27.少女の亡骸に誓う小さな勇者
日が暮れて、すっかり夜になりました。
シャイナスさんとガイナスさんの冒険者兄妹と出会った私たちは、村から出てちょっと離れたところで焚き火をしています。
そこには二人が乗ってきたと思われる1頭立ての馬車があり、テントも設営してました。
私たちは、二人のご厚意でお招きされています。
「お二人はどこから来たんですか?」
「この村から街道を西に渡ったところに少し大きな街がある。俺たちはそこから来た」
「きみらーは……そいえば名前聞いとらんかったねー。なんてゆーの?」
「ユージアだよ! 勇者を目指してるよ!」
「私はチーちゃんです! そこらへんから生えてきました!」
「色々とツッコミどころがあるが」
「ほえー。かわいい子と美人のお姉さんでねぇ」
え、どっちが可愛い子でどっちが美人さんなんですか?
「俺には少年と獣人の女の子に見えるが……」
「え、どうみてもかわいい女の子とちょっと陰のある美人のお姉さんでよー」
ん、んん? 今私の方を見て美人のお姉さんって言いました? え、なんです? 何が見えてるんですか?(困惑)
「ああ、すまないな。事情が分からないだろうから説明するが、こいつは実は目が見えてないんだ」
「目は飾りでよー」
そう言ってシャイナスさんはにへらと笑います。いやこの人……よく見たら最初から目を閉じたまま喋ってます! てっきりめちゃくちゃ細目の人かと思いましたけど、完全に目を閉じてますよ!
「じゃあ、今も何も見えてないってことですか?」
「うんにゃ。目が見えない代わりに色んなものが見えてるでよー。うちが見てるのは、きみらーの魂の姿。実際とはちょいと違うこともあるでよー」
「魂の姿ですと!?」
魂の姿が見えてるとは。つまりその……彼女には私の前世の姿が見えてるってことですか!?
「あーでも、お姉さんに見えたけどちょっと子どもっぽくも見えるねぇ。どっちかねー?」
「そ、それって私のことですか……?」
「どう見ても子どもだが……」
「まあいいでよー」
いいんだ!? え、じゃあこの話題は深掘りせずに流しましょう!!
あとさっき私のことを美人のお姉さんみたいに言ってた気もしますけど気のせいですね! 前世でそんなこと言われたことないですし!!
「で、きみらーはどこの子? この村の子だったりするー?」
「ううん。ボクはあっちの山から来たんだ!」
「あっちは……カミカクシの森か。あそこに人が住んでいたとはな」
カミカクシの森……? あ、『神隠しの森』ですか!
「あそこ、そういう名前の森だったんですね」
「森に入ると迷子になって帰れなくなるやつが多くてな。そう呼ばれるようになったらしい」
「そんなところだったんですか」
「知らなかったー!」
うん、ユーくんは知っておいてほしかった。でもあの森ではユーくんとユナさんがいつも一緒いたから特に迷うこともなかったですね。一人になった瞬間に遭難しそうですが。
「2人はあの村でどうしとったん?」
「ボクたちは冒険に出てるんだ。これから魔王を倒しに行くの!」
「その旅の途中でこの村に寄ったんですよ」
「おー、だから勇者名乗ってるのねぇ」
シャイナスさんはユーくんの勇者宣言を否定することなく普通に受け止めました。
「あの、普通に受け止めてますけど、もしかして勇者を名乗って魔王退治に行く人って結構いるんですか?」
「んー、実際行動に移す人は少ないでよー。でも、憧れみたいなものは否定するもんじゃないねぇ」
なんかめちゃくちゃいい人です。冒険者の酒場とかではモヒカンみたいなモブに笑い飛ばされると思ってました。
「それにうちの兄ちゃとまともに撃ち合うなんて、将来有望でよー」
「ああ、ユージア少年は本当に勇者になるかもな」
「そ、そうかなぁ? えへへ」
ユーくんは褒められて照れてます。しかしお兄さんの方はユーくんのことを少年だと思ってますね?
