Lo24.紫色の猿の肉がドブ川みたいな味がします
私達は旅立ちました。
思えば私は、この世界に来てからずっと森の中にいましたね。
ようやく外の世界に出ることになるんです。
ここからが本当の異世界冒険ファンタジーの始まりです。
正直ユナさんの家は永住したくなるくらい居心地が良かったですけど、それはそれとして少しわくわくしています。
せっかくの異世界です。見たことの無い世界には、ちょっと憧れはあります。
一体どんな冒険と幼女がこの旅路に待ってるんでしょうか?
「わくわくしますね!」
「うん! わくわくする!」
隣にいる小さな同行者も同じことを思ってました。いや、今の私はそれ以上小さいんですけどね。
とにかく、今は魔王退治への不安より、外の世界への期待が大きい感じです!
中身年齢アラサーの私、年甲斐もなくはしゃいでます!
「ところでユーくんはどこまで行ったことありますか?」
「近くの村まではよく行くよ。街の方はあんまり行ったことないかなー」
「ほほう、ちなみに近くの村まではどのくらいの距離ですか?」
「1日あれば行けるよ!」
なるほど、1日ですか。案外近いんですねぇ……そう思ってたら
10時間くらい歩かされました。
「……めっちゃくちゃ遠いじゃないですか! たぶん100kmくらい歩きましたよ!?」
「そうだよ?」
もちろん100kmは誇張ですが、たぶん50kmくらいでしょう。
これでもかなりハイペースなんですよ。まぁ私は1時間くらい歩いたらくたばってしまって、ユーくんにおんぶして貰いながら神気使って疲労回復。そして復活したらまた1時間くらいでくたばるってループ繰り返してましたが。
うん、全部自分で歩けたらユーくんに負担をかけずに済むんですがね。これでも前より体力ついた方なんですよ? 元が駄目すぎるだけです。
「そういえばチーちゃんって神気で回復できるんだよね? 歩きながら回復してずっと歩き続けるっての出来ないの?」
「それ私も一度は思いついたんですけど、ユナさんに止められてるんですよね」
「なんで?」
「なんかめちゃくちゃ疲れてるときにだけやった方が体力とか筋肉がつくとか……まぁ、いわゆる超回復ってのが起きるらしいです。だから、回復するためにはバテバテに疲れないといけないらしいですよ」
「超回復!? なんか分からないけどすごそう!」
「ユーくんを回復するときも歩けないくらい疲れたときだけやりなさいって言われてます」
「そうなんだ。じゃあ超回復できるときだけ回復してね!」
超回復は筋トレのときによく聞く言葉ですね。私は漫画で知りました。異世界にもその概念があるとは思わなかったですけど。
ユナさんは普段嘘つきではありますが、教えるときは割とガチです。だからユナさんの言ってることを信用して、私も体力作り頑張ります!
「それに神気で回復しても眠気は普通にあるんですよね。むしろ回復した後が一番眠いっていうか……まぁ、意外と万能じゃないみたいです。この力」
回復しながら不眠不休で働くみたいなことはたぶん出来ませんね。まぁやったとしても精神の方が壊れそうですけど……
それはそうと、旅立ってからの10時間。もちろんただ歩くだけの時間じゃありませんでした。
忘れちゃいけません。ここは異世界。歩いてたら魔物が出てくるのです。
「チーちゃん、あそこに何かいるね」
「え、どこですか?」
「まだ向こうは気付いてないみたい。ちょっとやっつけてくるね」
そう言って音もなく走っていくユーくん。
……しばらくしたら獲物を持って戻ってきました。
紫色の毛をした中型の猿です。腕が何故か4本ありますね。そんな異形の猿が、喉を剣で一突きされて絶命しています。
「おお……大丈夫でしたか?ユーくん」
「うん、気付かれる前にやったから平気。こいつ、モノを投げてくるから厄介なんだよねー」
これですよ。
