Lo25.滅びた村を探索です!
私たちが森を出て最初に着いた村は魔瘴で覆われていました。
元はあたりには麦畑が広がり、人の居住部は木で出来た柵に囲まれている牧歌的な農村だったと思われます。
それが今は畑は荒らされて、木の柵がバラバラになり、村の中からは黒い瘴気がうずまいています。
離れたここからでも灰色の嫌な空気が頬を撫でます。
「そんな……どうして……」
ユーくんは村を見て言葉を失っています。この村にはよく来ると言っていました。変わり果てた村を見て、ショックを受けてるのでしょう。
ですが、立ち尽くしてはいられません。村の中はどういう状況なのかまるで分からないのですから。
「……村の中に入りましょう。状況を確認しなければなりません。私は魔瘴を浄化をしながら行くので、守りの方はお願いします」
「……うん、わかった」
ユーくんは素直に従ってくれました。良い子です。
私も正直、あまりこういう状況は得意じゃないですけど不思議と落ち着いてます。
……まだ実感が湧いてないだけかもしれません。この世界のことをゲームか何かだと思っているのかも。
でも、今はそれをプラスに捉えておきましょう。冷静を保てるなら問題は無いです。悲壮になって動けなくなるより全然いいので。
「チーちゃん、一気に浄化とか出来ないの?」
ユーくんが提案してきます。柵の外の広大な畑部分を除くと、村の大きさはそこまで大きくなさそうに見えます。柵で囲われてる部分は1km四方くらいでしょうか。
半分くらいなら、いけなくもなさそうです。ですが……
「うーん、考えなしに浄化すると何が起こるか分かりませんね……」
「そうなの?」
「中にもし混沌魔物がいたら、刺激してしまうかもしれません。ここは慎重に行きましょう」
ぶわっと私は身体から神気を出しました。そのまま私を中心に5mほどの浄化フィールドを展開します。
「この状態で突入しましょう。ユーくんは私の周りにいてくださいね」
「うん、分かった」
しかし、魔瘴のせいで視界はあまりよくないですね。霧の日に車を運転したときを思い出しました。あれは経験した人なら分かるかもですけど、濃い霧って本当に視界が悪すぎて怖いんですよね。一寸先も闇というか。
「……そういえば、この視界の悪さで思い出したことが1つあります」
「なに?」
「私のいた世界の昔話ですけど、敵のいない無人島に上陸した兵士たちが何故か100人近い死者を出して敗北したって話がありまして」
「ん?なにかその島に魔物でもいたの?」
「魔物はいませんでした。ただ、霧が深くて周りがよく見えなかったので、味方を敵だと誤認して同士討ちしたそうです。犠牲者は、全て同士討ちによるものでした」
「そんなことがあるんだ……」
たしか第二次世界大戦中に起きたコテージ作戦ってやつでしたね。はい、ネットで得た雑学を披露するのが趣味なので、余計なことを色々知ってるチーちゃんです。リアルだと親くらいにしか言わないんですけど。
「だから、もしかしたらこの村にもまだ生き残りがいる可能性もあります。誤認しないようにしっかり確認しながら行きましょう」
「生き残りが……うん、わかった!」
よかった。私が生き残りの可能性を口にしたことで、ユーくんに少し元気が出てきました。本当に生き残りがいるかどうかは分かりませんけど……希望は捨てるべきではありませんよね?
壊れた柵を越えて村の中に進んでいくと、いきなり凶悪な面構えをした野犬みたいなやつとハゲタカみたいなやつがいました。
「い、いきなり魔物ですか……!?」
こちらに気付くといきなり襲いかかってきました! 心構えはしてたはずなのですが、とっさのことで動けません。
「ひえっ」
「大丈夫だよ!」
ザシュッ!
ユーくんが自分の背丈ほどある大剣【魔剣ユナ・ブレード】を振るい、野犬とハゲタカを斬り捨てました。
た、頼りになる~……さっき大人ぶって色々忠告めいたこと言いましたけど、絶対私一人じゃ死んでますねコレ……チーちゃんは浄化するだけの置物です……
「チーちゃん、これ……」
「うひぃっ」
人の死体です。村人と思われる死体が地面を転がっています。先ほどの野犬とハゲタカに腹わたを食い荒らされています。なかなか凄惨な場面です……ユーくんには酷な光景かも……
「チーちゃん、へーき? 引き返してもいいよ?」
「も、問題ないです。進みましょう!」
むしろ私の方が心配されてしまいました。心優しい子です。はぁ、大人の私が子どもに心配をかけるなんて……まぁ今は幼女の見た目ですけど。
とりあえず、しっかりしないと。
「村の端っこから順に家屋を調べておきましょう。さっきの死体はたぶん死後そこそこ経ってますけど……もしかしたら生き残りがいるかもしれません」
「うん、いるといいね……」
そうして、魔瘴がうずまく村を進んで行きました。
魔瘴の影響か、ところどころ生えてる木が黒ずんでねじ曲がったり土が黒くなっています。浄化フィールドを展開したまま通ると綺麗になっていきますが、倒壊した家屋や人の死体は転がったままなので、相変わらず酷い光景です。
野犬の他に猪や猿っぽい魔物もいました。どれも地球にいた動物と違って、角が生えてたり牙が鋭かったりとどこか歪な奇形であり、一目見て動物と区別がつきます。それらは私たちを発見すると例外なく襲いかかってきました。
犬とか猫とか可愛い動物好きな私ですが、流石にここまで狂暴なのは勘弁ですよ!
