Lo68.賄賂を贈る幼女
ココッテちゃんは私たちの泊まってる宿に泊まることになりました。今までシャイナスさんの魔法鞄が寝床でしたけど、これからはアイテムではなく人間扱いです。アンデッドですけど。というわけで一時的に私達がココッテちゃんの身柄を引き取りました。どうやら幼女組でひとまとめって感じですね。
ベッドが2つしか無いんですけど、さてココッテちゃんはどうしましょう。私、床で寝ましょうか?
と思ったらココッテちゃんはユーくんの布団で寝てました。というかアンデッドって寝るんですね。息もしてないんですけど、不思議ですね?
ふむ、幼馴染み組ですけどユーくんがボーイッシュなので少年少女が同衾しているようにも見えますね? でも変なこと考えちゃいけませんよ。
幼女2人の尊い関係性を見ながら、28歳アラサーは一人寂しく寝ますかね……いや、別に普通ですけどね? 寂しくないですけどね?
そう思いながら寝て、朝が来て、目が覚めたら……
なんかいきなりレイプ目のココッテちゃんが10cmくらい目の前でじっとこちらを見てました。
……うわ、びっくりしました。
「ん」
私が声を出せないでいると、サプライズ成功とばかりにココッテちゃんがうなづいて、布団からとっとと出ていきました。
……え? いま私の布団に入ってませんでしたか? いつから?
困惑する私をよそに、ココッテちゃんは実に満足そうにゆらゆらしています。
わ、分からんこの子……行動の予測がつきません。でもあれですね。可愛いから全てが許せます!
さて、幼女と一緒のベッドで寝るというサービス的サプライズが何の実感もなく理解する暇もなく一瞬で終わったんですけど、こういうものなんですかね?
いや……よく考えたら違いますね? よくあるシチュだったら「朝起きたら美少女が隣ですぅすぅ寝ている。主人公はその寝顔を見てドキッとする」ってのが普通ですよね?
今のは逆じゃないですか!? 寝顔見られたの私の方じゃないですか!? えと、私の方がサービスしちゃったんですかね???(混乱)
と、ともかく。今日も1日がんばるぞい!
そういうわけで、これからココッテちゃんと難民キャンプに行くわけですけど……
桃、1個余ってるんですよね。腐らないうちに自分たちで食べてしまおうかとも思いましたけど、せっかく貴重なものですし何か有効活用しなければつまらないですね。
「というわけで来ました!」
「いや、なんなんだぜ?」
来たのはウェダインさんのところです。今日もかっこいいケモ姉さんですね?
ウェダインさんはダンジョンで門番やってましたが、なんか他の人に任せてて控え室みたいな小屋でうとうとしてました。休憩中ですかね?
「言っとくがダンジョンはまだ入れねーぜ」
「そうなんですか?」
「そりゃ何十年も起きてない異常事態が起きたら慎重になるぜ。もう大丈夫だとは思うが、まだ調査中だぜ」
なるほどー。色々あるんですね。
「ん? ところでなんか一人増えてねーかお前ら」
「あ、この子はどこにでもいる村娘のココッテちゃんです」
「ボクの友達なんだよー」
「ん」
「へー、そうなのか」
納得していただけたようなので話を次に進めましょう。
「ウェダインさんって神気とか使えたりします?」
「ただの門番に使えるわけねーぜ」
いや、ただの門番じゃないんですけどね。金章持ちとかいう強い感じの人じゃないですか。
私は桃をウェダインさんに差し出します。
「これ、差し入れです!」
「ん? 見たことねーが果物か?」
「美味しいやつです!」
「へー、なんでアタシに?」
「これは賄賂です!」
「子供に堂々と賄賂を渡されたのは初めてだぜ」
どうやらウェダインさんは桃を見たことないみたいです。これは好都合ですね。
「まぁ、食べ物で機嫌を取ろうとするのは子どもらしいっちゃらしいぜ」
「えへへ、そうですね」
「そんな子どもの想いに応えるのも大人の対応ってやつだな。アタシは不真面目な職員だから、賄賂はありがたくいただくぜ」
「どうぞどうぞー」
ユーくんが切り分けて、ウェダインさんに渡します。ウェダインさんは特に警戒することなく口に運びました。
「なんだこれ……めっちゃ美味いんだが」
「めっちゃ美味しいやつだよ!」
「なるほどなー。賄賂になるってだけあるぜ」
「美味しいですよね! 1個全部食べてください!」
「何企んでるか分かんないけど、ありがたくいただくぜ」
そうして召し上がったウェダインさん。普通の果物と思っているのか、今までで一番反応が薄いですが……さて、どうなりますかね?
「美味しかったぜ。ありがとな」
「……身体に何か変化はありますか?」
「え、なんか盛られたのか?」
「いやー、美味しさで新たな境地が開けるかなって思って」
「言ってることがよくわかんねーぜ」
ウェダインさんは特に何か変化は無さそうでした。ユーくんが残念そうに言います。
「うーん、ハズレかなぁ?」
「ハズレとかあるんですかね?」
「さあ? 個人差はあるんじゃない?」
「いや、一体何食べさせたんだぜお前ら?」
「えーと、なんか美味しいやつです」
「めちゃくちゃ怪しいんだぜ……ん?」
ウェダインさんが何かに気付いたように手をにぎにぎします。
「……うん?」
「何かありましたか?」
「……んー、なんでもないんだぜ」
おっ? これは何かある感じの反応ですね? やりましたかね?
