Lo19.決戦前夜~ユージアの本当の想い~
時は前日にさかのぼります。それは【"狂嵐の奈落鹿"ラグナディア】との決戦を控えた前日のことでした。
なんとなくモヤモヤとした不安があり、寝れない私はこっそり外に出て夜風を浴びてました。
えっちな絵を描くためにこっそり夜中に抜け出すことは結構あるんですけど、どうも今日は絵を描く気にもなりません。
当然といえば当然ですよね。
今でもあの怪物に遭った記憶は鮮明に脳に焼き付いています。
私がこの異世界で初めて出会った脅威……【混沌魔物】。
とてつもなく怖いと思いました。ハイキング中に山の中でヒグマに出会った一般登山客ってあんな感じなんでしょうか?
今考えてもゾッとする話です。もしユナさんと一緒にいなければ、私だって無事じゃ済まなかったかもしれません。
そんな怪物に、ユーくんが戦いを挑もうというのです。しかも一度それで死にかけてるんですよ? 心配になるのも当然です。
私は、空を見上げてアワシマ様に祈りを捧げました。
どうかお願いです。あの子をあの怪物から護ってくださいと……
……いや、勝手ですよね。本来なら、それは私がアワシマ様に期待されてる役目です。アワシマ様に魔王を倒せって言われて転生させてもらったのは私ですから。
その役目をユーくんに押し付けるようなの、我ながら卑怯だと思います。ユーくんはまだ10歳の子どもなのに……
……いざとなれば、私の命に代えてもユーくんのことを護ります。弱っちい私ですが、今では【神気】という武器があります。今のところ、この力でどこまで出来るか分かりませんけど……
「……チーちゃんも、眠れないの?」
「ばひょえっ!?」
唐突に声をかけられて、ビックリして変な声がでちゃいました。振り向くと、そこに寝間着姿のユーくんがいました。
……うん、ユーくんは寝間着姿だと完全に女の子の見た目ですね。普段はズボンを履いて少年っぽいんですけど、ちょっとうっすら幼い色気が出てます。ワンピースタイプのネグリジェで、ふとももがチラチラ見えてます。
「? どうしたの? じっと見て。そんなに変かなぁ?」
「にゃ、にゃんでもないれふ……」
私は顔を真っ赤にしてうつむいてしまいました。うう、普段少年の姿だから全く意識してなかった分、ギャップがすごいです……さすがユナさんの娘、ちゃんと女の子の格好をすればすごく可愛いです。
するとユーくんが私をワキに手を突っ込んで持ち上げて、そのまま自分の膝に私をのせて座りました。
「うひゃあ」
「えへへ、お母ちゃんの真似」
ユーくんがちょっとはにかんだ感じに笑いました。た、確かにユナさんは私をよく膝に載せたりしてますけどぉ……あの人、私を猫か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうか?いや、今の私にはケモ耳あるから猫かもしれませんね私。
でもユーくんにやられるのはめちゃくちゃ新鮮でちょっと恥ずかしいです。
「チーちゃんは、ふわふわしててあったかいね」
「そ、そうですか?」
「それにお日様の匂いがする……」
すんすんと私のケモ耳の裏あたりの匂いを嗅ぐユーくん。めちゃくちゃ恥ずかしいんですが。それ完全に猫の匂いですよね? え、私の体臭は猫なんですか? 苔の仲間かと思ってました。草属性の猫って新作ポケ〇ンの御三家みたいですね?