ユナさんが「大技だけ修行してれば平気」みたいな態度取ってた理由が早々に判明してしまいました。
ユーくん、暗殺者みたいなことをあっさりとやってのけるんです。修行のときはあんだけカッコよさとか派手さに拘ってたのに、ガチになるとめちゃくちゃ静かにやります。
そういえばラグナディアへの初擊も木の陰に隠れて首に狙いをすませた一撃でしたね……
ユナさん、あなたどういう教育してるんですか? ちょっとこの子の将来が怖いです。
「ところでこの猿って何ていう魔物ですか?」
「バーバリアンエイプっていうんだよ。これは小さいけど、もっと大きいのもいるよ」
「なんかこう、序盤だしゴブリンみたいなのが出てくると思いましたけど……」
「ゴブリン見たことないなぁ。大陸の方には結構いるみたい」
「大陸の方……ですか?」
「あ、言ってなかった? この国って島国なんだよ」
「初耳です!」
実は私、この世界の地理をほとんど教えて貰ってません。何度かユナさんに聞いてみたんですけど、「それは旅をしてからのお楽しみねー」みたいな感じではぐらかされてます。
ユナさんはネタバレをしないタイプなのです。嘘バレはしますけど。
「えーと、この国が島国ってことは、いずれこの国を出て大陸の方に行くんですか?」
「そう思うけどボクもよく分からないからなぁ。とりあえず街の方を目指してるよ。街の人に聞いたら分かるかも」
「なるほど……そういう情報収集って勇者っぽくていいですね!」
「うん! 勇者っぽい! よくわからないけど!!」
はい、勇者は勇者でもRPGの勇者ですね。そういうのやると街の人に片っ端から話しかけるマンです、私。
「ところでこの猿はどうするんですか? 何か剥ぎ取ったりします?」
「んー、ちょっと中見てみるね」
そう言ってユーくんはバーバリアンエイプの胸の部分を剣でかっ捌きました。おおう、グロテスク……
でもまぁ、私も異世界に来て1か月くらい立ちますからね。
お肉はスーパーで買えるような精肉ではなくて、野生のお肉が基本だったので流石にグロ耐性も付きました。だってグロいの我慢できるようにならなきゃお肉食べられないんだもん!
「あーこれこれ。あった~」
そう言ってユーくんは猿を捌いた胸の中から紫色の結晶のようなものを取り出しました。
「魔石ですね」
「魔石だねー」
私はこの結晶を【魔石】だとユナさんに教えて貰いました。なんか、魔物の体内に出来るやつなんですって。大体、中心部にあるそうです。
なお、異世界にも動物はいますけど、普通の動物には魔石が無いらしいです。この猿も動物っぽく見えますが、れっきとした魔物です。
魔物と動物を見分ける最大のポイントが魔石の有無らしいです。
「これ、たしか買い取ってくれるところがあるんですよね?」
「なんか街の方で売れるらしいけど、いくらするかは知らないよー」
「まぁ、なんにせよ集めるにこしたことは無いですね」
「そーゆーこと!」
そうして魔石を剥ぎ取った後の猿の死体を見て、ユーくんはボソッととんでもないことを言いました。
「ねぇ……これって食べられるのかなぁ?」
「え、食べるんですかこれ?」
「いや、ボクも食べたこと無いんだけどね? でも……試したくならない?」
おおう……ユーくん、なかなかチャレンジャーです。いや、確かに日本人もよく水族館で「この魚食べられるのかなぁ?」みたいなことを言いますけど!
でもこれ猿ですよ? ちょっと人型に近くて背徳感が……
「ちょっとだけ……食べてみましょうか……ッ!!」
「チーちゃん! さすが!!」
はい、私も好奇心ありました。いいじゃないですか、ちょっとくらい。
「たぶん、よく火を通せば大丈夫です!」
「うん、焼くね!!」
そう言ってユーくんは薪を集めて火の魔法で手早く火をつけます。
ユーくん、この間までめっちゃド派手な火の魔法使ってばっかりだったのに、いつの間にか普通に小さい火も扱えるようになってるのホントなんなんですか?
