Lo57.あんなヤベーの召喚して何考えてるんですかウカちゃん?
耳をつんざくような轟音が鳴り響き、大地を揺らします。
やがて砂ぼこりとともに、とてつもなく大きな怪物がその姿を現しました。
その威容はあまりにも異様で……
……え、なにこれ?(ドン引き)
「えーと、ユーくん。これ、何なんですかね……?」
「んー……ドバミミズ?」
はい。そこにいたのはよく雨上がりの道路で見かける感じのミミズでした。
ただし、冗談みたいな大きさです。
今までの混沌魔物の鹿やナメクジがミニチュアフィギュアに見えるほどの巨大さ。
一般的なミミズが大体10センチくらいですよね?
あのですね……このミミズ、全長300mくらいあります。つまり普通のミミズの3000倍の大きさです。
いや待って、長さで3000倍ってことは体積はそれよりもっとありますよね? 縦の長さが3000倍で横の太さが3000倍と仮定すると……えっと、普通のミミズの9000000倍の体積ですか? アホですか、アホの数字ですかこれ? 900万倍って。
そんな巨大ミミズが、混沌魔物の特徴である黒い魔障をたっぷり纏って出現しました。
馬鹿ですか、これ?
「いや……ナメクジの数倍強いどころじゃないでしょうこれ。大きさなら20倍以上ありますよこれ? いきなり桁がインフレしてないですか? 馬鹿ですかこれ? 馬鹿ですか?」
「うわ、チーちゃんが怯えるんじゃなくて、逆に毒舌になってるところ初めて見た」
「そんだけ衝撃的じゃったということじゃなぁ」
いやいやいや、ほんとありえないですから。私はぽかーんとミミズを見上げていました。
あれをウカちゃんは倒せると思ってるんですか、本当に?
私は妙に落ち着いた気分でユーくんに聞いてみます。
「ユーくん、アレどうにかなります?」
「うん、普通に考えると無理だよ」
「ですよね」
「ただ、さっき桃を食べてボクもパワーアップしたんだ。前より神気の量が多くなったんだよ」
「おお、それはすごいですね」
「そのパワーアップした分を考えると……」
「考えると……?」
「無理だよ!」
「ですよね!」
意見が一致した私とユーくんはいえーいとハイタッチをかわしました。
なんだか笑えてきます。恐怖心どこいった?
もうね、ギャグとしか思えないんですよ。あははー
「……で、どうするんですかこれ」
「どうしよう?」
「逃げますか? 玉砕覚悟で突っ込みますか? いや普通に考えて逃げ一択ですよね」
「うん、今回ばかりはチーちゃんに賛成かも……」
「でも、私達が逃げたところであれがダンジョンの外に出ちゃったらとんでもない被害出ますよね……」
「こうなったら出来るだけ早く逃げて、街の人に知らせた方がいいかもね」
ユーくんも珍しく慎重論です。というかこれ、ウカちゃんが召還したんですよね。本当に私達に倒せると思ってるんですか?
「なにやっとんじゃ、全く。諦めが早いやつらじゃのぅ」
「サクちゃん?」
「まぁ、そう悲観するな。ようやく儂の出番が来たのじゃからな」
サクちゃんはあの巨大ミミズを見ても全く怯えることなく、悠然と立っています。
「あれはウカノミタマが召還した混沌魔物(かおすもん)じゃろう?」
「あ、はい。そうらしいんですけど」
「あやつが気に入ったやつをみすみす危険に晒す真似はすまい。おそらく、儂がおるからアレの処理を押し付けたんじゃろうな。全くいい性格しとるわい」
「サクちゃんが……?」
「儂なら、あれを倒せる。いい機会じゃ。お主らに手本を見せてやろう」
そういうと、サクちゃんは余裕たっぷりに立ち、天に左手をかかげました。
何をするのかと思って観ていると、その小さな手に光が集まってきます。
その光はやがて形を成してサクちゃんの身の丈ほどもある大弓の形を取りました。
「え? 今どこから弓を出したの?」
「サクちゃん、その武器は一体……?」
「なんじゃ、【神装】も知らんとはのぅ」
「【神装】って?」
「神気を纏いて武装と為す。これを【神装】と呼ぶ。これぞ神気を極めし者の奥義じゃ!」
「奥義!?」
「すごい!」
つまり、神気で武器を作り出したということですか? 神気でそんなことが出来るなんて……
思っていたより何でもありなのかもしれませんね。奥が深いです。
「この大弓の名は、【白雷】。儂の【めいんうぇぽん】じゃ!」
「めんうぇぽん」
「麺の上にポン酢をかけたみたいな?」
「何言っとるんじゃお主ら。ここは感激する場面じゃろ?」
「すごい!」
「すごいです!」
「語彙力よ」
大弓は白く輝いて、先端部分に花が咲いているような装飾がしてるオシャレ弓です。
「あと、お主らがナメクジを倒したときのやつ……神気と炎の魔法の合体技じゃったか。あれは発想自体は良かったのぅ」
「わぁい」
「じゃが、まだまだ形になっとらんな。どれ、目指すべき形を見せてやろう」
そういうとサクちゃんの身体がバチバチと音を立てて光り始めました。
サクちゃんの身体を覆う光。それは神気のように見えましたが……いえ、大気が震えています。なんか違います、これ。ビリビリと来ています。
これ、エフェクト的に雷っぽいです?
