Lo193.偉いおじいちゃんに媚びを売ります!
私達はそれなりに慌ただしく、それなりに日々を適当に過ごしています。
午前中は日課のダンジョンアタックを1~2時間ほど。ときには孤児院の子達と合同でやったりします。午後からは日によって色々とやることが変わります。
ユーくん達に見つけて貰うためにも私はそれなりに表に出た方が良いという方針らしく、エールちゃんと一緒に魔障で穢された土地の浄化や混沌魔物討伐にもたまに付き合ってます。
どうやらエールちゃんは私とルナ子ちゃんを、聖女見習いっぽい扱いにする方針のようです。私は神気で魔障を浄化できますからね。ルナ子ちゃんも私と同じことを当たり前のようにやってて、「あ、魔法少女ってちゃんと巫女なんだなぁ」と思いましたが。
その理屈だときなこちゃんや西蓮寺さんも魔法少女なので魔障の浄化とか出来るはずですが、何故かやりません。得意分野が違うんですかね?
神気を用いて怪我人の治療とかもやらされました。私の力をそれなりに示す為らしいです。
あくまで警戒されない程度のそれなりの力でいいらしいので、軽微な怪我の人ばかり回ってきますが。
はー、仕事増えましたねぇ。たいへんたいへん。今日はダンジョン2時間、聖女活動2時間で1日に4時間も仕事する予定です。たいへんたいへん。
……いや、普通の聖女って神気がすぐ尽きるのでせいぜい1~2時間で仕事終わるんですよ。仕方ない仕方ない。サボってるわけじゃないですよ?
残った時間は孤児院で子どもと戯れるか絵を描いてます。子ども達に私の絵を見せると評判良かったので、イーグレス神聖国でもこの絵柄で売れそうですねぇ。まぁ売るルート無いんですけど。
さて、今日もちょびっとだけ聖女活動。子どもサイズの聖女服に袖を通した私のところに腰をイワしたおじいちゃんがやってきました。お城で着るような紳士服を着ていて、身なりはとても整っています。貴族の人でしょうか?
「あいたたた……腰が、腰がああああ……」
「大丈夫ですか~?」
私はおじいちゃんの腰に手を当て、優しくマッサージするとともに神気を流します。
ふむふむ。お客さんこってますねぇ。触っても良く分かりませんけど。ごつごつしてる気がします。
とりあえずゆっくりめに治れーと念じます。こう、にゅわーっと。
控えめな神気のパワーがキラキラと光ってました。うん、手加減ってこんな感じですかね?
「……おや、これは随分と楽になったのぅ……?」
「こう見えても見習い聖女ですからね~(たぶん)」
「ん? 体が軽い! 信じられないほど軽いわい!!
おじいちゃんが立ち上がります。そしてその場でぴょんぴょんはねます。ほえー、元気なおじいちゃんですねぇ。
「助かったぞうお嬢ちゃん! 腰がどうも痛くてのぉ!! 蘇った気分じゃ!!」
「喜んでいただけてなによりです~」
適当に愛想笑いをします。ふふ、幼女のスマイルです。可愛いでしょう?
するとおじいちゃんがこちらを見て何かに気付きました。
「うむ……? お嬢ちゃん、もしかして特級聖女のそばにおる獣人の子か? 確か【勇者召喚】の場にもおったよな」
「あはは、そうですねぇ。どこかで会いました?」
「訓練場でも会ったじゃろう! ワシじゃ! 【六聖】の一人、プロフオン・D・ボンドじゃ!!」
おお……あのときの訓練場のお爺ちゃんですか?
あのときは鎧着てて、今は紳士服着てるから分かんなかったです!
たしか『ボンド卿』とか言われてましたね。『卿』って付くからには貴族だったりするんでしょうか?
中立派らしいので敵ではないと思いますが……とりあえず権力者にはスマイルスマイルです!
幼女のスマイルに勝てるものは無し!!
