Lo82.弱音を吐く幼女を無理矢理寝かせてなんとかします!(何も考えてない)
「ボクは……弱い……勇者になんてなれない……」
ユーくんは今、泣いています。思えば、ユーくんはただの10歳の子どもなんです。そんな子どもに私がかける言葉はなんでしょうか?
……考えてもよくわかりません。ただ、私はユーくんの仲間なので何も言わないのは違う気がします。だから、思ったことを思ったまま伝えます。
「ユーくんは強いですよ」
「そんなわけない……ボクは弱い。大きい鹿に負けたし、ガイナスには負けたし、ウェダインさんにも負けた。大きなミミズにもおびえて逃げようとしたし……ずっと負け続けてる……」
えーと……比較対象がちょっとおかしくないですかこれ? みんなすっごく強いですよ?
「あの、それはすごく相手が悪いので仕方ないというかなんというか……」
「それでも勇者なら……勝ってた……」
そうですかねぇ……?
私もドラクエ3でカンダタに負けてますし、勇者ってそういうもんじゃないんですか? 魔王とかじゃなくて相手カンダタですよ? ただの小悪党に負ける勇者もいるんですよ?
「ずっと思ってた……本当の勇者は別にいて、ボクは勇者でもなんでもないんだって……」
「ユーくん……」
私は子どものように泣いているユーくんを見つめます。ずっと元気で明るくて良い子だったユーくん。とても微笑ましく思っていたのですけど、こんな弱音を隠していたのですね。
まだこんな子どもなのに……我慢して……
そんなユーくんに私から言えることは……
私はユーくんの目を見てはっきり言います。
「……寝ましょう!」
「……チーちゃん?」
「酷いクマです。身体にも全然力が入ってないです。だから私のタックルごときで倒されるんです」
「え……」
いや、そんな見捨てられた子犬みたいな目をしないでくださいよ。弱ってるユーくんもちょっとかわいいですけど。
「よく寝て、起きて、ご飯いっぱい食べて、温泉入って、まず元気になりましょう。身体が弱ってると良くないことを延々と考えてしまうものです」
正直、さっきの弱音は今の弱ってるユーくんだから出てきた本音なのかもしれません。でも、これは本人の問題なので私がどうやって慰めても解決しないような気がします。
……決して、良い感じの慰める台詞が思いつかないから逃げたんじゃないですよ!
私はユーくんの目の上に手を乗せて、目蓋をつむらせます。こうすると、光が遮断されて暗くなるとともに手の温かさがじんわりと目に伝わって眠くなるはずです。名付けて、人力ホットアイマスクです!
「ゆっくり休んでくださいね。大丈夫、大丈夫ですから……」
「チーちゃん……」
何が大丈夫なのか分かりませんが、そう言いながら私は神気を使ってユーくんを癒します。私の癒しパワーは使った後眠くなるという副作用があります。
疲れを労るように、ユーくんの身体にじんわりと神気を流していきます。
やがてユーくんが落ち着いたのか、すぅすぅと寝息をたて始めました。私はゆっくりと目蓋から手を退けて、寝顔を確認します。
「……ううむ、女の子ですね。やっぱり」
ユーくんの寝顔は幼い女の子のようでした。普段ボーイッシュな雰囲気で男の子のようですけど、こうして見るとやっぱり女の子です。かわいい。とてもかわいい。天使の寝顔です。
しかし……全体的に細い体です。この細腕でよく1m超の大剣を振り回してるものですね。こんな小さな女の子が大人相手にも立派に戦ってますし、やっぱりこの子はすごい子なんですよ。どこからあんなパワーが出てくるんでしょうかね? 不思議です。
「ん」
いつの間にいたのか、ココッテちゃんがユーくんを抱き抱えました。おお、音が全然しなかったし、ユーくんの頭が全然揺れてない。重心移動がすごいですね。
ココッテちゃんはユーくんを馬車の中に寝かすと、そのままぼけーと遠い地平線を見てました。ありゃりゃ、もう動く気ないですねアレ。まぁ昨日はユーくんの特訓に付き合ってたっぽいですしね。お疲れ様です。
「さて……解決ですね!」
「何一つ解決しているようには見えないんだぜ。問題の先送りじゃねーか?」
「それはまぁ、仕方ないです!」
ウェダインさんに突っ込まれましたが、まぁ仕方ないんです。本当ならこういう場面で感動的な台詞とか言って良い感じに終わるのがベストかもしれません……が
「……ユーくんが起きるまでに何か言うこと考えておかないといけませんね」
「何も考えてないってことは分かったぜ」
だって、何も気の効いた台詞思い浮かばないんですもん! あのですね、前世でこういう友人が思い悩んでるシリアスなムードとか経験したことないんで分かんないんですよ!
