Lo70.聖女っぽい雰囲気出してれば誤魔化せると思ってますか?
難民キャンプのテント群。その中でも少しばかり大きなテントの中に私達は案内されました。
私達が中に入るとがっしりとした体格の日焼けした中年男性が、ユーくんを見つけて真っ先に声をかけてきました。
「ユー坊、無事だったか!」
「うん、元気だよ!」
「じゃあユナさんも無事なのか!」
「うん!」
どうやらこのおじさんはユーくんとユナさんとは交流があり、心配していたようです。まぁ、ユナさんは強いので心配するまでもないんですけどね……村では実力を隠してるのでしょうか?
「ユーくん、この人が村長さんですか?」
「うん、そうだよー」
「ユー坊、その子は?」
「仲間のチーちゃん!」
「そうか、迷子のチーちゃんか」
いや、迷子じゃないですけど?
どうやらこのおじさんが村長さんみたいですね。がっしりしててなんか強そうです。ユーくんの無事を確かめた村長さんは、続いてシャイナスさん達の方を向いて頭を下げながら言いました。
「聖女様、騎士様。ようこそいらっしゃいました。先日はわたくしどもに多くの支援をいただき、まことにありがとうございました」
「礼には及びません。私達は思う通りにやっただけですので」
妙にかしこまった挨拶をする村長さんに、凛とした表情で答えるシャイナスさん。いつものへらっとした笑顔と違う真面目な雰囲気を出しています。
あれ……?
せ、聖女モードになってます!?
そしてガイナスさんは一歩下がり、聖女を守護する騎士様モードになってます!
なるほど、こういうときはシャイナスさんが代表して喋るんですね?
いやー、聖女様まじ聖女。さっきのは子どもの前だったからあんなに気が抜けてたんですかね?
「村を襲った混沌魔物もあなた方のおかげで討伐されました。本当に……感謝してもしきれません。貴方達は村の救世主です」
がっしりした村長さんが、深く頭を下げて丁寧なお礼を言っています。
……これ、どう見ても一介の冒険者に対する態度じゃないですね? まぁ、シャイナスさんとガイナスさんは冒険者なのに身なりが整ってるし、貴族みたいに思われてもしょうがないかもです。
「頭を上げてください。私達はするべきことをしただけです。それに……救えなかった命も多くありました」
「……ええ。そうですね。それでも、あのような怪物相手に対して犠牲者は少なかったと思います。必死で村人を逃がしてくれた勇敢な者達のおかげで……」
そこで区切ると、村長さんは悲しげな顔をしてユーくんを見つめました。
「すまん……ユー坊。お前はココッテと仲が良かったな……俺たちを逃がす為に、ココッテは犠牲になって……」
「あ……うん」
苦しそうな顔で言う村長に対して、ユーくんが何とも言えない顔で返事をします。
あの、ココッテちゃんそこにいます。
村長さんの後ろです。
「ココッテは……天才だった。幼いのに村の大半の大人より強く……おそらく彼女には輝かしい未来が約束されていただろう。あんなところで死んでいい子じゃなかったのに……」
「う、うん……」
「ココッテの育ての親、バン・ボーデンも村人を逃がす為に死んでしまった……彼は元冒険者だが、俺とは20年来の古い付き合いだったな……」
村長さんがとうとうと語り出しました。それを微妙な顔で聞くユーくん。
そして育ての親の話が出ると、ココッテちゃんは顎に手を当てて思案顔になりました。私は小声でユーくんに聞きます。
「ココッテちゃん、やっぱり育ての親が死んで悲しいんでしょうか?」
「いや、あれは『別に育てられてないが?』って感じの顔だよ」
「え、育ての親じゃないんですか?」
「なんかねぇ、聞いたらどうも居候してただけっぽい。いい感じで放置してくれるから、なんとなく一緒にいたって」
えぇ~……ココッテちゃん、猫かなんかですか? 放置してくれる人のところがいいんですか?
でもまぁ、赤の他人の子ども一人が家の中にいても放置してくれるのって、大分寛容な人なのかもしれませんね……私だったらココッテちゃんみたいな可愛い幼女がいたら構い倒しているかもしれません!
