第32話 消えたお宝の謎
「ときにリョウ殿、我がベルガー王国に仕官するつもりはあるかね? ダーランドの麻薬戦争でヒューイット将軍を討ち取った活躍。ビオレールで、我が王国の麒麟児オルタナ・アーノルドと引き分けた事実。ドワーフの里で黒竜を倒し、百を超える盗賊を倒した実績。宰相閣下もお喜びになられるであろう。今の世が英雄を欲しているのは、リョウ殿ならわかっておろう。どうだ? 我が国の仕官に興味はあるか?」
ザガン伯爵はニヤリと笑いながらリョウに聞く。
なるほどね~。これが取引か。
さて、リョウはどう返すんだろ?
ちょっと興味……いや、かなり興味あるんだけど。
「アランの傭兵は、5年はやらなければならない決まりがあります。ありがたい話ですが、辞退させていただきます」
「ムムッ。そ、そうなのか。ざ、残念である」
リョウの返答に、ザガン伯爵は露骨に困ったような顔をしているが、この人もわかりやすいな。
しかし5年かあ。アラン傭兵団にはそんな決まりがあったんだ。
「発言をお許しくださいっす」
フィーリアが手を挙げ、ザガン伯爵に話しかける。
「許す。何かな? ドワーフの娘というが人の子と変わらぬのう」
コホンと咳払いするフィーリア。
「ザガン伯爵様、今回の盗賊退治っすけど、我がドワーフの里にも盗賊が押し寄せ被害を受けたっす。伯爵様の使いであった魔女ルシエンが、盗賊と裏で繋がっており黒竜を呼び寄せたっす。こちらのお三方がいなかったら、自分たちドワーフは全滅していたっす」
フィーリアの発言にザガン伯爵の表情が変わる。
「魔女ルシエンの行動は伯爵様の予想外であるっすけど、伯爵様が約束を違えたとも言えるっす。今後ザガン領で我々ドワーフと取引をする話もあったっす。けど、伯爵様、このような約束違反が続けば、ドワーフの里全体が、ザガン領との取引を拒否する可能性もあるっす。それは両者にとって大きな損失になるっす。困ったもんす」
フィーリアは両手を組みウンウンと頷きながら、ザガン伯爵の顔色を伺う。
「むむ。そ、それはじゃな……我もよかれと思ったのじゃが。……たしかに約束は約束じゃ。わしの不徳の致すところじゃった」
フィーリアの発言に、ザガン伯爵は脂汗を垂れ流してタジタジしだして、ナフトさんは顔面蒼白になった。
「でもドワーフは約束したことは守るっす。ですが、自分も里に戻ってみんなを説得するのに、伯爵様が約束を守るか信じないとならないっす。どうすればいいか考えるのに、時間がほしいと言いたいっす」
フィーリアは考え込む振りをしつつ、チラチラとザガン伯爵を見ている。
「……ドワーフの造る武具を卸せば、ザガンの街に武具目当ての冒険者や商人が集うやも知れぬ。そうなれば我が国が潤い、伯爵家としても益があることよ……な」
「流石は聡明にして英邁なる伯爵様っす。大儲けの前にしたら小銀貨50枚なんて、端金っすね。むしろ、これを機に両者の関係をより強固にできるっす」
「ムムッ……ナフト、金を……宰相様へ渡す予定だった金を持ってきてくれ」
フィーリアの完全勝利。
リョウは黙々と食事をし続け、ベレニスは報酬に目を輝かせていった。
食後、お風呂に浸かりながらフィーリアから詳細を聞く。
「盗賊のアジトに金品がなかったのが、伯爵様の誤算っすね。ザガン領は豊かではないっすから、かなり当てにしていたと思うっすよ。……想像っすけど、ナフトさんに毒入りの干し肉を渡した人物が、根こそぎ奪ったのが正解っぽいっすね」
「ナフトさんがその人物と繋がってた可能性はないかな? いや、そんな演技ができる人じゃないか……」
「そっすね。動転して、金品の有無を確認しなかったのがナフトさんの失敗っす」
