Lo9.スーパーチーちゃんゴッドスーパーチーちゃんホワイト
私がユナさんとユーくんの家に居候してから2週間ほど経ちました。
今のところ、異世界でこの2人以外の人間に会っていません。ここは人里からちょっと離れた土地のようです。まさにぽつんと一軒家ですね。
とはいえ、完全に交流を絶っているわけでもなく、1~2か月に1回くらいは近隣の村に行ってユナさんが作ったポーションや獣の毛皮などを売り、生活必需品を揃えてるみたいです。
父親はどこにいるのか、何故こんな生活してるのかは謎ですけど。まぁ、色々あるんでしょう。気にはなりますけど、特に聞いてはないです。事なかれ主義のチーちゃんです。
さて、いま私はユナさんの方を見ています。ユナさんはいい感じの長さの木の棒を構えています。
……どういうわけか、ユナさんの身体を何か神々しい白いオーラのようなものが覆っているのが見えます。そのオーラはやがて木の棒まで覆いました。
張り詰めた空気です。私の隣でユーくんも真剣に見ています。
ユナさんの目の前には岩があります。ユナさんの身長と同じくらいの大きな岩です。
ユナさんは棒を上段に構えました。そのまま、普通に振り下ろします。
「んーしょ」
気の抜けるような掛け声。振り下ろす速度も大して速くなく、特に力が入っているようにも見えない。どう見ても普通の振り下ろしです。
それでも、次の瞬間には……
ガコンッ
そうであることが当たり前のように目の前の岩が真っ二つに割れました。
呆気に取られてる私に、ユナさんはこともなげに言います。
「こんな感じでやればいいわよ~」
いや、どんな感じでやるんですか。さっぱり分かりませんが?
分かったのは、ただの木の棒を普通に振り下ろしただけで岩が割れる威力が生まれたこと。
私はユーくんに尋ねます。
「ユナさんがどうやって岩を割ったのか、分かります?」
「わかんない!」
ユーくんがはっきりと言いました。そっかー分かんないかー。
私もさっぱり分かりません。
「でも同じようにやれば出来るんでしょ? やってみるよ!」
そう言ってユーくんは立ち上がり、近くの岩に向かって木の棒を勢いよくぶつけました。
バキンッ!!!
木の棒はボキリと折れ、岩には多少傷がつきましたが割れるには至りませんでした。
「うぅ~なんでぇ~~?」
「ふふふ、なんでかなー?」
悔しそうにうめくユーくんに対し、にっこりとスマイルを浮かべるユナさん。ただ勢いよく振るだけじゃ駄目ですね。
ユナさんのやったことはまるで手品です。うーん、やはりユナさんは底知れない人ですね。
「さ、チーちゃんもやってみて」
「うぇ!? 私もですか!」
「何でもするって言ったよね~?」
奇しくも有名なゲイポルノビデオと同じ台詞を言うユナさん。淫○ネタにどっぷりハマると、こういう通常の会話がクリティカルを生み出します。笑っちゃ駄目です。
「確かになんでもするって言いましたけど、こういう肉体的なのは私に向いてないというか……てっきり魔法でも教えてくれるんだと思ってました」
そうです。ユナさんは魔法を使えるのです。火を出したり、水を出したりしてとても便利に使ってます。
身体つきも全然戦士っぽくないですし、完全に魔法使いタイプだとおもってたので、さっきみたいな棒で岩を割るような所業が出来るとは思えませんでした。
この人、マジで何者なんですかね……?
「あーそのことだけど、残念だけどチーちゃんにはあんまり魔法の素養が見えなくてねー」
「えええ、マジですか!? 嘘ですよね!」
「マジよー。ここ2週間ほど見てたけど、何の兆候も見えなかったもの~」
この2週間、割と穏やかに過ごせてると思いましたけど、何か観察されてたみたいです。こわい
しかし、我ながらチーちゃんは完全に魔法使いタイプだと思ってましたので誤算でした。
確かにこのチーちゃんというキャラには「魔法を使える」みたいな戦闘用の設定は全然無くて、ただ可愛いだけの幼女アバターとして存在してましたけど……
ファンタジー世界で生きるならファンタジーに適応して魔法が使えるようになっても良くないですか?
「まぁ、とりあえずやってみたらー?」
むぅ、仕方ないですね。私はアワシマ様から貰ったお父さん棒を手にします。
棒に興味を持ったのか、目をキラキラさせながらユーくんが聞いてきます。
「その棒なぁに? 前からすっごく気になってたんだけど」
「おお、気になりますかこの棒が! ふふん、これは私のお父さんがかつて四国お遍路に使った由緒正しき棒、【おへんろ巡礼用金剛杖】です!!!」
そう言って私は棒をかざしました。まぁ、実際はただのひのきのぼうなんですけどね。
「おー、チーちゃんなんかかっこいい!」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう。私もこの棒がかっこいいと思って、幼き日より振り回していました。分かりますか、このかっこよさが!!!」
棒に刻まれた謎の梵字、四角い形状、130cmというちょうどいい長さ。ただの木の棒なのにめちゃくちゃかっこよくないですかこれ?
