Lo86.死は覆らない
私は走ります。めちゃくちゃ走ります!
生まれてこの方こんなに運動してるのは初めてかもしれません!
そんな私の走っている姿を見てウェダインさんが言いました。
「おう、ちゃんと脚使って走れ」
「え、使ってますけど?」
「全然使ってねーよ。お前の走り方は『ただ足を地面に着けてるだけ』なんだぜ。
ようするに筋肉を使ってねぇ。だから遅い。ちゃんと地面を蹴れ。力を伝えるんだぜ」
ふむぅ……確かに意識してなかったかもしれません。地面を蹴る、ですか。
こういう感じですか?
言われた通り地面を蹴ることを意識すると、ドンっという感じでちょっと加速しました。
そして……すってんとコケました!
「うぐぅ、な、なぜ……言われた通り蹴ったのに……」
「いや、次の足が前に出てねぇんだぜ……ほんっとドンくさいな」
「あ、確かに出てなかったかもです。いやぁ、脚を意識するとなんか走り方忘れちゃいますね? ……はて、私ってどうやって二足歩行してたんですか?」
「赤ちゃんかよ」
どうやら私は赤ちゃんレベルだったようです。二足歩行が出来てません。いっそ四足歩行に戻りますか? ハイハイから始めた方が良いですか?
「まぁおいおいそれは直していくとして……私、こんなんで強くなりますかね?」
「言ったぜ? お前はまず身体が全然使えてねぇって。まともに動けてたらDランク冒険者くらいの身体能力は持ってるんだが……正直今の段階じゃGランクにも劣るポンコツぶりだぜ」
「おお、Dランク。そこそこの性能は秘めてるんですね!」
ほうほう、意外でした。Dランク冒険者といえば、たしかそこそこ平均より上みたいなランクです。どうやら私の身体にはそれだけの可能性があるんですね? 完全に後衛特化で運動能力が無いと思ってました! 幼女ですしね!
「なんつーかアレだぜ。そこそこの身体能力はあるのに、動きが完全に『運動ダメな人』の動き方なんだよな……上手く言えないんだが」
「まぁ基本インドアですからね、私」
「だからとにかく身体を動かせ。動かし方を覚えろ。解決方法はそれしかないんだぜ」
「はい、分かりましたコーチ!」
「ったく、前向きなことだけは美点だぜ」
「わぁい褒められたー」
というわけでコーチの指導の元また走り始めました。20mの全力ダッシュです! 何度も続けます!
「おら、走るとき足元見んな」
「え、それじゃ石とかにつまづいてこけますよ?」
「下向くたびに姿勢崩れてるんだよ。ちゃんと前向いて走れ。そして地面の障害物は前方を確認して前もって予測しとけ。危なっかしい」
おお、まるで自動車の予測運転ですね。確かにこの身体は前世よりスピードが出るので、車の運転のようにした方がいいのかもしれないです。
足元見ないのは怖いですが、しっかり確認して走れば事故らないはず……前世は高速道路で時速100km出して走った事もありますから、理論上時速100kmまでは安全運転できるはずです!
へぶっ! ずさー! またこけたー!
しかし、今日は結構細かく指導するんですねウェダインコーチ。先日ユーくんにプレッシャーをかけて無理をさせた負い目でもあるんでしょうか? でもおかげでなんかちゃんと走れるようになってきてる気がします。もしかして私、成長期来てます?
ユーくんもユーくんで頑張ってますし、ココッテちゃんもココッテちゃんで頑張ってるはずです。私もちゃんと人並みに走れるように頑張らないといけませんね!
え、私が一番ハードル低そう? いえ、たぶん一番ハードル高いです。運動センスがね……
そんな感じで4日目も身体をたくさん動かして終了しました。
温泉宿の部屋の中で休んでると……ふらふらと部屋の中にココッテちゃんが入ってきました。そしてココッテちゃんはそのまま……
突然糸が切れたみたいにこてんと倒れました。
「ココッテちゃん!?」
部屋の中にいたユーくんと私は急いでココッテちゃんに駆け寄ります。
「ど、どうしたんですか!? ココッテちゃん、敵に襲われたんですか!?」
「……いや、傷は無さそう」
「で、でもココッテちゃん息してないですよ!? 脈も無いです!?」
「それは元から」
あ、そうでした。ココッテちゃん元々死んでるんでした。この子アンデッド娘なので。
慌てまくってる私とは対照的に、ユーくんは冷静に見てました。ユーくんはココッテちゃんに声をかけます。
「もー、ココッテちゃん。死体ごっこ? そんなことしても引っ掛からないから……」
しかし、ユーくんは途中で台詞を止めて目を見開きました。
「……チーちゃん、これやばいかも」
「え?」
次の瞬間、ココッテちゃんがゆらりと幽鬼のように立ち上がりました。身体から黒い瘴気を纏いながら。
これは……魔障? どうしてココッテちゃんが……
それを見たユーくんが立ち上がったココッテちゃんを即座に組み伏せます!