「お二人はどうしてここにいるんですか?」
「依頼でよー」
「依頼?」
「……少し前に、この国を未曾有の危機が襲ったことを知っているか?」
「みぞーの危機……ですか?」
「ぜんぜんしらない」
もちろん私も初耳です。全然知りません。未曾有の危機とは一体?
「【大侵攻】と言ってな。大陸から海を渡って100体以上の混沌魔物が押し寄せてきたんだ。混沌魔物は1体だけでも街が滅びるほどの脅威。倒せる者は極少数の者のみだ。無論、100体以上現れたら大半の国はひとたまりもないだろう。
それが起きたのが、つい半月ほど前の出来事だ」
「そんなことが起きてたの!?」
「こんなことは普通は起きない。おそらく、魔王と呼ばれる存在の仕業だろうな」
「魔王……」
魔王、ユーくんと私が倒すべき相手のことです。アワシマ様が言ってたように、この世界は本当に危機的状態にあるのかもしれません。
「まぁ、この国で一番えらーくてつよーい人が出てきて全軍総出で叩いたから、ほとんど倒してるんだけどねぇ」
おお、この国のえらくてつよい人すごい!
あの1体でもヤバそうな混沌魔物を100体以上なんとかしてしまうとは!!
まぁ、よく知らないんですけど!!
「だが、そういった群れの中では必ずと言っていいほど他とは違う行動を取るはぐれ者が出てくる。戦力を集中することで国は守ったが、別ルートで来た少数の混沌魔物に上陸を許してしまった。その1体がこの村に来てたというわけだ」
「うちらはそれを倒しにきたんでよー」
「え、じゃあ村の中央で倒れてたのって……?」
「うちらがガツーンと倒したでよー」
そういって得意気にメイスを振り上げるシャイナスさん。あの鹿についてた打撃と斬撃のあとって、この二人が物理で倒したってことなんですか!?
シャイナスさんがメイスでボコボコに殴り、ガイナスさんが剣で斬った……そういうことですか!?
私の異世界初のトラウマモンスターをそんな簡単に……!
見るからに前衛のガイナスさんはともかく、女神官みたいな格好のシャイナスさんも結構肉体派なんですね?
「お二人とも、強いんですね」
「でへへ、照れるでよー」
「まぁ、俺たちもこれで飯を食ってるからな」
「それよりもうちらの方が驚いたでよー。ちょっと村の外で野営の準備しとったら村の中から光の柱みたいなのが見えるんでよー。あれしたのきみーら?」
「あれはチーちゃんだよ!」
「あ、はい。私です」
私はおずおずと手を上げました。うん、そりゃびっくりしますよね。突然光の柱が立ったら。
「あーきみかー。なるほどねぇ。びっくりしたから、こっちもあわてて村の中に行ってねぇ」
「その様子を見に来た俺をリビングアーマーだと間違えたというわけだ」
「ごめんなさい! 魔物図鑑に載ってた姿そのまんまで、あんな人間いると思わなかったから……」
ふむふむ、魔物図鑑に載ってたまんまですか。確かにそういう目で見ればそう見えますが……うーん、ユーくんが自信満々に「リビングアーマーだ」って言うから私もてっきりそう思ってしまいましたが、改めて見ると……別にファンタジーによくある騎士さんの鎧に見えます。
「えと、ユーくん? もしかして【全身鎧】のこと自体知らない感じですか?」
「ふるあーまーって? え、もしかしてこういう服なの?」
「はい。そんな感じのブランドものです」
「武装をそんな流行りのブランドみたいに言われてもな……」
「あははー面白い子たちでよー」
そういえばユーくんはまだ世間知らずの10歳児でした。こういうものを着る人間自体を知らず、魔物だと勘違いしてしまったようです。
「あの、ところでガイナスさんは兜を外さないんですか? お顔が見えないんですけど……」
「顔に酷い傷を負っててな。あまり人に見せたくない」
「そうだったんですか……すみません。失礼なことを言ってしまって……」
「気にしないでいいでよー。兄ちゃはガイナスって名前なのにうちよりシャイなんす。なんつってあははー」
「そのネタ気に入ってるのお前だけだからな」
ボケ(妹)とツッコミ(兄)。なかなか掛け合いの小気味よい、ユーモアのある兄妹ですね。ですが、目の見えない妹と顔に傷を負った兄とは……色々と過去に何かあった感がありますが……
「そういえばお二人、兄妹なのに口調が全然違いますね?」
「あー、これねー。実は兄ちゃは冒険者になる前は都会でナイトやっとってねぇ。言葉遣いもそこで直されたでよー」
「まぁそうだが……そういうお前は神殿務めだったのに全然矯正されてないな?」
「あはは、まぁ二級聖女だったしそんな偉くなかったからねぇ」
ナイトと二級聖女!? また新しい設定が出てきましたよ!