「人呼んで、【お父さん棒】です!!!」
「うわぁ、名前で台無しだぁー」
ユーくんの目からキラキラした期待が失われました。え、そんなにクソダサですか? そうかなー? そうかも……
「でもチーちゃん、それだけお父さんのこと大好きなんだね」
「大好きってほどじゃないですけど、まぁまぁ好きですよ」
「そっかぁ……ううん、なんでもない! やっぱりカッコいいね、お父さん棒!!」
んん? なんでしょう、急に褒めてくれました。一瞬ユーくんから少し寂しげな感じがしたんですが、気のせいですかね。
……なわけないですよね。この家にはお父さんがいません。それでユーくんにも少し思うところがあるのかもしれません。
ユーくんが男の子の格好をしてるのも、もしかしたらそこらへんに理由があるのかも……
……いや、憶測でしかないですね。今は詮索しないでおきましょう。この2週間、ユーくんのお父さんのことは一度も話題に出てきませんでした。
ならば、今はそれでいいじゃないですか。
私はユナさんに向かって言う。
「ユナさん、私はただの木の棒じゃなくてこのお父さん棒を使いますね」
「別に構わないわよー」
アワシマ様がわざわざあちらの世界から送ってくれたお父さん棒。私が棒占いしたときも、この棒は正しく私を導いて二人に会わせてくれました。
まぁ、その過程であやうく死にかけてるんですけど……
と、とにかく、私はこの棒の力を信じます!
これはただの初期装備のひのきのぼうじゃないはずです! きっと。たぶん。
「チーちゃん、出来るの? 下手したらボクがしたみたいに大切な棒が折れちゃうかも……」
「……その点は大丈夫です。何故なら私には木の棒を折るほどのパワーは皆無だからです!」
「自信満々に言うことなの!?」
まぁ冗談はさておき。
先ほどユナさんの手本とユーくんのやったときには明確な違いがありました。
姿勢、タイミング、スピード、パワー……まぁそれぞれ結構違いましたけど、根本的な違いはそんなところには無いはずです。
ユナさんが岩を割る前に纏っていた白いオーラ……ユーくんがやったときにはアレが出ていませんでした。そこが一番の違いです。
つまり、白いオーラが出れば勝てます。確定演出です。
「オーラでろ~オーラでろ~……」
私は目を閉じ、棒を握りしめて念じます。イメージは休載の長い某ハンター漫画のあれです。
そう、【念】という概念!!
目覚めるのです! 私の内なるパワー!!
むむむむむむむむぅ~~~~
んにゅにゅにゅにゅにゅ~~~
ぬんごごごごごごごごごぉ~~~
「チーちゃん、出てる! なんか出てるよ!!」
「……え? マジですか?」
私が目を開けると、自分の身体から白いオーラが出ていました。
ええ~、ホントに出た……こわっ
異世界こわっ……
私の元いた世界じゃどんなに練習してもかめ○め波が撃てなかったのに……
すみません、全国の夢見る少年少女たちよ。キミ達の夢は私が叶えてしまったようです。
これから私はこの白きオーラにちなんで、【スーパーチーちゃんゴッドスーパーチーちゃんホワイト】と名乗りましょう。
私の出したオーラを見てユナさんが微笑みながら言いました。
「長い長い修行の果てに……遂に身に付けたようね。もう教えることは何もないわ。免許皆伝よ、チーちゃん」
「え、ちょっと早くないですか?」
別に長い修行も何にもしてないですが? もう少し教えてくれても良くないですか?
「あー、そうね。じゃあついでにその状態で岩を殴ってちょうだい」
「あ、はい。やってみます」
私はへろへろ~と棒を下ろします。いや、別に手を抜いてへろへろしてるわけじゃないですよ? これが私の精一杯です。何故なら私は幼女なので。
とはいえ、ユナさんがあれだけゆっくり振り下ろしても簡単に岩が割れました。ならこの程度の速度でも十分なはず!
ぽこりんっ♪
めちゃくちゃ軽い音がなりました。
岩は……
はい、全くの無傷でした。
「うん、やっぱり免許皆伝取り消しね」
ユナさんは無情にもそう言いました。
え、何だったの私の白いオーラ? 何の演出だったのアレ??
なんかすごいこと出来そうな感じだったのに、見かけ倒しなんですか???
読者がめちゃくちゃ期待してたスーパーゴッドチーちゃんの活躍はどうしてくれるんですか!?!?(そんなものはない)




