Lo22.旅立ち前の一週間、ひたすら消防活動していました
出発までの1週間。私たちは修行をしていました。
今日も森が燃えています。
「ごめーん!焼きすぎちゃったー!」
謝罪の声を出したのは未来の勇者ユージア・フレットちゃん(10歳)
幼女が今日も元気に森を焼いています。
「ほらチーちゃん、消火消火」
「ひええ」
私はユナさんに言われるまま、消火活動に当たります。
ぶわっと私の中から白いオーラがあふれでました。
それを火災箇所に拡散します。
「広がってぇ~~……消えろ~~!」
私の掛け声に合わせて白いオーラが火を包むと、まるで消火剤をかけたように火が消えました。
結構広い範囲が燃えてたので、頑張って範囲を拡げます。どうやって範囲を拡げるって? 頑張ればなんか拡がるんです。自分でもよく分かりません!
「大分板についてきたわね、消火活動」
「ふふ……これで消防団でも雇用されますね……?」
「体力無いから無理でしょ」
「がーん」
消防団行きは否定されましたが、今の私は火を消火出来るようになりました。火の魔法を使うユーくんの同行者となるには必須級の技です。なんかユナさんにやれって言われてやったらなんとなくこういうことが出来るようになりました。なんでなのか自分でも分かりません。
これも【神術】というやつみたいです。神気を使って色々と不思議な術を使うのを神術って言うみたいです。不思議ですね。なんの理屈も分かりません!
「これって魔法使いじゃないんですか?」
「チーちゃんのやってることを職業でいえば【神術士】と呼ばれてるわね」
「おお、なんかかっこいい響き。神術士」
「まぁ、ほとんど伝説の存在扱いされてるから、堂々と名乗ると捕まって解剖されちゃうかもね」
「……名乗るのはやめときます」
神術士チーちゃんの冒険は終わりました。これからはただの苔娘のチーちゃんです。
……ただの苔娘ってなんですか?
「それにしても神気って思ったより色々出来るんですねぇ。なんとなくやったらそれっぽいこと出来ますし」
「神術は不思議な術だからねー」
「不思議ですねー」
今のところ、私が神気を使って出来ることは①魔瘴を払う、②回復、③消火、④光るくらいですかね? 学問的に学んだわけではなく、完全に感覚的にやってます。私が光れって思ったら光りますし、火が消えて欲しかったら火が消えます。頑張ったら何となく出来てしまう。そんな不思議パワーです。
「でも岩は割れないわよね、チーちゃん」
「あれは何回やっても威力ゼロなんですよね。コツとかあります?」
「んー、神術って感覚的なものだから、殺意とか破壊衝動とかあると割と簡単に出来ると思う」
「殺意って……なんか怖いんですが」
「まぁ見るからにそっち方面は向いてないわよね、チーちゃんは」
なるほど……同じ神気でも使う人によって向き不向きが出てくるわけですか。
消火が終わった頃、ユーくんが駆けてきました。
「ごめんねー、いつも消火ありがとー!」
「いえいえ、仲間じゃないですか。むしろ頼って貰えて嬉しいです!」
「ボクもチーちゃんがいてくれて良かったなっていつも思ってるよ!」
ユーくんはお礼を言ってくれますが、そもそも幼女にこんなに屈託の無い笑顔を向けられるなんてめちゃくちゃ役得じゃないですか。私、報われすぎでは?
「そういえば、ユーくんは火がトラウマで魔法が使えなかったって聞きましたけど、平気なんですか?」
「うーん、今でもちょっと怖いよ。でも、一度思いっきり出してから印象が変わったかな……なんか気持ちよかったから」
気持ちよかったんですかー……ちょっと危ない性癖になりそうで怖いですね?