「お久しぶりです! お元気ですか?」
「元気じゃ! ……いや、元気じゃないからここに通っとるのか? お嬢ちゃんはどうじゃ? あの特級聖女の元で元気でやっとるか!」
「ぼちぼちですねぇ。エール様はとても良い人なので」
「そ、そうか……あの暴力娘が……丸くなったのぉ」
あ、そういう評価なんですねエールちゃん。まぁ致し方なし。どうみても暴力娘です。
「エール様ってそんなに評判悪かったりします?」
「あやつ、誰にでも噛みつく狂犬じゃからのお……実力は歴代屈指なのは知っとるんじゃが」
「ふむふむ、そんななんですか」
「まぁ、それ以前にあやつは後ろ盾が無い。歴代の特級聖女はほとんどが貴族の出じゃからのぅ」
「え? 特級聖女って実力でなるもんなんじゃないんですか? 特級聖女になる条件って【聖湖の迷宮】に潜った階層が一番深かった聖女がなるんですよね?」
「聖女はそもそも戦闘は苦手なものが多い。じゃから、自前の戦力を用意できる者が本来なるもんなんじゃ。権力を使って特級聖女になれるなら、それもアリなんじゃよ」
ふえー、そうなんですか。知らなかった。じゃあ特級聖女って貴族の方が有利なんですね?
「まぁ、そもそも先代のシャイナス様が例外じゃったからのぉ。あの人は自分の実力で特級聖女になった稀有な方じゃった」
「偉いですねぇ。その先代の特級聖女シャイナス様はどのくらい深く潜ったんですか?」
「ん? 100階まで到達しとるよ。ガイナス様と2人だけでのぉ」
「ひゃっかい……?」
え、聞き間違いですか?
それって最深部じゃないですか!
「ちなみに100階まで到達した人ってどれだけいるんですか?」
「歴史上でもほとんどおらんのぉ……たしか5例くらいじゃないかの? ましてや2人だけで攻略なんぞ前代未聞じゃろうな」
「ふえー、やっぱりしゅごいんですね」
「とんでもないお二人じゃった……それゆえに惜しいのぅ。あのようなことになってしもうて」
あのようなこと、とはガイナスさんが指名手配された件ですね。まぁ現聖王の陰謀なんでしょうけど。
「やっぱり前特級聖女様の方が人気なんですかね?」
「そりゃそうじゃな」
「戻ってきたら嬉しいですか?」
「正直、そうじゃな……じゃが戻るのは難しいのは知っとる。今の聖王様が一番恐れとるのがあの2人じゃからな」
ふむふむ。そんな感じなんですか。
割と戻って欲しい人多いんですかね?
私はボンドおじいちゃんに提案します。
「ボンド様。エール様派に鞍替えしませんか?」
「なんじゃと?」
「エール様もお二人に戻ってきて欲しい方針です。エール様の勢力が力を得ればお二人も帰ってきやすくなると思うんです」
「残念じゃが……無理じゃな。リュミエール個人の実力は認めとるが、ワシにも色々しがらみがあってのぉ」
「そうですかぁ。まだエール様は孤軍奮闘が続きそうですねぇ」
むにゅう。勧誘失敗。でもまぁ悪感情は持ってないことが分かったのでヨシとしますか。
ボンドおじいちゃんがマジマジとこちらを見つめます。ど、どうしました? そんなに私が可愛いんですか?
「……お主はなんで特級聖女に肩入れするんじゃ?」
「んー、まぁ見てたら肩入れしたくなるんですよ。気持ちの問題です」
「お嬢ちゃんは立場に捕らわれなくて羨ましいのぉ……」
まぁ、それを柔軟ともいいますし適当ともいいます。
でも感情面を抜きにしても、私は魔王を討伐するのが大目標ではあるので、聖王派とエールちゃんを天秤にかけてエールちゃんを味方にした方が良いと判断してます。
戦力面でもエールちゃんの方が強そうですし、シャイナスさんの妹でもありますし……なにより聖王派を味方につけても後で裏切られる気しかしません!
