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停止エレベーター

 管理会社の人、すぐに来てくれそうですね。

 それにしたって、急にエレベーターが止まっちゃったら驚きますよねぇ。

 あなただって、『非常』のボタン押したのなんてはじめてでしょう。

 そりゃそうですよね。

 まぁ、エレベーターはこれ以外にも二機ありますからね。……とは言え人や荷物の出入りも多いですし、早くこのエレベーターも動かさないと。

 ……いえいえ。こちらこそ、一人きりでいるよりは他に話し相手がいた方が良いですよ。

 え? あー。そうですよね。一緒に閉じ込められたのが若い女性とかだったら緊張しちゃいますよね。僕で良かった、ですか。あはは。光栄です。

 ところで、持っておられるその花束は……?

 やっぱり。ちょうど今日が最終出勤日だったんですね。部下の方たちからのプレゼントってわけですか。

 退職の日にこんな事態になるなんて、ねぇ。

 ははぁ。いい思い出、ですか。そうですね。

 今日、ここでお話できなかったらあなたと会話することもなかったでしょうし。何事もご縁ですよね。

 実は僕、あなたのことよく見かけますよ。やっぱり、エレベーターの中で。

 そうなんですか? あなたも僕のこと見かけたことありますか。

 毎日出勤してるとそれなりに顔だけは見たことある人って増えていきますよねぇ。

 同じ会社の中とは言え部署ごとにフロアが違うから、部署が違うとほとんど接する機会ないですし。でも出勤時間とかが一緒だとお馴染みのメンバーが一緒のエレベーターに乗ってたりするんですよね。

 しゃべったことなくてもいつも見かける人だと、変な話、ちょっと愛着わいたりしませんか?

 あ。わかります? 嬉しいなぁ。

 仕事したくない日とかもね、あるじゃないですか? そんな時にいつもの人がいつもの時間に出勤してるのを見かけると、ああ、この人も頑張ってるんだろうな、とか勝手に想像してみたりしてね。逆に自分が機嫌が良い日に、相手がなんだか落ち込んでる感じだったら心配になったりして。

 まぁ、結局は全部想像なんでその人が実際にどう思ってるかなんて確かめようがないんですけど。

 ほんとですか? あなたもそんな風に思ったことありますか。いや。僕だけじゃないってわかっただけで嬉しいですよ。

 それにしても、おじさん二人でこんな話をしてるなんて、傍からみたらおかしいですよね。

 あはは、確かに。やっぱり相手が女性だったら、こんな話してたらストーカーみたいに思われちゃいますよね。セクハラだ、なんて言われたらたまんないですよねぇ。

 ……えっと。まだ時間かかるのかもしれませんね。エレベーターが動くまで。

 心配になってきましたか? 大丈夫ですよ。エレベーターが落下することなんてまずないですから。

 ああ。ありましたねぇ。社員が一人亡くなったエレベーター事故。もう三十年くらい前の話でしょう? そんなの覚えてるの、古株の社員だけですよ。

 あれから付け替え工事も何回かありましたしね。

 もう少ししたら動きますよ。

 あ。……す、すみません。古株ってあんまりいい言葉じゃないですよね。なんか、つい……。

 そ、そうですか。お気を悪くされたんじゃないならいいんですけど。

 そんなことないですよ! ただ、長く勤めただけでなんの役にも立ってないなんて。

 いや、まぁ……。若い子は色々言いますからねぇ。パソコンとかも僕らなんかよりよっぽどちゃっちゃと使いこなしてるんでしょうし。

 それでもね、長年、同じこの会社で今までの移り変わりを見ているからこそ、できる仕事だってあると思うんですよ。

 それに、毎日ちゃんと来て、いつもの通り仕事して……ちょっとしたことの積み重ねかもしれないけど、それだけですごいことですよ。

 僕ね、会社ってこんな大きい箱の中に色んな人がいて、みんながそれぞれに頑張ったり悩みを抱えたり、それを乗り越えたり……そういうの、見てるの好きなんですよ。

 そりゃもちろん起業したり、なんらかの才能で自分の力だけで生きてる人はかっこいいですけどね。でも、それだけがかっこいいわけじゃないと思うんですよね。

 実を言うと、あなたがエレベーターに乗り込んできたときに花束持ってたのを見て、今日で退職されるんだなってわかって、最後に少しだけお話したいと思いまして。

 長く勤めただけ、なんておっしゃいますけど、その長い間この会社を支えてきたんですから。

 えぇ? 神経すり減らされただけ、ですか? ははっ。そうかもしれませんねぇ。

 大変で、嫌なことの方が多いですもんね。

 ……でも、いいんじゃないですか?

 そうやって、少しは楽しかったかな、って言えれば。

 未練がましくなんてないですよ。会社を辞めるのは寂しいと思いますよ。愛着があるほどね。

 あ!

 エレベーター、動きましたよっ!

 よかったですねぇ。

 そうだ。

 言い忘れるところでした。

 お仕事、長い間お疲れ様でした。

 やっと、一階に到着しましたねぇ。ドアも問題なく開きましたよ。

 え?

 ああ。僕は降りないですよ。降りれないんです。

 三十年前、ここで死んでから、ずっとここが僕の居場所です。

 僕はこれからもここで色んな人達を見続けたいと思います。

 ……いえ。それはこちらのセリフですよ。

 ありがとうございました。

 では、お気をつけて。


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