それにしてもユーくんの火の魔法は被害範囲が広すぎるので、小回りの効く技でも提案しましょうかね。
「大砲みたいに打ち出すのもいいですけど、魔法剣みたいに纏ってみるのもいいんじゃないですか?」
「魔法剣って?」
「こう、剣に魔法を重ねるんですよ。剣に神気を纏わせるのは前やってたじゃないですか。それの魔法バージョンです」
「めちゃくちゃ熱い剣になるの?」
「いや、そんな焼きごてみたいなのじゃなくて! イメージ的にはもっとかっこいい感じで……なんか必殺技って感じです!」
「かっこいい感じ……わかった! やってみる!」
そうして素直なユーくんは魔法剣の練習を開始しました。
「ところでユナさん、考えなしに言ってしまってアレなんですけど、魔法剣ってこの世界にあったりします?」
「んー、あるわよ。微妙なやつだけど」
「なんで微妙なんですか?」
「魔法使いって遠距離攻撃できるのが利点じゃない? わざわざ射程がせまくなる技、あんまりやる人いないのよ」
「そうですか……言われてみれば確かにそうですね」
「でもまぁ、ユーくんの魔法は大雑把すぎるから、小回りの効く技を習得する価値はあるかもね」
ズドォォオオン!!
突然大砲のような音が響きました。森がまた燃えました。
「やったぁ!! チーちゃんの言う通りかっこいい感じにしたら、必殺技みたいになったよ!!!」
両断された木々と燃える森の惨状。どうやらユーくんが魔法剣とやらをやってみた結果がこれでした。
「……あの、被害範囲がでかくなってませんか?」
「かっこいい必殺技をイメージした結果、テンション上がって威力が上がったみたいね」
テンションで威力が上がるとか、ドラ○エですか?(シリーズ8作目以降)
「どうもユーくんがやることは大味になりますね……もっと小技を身に着けて欲しいんですけど」
「んー、案外その点は心配ないかもね」
「そうなんですか?」
「ま、そのうち分かると思うわー」
「あの、そうやってユナさんが意味深な返答をして、実際後で分かったことの方が少ないですよ?」
「うふふ」
うふふじゃないんですが???
頼りにはなるのに、全く当てにならない人ですよねユナさんって……まぁ可愛いから許しますが
そんな感じでユーくんの修行は概ねこんな感じでした。着実に強くなってることは確かです。たぶん。
一方、私も出発までの残された1週間、色々やってました。
混沌魔物の被害で魔障が広がった森を神気を使って浄化活動をするのもその一環です。環境保護は大事ですからね。
不思議なことに、なんか浄化した後にはたくさん木の実が生ってたり、森の恵みが豊作だったりするんですよね。森からの感謝だと思ってありがたく受け取ってます。もぐもぐ。
ユーくんと違って特に修行という意識は無いですが、消火と浄化をやたらと酷使したせいで大分神気の扱いも上手くなったような気もします。最初は頑張ったら消火出来てたのが、そこまで頑張らなくても消火できるようになってます。
体感ですが省エネ化率46%達成しました。おぼろげながら浮かんできたんです、46という数字が。地球環境に優しいチーちゃんです。
あとはユナさんに外の世界のことを色々教わるという名目でイチャイチャしてました。まぁお喋りしてただけですけどね。
ユナさんはネタバレをしないタイプらしく、あんまり聞くと「それは行ってのお楽しみ」みたいなことを言うので、旅先のことはあんまり聞けませんでしたが、一般常識は多少身に付いた気もします。
ユナさんはそこで嘘を混ぜることも多いですけど……ユナさんは有害な嘘ではなく実害の無い嘘しか吐かないので、ある程度は信用してます。たぶん。まぁあてにしてはならない情報源です。
ユーくんも旅に出る前に思うところがあるのか、この1週間でのユナさんにべったり具合が増えていました。寝るときとかめちゃくちゃ密着してます。最後にとにかく甘えたいんですね。かわいいものです。
そんな合間をぬって、私はこそこそと絵を描いていました。エロい絵じゃないですよ? 珍しく真面目な絵です。
頭の中で情景を浮かべながら、いくつか書き出してボツになった構図とか結構ありましたが、なんとか描けました。
そして瞬く間に1週間が過ぎました。
ユーくんが荷物の総点検をしています。
「これとー、これとー、これとこれとー……」
指差し呼称は大事です。しかしモノが多いような……
「結構ありますけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫! 持てる!! このカバンなら!!」
そう言って取り出したのは、容積10Lくらいの革のリュックです。カバンと言ってますが、まぁ見た目背負うタイプのリュックですね。
