ。
ベレニスは得意気にヴィレッタに、リョウと同じ屋根の下で暮らす際の注意事項を喋り始めたんだが……
「え? お風呂場でばったり鉢合わせですか?」
「そうよ、気をつけてね♪ あいつはむっつりだから」
キョロキョロしているヴィレッタは、かなり困惑した様子だ。
もうベレニスめ。またリョウに風評被害を被らせよって。
「大丈夫だってヴィレッタ。リョウは私たちがお風呂だと知っていたら来ないから」
「ローゼも、ばったり鉢合わせしたことがあるのですか?」
「え? えっと、まあ……うん。で、でも、こっちも見ちゃったことあるし、共に旅しているから、そういうこともあるって感じかな?」
思い出すのも恥ずかしいのだが、何やらヴィレッタは興味津々の様子。
「み、見ちゃったとは……」
「傭兵のアレよ。ヴィレッタは男のアレを見たことある?」
って! ベレニス、余計なことを言うな!
ヴィレッタが顔を真っ赤にしちゃったじゃないか!
「そ、そそそんなっ! 男の人の裸なんて見たことありません!」
ヴィレッタは入浴時に、リョウが入ってくるという事態を想像してしまったようだ。
リョウへの警戒心を強めていっているのが、手に取るようにわかるぞ。
これは……ダメだ。このまま放っておいたら、ベレニスみたいにリョウをむっつりスケベな駄目男と認識してしまう恐れがある。
それは困る。リョウは結構メンタルが弱いところがあるんだから。
「ローゼは、見て見られただけで内股になっていたわよね……って! 痛っ! なにするのよローゼ!」
「べ~レ~ニ~ス~? 余計なことは言わない!」
「ローゼは内股になるんですか……そうですか」
おいおい、ヴィレッタ? 何故そこをインプットする。
「間違いが起きる前に去勢させるべきでしょうか? でも護衛として雇ってしまいましたし、アラン傭兵団と揉め事になるのは不都合ですね」
お~いヴィレッタ~? ブツブツ物騒なことを呟かないでくれ~。
「と、とにかく! リョウと合流して護衛の打ち合わせをしよ! ね? フィーリア!」
私は無理矢理話を終わらせた。
ベレニスはぶ~っと膨れっ面をしているし、フィーリアは笑いを堪えている。
うう……先が思いやられるよ。
「リョウ様には応接室で待つよう言ってあります。こちらです」
着替え終わって、ヴィレッタの案内で応接室へ向かう。
ん? リョウが席に座っているが、向かい側にも誰か座っている⁉
あの金髪の後ろ姿って……もしや⁉
その後ろで控えていたエマさんという、ヴィレッタの従者の女の人がこっちにペコリと頭を下げてきた。
「お嬢様、戻りました」
「ご苦労さまエマ。……それにご足労いただき感謝します、ラシル殿下」
座ったまま振り向き、やあ、お邪魔しているよと手を挙げる金髪の青年。
私は硬直してしまった。
「うわっ! 超イケメンね! ヴィレッタ! 誰なの⁉」
ベレニスは目を輝かせながら、ヴィレッタに言い寄る。
「こちらはラシル・ブリュンヒルド様です。近衛騎士団の隊長にして王族の1人です。ラシル殿下、こちらは護衛に雇った冒険者のローゼとベレニスとフィーリアです。リョウ様とはもう、お話していたようですね」
紹介され、慌てて頭を下げる。
ベレニスはウキウキだ。この面食いめ。
「初めまして。王族といっても王位継承権は低いので気楽に接して構わないよ。事情はエマとリョウ殿にも聞いた。災難だったね」
「教会で死んだ襲撃者たちの身元や、その雇い主はわかったんすか? 女性はトリトリン子爵家だったバネッサ、という話だったっすが」
フィーリアがラシルに聞くが、この子も恐れを知らないな。
気楽にと言われたからって、王族に即疑問を投げかけるって普通はできないと思うぞ?