「チーちゃん、神気ありったけ撃って!」
「え、え?」
「早く!」
ココッテちゃんを抑えながらユーくんが言いました!
「し、神気ですね! 分かりました! よくわからないけどありったけ撃ちます!!」
私は身体からぶわっと神気を出して、ココッテちゃんに撃ちました!
光ってるオーラがココッテちゃんを覆います!!
そしてココッテちゃんを覆っている魔瘴が神気によって浄化されて跡形もなく消えました。
ココッテちゃんがぼけーとしたレイプ目に戻りました。そして組伏せてるユーくんを邪魔そうに見つめます。
「ん」
「あ、良かった。元に戻った」
「むぅ」
いつものココッテちゃんです。ユーくんが身体をどけて拘束を解きました。
「……それで、どうしてこうなったか説明してくれるよね。ココッテちゃん」
「ん」
「ん、じゃなくてね? 普通に話そ?」
ユーくん、ちょっと怒ってます? なんか怖いんですけど。
ココッテちゃんは少し気まずそうに、口を開きました。
「……話は長くなる」
「こ、ココッテちゃんが喋った!?」
「だからココッテちゃんは喋ろうと思えば普通に喋れるんだってば。めんどくさがりなだけで」
「話すのメンドイ」
あー、ココッテちゃん。めんどくさくてまともに喋ってなかっただけですか……怠惰なミストバーンすぎる……(※漫画『ダイの大冒険』に出てくる敵幹部の一人。10年に一度しか喋らない無口キャラという設定だが、実はめちゃくちゃ喋る)
「自分がニンゲンかマモノか気になった。だから試した」
「え、それってどういう……」
「シンキだ。身体の中から無くす」
うぇ、わかりません! こうやって喋るようになっても、ココッテちゃんの言葉は色々足りなくて理解しづらいんですけど!
「えーと、しんき……神気? 無くすんですか?」
「4日間全く吸ってない」
「……4日間【ドレインタッチ】でチーちゃんから神気を吸うのをやめてたってこと?」
「ん」
ココッテちゃんがうなづきます。そういえばここ最近吸われてないなーと思ったら、そういうことでしたか!(気付くの遅い)
「答えは出た。マモノだ」
一足飛びにココッテちゃんが結論を出します。いや、会話めっちゃ飛ばしますねこの子! 主語どこですか!?
「ココッテちゃんは自分が人間じゃなくて魔物だと?」
「え、そうなんですか? で、でもココッテちゃんこうやって人間みたいに喋ってるじゃないですか!」
「話すのメンドイ」
「いや、そういうことじゃなくてですね?」
「つまり、ココッテちゃんは神気が無くなると魔物になるってこと?」
「ん」
「ええっ!?」
ココッテちゃんは何でもないように言いますけど、それってすごい大事じゃないですか!?
「つ、つまり。つまりですよ? ココッテちゃんは神気を与えられることで一時的になんとかなってますけど、基本的にゾンビのままで……もしかして、私がなんとか治したと思ってたけど何も変わってないってことですか?」
「ん」
な、なんということですか……ココッテちゃんは神気の起こした奇跡で復活したと思ってたのに、最初に出会った頃のゾンビと全く変わってなかったなんて……
「で、でも外見的には腐った感じなの消えてますよね!?」
「キレイになった」
「ですよね!? まるで生きてる人間みたいに……」
「お腹もサッパリ」
そう言ってココッテちゃんはお腹を見せてきます。幼女の愛らしいお腹には裂け目が入り、中は内蔵が無くなって空洞になってました……そうですね。綺麗に見えても、もうとっくにまともな食事も出来ないアンデッドでしたよね……
いや、包帯とかで隠しましょうよそこ!? ゾンビバレしちゃいますよ!? それにちょっとえっちです!!
「大丈夫」
「な、何が大丈夫なんですか!?」
「ゾンビたのしい」
「全然大丈夫じゃなかった!?」
ココッテちゃんは割とゾンビライフを楽しんでるようでそれは良かったですけど!
「でも、生き返らない」
ココッテちゃんは淡々と言いました。
「死は覆らない」
何を考えているかわからないレイプ目で、ココッテちゃんは私を見つめていました。