「ねぇ、チーちゃんって本当にボクと一緒に旅に出るつもりなんだよね? ……魔王討伐の旅に」
「はい、そうですよ。私はどちらにせよ、いつかここを旅立つ予定でした。でも、どうせなら一緒に行きたいじゃないですか」
「怖いこと、たくさんあるかもしれないよ。あの鹿みたいな化け物がたくさん出てくるかも……」
「そうかもしれませんね。そのときには役に立たないかもしれませんが……それでも、ついていきたいんです」
はっきり言って、今の私の戦力はユーくんを護ることすらおこがましいです。足手まといになるでしょう。でも、それでもユーくんを一人にするのはなんとなく嫌です。
だって、いくら強くてもまだ10歳の子どもですよ? 私と違って全くスレてない、優しい子……逆に言えば、悪人からしたら騙しやすいカモみたいな子です。
この世界の倫理観がどんな感じかは知りませんが、こんな子を一人にするのは不安しかありません。
せめて、この子が信頼できる仲間を得るまでは一緒にいたいです。
……なんて偉そうなことを言いましたけど、実力が伴わないうちはただの寄生でしかないですね。保護者として頼りないです、私。
「そっか。本気なんだね」
「ユーくんが嫌なら……やめますけど」
「ううん、嫌じゃないよ。嬉しい。でも……そうだね、仲間になるんだったら話すべきかもしれないなー」
「何をですか?」
「ボクがどうして魔王討伐しようとしているか……だよ」
ユーくんが意を決したように言いました。えーと、それは以前聞いたような……私は思い出しながら聞き返します。
「えっと……英雄譚の勇者ヤマトに憧れてとか言ってませんでしたか?」
「ちがうよ。あれは嘘なんだ」
「えっ、ユーくんでも嘘をつくことあるんですか!?」
「あはは、ボクもちょっとは嘘つくよ! お母ちゃんみたいでしょ?」
ユーくんは笑います。おおう……ユーくんは純粋無垢かと思ってたらこんな面も持つとは……意外性がありました。ユーくんも嘘を吐くんですか? 明るいボクっ子だったので、あんまり嘘つかなそうなイメージでしたけど……
「ボクね、お母ちゃんが大好きなんだ」
「うん、すごく仲良しですよね」
ユナさんとユーくんは、反抗期も無くてとても仲良しの親子に見えます。微笑ましいですよね。でも、ユーくんは首を横に振りました。
「ううん、多分……チーちゃんの思ってるよりずっとお母ちゃんのことが……ユナのことが好き」
唐突に母親を名前呼びするユーくん。そう言ったユーくんの頬が、少し赤らんでるように見えました。
えっっっっ? な、なんですかその反応??
ま、まるで恋でもしているように思えるんですけど!?!?
混乱してる私をよそに、ユーくんは話を続けます。
「ボクが憧れてる本当の勇者は……お母ちゃんなんだ」
「えっ、ユナさんって勇者だったんですか!?」
「ううん。ボクが勝手にそう思ってるだけ。お母ちゃんは昔の話はいつも適当に話すから、よく分かんないんだ」
「まぁ、そうですよねー。ユナさんらしいです」
とは言いつつ、私は少しだけユナさんに聞いてるんですけどね。ユーくんの父親のこととか……でも、口止めされてるんですよね。まぁ、あんまりよろしくない話だから仕方ないかもしれません。
「でも、なんとなく分かるんだ。お母ちゃんが色んなところを旅をしてきて、色んなものと戦ってきたこと。お母ちゃん、嘘の合間にポロッと本当のことも言うから」
「そうなんですか? もはや何がウソでホントかよくわかんないですね」
「チーちゃんもお母ちゃんから昔の話聞いたりした?」
「えっと……どうでしょうね、あははー」
子どもには聞かせられない話なのでなんとなく誤魔化しましたが、ユーくんはクスクス笑いました。
「あー、やっぱり聞いたんだ……」
「えっ、なんで分かったんですか!?」
「反応でバレバレだよー。でも、それも嘘かもしれないよ?」
「ええっ!? そうなんですか!?」
「わかんないけどねー」
「どっちなんですか!?!?」
「えへへ、そういうところも好きなんだ」
おおう……わけがわからないよ。
まっすぐで正直者なユーくんは嘘つきなユナさんとは似ても似つかないと思ってましたけど、なんかこう……既に色々と片鱗を感じますね?
「……ボクの勇者はお母ちゃんだよ。世界で一番、強くて可愛くてカッコよくて優しくて……ちょっと嘘吐きなお母ちゃん。英雄譚は好きだけど、勇者ヤマトよりお母ちゃんの方に憧れてた。だから、それに釣り合うボクになりたいんだ」
「ユーくん……」
「ボクは今のまま護られるだけの子どもでいたくない。誰よりも強い最強の勇者になって、魔王を倒して……ユナに認められたい。そして……ユナと結婚するんだ」
「え!? 結婚!?!? なんでですか!?!?」
いきなり話が飛躍しましたね!? 母と娘で結婚ですか!?
ちょっと倫理的にアレですよね!?
「だって、昔お母ちゃんに『結婚して』って言ったら『魔王を倒したら結婚してあげる』って言ってたもん」
「それいつもの嘘じゃないんですか!?」
「嘘じゃないよ。もし嘘だって言われたら、ボクが本当にさせるもん。言った方が悪いんだもん」
ユーくんに真顔で返されました。目がガチです。ええっと、ちょっと覚悟がガンギマリになられておられる?