あんまり友達いなかったですし、数少ない友達も個性的な人しかいなかったので!
あ、ちなみに前世の友達とは学校卒業してから特に連絡取ってないです。どうもお互いにマメな性格じゃなくて……うーむ、ぼっち人生。
いや、別にコミュ障じゃないんですよ私。ちゃんと就職面接受かる程度には喋れますし。ただ、プライベートが基本ソロなんですよね私……趣味がインドアすぎて……
まぁ、それはそれで置いときましょう。まずは私の出来ることをやります。私はウェダインさんに向き直ります。
「ウェダインさん、昨日の私は20m走を1000本走れと言われていながら、実際は108回でダウンしてしまいました」
「おう、情けなかったな」
「だから……今日の私は150回走ります!」
「おー、やる気だな。1000回じゃなくて150回って言うあたりヘタレだが」
「ふふん、今日の私は温泉入ってゆっくりと寝て完全回復してますからね。めちゃくちゃ元気なんです!」
実際、なんかめちゃくちゃ身体の調子が良い感じです私。いや、この幼女の身体になってから回復がかなり早くなってるのもあるんでしょうけど。筋肉痛がこんなに早く回復するとか、感動的ですらあります。
温泉パワーと睡眠パワーでなんかいつもより更に回復してるんでしょうね。知らないですけど!
「証明しなくちゃいけないんです。無理して頑張るよりも、しっかり休んだ上で頑張る方が成長するってことを。だから出来るところを見せてやります!」
かのゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげる先生は言ってました。睡眠はパワーだと。おろかにも不摂生をして早死にした私が言うのもあれですけど、論より証拠。まずは私が結果を見せてあげなければ!
「いや、どうしてそういう結論に至ったんだぜ?」
「うーん、私にはユーくんの気持ちが良く分からないですし、そんな私がユーくんの心情を代弁をするのはおこがましいんですけど……ユーくんから『焦り』を感じるんですよね」
「焦り?」
「例えば、『期末テストが明日に迫ってるのに全然テスト範囲分かってないし、どこから勉強すればいいのか分からない』みたいな感じの焦りですね」
「いや、その例えが全然分からねーぜ」
「その状態で無理して結果出そうとして徹夜で勉強した……そんな感じです。今のユーくんは」
悪神討伐までに残された期間は2週間。そのうち2日を既に使ってしまっています。それなのに、ウェダインさんからボコボコにされて「そのままだと死ぬぜ」と言われてしまいました。
……よく考えたら、これめっちゃ焦る要素ですね? 死ぬんですよ?
「これ……ウェダインさんが脅しすぎたのがいけないんじゃ?」
「おう悪かったぜ……どうも危機感無さそうだったからな」
「むむぅ、許します」
「いや、何様なんだぜお前は? 今日はちゃんと走れよ? 言っとくけど、お前全然身体使えてねーからな?」
「分かりました! 走ります!」
そう言って私は走り始めました! 朝日はまだ登ったばかりです!
「ところでなんで20m走なんですか? キリのいい50mとか100mとかじゃなくて中途半端な短さなのが今更ですけど気になりました!」
「本当に今更だな。よく使われる攻撃魔法の射程が大体そのくらいなんだぜ。混沌魔物には魔法使うやつもいるからな。そのくらい避ける為に脚力鍛えてねーとマジで死ぬぜ?」
「なるほど。ご教授ありがとうございますコーチ!」
「おう……コーチじゃねーぜ?」
とりあえず真面目に走ってみます!
なーに、20mを150回なんて距離にしてみれば3kmです。いけるいける。
がんばるぞー! おー!
……はい。全力疾走の20m✕150回は3kmマラソンするだけよりめちゃくちゃつらかったです……
チーちゃんはそういうところあります。そういうとこだぞ?




