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【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~  作者: ハムえっぐ
第2章 英雄の最期

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第1話 川の熊さん

 6月に入ったばかりの季節。

 日は高くて暑いけど、川面から吹く風が気持ちいい。


 夏が近づくと、ビオレール近郊の川では豊富な餌を求めて熊が現れる。

 これが毎年の恒例行事らしい。


 熊は魔物と違って、人を好んで食べることはない。

 でも人が生身で立ち向かうには、危険すぎる相手であるのだ。


「去年まではアンナさんが魔法で驚かして追い払っていたんです。ちょっと怖い思いをすれば、一年間は大人しくなりますので」


 とある日のことだ。

 ビオレールの冒険者ギルドに入ると、受付のお姉さんに声をかけられた。


「今年はどうしようかと悩んでいたんですが、ローゼさんにお願いしてもよろしいでしょうか?」


 受付のお姉さんからそう頼まれ、二つ返事で了承して向かったのはいいんだけど……


「30頭ぐらいいるわね。寝そべったり、川で魚を獲ったり、岩場で日向ぼっこしたりして、完全に自由を謳歌してるわね」


 パーティー仲間のベレニスが熊だらけの川を見て、長い耳をピクンとさせながら、羨ましそうに呟く。


 ベレニスは現代において、世にも珍しいエルフの少女だ。

 銀色の長い髪に華奢だけどスラリとした手足。

 エルフらしい整った顔立ちと、綺麗な緑色の瞳。

 身長は私よりちょっと低いけど、そこがまた可愛い。


 彼女は精霊魔法の使い手で、風属性の魔法を得意としている。

 私の火属性の魔法とは相性が良いし、剣士としても腕に覚えがあって武器にレイピアを使う。

 お金と寝ることとイケメンが大好きという、困った子でもあるけれど、頼りがいのある仲間だ。


 ……朝起きると、私のベッドで逆さになって寝ているのが日課になっているのはなんとかして欲しいけど。


「熊は殺さないという条件だったが、どうしてだ?」


 同じくパーティー仲間のリョウが私に尋ねてくる。

 黒髪黒瞳の目つきの悪い少年だが、大陸屈指の傭兵団であるアラン傭兵団所属の傭兵だ。

 その証である黄土色の皮鎧を装備している。

 武器は漆黒の剣で、めっちゃ重いのだが、それを軽々と使いこなす腕前の持ち主なのである。


 性格は無口で無愛想だし、趣味は剣の稽古と武具の手入れ。

 お洒落なんて全くしないで、寝癖がついたままの時すらある。

 女心に全く関心を持たない根暗のむっつり。

 と、ベレニスから評されて、ちょっと凹んでしまうこともある、メンタルは普通の少年なのだ。


 でも、困った人を見ると放っておけない性質もあり、優しい少年であることは間違いない。


 パルケニア王国デリム領出身で、叛乱した領主のせいで拉致され少年兵にされた過去がある。

 ここベルガー王国ビオレール領に来たのは、少年兵を率い、そして皆殺しにしたノイズ・グレゴリオと親しかった人物、トール・カークスを暗殺するためであった。

 わだかまりは残っているがトールへの誤解を解いたリョウは、ノイズの情報を追っている。

 だが進展はないようで、今は私たちと一緒に冒険者稼業をしてくれているのだ。


 ちなみに私は魔女のローゼ。

 金髪ショートヘアに碧眼の、自分で言うのもなんだけど美少女だ。


 武器は白銀の杖。服装は白のブラウスに紺のスカート姿の、どこにでもいる女の子の恰好をしている。


 年齢は15歳。冒険者になって2ヶ月が経過した駆け出しだけど、魔力の多さなら誰にも負けない。

 それに、ベルガー王国の元王女でもあるのだ。


 ま、とある事情で公的には、王女の私は死んだことになっちゃってるけど。


