Lo56.一玉2000円の桃を食べたことありますか?私はありません。
ダンジョン内で唐突に拉致されて宇迦之御魂神(通称ウカちゃん)の神域に入った私。期待していたようなパワーアップイベントはありませんでしたし、ウカちゃんとは雑談しただけでしたが色々な情報が得られました。
重要なのは主に3つですね。
①神様はこの世界にあんまり干渉しない(できない?)
②この世界が滅びかけてるのはガチっぽいこと
③アワシマ様に会うにはクソみたいなダンジョンに潜る必要があること
④アワシマ様が本当はロリじゃないかもしれないこと
⑤アワシマ様がウカちゃんの叔母なこと
⑥アワシマ様が赤ちゃんなこと
3つどころじゃありませんでしたね。何故か全く登場していないアワシマ様の属性が増えてしまいましたが、まぁ悪くない結果でしょう。
それはともかく、元いた場所に帰ってきた私。突然いなくなったので、めちゃくちゃ心配されてると思ってましたが……なんかユーくんとサクちゃんは呑気に桃をもぐもぐ食べてました。
「……あるぇ?」
「あ、起きたー」
「よう寝とったのぅ」
え、寝てたんですか私? じゃあ突然消えた私を心配して探してるってことはなかったんですね?
「えーと、どういう状況ですかね?」
「なんかチーちゃんはパーっと光ったと思ったら、すとんと寝始めたんだよね」
「あるぇ? 神域に転移したのでは……?」
「ん? 気持ち良さそうに寝てたよ?」
あー、私は転移したと思ってたんですけど、はた目には寝てたんですね。
……え、もしかしてさっきまでのやりとり全部夢オチですか!?
「私は確かに神様に会ってたはずなんですけど……?」
「神様って?」
「ウカちゃんっていうキツネ耳で割烹着の神様です」
「割烹着……? それって神様なの?」
すると、私の話を聞いたサクちゃんが納得したように頷きました。
「なるほどのぅ、ウカノミタマに会って来たんじゃな」
「サクちゃんには分かるんですか?」
「ふっふっふ、儂を誰じゃと思っとる!」
「……えと、まだ正体明かしてませんでしたよねサクちゃん」
「そうじゃったわ。儂の正体はまだ秘密じゃった」
「まだ秘密を引き延ばすつもりですか!?」
どうやらサクちゃんはまだ自分の正体を言うつもりは無いようです。まぁなんか色々と知ってるし、たぶん結構重要っぽい人物なんでしょう。幼女ですし。角生えてますし。
「ダンジョンの奥深くになるほど【神域】に近くなるからのぅ。まぁ、こんな浅い階層であやつに会うのも珍しいが……」
ほー、深ければ深いほど神様に会いやすいんですか。そういえばウカちゃんもなんか駄目元でやったとか言ってましたよね。
「よく分かんないんだけど、チーちゃんは寝てる間に神様に会ってたってこと?」
「たぶんそんな感じです? 見た目、寝てたかもしれませんが」
「えー、いいなぁ。戦ったの?」
「いや戦ってないですよ!? というかなんで戦うんですか!? 相手神様ですよ!?」
「戦わないと本当に神様か分からないでしょ?」
「そこは信じましょうよ! ケモ耳で割烹着だったしどこからどう見ても間違いなく神様ですよ!!」
「えと、その姿のどこで神様と思ったの?」
……確かに、今思い出したら神様を名乗ってるだけのぶいちゅーばーだった気もしてきました。
本当に配信とかやってないんでしょうか? いい声なのに。
「一応言っとくが、ウカノミタマはあんななりでも日本の神の中じゃと最強格じゃからな」
「え、最強格なんですかあの人? なんか狐耳のノリの良いお姉さんでしたけど……」
「ぶっちゃけ日本じゃ豊穣神の方が武神や軍神よりよっぽど強いからのぅ。スサノオより強いんじゃないかあやつ」
えっ、ウカちゃんってそんなに強かったんですか!?
というか豊穣神の方が強いとか不思議ですね。たぶん日本人が農耕民族だからですかね……?
ちなみにここで名前が出ている【スサノオ】とかいうのは日本神話でも有名な神様です。アマテラス・ツクヨミ・スサノオの三姉弟は日本の神様たちの中でも最も偉い神様で、「三貴子」と呼ばれています。そのスサノオは最も武勇に優れる神様なんですけど、それより強いっていうのは何か私の知らない神様の序列や強さがあるんですかね?