この子、まだ10歳児ですよね?
ゆ、ユナさーん? この子どう育てたらこんな子になったんですか??
「えと……失望した? 勇者を目指す理由がこんなんで……」
「いえ……色々と衝撃すぎて正直ちょっとよく分からないです……」
「だよねー……ボクもこんなこといきなり言われたらちょっと困るかも……」
ユーくんが少し不安そうにつぶやきます。私を抱く腕が少しこわばっていました。
「でも……これから本当に危ない旅が始まるんだよ。チーちゃんも見たでしょ、混沌魔物」
「はい……正直めちゃくちゃ怖かったです」
「ボクもね、初めて遭ったけどすっごく怖かった。でもね……これからの旅はあんな化け物がたくさんいると思う。だから……不純な動機かもしれないけど、チーちゃんには先に言っておきたかったの。失望したなら……無理して一緒に来なくても……」
「何言ってるんですか? 行きますよ。一緒に」
私は即答しました。ユーくんのマザコンの強さは意外でしたが、それとこれとは話が別です。ユーくんは目をぱちくりとさせました。
「私は貴方の為なら何でもするって言ったじゃないですか。あのときの気持ちに嘘はありませんよ」
「チーちゃん、どうしてそこまで……?」
「命を救われたってのはあるでしょうけど……何よりも、貴方やユナさんのことが好きだからですよ。大好きな人の為になら、何だってやりたいんですよ」
ここに来てからもう半月は経ちました。一緒に暮らしてるうちに、二人が私にとって第二の家族みたいな存在になってきました。
思えば、前世の家族には親不孝をしました。
既に成人して独り立ちをしている身なので、親離れは済ませていたわけですけど……それでも親より先に逝くなんて、きっと悲しませてしまったでしょう。
正直、出来るならば今すぐに謝りたいくらいです。
ですが、もう私は新しいこの世界に転生したのでもう会えません。この世界でこれから生きていかなければならないんです。
……とはいえ実は少し期待しているんですけどね。アワシマ様に会えたらそこらへんなんとかしてもらえないかなーとか。せめてお盆の季節は帰れるといいなーとか、あっちの世界の漫画とか読める方法ないかなーとか……
まぁそれは未来への希望なのでともかく。
ここで出来た第二の家族を私は大事にしたいんです。お礼を言ってハイサヨナラで済ませたくないんです。ユナさんも、ユーくんも、最高に可愛い私の家族です。
いや、二人ともめっちゃ可愛いので、ちょっとおこがましい気がしてきました。なんかすみません、私なんかで。
現状あんまり役に立ってない居候のチーちゃんです……
「まぁ、何でもするとは言いましたが、出来ないことの方が多いので迷惑めっちゃかけそうですけどね……弱っちいですし……」
「……ううん、嬉しいよ。チーちゃんが来てくれたら、きっとこの旅も楽しいよ! それに、チーちゃんは弱っちくないと思う! ボクを助けてくれたもん!!」
「そ、そうですかねぇ~……?」
「たぶん、チーちゃんは勇者を助ける聖女様だよ!!!」
「え?」
私が……聖女??? また新しい設定出てきましたね? この間は獣人王国の姫って言ってませんでしたか? 聖女とは一体……?
いや、よく異世界ファンタジーでありがちの聖女なんでしょうけど。キャラ合ってますかね、私?
まぁ勇者よりはマシな気もしないでもないですけど……中身ロリエロ同人作家なので、清楚さは突き抜けてどん底ですよ?
一応貞操だけは処女ですけどユニコーンにめっちゃ嫌われそうです。
「よーし! ボクがあの鹿倒したら! 一緒に旅に出るぞー!! 魔王倒すぞー! おー!!」
「お、おー!!」
ユーくんが夜空に腕を突き上げます。私もノリでなんとなく突き上げます。
なんだかモヤモヤと抱いていた不安が少しだけ晴れて、なんとなくやれる気分になってきました。
というかユーくん、いくらなんでもぶっちゃけすぎですよね。無敵ですか? これも幼女の純粋さと無鉄砲さがあるからこの勢いがあるんですかね?
ふふふ、いいじゃないですか母娘百合! 私は二人の仲を応援します!!!
そして次の日、ユーくんは【"狂嵐の奈落鹿"ラグナディア】と対峙しました。