「これは魔法の鞄で、何でも入るんだよ!」
「なんでも入るんですか!? すごいやつじゃないですか!」
「嘘だよ!! 何でもは入らないよ!」
「そうですか! すごい!」
どうやら、ユナさんがくれた不思議道具の一つみたいです。困ったときのユナえもんですね。
「魔法の鞄だから、見た目よりたくさん入るよ!」
「すごいじゃないですか! 流通に革命が起こりますよ! ちょっとみせてもらっていいですか!」
「いいよ!」
ユーくんが快く許可してくれたので、私も遠慮なくそのリュックを見てみます。
ふむふむ、見た目は普通のリュックっぽいですがデザインは重厚で良いですね。ブランド感がありそうだし丈夫そうです。
そして中を見ると……おお? なんか入ったものがミニチュア化して見えますよ?? 不思議ですね? 試しにリュックに手を突っ込んで、干し肉を取り出してみたら普通の大きさに戻りました。
「ほほー、これは不思議ですね。中で空間が広がってるのでしょうか? いや、それだと私の手が底まで届くわけないですよね?」
「よく分からないけど、不思議だよ!!」
「これって誰かがこういうの作ってるってことですか?」
「んー、なんか地面からニョキニョキ生えてくるらしいよ?」
「生えるんですか!?……まぁ、割り箸畑からも遊園地が取れるって聞いたことありますし」
「チーちゃんたまに言ってることがお母ちゃんよりワケわからないよ!?」
真実はいつも真偽不明です。そういうものが生える場所がこの世界にはあるのかもしれません。まぁ十中八九ユナさんの嘘でしょうけど。
しかし、本当に不思議なリュックですね。流石異世界。結構デザイン良いですし、私もこういうの欲しいですねー。ちょっと背負ってみませうか。
よっこらせっと……
「おっも! ビクともしないんですが!?!?」
「ん? そりゃ重いよ? たくさん入れてるし」
「こういうのは重量軽減とかそういうのもセットなんじゃないんですか!?」
「よく分かんないけど、モノを入れたら重いのは当たり前じゃない?」
当たり前ですけど! それが物理法則ですけど! ファンタジーならそこも無視して欲しかったー!!
この魔法の鞄がたくさんあるなら流通に革命が起こると思ってましたが、重さは変わらないんじゃ流通に革命起きませんね……
「たくさん入ると言っても、結局あんまり入れると大変なんですね……」
「重さの大半は食料と水だし、ちょっと減らして後は現地調達しようかなぁ?」
「無理なく持てる範囲で良いですよ。動けなくなったら本末転倒です」
「そうだねー」
そんな感じで色々準備してました。私も絵を描きたいのでペンとノートは持っていきます。カラーの画材は改めて街で買いたいですね。
あ、そうだ。忘れるところでした。私は二人に向き直ります。
「ユナさん、ユーくん。改めて、ありがとうございます。私を助けてくれて。こんな素性の知れない私をこの家に置いてくれて、本当に感謝してもしきれないです。異世界に来て初めて出会ったのが貴方たちで本当に良かった」
「ううん、ボクもチーちゃんに会えて良かった! こっちからもありがとう!」
「私は別に大したことしてないけどね。もうチーちゃんが来てから50年になるのね……感慨深いわ」
「そうですね、1か月くらいしか経ってない気もしますが」
ユナさん、そんな冗談言ってるとマジでここに50年居候しますよ? 私なら本気でやりかねませんよ??
「えっとですね……私から二人に贈りたいものがあります」
そうやって、私はその物体を持ってきました。サイズにしてA1くらいのキャンパスです。私はそのキャンパスにかかった白い布をはぎとりました。
そのキャンパスには、少年とその母親の絵が描かれています。
タイトルは、『幼い勇者の旅立ち』
正直この絵、見せるのめちゃくちゃ恥ずかしいです。写実的なリアル絵じゃなくて、コミック的なデフォルメ絵だし、なんというかオタクの絵だし、背景とかそこまで上手くないし、なんかユナさんは諸事情により実際の見た目より大分ロリに描いてしまったし……(手癖
白黒の画材しか無かったので、色とかも果物や葉っぱとかすり潰してなんとか作れる範囲で作りました。カラーの濃淡がぐっちゃぐちゃです。こんなの商品にはならないでしょう。
それでも、私が描いた今の全力です。この世界で得た不思議な力じゃなくて、私本人が努力して身に着けたと誇れる技術で、お二人にお礼をしたかったんです。
これは私の矜持なのかもしれません。
ちなみにエッチな絵ではないです。ロリエロ同人作家とはいえ、エッチな絵ばっかりじゃなくてまともな絵も描きますよ!