ちょっと遠回りしてる気もしないでもありませんが……たぶん、この道筋が魔王討伐へと繋がるのかもしれません。要するにサブクエストってやつです!
あ、ついでにもうちょっと情報収集しときましょうか。
「ところで、私達の他の【勇者召喚】された人達の様子はどうですか? かなり強いって噂ですけど……」
「そうじゃな……確かにみな強い。特に『勇者』の天恵を持つタカハシといったか。あれは短期間で急激に成長しておる」
「ふむふむ」
「じゃが、どうもあの子ら全般に言えることじゃが……どことなく覇気がない。まぁ、考えたら当然のことなんじゃが、あの子らはこの国の為に命を賭ける義理は無いからのぅ」
「ほー」
これは仕方ないですね。あの子達は無理矢理連れてこられただけなんですから。
「他方で『勇者』の天恵を持つタカハシは、やる気はあるし向上心はある。品行方正で理想的な勇者に見える……が」
「が?」
「どうも……視野が狭い。余裕の無さを感じるのぉ。ちょっと心配じゃ」
「ふむふむ。まぁ仕方ないですね。若いんですから」
まぁ、一生懸命なのは良いことだと思いますよ。でも視野が狭いのは経験の少なさ。若さゆえに、仕方ないですね。
「……そちらは余裕がありそうじゃな。聞いたぞ。【聖王御前試合】のこと。お主らも参加するんじゃろう?」
「あ、なんかそうみたいです」
「何もしなければ公衆の面前で醜態を晒すだけじゃが、何か秘策でもあるのかのぅ?」
おや、探りを入れてきましたね。まぁいいでしょう。本当はバリバリ勝つつもりですけど、ここは適当に答えます。
「秘策も何も、普通に戦うだけですね」
「ほう」
「私達がボロ負けして醜態晒したところで、エール様の強さは変わらないですし……まぁ、気にしなければいいことです」
「ふむ……そうか。『勇者』の方はお主らに対抗心を燃やしとるみたいじゃぞ」
え、何でですかね? なんか敵対しましたっけ私達?
あんまり関わってないから高橋くんの性格がよく分からないです。
「まぁ、なるようになれです」
「……ふむ、なるほどのぅ」
何がなるほどなのか分かりません。
「お主に教えておく。今の状況で特級聖女についておっても未来はないぞ」
「そうですかねぇ……まぁ私はこっちの方が居心地がいいんですけど」
「ただ……もし特級聖女派に『勇者』がおったら風向きが変わるかものぅ」
「ふむふむ。勇者ってそんなにネームバリューあるんですか?」
「当然じゃあ。そもそも聖王は勇者の血をルーツとしておるからのぉ。そこに権威が生まれるんじゃ」
「なるほど、勉強になります」
勇者にそんなに権威があるなら、いっそ高橋くんの勧誘もした方が良いんですかね?
でも西蓮寺さんはあの子のことなんか苦手そうにしてましたし。あんまり気が進まないですねぇ。
「……お主のこと、気付いてない者ばかりじゃないぞ?」
「あ、私ですか? ボンド様に働きぶりを褒められるのは嬉しいですね!」
「そういうわけじゃないんじゃが……まぁええわい。嬢ちゃん、また腰をやったらよろしく頼む!」
「はい! いつでもご贔屓にー!」
そうしてボンドおじいちゃんは去っていくのでした。
ふふ、なんだか好印象を持たれてた気がします。エールちゃんはこういうご機嫌伺いとか媚びを売るの苦手そうですからね。
こうやって頑張って媚びを売るのが後々の布石になるんですよ。
我ながら良い仕事しました!
さて、媚びを売ってるのは果たして『どっち』だったんでしょうね?
【チーちゃんコソコソ噂話】
ボンド卿の名前はプロフオン・D・ボンド。
その名の元ネタは競走馬ディーブボンドです。そう名付けた理由? 特に無いです!
プロフォンがフランス語で『深い』を意味するっぽいです。




