Lo18.あれから1年経ち、過酷な修行を乗り越えた私たちは……
ユーくんが装備を整えています。いつもの布装備ではなく、今回は堅そうな革を使った防具を身につけています。触ってみましたが、実際堅いです。コチコチです。ていうか重いです。ハードレザーってこんなに重いんですか?
「おお……この防具、なんか良さげなやつですね?」
「ええ、良さげなやつよ」
「この革って何の革なんですか? 何かすごい魔獣の革だったりしませんか?」
「牛かカバかサイか……たぶん何かよ」
「めちゃくちゃアバウトですね!?」
ユナさんはめちゃくちゃアバウトでした。でも見た目の仕上がりがスタイリッシュでカッコいいんですよね。なかなかのブランドものと見ました。お高いんでしょう?
ゲームでは革の鎧なんて序盤の雑魚装備でしたけど、私の元いた世界だとハードレザーは高級品ですからね。革の靴だけでも2~3万するんですから、有名ブランドで革の鎧なんて買ったら20~30万してもおかしくないんじゃないですか? グッ〇に革の鎧売ってますかね?
「お母ちゃん、こんなのまで用意してくれてたんだね!」
「これは昔、とある有名盗賊団の頭目が使っていた防具で……」
「そういうエピソードいらないよ!? というかどう見ても新品なのに汗臭そうなエピソードつけないでよ!!! 普通に貰ってもめちゃくちゃ嬉しいからね!!!」
はい、いつものしょうもない嘘です。ユーくんも流石に汗臭い盗賊団の頭目エピソードは嫌だったようです。(というかどう見ても盗賊のおっさん用のデザインじゃないですよね)
そこはユナさんが昔暗黒四天王を倒すのに使ってた装備ってパターンで良かったのに。まぁ見た目完全に新品ですけど。
「金属鎧にしなかったのは何でですか? 重いからですか?」
「んー、革も結構重いわよ? まぁ、理由としては好みかなー。金属鎧はガチャガチャ音立てるから苦手なのよね。ほら、音を立てると暗殺するときに不便でしょ?」
「暗殺はしないよ!?!?」
「それに、革オンリーじゃなくて金属板もちゃんと仕込んでるわよ。そのせいでちょっと重くなったけど」
「一番良い装備ですか?」
「一番良い装備よ。ここらへんで用意するにはね」
なるほど、一番良い装備ですか。これなら「そんな装備で大丈夫か?」と聞かれても「大丈夫だ、問題ない」って答えてもいいんじゃないでしょうか?
ユーくんが革の鎧をつけて飛んだり跳ねたりしています。
「重くないんですか?」
「ちょっと重いよ! でも全然平気! なんでか分かんないけど!!」
「レベルが上がった分、力もついたみたいねー」
「おお……レベルってすごいんですね!」
ユーくんはレベル3からレベル4に上がったのですが、なんか明確に力がついたっぽいです。私もレベル1つ上がってるんですけど、あんまりよく分かりません! 個人差があるんですかね?
とにかく、これで大剣【伝説の魔剣ユナ・ブレード】を背負えばフル装備のユーくんの完成です! 先日のノーマル片手剣と布装備とは雲泥の違いです!
「これなら勝てる……よね?」
ユーくんは少し不安そうに言いました。無理もないことです。まだ、あの鹿への恐怖が拭えていないのでしょう。ユナさんはそんなユーくんに微笑みながら言います。
「……あの敗北から1年、ずっと鍛え続けてきたでしょう? あなたなら大丈夫よ」
「1年も経ってないよ!? 1日だよ!!」
はい、とりあえず1日は時間を貰いました。とはいえ1日です。ユーくんは素振りで大剣の動きを確かめたり、神気を出したりしてました。決戦前なので、体力を消耗するハードなトレーニングは出来ません。軽く確認みたいなものです。それでも、大分コツをつかんだようですけど。
私もユーくんが頑張っている間、何か出来ることはないかと考えました。そうしたら思いつきました。戦いで直接役に立たなくても、神気を使って何か出来そうだなと。
とりあえず1日の間、遠隔で神気を動かせるかどうか試してました。うーん、ちゃんと操作できるのは2~3mくらいですかね? ただ出すだけなら飛距離は伸びますけど、あんまり遠くまで出すと折角集中して出した神気がバラバラに拡散してしまいます。
モヤモヤしてる薄い魔瘴なら拡散した神気でも通用しそうですけど、ユーくんに張り付いてたようなベットリとした濃い魔瘴には力不足でしょう。結局近距離で一気に流し込むのが正解な気がしますが、当然その分危険は増します。
ですが、もしあのときみたいにユーくんが濃い魔瘴にやられそうになったら即座に近くまで行って助けるつもりではいます。神気レスキュー部隊です。必要あれば駆けつけます!
「ユーくん! 大丈夫です! 私がついています!!」
「え? チーちゃんもついてくるの?」
「あるぇー? 何か普通に来ないと思われてたパターンですかこれ?」
「……え? 違うの?」
「違いますよ! ユーくんの行くところなら、いつでも私も行きますよ!! 私もユーくんパーティの一員です!!」
あんまり期待されてなかった模様ですけど、とりあえず存在感アピールしておきます。するとユーくんは思いがけない顔で呆けていました。
「そっか……そっか。いつの間にかパーティ組んでたんだ……」
「いやいやいや、ユーくんの旅についていくって言ったのはそういう意味ですよ!? 仲間外れにしないでください!!」
「……うん! ありがと! チーちゃん!! これからは仲間だね!!!」
「はい、仲間です!!!」
ちょっと微妙な反応されたような気もしますが、ごり押しで仲間認定もらいました。ユーくんも神気を使えるようになったとはいえ、私の方が一日の長がありますからね。いざとなったら役に立つこともあるかもしれません。
……もし役に立たなかったらそこらへんに捨てておいてください。パーティー追放されないように頑張ります!
「でも今回は危ないから下がっててね、チーちゃん」
「はい……」
うん、とりあえず私は今のところ戦いには必要ないんですよね。今回は後方レスキュー部隊なので。
「お母ちゃん、チーちゃんのことをよろしくね」
「心配いらないわよ~」
「それじゃ、行ってくる!」
そう言ってユーくんは駆けていきました。離れてても、混沌魔物の気配はなんとなく分かります。私だけではなく、ユーくんも感じ取っていたようです。私の感じてた方向と同じ場所を目指していました。
……てっきり私だけが超感覚に目覚めたと思ってたのに、違ったんですね。ぐすん
私もユナさんに抱えられながら出発しました。一応、護身用に【お父さん棒】は所持しています。ただ、私が歩くと気配が漏れて狙われる危険があるそうなので、ユナさんが代わりに動くそうです。相変わらず、猫みたいに抱かれています。実は私は猫だった……?
ユナさんは全く音を立てずに歩いていきます。普通は木の葉とか踏んづけてカサカサ音が鳴るはずなのに、不思議です。ユナさん、あなた忍者か何かですか?
「そろそろね」
「……はい」
空気に含まれる魔瘴が濃くなり、おぞましい気配がどんどん強くなっていきます。先行したユーくんが立ち止まりました。
目の前に黒い魔瘴をまとった巨大な怪物鹿がいました。