「彼ら、勇敢なものたちのおかげで多くの命が助かりました。……ココッテやバン達の犠牲があってこそ私たちは今生きているのです……」
「……ええ、散っていった村の勇者達に祝福あらんことを……どうか安らかに……」
シャイナスさんがおごそかに祈りを捧げます。村長さんも祈ります。
ついでにココッテちゃんもなんとなく祈ります。いや、自分のことですよココッテちゃん。
「それで、先日はココッテの遺体のことで訪ねてきましたな。そのことですが……その遺体、村を代表して私に弔わせてくれませんか?」
村長がそう切り出しました。あー、なんかガイナスさん達って昨日はなんかココッテちゃんの遺体の引き取り先を探すために親を探してたって言ってましたね。そのことですか。
それを聞いて一瞬、神秘的な聖女面がポケっと元に戻ったシャイナスさん。代わりにガイナスさんが気まずそうに切り出します。
「その……だな、村長殿。あの子は……」
「ココッテは親のいない拾われ子だったが、まぎれもなく私達の村の一員だった。変わった子ではあったが……村のみんな、特に子ども達にはよく好かれていた。子ども達にココッテの死を知らせるのは酷なことだが……せめて我々の手で弔いたい……」
ガイナスさんが困ったようにココッテちゃんに視線を送ります。うん、さっきからずっと村長さんの後ろにいるんですよねココッテちゃん。
ココッテちゃんが親指をグッと立てました。
いや、貴方のことなんですけどね?
ユーくんが呆れ顔で言いました。
「もうそろそろ遊ぶのやめたら? ココッテちゃん。このままじゃ絶対気付かれないって」
「ん」
「……は? 何を言っとるんだユー坊?」
何がなんだかわからないと言った村長。するとココッテちゃんは村長の肩をポンっと叩きました。振り向くと、村長さんのほっぺたにココッテちゃんの人差し指がぷにっと当たりました。
あ、小学生のときにやられたことあるやつだ。
「なにぃっ!? ココッテ!? 何故ここに!! というか生きとるのか!?」
「むー」
ココッテちゃんはレイプ目のまま答えます。あ、今のは否定ですね。ココッテちゃん、肯定のときは「ん」って言い、否定のときは「む」って言うっぽいです。ぽいだけで、時と場合とニュアンスで変わるっぽいです。そんなことをユーくんが言ってました。
え? よくわかりませんか? 駄目ですね、そんなのではココッテちゃん検定に受かりませんよ!(ココッテちゃん検定ってなんだ?)
今、ココッテちゃんが否定形を使ったのは死んでるからですね。確かに生きてはいないです。そうとは知らずに村長さんは喜びます。
「よくわからんがどうあれココッテが生きていて良かった! これでバンも報われるだろう……」
「村長殿。悪いがこの子が完全に無事だったというわけではないんだ。今のココッテは普通の人間では無くなってしまった」
「なっ!? それはどういうことだ……?」
村長さんがココッテちゃんをまじまじと見ます。
「若干……肌が白くなったか?スキンケアでもしたのか?」
全然的外れでしたので、ココッテちゃんが村長さんに無言でアームロックをかましました。うーむ、喋らない分スキンシップがアグレッシブですねココッテちゃん。私もしてもらいたいです。
「ぐわっ! 何をするっ!? ……ん? なんだか肌が冷たいな? ……冷え性か??」
また的外れでした。この村長さん、察しが悪いです。仕方なくガイナスさんが説明を続けます。
「村長殿。落ち着いて聞いて欲しい。ココッテは……一度完全に死んでいる」
「なっ、それはどういう……」
「だが死んだ後、しばらく経ってから蘇生した。そして今のような……呼吸や心臓の脈動すら必要としない身体になった」
「なんだと……!? それは、一体どういう……む!? 本当だ! 脈が無いではないか!?」
ココッテちゃんにアームロックを掛けられ続けてる村長さんが初めて気付いたように声を上げました。
「これはまさか……病気か!? 風邪でも引いたのか!?」
やっぱり察しが悪かったようです。よくこの人村長やってますね? さっきココッテちゃんが死んだって聞いてなかったのでしょうか?