「熊は魔獣じゃないからね。逆に女神に仕えたなんて神話もあるから、神聖視している地方もあるくらい。だからまあ、人を襲ってこない限り、殺生は控えた方がいいかな」


「魔獣と、そうじゃない動物の違いってあるのか?」


「一口に言うと、千年以上前の魔族との戦いで、魔族についたり魔界から召喚されたりしたのが魔獣。戦いに怯えて逃げ回ったのが、動物っていう区分けかな?」


 リョウにそう説明してあげると、ベレニスが後ろから割り込んできた。


「そうそう。美味しいのが動物で、不味いのが魔獣なの」


 身も蓋もない言い方をしないで。

 ……まあ、間違ってはいないんだけど。


「熊って美味しいって聞いたわ。熊の手は珍味だと聞くけど、捕まえて売ったらお金になるかしら?」


「駄目だって。依頼は追っ払うだけなんだから」


「わかってるって。ね! それより勝負しない?」


「「勝負?」」


 図らずもリョウとハモってしまった。

 ベレニスって自由奔放なところがあるから、私とは馬が合うけど、たまに私以上に変なことを言うんだよねえ。


 そんなことを思っていると、ベレニスが悪戯を思いついたみたいな笑みを浮かべてくる。


「オルタナって、王立学校で貴族の子弟の陰謀で、魔獣の群れに襲われそうになったって話あるじゃない? でも、ひと睨みで魔獣の群れを追い払ったって噂♪」


 ベレニスが言うオルタナというのは、ビオレールに駐屯している王国軍の隊長さんだ。

 スラリとした長身で豊満なお胸に、赤毛が右目を隠しているのがトレードマークの、超絶イケメンな女の人だ。


 私より5歳年上で、なにかと世話を焼いてくれている、とても面倒見の良いお姉さんって感じである。


 彼女の逸話の一つに、こんな話がある。

 王立学校時代の郊外授業中に、魔獣の群れに襲撃されたが剣を抜かずに追い返し、見ていた貴族子弟や教師の腰を抜かした。

 ってのなんだけど、眉唾なんだよなあ~。


 強いのはわかっているし、リョウと戦いたいってだけで敵になったり、戦闘狂な一面もある人でもあるんだけど。

 けど、実際睨んだだけで魔獣って逃げるのかな?


「要は気合だけで、誰が一番多く熊を追っ払えるか競おうということか?」


 暢気な声でリョウが確認する。


「そうよ! フフン♪ 一番多く追っ払った人が今回の報酬を総取りよ! 順番はくじ引きで決めましょ」


 手に3つの棒を持っているベレニス。

 まあ、いざとなったら予定通りに魔法で追っ払えばいいから別に良いけど……

 睨むだけって私は不利じゃない?

 私、お淑やかだし、おとなしい性格だし。(本人談)


 ていうか、リョウはオルタナさんと戦って引き分けたんだしリョウが有利じゃない?

 と思いつつ棒を取ると2という数字が書かれている。

 リョウが3だった。


「私が1ね♪ ふっふ~ん♪ 楽勝ね♪ 全部追い払って見せるわ♪」


 ベレニスは上機嫌で鼻歌を歌いながら、くじ引きの棒に書かれている数字を見ている。


 イカサマの疑いはあるけど、まあ別にいいや。

 とっとと終わらせて帰ろ。


「ちょっと熊たち‼ 今すぐこの場から立ちさるのよ‼ いい⁉」


 ベレニスが熊の集団に向かって大声で叫ぶと、熊たちは一斉にベレニスに振り向き数秒観察。


 そして何事もなかったかのように、川で魚を取ったり日向ぼっこしたりしている。


「はああああああ? ねえ! 聞いてるの⁉ 今すぐこの場から立ち去れって言ってんの‼」


 ベレニスが熊たちに詰め寄って再び叫ぶと、熊たちは一斉に立ち上がってベレニスを睨みつけた。


 グルルルル……


 なんか、一頭が唸り声を上げて近づいてくる。

 あれ? もしかしてヤバい?


「な、なによ! やる気! 熊の手は珍味だって聞いてたけど、私に食べられたいって言うの? いいわ! なら今すぐ熊鍋にして……」


 グルアアアアアア‼


 ベレニスがレイピアを抜こうとするよりも早く、一匹の熊が襲いかか……ん?