リョウなんてめっちゃ居心地悪そうにしているし。
「……残念ながら4人共、素性のわからぬ者たちだったよ。トリトリン家の元従者を探して、本当にバネッサという子爵家だった女性か確認をしている最中だね」
「判明したら教えてほしいっす」
「約束しよう」
どう見ても小柄な少女のフィーリアにも、ラシルは丁寧に応対する。
家柄で傲慢に振る舞うタイプではないのは昔のまま、か。
まあ、その点に関しては、こいつは信用してもいいだろう。
「フィーリア、それってバネッサという女性も偽物だった可能性があるってこと?」
小声で確認すると、フィーリアはコクリと頷いた。
その様子を見て、クスリと笑いながらラシルは話を続ける。
「緊急に我ら近衛騎士団で、ヴィレッタ・レスティア公爵令嬢を保護と考えていたのだが、頼りになる冒険者を4人雇ったようだね。身銭を切ってリョウ殿らを雇うか、国費で近衛騎士に護られるか、どっちにするかい?」
「わたくしは、現状の生活を維持して振る舞いたく思います。ですのでこの方々を雇うほうを選択します」
ヴィレッタはハッキリとラシルへ答えた。
「わかった。陛下にはそう伝えておくよ」
ラシルは優しげに微笑んだ。
「ただ、護衛に失敗したら全員極刑だから、そのつもりでお願いするよ」
ラシルが笑顔のまま言葉を付け足して、ベレニスとリョウが硬直する。
「ラシル殿下、初対面の方々にそのような言い方は……」
ヴィレッタが諫言するが、ラシルは笑って誤魔化していく。
……あ~、やっぱり三つ子の魂百までか。
そういう意地悪な言い方をするのは、まさしく私が知っているラシル・ブリュンヒルドだわ。
「また何かあれば、遠慮なく相談して構わないよ」
そう言い残して、ラシルはレスティア邸から去っていった。
「あ~、あのラシルって人、ローゼに似ているんだわ。ローゼを男にして、少し年齢をプラスした感じ? だから……モギュ」
ベレニスがそんなことを呟くので、慌てて口を塞ぐ私であった。
「どうかしましたか?」
「な、なんでもないよヴィレッタ。ベレニスがちょっとトイレ行きたいって言うから私が連れていくね」
「トイレは廊下を出て右奥にございます。もしよろしければ、エマに案内させますが?」
「大丈夫お構いなく~」
私はベレニスを捕まえたまま、廊下へ連れ出した。
「ついでに自分も行くっす」
ついてきたフィーリアも含め2人に説明しないと、また変なことを口走られたら困るし。
「さっきのラシルは私の従兄妹。だから似ているのは当たり前なの! 私のことがバレたら一番厄介なのはラシルだから、絶対に言わないようにして」
声を潜めて2人へ告げた。
「わかったけど、ローゼの親戚? だったら腹に一物ありそうでヤバそうね」
おにょれベレニス。どういう意味じゃ。
「まあ、ラシルという人もそうっすが、ヴィレッタさんとエマさんにも気づかれずに護衛を続けるのって、骨が折れそうっすねえ」
「めんどくさいわねえ。いっそのこと元王女です! 今後も冒険者やっていきます! って宣言したら?」
「普通に王女の名を騙る偽物として処刑されるわ! そうならなくても政治的に利用しようとする連中が絶対出てくる。王侯貴族って、そういう連中が多いんだから。だから普通に冒険者として接してくれればいいの」
「ハイハイわかったわよ。あんたも色々苦労しているのよね」
ツッコミを入れつつ説明すると、ベレニスは苦笑いしながらも納得するのであった。
「もう一つだけ確認っす。ローゼさんは今の王様とは事を荒立てたくない。そう考えているでいいっすか?」
「……うん。サリウス叔父さんとは数回しか会った記憶はないけど、優しい叔父さんだったし」
もし私が先王の王女として擁立されたら、待っているのは叔父さんとの対立。
骨肉の争いなんて絶対にしたくない。
「ローゼさんの正体がバレずに、ヴィレッタさんを護り、陰謀を暴く。邪教関連でジーニアの企みを探る。さらにローゼさんが知りたい先王夫妻を暗殺した、魔女ノエルを利用した存在の確認。さらにさらにリョウ様の復讐相手である、ノイズの行方を追っていく。これは当分、ベルンに滞在することになりそうっすねえ」
やれやれと、フィーリアが嘆息した。
「まずはヴィレッタの問題に注力していく。2人共、いいかな?」
「お金が入るんならそれでいいわよ」
「無論、構わないっす」
2人の了承を得てヴィレッタたちが待つ応接室へと戻ると、優雅にティータイムをしているヴィレッタに、完璧なメイドといった感じで寄り添うエマさんの姿が目に入る。
リョウはなんか居心地悪そうにしているけど、なにかあったのかな?
「リョウ様。ローゼ様たちが戻ってきましたので、どうぞお風呂へ入ってくださいませ。ご案内します」
エマさんに連れられ、リョウはバスルームへと消えていった。
リョウめ、1人で護衛していた緊張感より、出会ったばかりの女性2人と同じ空間にいたことからの解放に、ホッとしたって感じだな?
もう! 少しは女性に対して耐性をつけてほしいぞ。
「リョウと何か話したのかな?」
「いえ、特には。口数が少ない方のようでしたし」
……まあ、そうだろうなあ。
「いやらしい目で見られたりしなかった? 傭兵って、さっきも言ったけどむっつりだから気をつけなきゃ駄目よ。まあ、変なことされたら私が吹っ飛ばすから、遠慮なく言ってよね♪」
「ありがとうございますベレニス。今は大丈夫だったと思いますが、もし不埒なことをしてきたらお願いしますね」
ヴィレッタは真顔で答えた。
……うん。リョウ。ごめん。ヴィレッタの認識するリョウもベレニス寄りになっちゃったみたい。
大変そうだけど凹まないでよね。
と、心の中でリョウに謝る私だった。
次回第12話「リョウについて」




