Lo26.女の子ゾンビとリビングアーマーが襲いかかってきました
村を進んでいきましたが、相変わらず魔物は出てきます。犬とか猿とかの獣が奇形になったものが多いですね。森が近いからでしょうか?
大体ユーくんが片付けてくれるんですけど。はい、私は浄化頑張りますね……
一応、ユーくんも神気は習得したので使えるんですけど、私より量は少ないらしくて剣に込めて2~3回くらいしか使えないらしいです。
一方私は今のところ、神気の消費に困ったことはありませんね。今もずっと自分の周りに浄化フィールドを展開してますけど、こうやって常時垂れ流しても平気です。
たぶんこれは、神様がこの身体を作ってくれた影響だと思ってます。神様が作った身体なので、神気がたくさん出るのも納得です。わぁ、チートです。
というわけで、非戦闘要員のひよわなチーちゃんは、戦闘で貢献できない代わりに自分の得意な浄化でがんばってます。良かった、役立たずじゃなくて。アワシマ様に感謝せねば
そんな感じで村の中を進んでいると、瘴気の中でなにかがゆっくりと歩いてるのが見えました。
魔物か? と思いましたけど、今までの魔物は私たちが近づくとみんな襲いかかってきました。
だけど、今見えてるそれはユラユラと歩いてるだけです。
「あれ……魔物ですかね?」
「……ううん、あれヒトだよ!」
「え、そうなんですか!?」
よく見たら魔瘴の中でヒトみたいな影が見えます。ゆらゆら歩いてるようです。背丈は大分小さい……子どもでしょうか?
「おーい! だいじょうぶー!?」
「あ、ユーくん! 一人で飛び出しちゃ……えっ…!?」
ユーくんが駆け寄ると、人影がこちらにクルンと振り向きました。
小さい女の子でした。簡素なワンピースを着た青い髪の女の子です。年齢は8歳くらいでしょうか?
ただ、お腹が獣にかじられたように穴が空いていて中から内臓が出ています。
濃い魔瘴が身体を覆っていて、明らかに血の気が通っていない肌なのに何故か動いてました。
死体が動いてる……これって……
ユーくんが剣を抜き、バックステップで下がりました。
「ユーくん、あれってもしかしてゾンビ……?」
「……ココッテちゃんだ」
ユーくんはそう呟き、剣を構えたまま動きませんでした。
……声が震えています。知り合いでしょうか?
だけど、ユーくんが動けなくても状況は待ってくれませんでした。先ほどまでゆらゆら歩いていただけの幼いゾンビは、こちらを見ると襲いかかってきました!
もはやその目に理性の光は感じられません。ただ、生者を憎むような強烈な殺意を感じました。
「ひっ、浄化バリアー!!」
私は近寄ってくる小さなゾンビに恐れをなして、神気の浄化オーラを壁のように押し出しました。
光の奔流がゾンビを包みます。
光が収まったとき、ゾンビは力を失った人形のようにこてんと倒れました。
「ココッテちゃん……」
ユーくんが倒れたゾンビに近寄りました。剣をおろし、そっとその頭に触れます。彼女はもう、動きませんでした。
「し、死んだのですか……?」
「うん、たぶん……」
「そんな……今まで私の浄化で死んだ魔物なんていなかったのに……」
混沌魔物に浄化をすると、魔瘴が消えて倒しやすくはなりましたけど死にはしませんでした。
普通の魔物もそうです。浄化のオーラに包むとなんか弱くなったような気がしますが、死ぬほどのことはありませんでした。
今回もそうです。ゾンビの身体を魔瘴が覆ってたからとっさにやっただけで、倒そうなんて思ってませんでした。
「……たぶん、アンデッドだからだと思う。元々死んでたから、だよ……」
「そんな……私がトドメを差してしまったんですか……?」
「チーちゃんは悪くないよ……」
ユーくんが小さな死体に手を伸ばして触れます。腐食している部分はありますけど浄化の影響か、不思議と臭くはなかったです。
髪をかきあげると、安らかな寝顔が見えました。
「ココッテちゃんって言ってね。この子とは村に来たときよく遊んだんだ……」
「友達……ですか?」
「うん……」
「そんな……そんなことって……」
私も駆け寄ってココッテちゃんに触れます。体温は感じません。もうピクリとも動きません。
うぅ……こんなことあっていいはずが無いです。こんな小さな女の子が死んでるなんて。
私は神気を高めました。
「チーちゃん、何をする気なの?」
「……蘇生を試みてみます」
「もう死んでるんだよ?」
「やってみなくちゃわかりません!」
ユーくんがラグナディアにやられて倒れてたときも同じような絶望感を感じました。あのとき、ユーくんの心臓は完全に止まって身体も段々と冷たくなっていきました。
あのときのユーくんは完全に死んでいる状態から蘇生したんです。
だから……
私はあのときのように、ありったけの神気を込めてココッテちゃんに送り込みます。
ココッテちゃんの身体が光に包まれました。
こんな小さい女の子が死んでいいはずないです! ユーくんの友達が死んで、ユーくんが悲しむのもイヤです!
ゾンビでも何でもいいので、蘇ってください!!!
