第29話 再び盗賊のアジトへ
ルシエンは炎に包まれ崩れ落ちる。
……衝撃的な光景だった。
彼女の身体はすぐに焼き尽くされ、消し炭になってしまった。
一瞬の出来事に対処すらできず、私たちはただ立ち尽くして彼女の死を見届けるしかなかった。
まさか彼女が死を選ぶとは思わなかった。
しかも自らの身体を炎で焼き尽くすなんて……
ルシエンと同じ邪教の魔女のジーニアが、我が身可愛さであっさり退散したビオレールでの過去が、この結末を想定していなかったとは言える。
でも、それは言い訳に過ぎない。
「こういうこともある。儂らドワーフとしては、隠れ里を知った人物を殺す手間が省けたがな」
「父ちゃん! そういう言い方は……」
フィーリアは父親のクルトさんに文句を言いたげに振り向くが、途中でやめたようだ。
ベレニスも悔しそうに唇を噛んでいた。
「戦場なんだ。敵に悔いても仕方がない」
「リョウ……」
「ホント、傭兵って無神経なのね」
リョウの発言に、ベレニスは苛立つように口にした。
「ただ、まだ全ては終わっていない。ナフト殿と合流し、残る盗賊どもをザガンの街まで送り届けなければならん。俺1人でやるから、みんなは休んでいてくれ」
「ううん。私も行く。依頼なんだしちゃんとやらないとね」
「ホント傭兵ってアホね。はは~ん。もしかして報酬を独り占めするつもり? そうはいかないんだからね!」
「しゃあないっす。また自分が道案内するっすよ」
「ローゼは魔力が切れているんだろ? 無理するな」
「あはは、大丈夫だって。心配してくれているのは嬉しいけど、今は……その、みんなと一緒にいたいから。それにいざとなったらこの杖で叩くから!」
「傭兵を⁉」
「違う! 襲ってくる敵を!」
そう言って私は、杖を振る姿をベレニスに見せる。
「ならやっぱり傭兵にするのよね! その時は私も手伝うわ♪」
俺は襲わないのに、という顔をリョウはしているが、私たちの同行は認めたようだ。
「小僧よ、こっちの盗賊の死体の始末は我らドワーフがやっておく。気にせず行って来るがよい。フィーリアをよろしく頼むぞ」
クルトさんたちドワーフに、この場を任せて私たちは歩きだした。
少しふらつくけど、まあ大丈夫かな?
後方でフィーリアとベレニスの言い争いが聞こえたが気にしない。
「リョウは今こう考えているんじゃない? 『……ルシエンはノイズを様をつけて呼んだ。ならばノイズは邪教に関係していたのか? 今後は邪教を探るのを重点にするべきだな。邪教か、ビオレールの教会のように内側で巣食っているのだろうか。外から見ただけではわからないのが難点だな』って」
「まあ、な。よくわかるな」
歩き出した山道での私の問いかけに、リョウは驚いたように私を見る。
「そりゃあ、結構長い間、一緒に旅してきたからね」
「だから傭兵は駄目なのよね。真っ先にローゼについて心配して、優しい言葉をかけないからモテないのよ」
ベレニスが横から割り込んできて、リョウを睨む。
「そっすよ、リョウ様。ローゼさんは魔王の器っす。リョウ様に何かあれば魔王になる可能性が大なんすから、気を使ってあげないと」
フィーリアもベレニスに同調してリョウを責める。
「ならないとローゼが宣言したんだ。なら、ローゼのことは信じてもいいだろう」
う~ん……嬉しいような、残念なようなリョウの答え。
「うわっ……傭兵って女心がわかってないのね。……ドン引き」
「そっすよ。特にローゼさんはリョウ様一筋なんだから」
「ちょっ⁉ フィーリア!」
「きしし。ローゼさん……顔、赤いっすよ」
フィーリアの指摘に、私は顔が熱くなるのを感じ手で仰ぐ。