「そういえばウェダインさんって神気使えないのにどうやって混沌魔物と戦うんですか?」
「【祝福装備】ってのを使うんだぜ。なんか神の加護があるっていう武器や防具でな。魔瘴に対抗できるんだぜ」
「へー、そんなのがあるんですか。便利ですね」
「まっ、祝福は永続じゃなくて効果が切れたらただの武器になるけどな。しかもめちゃくちゃ高いぜ」
なるほど、あんまり便利でもないんですね……とはいえ混沌魔物に対抗できる数少ない手段なら仕方ないんでしょうけど
「自分で神気が使えたらそんなのに頼らなくても良いんだけどなー」
「まぁそのうち使えるようになるんじゃないですか?」
「おう、そうだなー」
軽く返事するウェダインさん。とりあえず目的は達成しました。これにて桃は完売です!
「なぁ……なんでアタシにこんなものくれるんだ?」
「んーと、強そうだったから?」
「なんとなくえこひいきです」
「露骨すぎるぜ」
「まぁ純粋に好意として受け取っておいてください。今後ともご贔屓に~」
「別にいいけど、たかがギルドの一職員にあんま期待すんなよなー」
いや、たかがギルドの一職員とは思えないからえこひいきしてるんですけどね?
まぁ、別にいいんですよ。この好意が返ってこようとこまいと。
ぶっちゃけ1個余ってただけなので、配る人がいなければ私たちで食べてただけですし。今まで知り合った中から消去法でウェダインさんが選ばれました。ユーくんとも意見は一致済みです。
そういう些事を済ませた後、ガイナスさん達と合流しました。
「そんなことをさっきしてました!」
「いや……その桃1万センカ以上の価値なんだが……」
「お金じゃ買えない価値があるんですよ、たぶん。ガイナスさん達もお金で返すとか無粋なことはしないでくださいね?」
「恩の押し売りか?」
「はい、押し売りです!」
「はいじゃないが」
「でへへ、チーちゃんって思ってたよりめちゃくちゃ良い子でよー」
「……そうだな。そういうことが裏表なく言えるのはある意味すごく良い子だな」
えへへ、私からの好意を受け取っていただいて嬉しい限りですね!
「しかし、普通の冒険者はギル専……ギルド専属冒険者を毛嫌いするものだが」
「そうなんですか?」
「ギル専の冒険者は、治安維持の為に冒険者を捕まえることが特権として認められているからな。ギルドの犬と呼んで毛嫌いする連中は多い」
ふむふむ、警察みたいなこともするんですね。そういえば私達も昨日ダンジョン出た後ギルドに強制連行されましたね。あれもそういう特権があるからやってたわけですか。抵抗したらヤバかったかもしれないですね?
「じゃあ私は問題ないですね! 捕まえられるようなことはしてませんので!(未遂)」
「……そうか。俺はどうも信用ならんが……権力者側が常に公正とは思えなくてな」
「向こうも人間でよ。何が正しいか正しくないかは人によるでよー」
「まぁ、組織とか関係なく個人的な賄賂なので」
「不正の温床か?」
「直接的な金銭のやりとりではないのでたぶん大丈夫です!」
一切不正はありませんでした。もう証拠はお腹の中ですからね。
「それに、別にこの賄賂が全く私達に見返りが無くてもいいと思ってるんですよ」
「どういうことだ?」
「だって、この世界って今大変らしいじゃないですか。魔王がなんやかんやしてて。そんな世の中だから、私の直接的な味方じゃないとしても世の中に神気の使える強い人が一人でも増えると安心できるじゃないですか」
「ふむ……何も考えてないようで色々考えてるな」
「チーちゃんってなんか視点広いよね。ボクはボクのことしか考えてなかったよ」
「ふふふ、他力本願だからこそ見える景色があるんですよ」
まぁ、それでついでに私にも見返りがあると嬉しいですけどね。いつか逮捕されるときに味方してほしいです。
「それでこれから難民キャンプに行くわけだが……少しばかり気をつけて欲しいことがある」
「なんですか?」
「向こうは……生き残ったとはいえ、心に傷を負っている。家や畑といった財産だけでなく、大切な家族の命を失った者も多い。そこは配慮してくれ」
「うん……わかったよ」
「あと、俺は彼らの前では『非情な冒険者』として徹する。心無い発言が出てしまうかもしれんが、それに対してお前達は怒ってもいい」
「どういうこと? あえて悪者になるってことなの?」
「自己防衛の為だ。甘さは付け入られる。俺は誰でも助けるお人好しではないからな」
いや、かなりお人好しだと思いますけどねガイナスさん。だからこそそういう演技が必要なんですよね?
「うちもちょっと聖女っぽさを出していくでよー」
「聖女っぽさとは……?」
「お前達に普段見せている『素』とは違う、ということだ」
「でへへ、がんばるでよー」
そんな感じで難民キャンプに向かいましたが……
なんかシャイナスさんが急にめっちゃ雰囲気変わりました。え、立ち振舞いが急にめっちゃ清楚で優雅。
私は呆けて見惚れてしまいました。それに気付いたのか、シャイナスさんが人を安心させるような穏やかな笑顔を浮かべて私に語りかけます。
「……どうかしましたか?」
「あの、シャイナスさんですよね?」
「はい。私ですよ?」
「そんな、言葉遣いも変わってっ……!?」
「すごい、本物の聖女様みたい!」
「本物の聖女だぞ。『元』だがな」
いつものにへらっとした感じが消えて、シャンとしています。それと同時に儚げで消えそうな雰囲気が漂ってます。
なんというか……めっちゃ清楚な盲目の聖女様です。オーラが違います。
と思ってたらシャイナスさんがふへーっと息を吐き出して、雰囲気が一瞬で霧散しました。
「……まぁこんな感じでいくでよー」
「あ、戻った」
「お前達の前だとすぐ素に戻るな……」
「なんかこの子らの前だと恥ずかしいでよー」
いやーホントに聖女なんですね、シャイナスさん! 面白可愛いお姉さんだと思ってました!