「たまにダンジョンの深層で狐耳の女にエンカウントした冒険者たちが手も足も出ずにボコられたって報告が各地に残っとるのぅ」
「この世界の冒険者の人たちって神様と戦うのがデフォの対応なんですか!?」
「冒険者ってそういうもんじゃろ。珍しい魔物じゃから倒したらなんかレアドロップでも落とすと思っとるんじゃないか?」
「ウカちゃんって魔物扱いなんですか!? いくら冒険者だからって冒険しすぎですよ!?」
冒険者ってどうやら蛮族スタイルが基本みたいです。最初に会ったのが穏やかスタイルのシャイナスさん達で本当に良かったですね。
そうやって話してると、ユーくんが切った桃を差し出してきました。
「チーちゃんも桃食べる?」
「あ、そういえばさっきから食べてる桃はなんですか?」
「なんか宝箱に入ってたよ。ドロップ品かなぁ」
「宝箱に!?」
そういってユーくんは桃を箱ごと持ってきました。
はい、どう見てもダンボール箱です。
箱には『岡山県産』『清水白桃』『等級:ロイヤル』『12個入り』『24000円』とか書いてあります。
「これ岡山県産のブランド桃じゃないですか!? というか12個入りで24000円ってたっか!?」
「おかやまけん?」
「伝説の聖地岡山県か……いつか行ってみたいのぅ」
「伝説の聖地なんですか!? これ私の世界で普通に売ってるやつですけど!?」
なんだかツッコミどころ満載のドロップ品が出てきました。え、ダンジョンの宝箱ってこういうの出てくるんですか?
「あっちじゃ普通に売っとるやつか。これダンジョンの宝箱の中じゃ超大当たりの激レア品で、こっちで売ったら軽く10万センカ以上はするんじゃがのぅ」
「そんなにするんですか!? 確か混沌魔物の鹿の魔石がそのくらいでしたよね!?」
この世界の貨幣レートは1センカ=100円くらいの価値です。たぶん。
10万センカは日本円だと1000万円くらいの価値です。この桃にそんな価値が!?
「この世界じゃ桃は育たんからのぅ。こういうダンジョンからドロップするしか入手方法が無いんじゃ」
「そんな価値が高いものを簡単に食べて良いんですか!?」
「だって、普通は食べれないよ?」
「いくら金積んだって食べれんこともあるし、食わなきゃ損じゃろ。自力ドロップしたから実質タダじゃ」
「……そう言われてみるとそうかもしれませんね」
「チーちゃんも遠慮せずに食べていいからね?」
「たべます!」
まぁ、良く分かんないですけど食べてもいいらしいので食べてもいいんでしょう! というか12個入り24000円の桃って……1つ2000円ですか? こんな高級な桃、現世で一度も食べたこと無いんですけど。
桃は表面にシミ1つなく神々しいまでに白くて輝いています。カットしたら桃の甘い香りがブワッと広がって、脳がとろんとしちゃいます。う、美しい……芸術品ですよクォレハ……
こ、これが岡山のブランド品の超高級な桃ですか。というか【等級:ロイヤル】ってなんですか? 王族が食べる桃ですかこれ?
「はい、あーん」
「あーん」
「何やっとるんじゃお主ら」
何故かユーくんが桃を私の口まで運んでくれたので、有りがたくいただきます。幼女にあーん♪されるとかご褒美すぎるでしょう?
ぱくっと食べた瞬間、みずみずしい桃のエキスが口内であふれました。
「うまっ!? な、なんですかこれ!? 美味しさの上限突破してますよ!! 缶づめのシロップ桃とは全く違う食べ物です!! 神々の食べ物ですか!?」
「おいしいよね!」
「さすが伝説の聖地、岡山県の桃じゃな」
その桃はあまりにも美味しくて、今まで食ってきた桃がカスみたいに思えてきました。これが1個2000円の桃の威力……異世界だと1箱1000万円の価値……しゅごい……
幸せを噛み締めてると、なんか身体の中からブワッと力が溢れてきました。
「ほわぁ、なんですかこれ? なんかエネルギーが満ちてきてるんですけど、何が起こってるんですかこれ?」
「古来から桃は魔を払う聖なる果実と云われておる。つまり……桃を食うと神気がぱわーあっぷするんじゃ!」
「岡山県産の桃にそんな効果が!?」
神域でパワーアップイベントが無いと思ったら、こっちにあったんですか!?
なんか身体の中からピーチのぱわーがあふれています。うぉォン、今の私は桃太郎です!
鬼退治でも何でもばっちこいですね!
……はて、なにか忘れているような……?
ずおおおおおおん
突然轟音が鳴り響き、大地が揺れました。
「な、急になんですか!?」
「チーちゃん! なにかくるよ! 気をつけて!!」
とてつもなく巨大な何かが大地に影を落としました。
うわぁ……そういえば、今思い出しました。
「あのー、ユーくん? 実はですね……さっき神様が混沌魔物を召還するって言ってました。なんかナメクジより数倍強いやつ……」
「え、そうなの?」
「すみません、忘れてて……」
「結構重要なことなのに何で忘れるんかのぅちぃ子は」
サクちゃんがあきれたような声をあげます。すみません、忘れてて……桃が美味しかったので……
私も一玉2000円の桃は食べたことないです……