「村長殿。端的に言うと今のココッテは人間ではない。アンデッドだ」
「あ、アンデッドですと!? そんな馬鹿な! 邪悪なアンデッドが何故!?」
村長さんが信じられないといった表情で言いました。やはりこの世界ではアンデッドは邪悪な存在みたいですね。
それに対して、シャイナスさんが諭すように言いました。
「いいえ、邪悪なアンデッドではありません。ココッテちゃんは神の祝福を受け神聖なるアンデッドに生まれ変わったのです」
「神聖なる……アンデッドですと!?」
「そう、神の祝福を受けた神聖なアンデッド……その名も【ホーリー・アンデッド】と言います」
あ、私が名付けた呼称を使ってます。あたかもそれが真実のように。
「ホーリー・アンデッド……そんなものが存在したのですか!?」
「ええ、存在したのです。現にここにいるではありませんか」
シャイナスさんがきっぱり断言します。存在……したんですかねぇ? なんかシャイナスさんがそういうなら存在してたような気もしてきました。
「そ、そうだったのですか……! 邪悪ではなく神聖なアンデッドとは聞いたこともないですが、聖女様がそういうならそうなんでしょうな……!」
「……これは奇跡です。神の起こした奇跡が、勇敢なるココッテを呼び覚ましたのです」
「奇跡……たしかに奇跡なのかもしれん……!」
おごそかに言うシャイナスさんにすっかり騙された村長さん。
えーと、うん。そういうことなんでしょう。うん。
村長さんは感極まって、両腕をあげてばんざいしました。
「ばんざい! 神の奇跡ばんざい!!」
「うん、ばんざいだね!」
「ば、ばんざーい!! ココッテちゃんばんざーい!!」
万歳し始めた村長さんに合わせ、ユーくんと私も万歳します。ええい、勢いでこのまま突っ切ってしまいましょう!
「今すぐみなに知らせましょう! ココッテが神の眷属になったと!! ああ、なんと喜ばしい日か!!」
そう言って村長さんはテントから出ていきました。
残された私達。私は呆然としながら言います。
「えーと、いいんですか? ホーリー・アンデッドなんて嘘ついて……」
するとダラッと姿勢を崩したシャイナスさんが答えます。
「ん? いいんでよ。嘘言ってないでよー?」
「えー?」
「そういう存在は確かに知らないが……ココッテはそもそも前例の無い存在。ならばたった今ここで生まれたということでいいだろう。そういうことだ」
「うんうん、きっとそういうことでよ」
「えーと、神の祝福によって生まれたとか言ってませんでしたか?」
「いいんでよいいんでよ。きっとそういうことなんでよー」
シャイナスさんが適当なこと言ってます。
きっとシャイナスさん達はとりあえず不思議な現象を神の奇跡ということにしてうやむやにしてしまうつもりなんでしょう。聖女アピールのおかげで、なんかそれっぽく聞こえましたし。
「聖女っぽい雰囲気で真実味を増して押しきりましたね?」
「外面も使いようだ。特に聖女という存在は神聖視されやすいからな」
「でへへ、うちめっちゃ聖女だったでよー」
「今の態度見られたら色々台無しだと思いますけどね……」
うーん、大人って汚い。そう言いつつも、シャイナスさんはにっこりと笑いました。
「でも、うち本当に嘘ついてないつもりでよ? だって本当にココッテちゃんは神様のおかげでこうなったと思うんでよ」
「神様のおかげですか?」
「ん、きっと世界で一番優しくて慈悲深い神様のおかげでよ」
「よく分かりませんけど……そうかもしれませんね!」
まぁ、一度は死んでゾンビになったココッテちゃんが今こうしているのは奇跡みたいなものなので、実際神様のおかげかもしれませんね。
アワシマ様に手を合わせておきましょう。さまよえる幼女を救ってくれた幼女神様に感謝します!
●バン・ボーデン
元冒険者。40代。寡黙だが、実はめちゃくちゃ口下手なだけ。コミュニケーション能力が低いので冒険者としてはソロで活動していたが、限界を感じ早々に引退する。
ココッテちゃんはああ見えて世渡り上手なので、自分に危害を加えない人間が分かる。その為、バンの家に勝手に居候をしていたが、文句は全く言われなかったのでそのまま居着く。
周りの人はバンが養子にしたと思っていたが、ココッテちゃん本人の認識としてはただの都合の良い家主。
バンの実力はレベル5。村の中では一番強いがあまり知られてない。子ども達はココッテちゃんがさいきょーだと思っている。
ココッテと共に村人を逃がす為に混沌魔物と戦い、死亡。