「儂は雷の魔法を使える。それに神気を混ぜる。やがて神気と魔力が混ざり合い、融け合い、一体と為す。これを【渾然一体】と言う」
サクちゃんから出る雷は、雷であると同時に神気の気配がします。ユーくんがナメクジ戦でやったような、神気と魔法が完全に混ざり合ってないマーブル状ではなく、完全に一体と化しています。
「こんぜんいったい……」
「神気と魔力は本来別物。水と油の存在。ゆえに普通は混ざり合うこともないんじゃが……実は水と油も混ざることがあるのは知っとるか?」
「知ってます! つまり【乳化】ですね!!」
「……うむ、たぶんそういうやつじゃ!」
「あ、言葉としては知らなかったっぽいね」
乳化。エマルジョンともいいます。それはつまり、マヨネーズ作りの原理です。
よく分からないですけど、水と油のように本来混ざり合わないものも頑張って混ぜ混ぜしてたら混ざってなめらかになってしまいます。それを【乳化】といいます。乳……えっちですね?
実は異世界に来たらマヨネーズ作りをしようと思っていた私(テンプレですよね?)。残念ながらこの世界には既にマヨネーズがあったので、私の浅はかな考えは頓挫してたんですけど……
そうか。代わりに神気と魔力をマヨネーズのように乳化させればいいんですか! えっちちですね?
雷と神気に包まれたサクちゃんの身体が、自然にふわっと浮きます。
その右手に、光り輝く一矢が生み出されました。
その矢をゆっくりと大弓につがえました。
その姿はすごく神々しくてかっこいいです。まるで、神様のようです。
「チーちゃん! ミミズがこっちに気付いたよ!!」
「えっ……へ!?」
ただならぬ気配にミミズも感づいたのか、こちらを向きました。
次の瞬間、ミミズがとんでもないスピードで伸縮して、こちらに迫ってきました。
「うひゃあ! 来る!?」
「チーちゃん!」
ユーくんが咄嗟に私を抱えて跳びました。
とてつもない轟音と衝撃が響き、大量の砂ぼこりが巻き上がります。
ミミズはこちらには眼中なくサクちゃんを狙っての突進でしたが、そのついでみたいに私達にも衝突するところでした。
ユーくんが避けてくれなかったら危なかったです!
「……あれ? サクちゃんは!?」
「あそこだよ!」
ユーくんが指を差した方向を見ると、天高く舞い上がったサクちゃんが弓をつがえていました。
な、なんか輝いています。あたりはミミズの黒い魔障で空気が澱んでいましたが、そこだけ魔障が晴れていて青い空をバックに後光が差しています!
「出てきたばかりで悪いがミミズよ、これで終いじゃ! 【天穿つ神鳴りの矢】!!」
限界まで引き絞られた弓から、白く輝く矢が放たれました。
その矢はまるで雷のような速さと威力で、巨大なミミズの胴の真ん中に直撃しました。
ミミズを覆っていた大量の魔瘴をいともたやすく切り裂き、その肉を穿ちます。
やがて、巨木よりも尚も太いその胴を真っ二つに割りました。
そして大地が割れ、凄まじい衝撃が私達を襲います!
「うひゃあああ!? 揺れる、揺れるーーー!!」
「チーちゃん、掴まってて!!」
「はひぃぃぃぃ!!」
私がユーくんにつかまってなんとか踏ん張っていると、衝撃がやんで落ち着きました。
気が付くと空一面が晴れており、清々しい景色です。(ダンジョンの中で空が晴れてるっていうのも不思議ですが)
真っ二つになったミミズは少しだけそのまま動いてましたが、やがて真っ二つになったところから巡った神気がその体を全て覆うと完全に動かなくなり、絶命しました。
「一撃で……終わっちゃった……」
「かつてない強敵になるはずだった超巨大ミミズさん、完全に出オチでしたね……」
気が付くと空からふわりとサクちゃんが下りてきてました。
そしてドヤ顔で私達に言いました。
「どうじゃ? カッコよかったじゃろ?」
「すごい!」
「すごかったです!!」
「じゃから語彙力よ」
私たちは語彙力を完全に失ってましたが、すごいということは分かったのですごかったです!