 ベレニスの手には大きな魚が握られていた。


「これやるから、ちょっと黙って立ち去れって意味だな」


「大きい魚ね。これ1匹で5人前はあるんじゃない?」


 そんなリョウと私の解説。

 目が点になっていたベレニスは、次第に真っ赤な顔になって俯いて、プルプル震えていった。

 そして顔を上げると、涙目で私を睨んできた。


「どゆこと⁉ この熊たち、私の恐ろしさがわからないの⁉ 野生なのに⁉」


 こんなはずじゃなかったと、敗北感に打ちひしがれるベレニス。


「むきいいいいいいいい、一頭だけだったらこの場で食べて証拠も残さなかったのにいいいいいいい」


 なんか地団駄を踏んでいるけど、とりあえず無視しよう。

 ともあれ、次は私がやるのか。


「ええっと、熊さんたち? お騒がせしてごめんなさい。ちょっとだけ、1年ぐらいここから立ち退いてもらえますか?」


 手を合わせてお願いする私。

 だが熊たちは、グルルと唸りながらジリジリと距離を詰めてくる。


 念のためにいつでも魔法を放てるようにしてあるけど、できれば使いたくないなあ。

 次はリョウの番だし。熊を追い払っていく光景、ちょっと見たいし。

 ほら、やっぱりカッコイイ姿を見たいかなあって。

 えへへ、そんでもって新たな英雄譚に紡がれて行くんだあ。


 なんて妄想していると、いつの間にかグアアアアアアと寄ってきていた熊たち。

 しまった⁉ 油断した!


 でも大丈夫! 私には魔法があるのだから!

 瞬時に戦闘モードに切り替える。


 すると……

 私の手には魚がいっぱいになっていた。


 ヌルっとしているしピチャピチャ跳ねるし、なんか気持ち悪いんですけど。

 熊たちはそんだけ上げたんだからもう十分だろうと、シッシと追い払う仕草をしている。


「……なんか、いっぱい貰っちゃった」


「大きさでいえば私の勝ちね。この勝負、私の勝ちでいいわよね? さ、傭兵! ラストにあんたも熊たちから魚を貰ってきなさい‼ どうせ私のおっきいのより小さいでしょうけど」


 そんな勝負だっけ?


「ま、やってみるさ」


 リョウも熊の集団に向き合う。


 グル……グオオ!


「あ~、その、なんだ? 魚を俺にもくれないか?」


 って! 違う‼ 追い払うんだってば‼

 そんな私の心のツッコミも虚しく、熊たちは黙々と魚を獲ったり日向ぼっこをしたりしている。


 そしてリョウの手には何もないまま、数分が経過した。

 リョウは無視されていると気づいたのだろう。

 ちょっと背中が寂しそう。


 ていうか、もう予定通りに魔法で追い払うでいいよね?

 そう思って魔力を高めていた時だった。


「おや……奇遇だね? 君たちも魚釣りかい? おお! 大漁だね。私も頑張るとしよう」


 釣り道具を手にしたオルタナさんがやってきたのだ。


「あっ! オルタナ! 今日は休みなの?」


「そうさ。今日は非番だから釣りに来たのさ。ここがお勧めスポットと聞いてね」


 抱きつくベレニスに、笑顔を見せるオルタナさん。


「オルタナさん。残念ですけど熊たちが去らない限り、ここは釣り禁止ですよ」


「何? そうなのかい? 残念だなあ」


 私の説明に悔しがるオルタナさん。


 熊たちがオルタナさんを警戒する。


 グルルル……


 そして……


 キャインキャイン!


 熊たちは一目散に逃げて行ってしまった。


 えぇ………


「おや? 折角の熊という父上の渾名にもなっている生物。全頭連れて帰って、我が部下たちの訓練相手になってもらおうと思ったのに残念だ。……ところでリョウ君は、川に入って何をしているんだい?」


 オルタナさんは少し残念そうに言いながら、不思議そうな顔で川を見つめた。


 6月のビオレール近郊の川は、冷たくて気持ちいいなあ。


 どう説明するか悩むより、今この瞬間を楽しもう。

 私とベレニスは、オルタナさんから釣りを教わって、今日という日を楽しく過ごしたのであった♪

 

お読みいただき、心より感謝いたします!


もしこの物語が気に入っていただけたら、ぜひブックマークや評価をしていただけると励みになります。


次回第2話「英雄候補」

週2回更新していきます。

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