ありったけの神気を放出すると、光の柱が立ちました。空の果てまで届くような、光の柱です。
でも、それだけの光に包まれても……
ココッテちゃんはピクリとも動きませんでした。
ユーくんのときはすぐ蘇生したのが功を奏したのでしょう。でもココッテちゃんは死んでから、あまりにも時間が経ちすぎていました。
「うう……そんな……」
「チーちゃん、もういいよ……」
「あんまりです……こんなの……」
「ありがとう、チーちゃん」
いつの間にか涙が溢れてました。この世界はこんな小さな子どもに対しても過酷で残酷で、私はあまりにも無力です。私は今さらそのことを思い知りました。
私は涙をぬぐい、立ち上がりました。
「……一旦、村から出ましょう。今の神気で魔物を刺激してしまったかもしれません」
「ココッテちゃんはどうしよう?」
「安全なところに連れていきましょう。このまま魔物の餌になるのもしのびないです。悪いですけど、運んでくれますか?」
「うん、わかった」
ユーくんがココッテちゃんを持ち上げて背負おうとすると、どこからかガチャリと金属音が響きました。
「チーちゃん!」
ユーくんが警戒して剣を構えました。すぐそばに、成人男性ほどの大きさの全身鎧が動いてました。
「リビングアーマーだよ! 下がって!!」
「は、はい!」
どうしてここまで近づかれるのに気付かなかったのか? ココッテちゃんのことに気を取られすぎてたのかもしれません。ここはもう敵地です。油断しちゃ駄目でした。
ユーくんが前に出て、リビングアーマーに斬りかかります。
ガキィン! と金属音が響きました。なんと、ユーくんの攻撃をリビングアーマーは大きな盾で防いでいます。ユーくんは反撃を食らわないようにすぐに下がりました。
今までほとんどの魔物を一撃で仕留めてきたユーくんの攻撃が通用しないなんて……強敵です!
「ユーくん! リビングアーマーってアンデッドですか!?」
「たぶん!」
「じゃあもしかしたらこれが効くかもしれません!」
私は神気をお父さん棒に込めます。先端に浄化の光が集まりました。そのまま、光の玉を大砲のように撃ち出します!
私の必殺技、【ピュリファイ・エクスプロージョン】!! 本日2回目です!!!
リビングアーマーは盾で光の玉を防ぎましたが、残念ながらその光は爆発します!
次の瞬間、爆発的な光の奔流がリビングアーマーを包み込みました!
アンデッドなら、ココッテちゃんのようにこれで動けなくなるはずです!!
しかし……
ガチャリと金属音が響きました。これはリビングアーマーが倒れた音ではありません。リビングアーマーは何の問題もなく、普通に動いています。
そして大きな盾で防ぐ構えを解き、悠然と歩き出しました。
「効いてない……ってことは、アンデッドじゃなくてもしかしてゴーレムとかそのへんなんですか!?」
「よく分かんないけど、なんか強そうだよ!」
ゴーレムはアンデッドとはたぶん別ジャンルなので納得です。いや、今までゴーレムに会ったことないから分かんないですけど!
「ちょっと本気出すね。勝てるか分からないけど……」
ユーくんがそんなことを言うとは……そんなに強いんですか……!?
ユーくんが剣を正面に構えます。強い火の魔力が、ユーくんの【魔剣ユナ・ブレード】にたぎっています。
これは必殺技を放つ兆候です。修行中にさんざん森を焼いて山火事を起こしたアレです。
リビングアーマーはピタリと止まって盾を構えました。受け止める気です。
「いくよ!」
ユーくんが剣を振り上げました。すると、突然ユーくんとリビングアーマーの間に人影が入り込みました!
「すとっぷ!! すとおおーーーっぷ!!!」
人影が叫びました。女性の声です。ユーくんがピタリと止まりました。
「あ、危ないですよ! リビングアーマーが!!……ってあれ?」
私が叫ぶと、リビングアーマーは盾をおろして静観してました。襲ってくる兆候は見られません。
「ふぃーあぶなかったでよー」
飛び込んできた女の人が言いました。ブロンドヘアのロングヘアーを緩く束ねてる、ちょっと背が高めの女の人です。女神官みたいなローブを着て、大きなメイスをかついでいます。
「え、なんですか?」
「どういうこと?」
「あ、分かりました。おねえさん、あのリビングアーマーの主人ですか?」
リビングアーマーがアンデッドじゃなくて錬金術のゴーレムだとしたら、使役者がいるのも当たり前です。このお姉さんは女神官みたいな格好をしてますが、錬金術士なのかもしれません。
「違うってぇ。この鎧の人は人間でよー」
「えっ……!?」
ユーくんがリビングアーマーだって言うからてっきりそうだと思ってましたけど……
「紛らわしくてすまなかったな」
リビングアーマーの人が言いました。男の人の声です。
「俺たちは冒険者だ。依頼でこの村にやってきた」
「冒険者……!?」
リビングアーマーの人は冒険者を名乗りました。いや、リビングアーマーじゃないんでした。鎧の人ですね。
今度は割り込んできた女の人が名乗ります。
「えへへ、うちの名前はシャイナス。こっちの鎧は兄ちゃはガイナス。うちら兄妹で冒険者やってるでよー」
「シャイナスさんとガイナスさん……」
「ナス兄妹とか呼ばれてるでよー。よろしくでよー」
「いや、別に呼ばれてないが……」
どこか方言みを感じる口調で喋る女の人がニッコリと微笑みました。めちゃくちゃ美人って印象じゃないですけど、おっとりとした少女です。あまり飾り立ててない、ちょっと素朴なところも可愛らしいですね。
全身鎧のガイナスさんは顔は見えませんけどちょっと渋みのある低音ボイスです。なんかかっこよく見えてきました。
シャイナスさんとガイナスさんの冒険者兄妹。これがこの世界でユーくん達以外では初めて会った人間でした。




