触らぬ神に祟りなし
昔、とある村の近くの谷に、土地神として崇められ、祀られていた龍がいた。その龍には人間の番との間に生まれた、人の形をした角と尾が生えている一人の娘がおり、その谷で一緒に暮らしていた。
「お父様、前から気になっていたことがあるのですが、どうしてお父様はここの土地神として村を守っているのですか?」
「ああ、数百年前は目的も無くただ空を翔けていたのだが、偶然この村の上空を通った時、妖共に襲われていたのでな。
そやつらから助けてやったら供物を捧げる代わりにこの村を守って欲しいという契約を持ち掛けられたのでそれに応じたのだ。
その時に最初の供物で村の娘を捧げてきたのだが、それがお前の母親ぞ。」
「え、そうだったのですか。」
そんな他愛もない会話をしながら二柱はその辺で狩ってきた動物の肉と村から貰った供物を食べ、眠りについた。
―その日の深夜―
龍の娘は熟睡していたが、突然眠りから覚めた。
「お父様…?」
谷の龍はとても身体が大きいため、谷の中心で眠りにつくのだが、龍の娘は人間の子供と同じくらいの大きさの為、その父である龍が創ってくれた谷の端にある岩小屋の中で眠りにつくのだが…。
その谷の中心の方からとても大きな音がしたのだ。それと大勢の人間の声も聴こえる。
龍の娘は嫌な予感がし、父が眠っている筈の谷の中心地へと急いだ。
「え…?」
そこには、見たことの無い異形の生き物と村の人間たちと…。
父である龍の死体があった。
その死体には沢山の矢が刺さり、刺し傷があり、恐らく異形の生き物の仕業と思われる爪痕と咬み痕があった。
「お、お父様…?村の人達…どうして…。な、なんで…?」
村の人間たちは龍の娘に気づいていながらもこちらを振り向かず、後ろめたそうに下を向いていた。
「申し訳ありません…土地神様…、我々が生きる為なんです…申し訳ありません…。」
すると村の人間共の傍にいた異形の生き物はこちらの方を向き、龍の娘を嘲笑うように見た。
「なんだ、あの忌々しい龍に娘がいたとはな。」
「なんだ…お前は…?」
「俺か?俺は貴様の親であるあの龍に数十年前に敗れた妖だ。この村を襲っていたのだが、これのせいで返り討ちにされてしまってな。お陰で傷を癒すのにずいぶんと掛かってしまった。」
「仕返しを考えたが、一度敗れた俺だけじゃ無理でな、どうせまた返り討ちにあってしまう。」
「そこでこの村の連中を脅したのさ。忌々しい龍を処す為に協力しろ、さもなければお前たちの子供の命は無いものと思えってな。」
「そしたらこいつら簡単に言うこと聞きやがってよ、こんな簡単にやれちまった」
「どうだ、龍の娘よ。信じていた者共に親を殺されちまった気分は、悔しいか?悲しいか?憎いか?」
その妖は私のことをまじまじと見ながらゲラゲラ笑っていた。
しかし龍の娘はそんなことを聞いても情報を全て処理しきれず、頭が真っ白になっていた。
ただ、一つだけ、とてつもなくどす黒い感情が湧き上がっていた。
目の前の父の仇を、裏切者を、そいつらが住む村を、ここら辺一帯、父以外の全てを。
壊してしまえ、と。
次の瞬間、龍の娘は爪で妖を切り裂き、四肢全てを吹き飛ばした。
「は…?」
妖は意識があるものの、その場から動けなくなった。
村の人間共は恐れおののき、腰を抜かした束の間、龍の娘の手によって命を絶たれた。
「何が…どうなってやがる…」
どうすることも出来ず、動くこともできない憐れな妖はただ困惑していた。
「愚かな妖が、貴様如きが私を殺せるとでも?」
「そのまま出血して息絶えていくのを感じながら、自分が何に手を出したのか良く考えてみるといい。」
そう言って龍の娘はその場を去り、まだ裏切者共が残っている村へと歩んでいった。
数年後、その土地から村は消えていた。
村の痕跡など一切なく、ただ荒れ果てた荒野が広がっていた。
まるで天災でも起こったかのような―。
そしてその荒野の近くには谷があり、その谷には一つの大きな洞窟へと通じる穴が空いていた。
その先の洞窟にはとてつもなく広い水鏡が広がっており、その水鏡の中央には大きな龍の遺骨が置かれていた。
―その遺骨に寄り添うかのように、一人の龍の少女がうたた寝をしていた。
どうも、抹茶稲荷です。
誰も読まないと思いますが急に思いつき気ままに書いた気まぐれな作品二つ目になります。
最初に投稿した前回の作品「水鏡の果て、如何なるものか」と比べると若干納得いかない部分もありますが、これ以上修正しても今は修正が必要な箇所が見当たらないのでとりあえず投稿しました。
修正が必要だと感じましたらまた後日加えさせて頂きます。
水鏡のやつは完成してるんだけどなぁ.....やっぱりセリフ書くの苦手なのかなぁ......
次回の更新はいつになるかはわかりませんが、また新しい小説が思い浮かんだらまた投稿するかもしれませんね
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。
ここまでスクロールして何かあると思ったでしょ?
何も無いよ。