私が「被害の大きい大技ばっかりは心配なので小技も覚えないと…」みたいなことを思ってたのは完全に杞憂でした。
うん、あのときはめちゃくちゃ消火したんですけどね、私。
「とりあえず焼いてみたんですけど……ちょっと黒いですね?」
「焼きすぎてコゲたの?」
「いや、元々肉が赤黒い感じというか、マグロの血合いみたいな色してましたし……こういう肉なのかもしれません」
なんかこう、色からしてあんまり食欲そそらないというか、ちょっと既に駄目な感じが漂っています。
「と、とりあえずちょっとだけかじってみますか! 不味かったら吐きましょう!!」
「う、うん! そうだね! 毒でも飲み込まなければ平気だもんね!」
がぶり。
私たちは二人ほぼ同時に肉にかぶりつきました。
「まっず!」
「えっぐ!」
ほぼ同時に吐きました。
「いや、駄目ですねこれ! ちょっとえぐみがすごいです! 汚いドブ川で育った魚を食べてるみたいです!! 食べたこと無いですけど!!」
「噛んだ瞬間、なんかマズイのとクサイのがすごい襲いかかってきたよー!!」
たぶん食べると毒なやつでした。なんでチャレンジしてしまったのか。
「ちょっと毒かもしれないので、一応神気で回復しときますね」
「ありがと~チーちゃん~」
私が身体から白いオーラを出して包むと、お口の気持ち悪いのが消えました。
うむむ、こんな風に神気を使ったのは初めてですけど、毒にも効くっぽいですねこの回復。なかなか便利です。
「……ねぇ、チーちゃん。この肉もなんか綺麗になってない?」
ユーくんが食べかけの猿のお肉を見せてきました。おや、さっきより何か焼き色が綺麗になってませんか?
「おかしいですね? なんか美味しそうに見えるんですけど……え、なんで?」
「さっきチーちゃんのオーラに当たったところがこうなったんだ」
「ほええ、そんな効果まで……」
「チーちゃん、これってあれじゃない? あの鹿の肉と一緒じゃない?」
「あの鹿って……混沌魔物のあれですか!」
そういえばラグナディアの肉は魔瘴でどす黒くなってたんですけど、神気で浄化すればめちゃくちゃ美味しいステーキになったんですよね。あれは本当に美味しかった……滅多に食べれない超高級肉のお味でした。
「つまりこれも……まさかこの腐ったドブ川みたいな味も魔瘴が原因ですか!」
「うん、たぶんそうだよ! やってみようよ!」
私は神気を食べかけのお肉にありったけ込めると、お肉がキラキラし始めました。
明らかにお肉が美味しそうになってます!
「これは……ビンゴということですかね? というか普通の魔物にも魔瘴ってあったんですね」
「うん、ボクも知らなかったよ……そもそも魔物の肉って食べてる人いないし……」
え、この世界って魔物の肉って食べてる人いないんですか?
いや、私は前世で魔物の肉を食べる漫画とかグルメ細胞な漫画を知ってますけど、それを知らないユーくんはアレですね。ちょっとチャレンジャーすぎますね?
「味も……みないとね……!」
「ええ……リベンジです……!」
そして意を決して、私たちは同時にお肉をかじりました!
「むむ…!?」
「ふむ……!?」
「「美味しい~!」」
明らかに美味しくなってました! さっきのドブ川とは大違いです!
「こんなに違うとは……」
「なんか……すごい!」
「これは……世紀の発見ですね!」
「うん、そうだね!」
あのときの鹿の肉に及ばないながらも、かなり美味しいお肉になりました。筋肉質なのか、若干固いのが難点ですが……肉自体の味は合格です!
「魔物の肉って神気を使うと食べられるんだね!」
「はい! 革命が起きましたよ今!」
「ねぇ、もっと焼こうよ!」
「はい! 食べましょう!!」
なんでしょうか? あの魔瘴を払うと普通のジビエ肉より美味しく感じるんですよね。なんか魔瘴の中でお肉が熟成されてるんでしょうか? よく分からないですけど!
とにかく、美味しいのは確かです! チャレンジ成功でした!
ファンタジーの世界なら、魔物食はロマンですよね!!
そんな感じで新たな発見をしつつ歩き続け、やがて日が暮れだす頃、ようやく最初の村にたどり着きました。
「え……嘘……」
「なんですか……これは……」
そこで私たちを出迎えたのは……おびただしい魔瘴に覆われた廃村でした。