「お二人にはこのくらいしか返せませんが……私の気持ちです。受け取ってくれますか?」
私は恥ずかしいのをこらえながら言いました。うぅ、見られてます。ネットでは絵をよく載せてましたが、リアルで絵を見せるなんていつぶりでしょうか? 中学生くらいでリアルだと隠すようになった気がします。は、恥ずかしい……
「……すごい……」
ユーくんが一瞬放心したようにポツリと言いました。そして段々と彼女のテンションが上がってきました。
「チーちゃん……すごいよ! こんな絵描けたんだね!!」
「あ、はい。多少は……」
「めちゃくちゃ可愛い!! ユナすごく可愛いよね!!!」
なんか思ったよりすごい興奮した様相でユーくんがはしゃいでます。あ、これ知ってる。限界オタクのアレです。
一方ユナさんはちょっとはにかみながら神妙な感じで言いました。
「えーと、うん。すごくいい絵よ。本当にいい絵。でも、ちょっと恥ずかしいというかなんというか」
え、そうなんですか? 前、私がユナさんのちょっとエッチな絵を描いてたときにユナさんバッチリ見てますよね? どうして全年齢版のこの絵に今更……
「毎度のこと私を幼く描くのはまぁいいとして……なんかこの絵、めちゃくちゃ抱き合ってない?」
「え、だって結構二人抱き合ってますよね?」
「そんなに抱き合ってたかしら……?」
「しょっちゅう見ますけど……え。自覚無かったんですか???」
なんならユナさん、私のこともめちゃくちゃ抱っこしてますよね? え、無自覚でやってたんですか?
「でもこのユナ、めちゃくちゃ可愛いよ!!」
「うん、まぁそうなんだけど……ここまで可愛くしなくてもいいというか」
「ユナは可愛いからいいんだよ!!!」
「ユーくん、母親を名前呼びするのやめない?」
ユーくんは可愛いユナさんに興奮して普段の「お母ちゃん」呼びが外れてました。まぁ、ユーくんはユナさんのことが本当に大好きですからね……色んな意味(意味深)で……
「ありがとうチーちゃん! 大切にするよ!!」
「はぁ~…………喜んでもらったようで何よりです」
「冒険には持っていけないけどね!」
「アッハイ」
まぁA1サイズのクソデカキャンパスなのでそらそうよとしか。ハイ、考え無しにデカく描きすぎました。一週間あったからね。デカく描いちゃいますよね。
「うん、この家に飾っておくわね。ちょっと恥ずかしいけど」
「あはは、すみません」
「でも本当にいい絵ね……次はこのキャンパスに、チーちゃんが加わってくれると嬉しいかな」
「私……ですか?」
そういえばこの絵には私はいませんでした。まぁ、二人への絵ですから……そう思ってましたから、その発想は盲点というか、意外でした。考えもしなかったんですよね。
でも、二人は当たり前のように言いました。
「だってチーちゃんは……」
「もうボクたちの家族だもんね!!」
そう言って、ユナさんとユーくんは私のことをギュっと抱きしめてくれました。
うん……私の方も二人を勝手ながら、この世界での家族だと思ってました。元の世界では死んで身寄りのない私。その寄る辺となってくれた二人。
どうやら私だけでなく、彼女たちも私のことを家族だと思ってくれていたことに、なんというかこう……
……なんでしょうね? 肝心なときに言葉が出て来ません。ただ、何か喉奥から熱いものがこみあげてくる感覚があって
気付いたら涙が出ていました。止まりませんでした。
「ありがとう……本当に……大……大好きです、二人とも」
「まったく、今生の別れじゃないんだから」
「もう……泣きすぎだよ、チーちゃん……」
そういうユーくんも涙を浮かべていました。泣き声は上げませんでした。だって悲しくはないから。暖かい気持ちだけがあるから。でも涙は勝手に出てくるので、あふれるままに任せていました。
小さな子どもが二人、ユナさんの胸で泣いていました。