幸い、ユーくんが全部剣で斬り捨てて、倒してくれました。私も警戒してお父さん棒を握りしめてますが、出番無しです。
「遭遇率が高いですね……10mぐらいで魔物が出てきます」
「うん、こんなに魔物がいるなんてボクも初めてだよ。この村に何があったんだろう……」
そう言いながらも襲ってきた野犬のグループを斬り捨てるユーくん。大体一撃です。剣の攻撃力が高いのか、ユーくんが強いのか……まぁ両方ですね。
ちなみにここまでユーくんは火の魔法は全く使用していません。この程度なら問題なく、余力は温存しているようです。頼りになりすぎる小さな勇者様です。
建物も端の方から調べて7軒目です。大体平屋の木造住宅ですが、魔物によって壊された部分も多いです。中を覗いてみますが、人の気配はありません。
「うーん……なんか変だなぁ」
「どうしたんですか?」
「これだけ魔物がいるのに、意外とヒトの死体が少ない気がする……」
「えと、既に10人くらい見た気がしますけど」
「それでも少ないよ。もっとヒトいたもん」
村のことを知っているユーくんがそう言うのでそうなんでしょう。
「うーん、もしかしたらいい兆候かもしれませんね」
「そうなの?」
「ええ、上手いこと避難できたのかもしれません」
「だったらいいね」
楽観的な考えではあります。でも、そうだったらいいなと思います。
襲いかかってくる魔物をユーくんが狩り続けていくと、だんだん向かってくる魔物が少なくなってきました。
元々1km四方ほどの小さな村です。魔物がいなければ1時間で回れるでしょう。
「そろそろ広場の方に行く?」
「そうですね……魔物も大分倒しましたし、そろそろ中央に行かないとですね。警戒しながら進みましょう」
今のところ、ユーくんが苦戦するような魔物はいません。とはいえ、何が起こるか分からないので、ゆっくり警戒しながら進みました。
村の中央には広場があります。そこに向かうにつれて魔瘴が濃くなっていくのを感じます。
「中央は特に魔瘴が酷いですね……」
「地面もなんかえぐれてるよ。でっかい足あともある」
「え、足跡?」
目の前を見すぎてて足元がお留守になっていました。確かに、象みたいな巨大な生物の足跡があります。
「中央の広場に足あとが続いてるよ」
「ってことは、この先にめちゃくちゃでかい化け物がいるってことですか!?」
「そうだね」
「わ、分かりました。慎重に行きましょう! 抜き足差し足で……」
「ううん、チーちゃん。これ以上近づくと気付かれちゃうよ」
「ほえ?」
「気付かれる前に一気に広場全体に浄化をぶっ放して。先制するよ!」
「は、はい!」
うええ、この子十歳なのに状況判断が正確です。というか敵地においてどんどん思考が冴えてるような……普段のユーくんより大分頭が良くなってます!
私もいつまでも臆病ではいられませんね。中央広場の広さは直径50mほど。このくらいなら全面いけますね!
私は神気をお父さん棒の先端に集めます。先端がボールのように光っていきました。
その光の玉を、横なぎに振り抜いて砲弾のように撃ち出します。
勢いよく撃ち出された光の玉は、中央広場の真ん中で爆発しました! 光の奔流が広場を飲み込みます!
これがチーちゃんの必殺技、【ピュリファイ・エクスプロージョン】です!!!(日本語にすると浄化爆発)
「いくよ!」
「はい! お願いします!」
そしてユーくんもその光の奔流に突っ込んで行きました。
必殺技と言いましたけど、人間には無害ですのでユーくんは平気です。
中に何が待ち構えていようと、突然の浄化の光に狼狽えているうちにユーくんの追撃が入ればひとたまりもないでしょう。
そう思ってたんですが……
突然、ユーくんの動きがピタリと止まりました。
「ど、どうしたんですか? ユーくん?」
「チーちゃん、みて」
光の奔流が晴れてきて、ようやく広場の全貌が明らかになりました。
そこにはゾウのような巨大な怪物鹿がいました。どこかで見たような感じの既視感を感じます。
「これって……【狂嵐の奈落鹿】ラグナディア!? どうしてここに!?」
それは以前森で見たトラウマの混沌魔物でした。こんなところに何故……?
私は驚愕しましたが、ラグナディアは全く動きませんでした。
よく見たら、角がへし折れてます。そして胸元から大量の血が流れています。
そしてもう、息すらしてないのが明らかでした。
「死んでる……?」
「うん」
「えと、死んだふりしてていきなり襲いかかってきたりしませんか?」
「動物や魔物はたまに死んだふりするけど、チーちゃんの浄化に反応しないからたぶんほんとーに死んでるとおもう」
ユーくんがそう言うならそうなんでしょう。でもとりあえず10mほど距離を取って様子を見てみます。よく見たら広場はめちゃくちゃに荒れててあちこちに争ったような破壊の跡が見えます。
「なんで死んでるんでしょう……?」
「あれを見て。死体に打撃と斬撃の後があるよ」
「それは……つまり……?」
「すごい打撃と斬撃を食らったに違いないよ……!」
そりゃそうですね! 見れば分かります!
「これ、人がやったっぽいかなぁ」
「つまり、これをやっつけたすごい人がいるんですか?」
見た感じ、魔法を使ってるようには見えません。神気もたぶん使ってないでしょう。ユナさんの言うことが正しければ、神気を使える人はあんまりいないらしいですし(信用できない語り手)
つまりこれって、誰かすごい人が物理攻撃でこの怪物鹿を倒したんですかね……?
「……進もう。村はまだ半分以上あるし、誰かいるかもしれない」
「そうですね……なにか分かればいいんですけど」
私たちは進みました。その先に思いがけない運命の出会いが待っていようとは、今の私たちには想像も出来ませんでした。