「お二人の話面白いです! もっと色々聞かせてください!!」
「うん、ボクも聞きたい!」
「お、照れるねぇ? うちもきみらーと話すのたのしいでよー」
シャイナスさんは終始ニッコニコで話してて、とっても雰囲気が良いです。こんな素敵な人と出会えるなんて、私の人生の運何回分使い果たしてるんですか?
「ところで……話の腰を折って悪いが、あの子はどうするんだ?」
「あー、ココッテちゃんですか……」
ガイナスさんが言ったのは、村の中でさっきまでゾンビだったココッテちゃんのことでした。その死体がすぐそこに横たわってます。
「すみません。ユーくんの友達だった子なので、魔物に食べさせるのがしのびなくて……連れて来ちゃいました。迷惑でしたか?」
「そうか……つらかったな」
「そういうことなら全然迷惑でないから気にしなくていいでよー」
二人とも優しいです。普通なら死体と一緒なんて嫌がってもおかしくないのに。
「出来れば、どこかできちんと埋葬させてあげたいですね……ココッテちゃん」
「うん、そうだね……」
「二人とも良い子だねぇ……」
「そうだな……死んだ魂も浮かばれるだろう」
「うちも元二級聖女。この子の為に祈るでよ。『汝、健やかに神の元に逝かんことを』……」
シャイナスさんが祈ると、キラキラと天から光が降り注ぎました。神秘的な光景です。これは……奇跡でしょうか? いや、私のやってる神気による浄化と似た感じがします。聖女とは一体……? 心なしか清らかになった空気の中で、ココッテちゃんは安らかな顔で眠りについています。
「そういえば、この子の親とかは見かけなかったか?」
「ううん、見なかった」
「食われたか……もしくは助かったか、分からんな」
「街の方にいるかもねぇ」
「え、助かった人いるんですか!?」
「いるいる。なんせうちらその人らから依頼を受けてここにいるんだもの。街の方では少なくとも半分くらいは避難できたって聞いてるでよー」
「どおりで……死体が少ないとおもったぁ」
「全滅じゃなかったんですね……少し安心しました」
不幸中の幸いというべきでしょうか。なんとこの惨状から助かった人がいるみたいです。
「街の方にいけばこの子の親がいるかもしれんな……依頼にはないが、連れて帰るか」
「うん、そうした方がいいでよ。たとえ死んだとしても一目会わせてあげたいからねぇ」
「……良いの?」
「そりゃ村の人全員の遺体は無理だけどねぇ。うちらは馬車で来たし、この子一人くらい運ぶならなんとも無いでよー」
「腐食も不思議なほど少ないし、匂いもあまりしないからな。言っちゃ悪いが、あまりに酷い状態だったなら流石に運ぶのは拒否している」
「だれかが熱心に浄化してくれたからかもねぇ」
「そうなんですか……無駄かと思いましたけど、少しでもこの子の為になって良かったです」
痛ましい出来事でしたが、多少の救いはありました。ユーくんも、ココッテちゃんに声をかけます。
「……ココッテちゃん。ボク、勇者になるね。二度とこんなことが起きないように、魔王を倒してくるよ」
小さな勇者は、亡くなった友達の前でそう誓ったのでした。