その様子を見たベレニスが笑いだして、リョウは不思議そうに私を見る。
うぅ……私が何でこんな目に。
「ともかく、ローゼさんはリョウ様が生きて隣にいれば大丈夫だと思うっすから、リョウ様は離れちゃ駄目っすよ」
「てか、どうなの? ぶっちゃけローゼが魔王って、ピンと来ないのよね~」
「ベレニスさんの疑問も当然すね。ローゼさんは魔王の器の1人ってのが正しいっす。魔王は七英雄の魔女アニス様の姉、アリスが世界で唯一降臨した魔王っす。けど、シュタイン様の遺した手記では、本来魔王になるはずだったのはアニスだったそうっすからね」
「ほえっ⁉ そうなの⁉」
フィーリアが、私の憧れの七英雄の魔女アニスの名前を出した。
しかも魔王になるはずだったのはアニスだって……衝撃的な内容に思わず大声を出してしまう。
リョウも驚いてフィーリアを見る。
ベレニスだけは当然とばかりに頷いている。
「ベレニスも知ってたの?」
「フフン♪ 私が知っているわけないでしょ?」
ベレニス、胸を張って自慢することじゃないよね。
「コホン。と、ともかくシュタイン様の手記によると、アニスはずっと引きずっていたっす。姉の魔王アリスを倒してからもずっと。そもそも魔王の器というのは、膨大な魔力の持ち主であり、世界を混沌にしたい渇望と、魔界から呼び寄せし魔族をも包んでしまう、慈愛の心を持っている人のことを指すっす」
「慈愛?」
「秩序も混沌も、等しく包み込む心を持っているってことっすね。そうでなくては魔族も好き勝手暴れて、収拾がつかなくなるっすから」
フィーリアの説明に、私は少しだけだけど納得できた気がした。
「ローゼって、敵や悪党が死ぬのも嫌がっているわよね。ドワーフたちが、盗賊を皆殺しにしているのも嫌がっていたしね」
「それは……死んで終わりってのが嫌なだけで、敵や悪党に情をかけるつもりはないんだけど」
ベレニスの言葉に私は反論する。
「ローゼはそれで良いさ。俺はローゼが間違った道に進むとも思えんしな」
リョウが私を見て、真顔で言ってくる。
私は思わず赤くなる顔を隠してしまう。
それ嬉しいけど……恥ずかしい言葉だぞ。
そんな私の様子を見て、ベレニスとフィーリアがニヤニヤしているし。
「まあ、リョウ様次第なんすけどわかってないようなんで、この話は置いておいて。……もう一つローゼさんのことを訊いておくっすね」
「何? フィーリア?」
「ルシエンはローゼさんを、ローゼマリー王女様と呼んでいましたが事実っすか? 10年前に、両親である王と王妃と一緒に病死したっていうお姫様……」
「ああ~うん。今更隠しても仕方がないかな? そうです。私がローゼマリー王女です。今はただの魔女ローゼだけどね」
私は正直にフィーリアに答える。
なぜ生きているのか。なぜ病死になったのか。
真実は両親が邪教の魔女に殺されたこと。
その魔女も使い捨てですでに死んでいること。
私を育てた魔女ディルについてと、ビオレールでの魔女騒動の真実まで。
渓谷や山道を歩きながらする話でもないけど、ざっくばらんに、目的地の盗賊の隠れ家だった洞窟が見えるまで。
「ローゼさんって脳天気な恋愛脳かと思ってたっすけど、ははあ……う~む。そういう事情だったっすか」
「って! フィーリアは私をそんなふうに見ていたの⁉」
フィーリアが衝撃を受けているけど、私も衝撃だよ。
「話は後だ、ナフト殿と合流するぞ」
リョウの一言で、私たちはナフトさんの待つ洞窟に向かう。
「魔女ディル魔女ディル魔女ディル。……う~ん、どっかで聞いたような気がするんすよねぇ」
フィーリアのそんな独り言が、洞窟の入口で木霊した。
次回第30話「毒入り肉」