「ルシエンの仲間……邪教の人なのかな? その人物って」
「断定はできないっすけど、違うと思うっすね。わざわざナフトさんを生かしておいて、盗賊たちを眠らせてからザガンまで運ぶ。それで、ローゼさんたちの手柄の証人にしたっすから」
「なるほど、ルシエンの仲間なら盗賊をザガンまで運ばないか」
「難しい話をしてるわね~。良いじゃない。私たちももてなされて報酬も貰えて、活躍も流布されていくんだし、良いことずくめだし~」
お風呂に浸かったベレニスの蕩けた顔と声。
「まあリョウ様も、伯爵や金品を奪った何者かは自分たちに害意無しと判断して、スルーしようとしたっすねえ。そこら辺の思考は英雄やお人好しと言うより、眼中にないって感じで、ちょっと心配になるっすよ。支えるのは大変っすよ? ああいうのは……」
フィーリアがため息をつく。
「支えるって、別に私はそういうのじゃなくって……」
「そうよ。傭兵が逆に私たちについてきてるおまけみたいな存在よ」
フンスと胸を張るベレニスの平らな胸。
「まあベレニスさんは置いておいて、明日は里に一旦戻るっすよ」
「ちょっと! 置いてかないでよ!」
またまた始まるベレニスとフィーリアの口喧嘩。
まあ、いつものことだけど……
今後リョウは、王都ベルンで邪教を調べる作業をするだろう。
それは多分、私が王都で調べたかった両親を死に追いやった邪教の真相を調べることに繋がる。
一緒にいられる口実ができたのは嬉しい。
けど、リョウはどうなのかな? 私たちがいて迷惑していないかな……
フィーリアがルシエンの企みを暴くために使った魔導具が示した、私が魔王となる可能性。
正直、無茶苦茶ショックだけど、それ以上にリョウが私をどう思ったのかが気になる。
普通、魔王の器の可能性を持つ私に近づかないよね……
「な~に暗い顔してんのよローゼ! おっぱい大きいくせに!」
背後から、むにゅっとベレニスが抱きついてきた。
「ちょっ!……ていうかベレニスは、私が魔王の器だと知ってどう思った……かな?」
「は? そんなこと気にしてたの? ローゼはローゼでしょ。器とか知るか! 私はローゼたちと楽しく旅をして、これからも美味しい食事が食べたいだけよ!」
……ベレニスらしいというか何というか。
でもそれが一番嬉しいな。
「ま、リョウ様もそういうのは気にしない人だと思うっすよ。あの人は己が倒すべき敵かそうでないかで判断しているっす。器とか関係ないっすね」
なんかフィーリアのリョウへの評価が、厳しいような的確なような……
「そういえばフィーリア、ルシエンが領主を誑かしていたのはつつかないの?」
ふと話題を変えるベレニス。
「態度を硬化させるかもっすから、言わない方がいいっすよ。後は、盗賊のアジトから奪われた金品の行方っすね」
「考えられるのは、邪教関係者でもザガン領主配下でもないなら……本当に通りすがりの、ただの旅人が偶然大金を得られるチャンスって感じで横取りしたのかな? ……盗賊をわざわざザガンに運んだ手法は、魔女も絡んでそうだけど……」
「憶測は考えてもしゃあないっすねえ。ナフトさんに確認した感じだと、大金貨換算でザガンの街の5年分の税収らしいっすから、本当にたまたまなら運がいいっすね。ただ……金の流れを追えば犯人は割れると思うっすよ。そのうち噂で何か入ってくるかもっすから、その時っすね」
「分不相応な大金を手に入れたなら使うわよねえ。私なら毎日美味しい料理に使っちゃうわ!」
ベレニス! よだれを湯槽に垂らすなああああ。
その後お風呂から上がり就寝するまでも、3人でのお喋りは続いたのであった。
次回第33話「広がる名声と陰謀の影」




