Lo17.伝説の魔剣ユナ・ブレード
"狂嵐の奈落鹿"ラグナディア……それがあのとき遭った鹿の名前です。(ユナさんが名付けました)
それにしても「奈落鹿」って二つ名、「奈良の鹿」みたいな感じしますよね。狙ったのでしょうか? でも奈良を知らなければカッコよく聞こえるのかもしれないです。
とにかくめちゃくちゃデカくて象みたいな鹿でした。多分体重1トン越えています。地球最大の鹿、ヘラジカ以上ですね。ヘラジカ見たこと無いですけど。
まぁ私が言いたいのは、「そんなデカいやつに幼女が勝てるわけないだろ!」ってことです。
しかし……
「お母ちゃん……あの鹿、ボクが倒してくるよ!」
ユーくんは決意したように言いました。あれ!? なんでですか!?
「あら、どうして? あなたが何もしなくても、私がなんとかするわよ?」
まぁそうですよね。あれを何とか出来ると断言するユナさんも若干ヤバい気がしますけど、おおむね私も同意見です。
あれは無茶です。普通の人間が敵う相手じゃありません。でも、ユーくんの決意は固かったようです。
「ボクは強くなりたいから! だから……お母ちゃんに護ってもらうだけの子どもじゃないって証明するよ」
「で、でもユーくん! 一度死にかけた相手ですよ!! めちゃくちゃでっかくて強いですよ!! 勝てる見込みがあるんですか!?」
「正直、わからない。でも、それでもボクは……ここで勝たなきゃいけないんだ」
「……その言葉を待っていたわ!」
「えっ……? えええええっ!? どういうことですかああああ!?」
私は思わず叫んでしまいました。なんでユナさんはユーくんが戦うことに賛成なんですか!?
私はもちろん反対します。ぶっちゃけゲームでいうとあんなの適正外レベルですよ! 負けイベントのボスです。終盤で強くなった頃に倒しに行くやつです。
「ユナさん、さっきまでは無謀を諫めるようなことを言ってましたよね!? 何でさっきと真逆のことを言ってるんですか!?」
「んー、そりゃ前提が変わったら言うことも変わるわよー」
「ど、どういうことですか……?」
「可能性がゼロなら止めるけど、今はもう無謀ってほどの挑戦じゃないってこと。分かるでしょ?」
「それってつまり……どういうことですか???(2回目)」
どういうことなのかまるで理解できてない私のケモ耳をユナさんは微笑みながら引っ張りました。あうあー!
な、なんでですか!? なんかダメでしたか私!?
「あのときと状況が違うでしょー? まず1つ目、ユーくんはレベルアップしてる。2つ目、あの鹿は怪我を負って弱っている。そして何よりも重要なのが3つ目……ユーくんが神気を使えるようになったってこと」
ハッ!? ユーくんが神気が使えるということは、魔瘴をまとった混沌魔物への対抗手段を手に入れたということですか!
「つまり……それはあのときとは状況が違うってことですね!?」
「チーちゃん、それさっき私が言った」
ユナさんは私の耳を引っ張りました。あうう、耳はやめて、耳は!
「そっか……これでボクも……」
「で、でも、本当にそれで勝てるんですか? まだ目覚めて間もない力なのに、いきなりボスにチャレンジとかリスクがありますよね?」
「んー、確かにそれだけでは足りないわ。だからいいものをあげる」
「いいもの……?」
そういうと、ユナさんはリビングの隅にある床板をカコンと外しました。はわわ、外れるようになってるんですかそこ。そういうギミック、かっこいいです!
「ユーくんの使ってるのは普通の片手剣でしょ? それじゃあの鹿を狩るには攻撃力が足りないわ。ああいう大物を狩るには……これくらい使わないとね」
床の下から出てきたのは、鞘に収まった1mを越える大剣でした。
ユナさんがすらりと鞘を抜き放ちます。紅い刀身が綺麗な片刃の大剣です。
「この剣……かっこいい!!」
「はい、めちゃくちゃかっこいいです!!」
ビジュアル的には【勇者の持つ聖剣】というより、【ダークヒーローの持つ魔剣】みたいな感じです。綺麗ですけど、紅い輝きがそう見せるんでしょうか?
でも方向性は違えどカッコいいことは間違いないです!
「ユナさん、これは……!?」
「これは昔私が【暗黒四天王】の一人を倒すときに使っていた魔剣よ……」
「あんこくしてんのう!?」
「嘘よ」
「嘘なの!?」
流石ユナさんです。シリアスな場面でも息をするように嘘を吐きます。台無しです。
「これをあげるわ。もう私には無用なものだから」
「お母ちゃん……」
「確かチーちゃんは父親ゆかりの【お父さん棒】を持っていたわね。ならば私からユーくんに渡すこの剣の名前は……【お母ちゃん剣】よ!」
「お母ちゃん剣!? え、ダサい……」
先ほどまでキラキラしていたユーくんのテンションが【お母ちゃん剣】でだだ下がりでした。というか、何気に私の【お父さん棒】もディスられてませんか!?
ユーくんは気を取り直して、剣を持ち上げます。紅い刀身はキラキラしています。それにしても大きい。ユーくんの身長ほどありそうです。
暗黒四天王を倒すときに使っていたかどうかはともかく、ゲームだと終盤で手に入りそうな武器です。それを軽々と持ち上げてるユーくんも力持ちですね。
「【お母ちゃん剣】はちょっとアレだから、別の名前をつけるよ! ……うん、この剣はお母ちゃんの名前から取って……【伝説の魔剣ユナ・ブレード】だよ!!!」
「おお……なんか一気にカッコよくなりましたね! ユナさんの剣、ユナブレード!! いい名前です!!」
「【伝説の魔剣ユナ・ブレード】だよ! 【伝説の】をつけなきゃ駄目なんだからね!」
「二人とも私の名前を連呼するのやめて……」
おお、ユナさんが珍しく恥ずかしがってらっしゃる? なかなか可愛いですね。でもホントにカッコいい名前じゃないですか、魔剣ユナ・ブレード。【伝説の】をつけるかどうかは別として。ユーくん、こういうセンスは意外と良いんですね。
「……ちょっと外で素振りしてくる!!」
「いってらっしゃい~」
ユーくんは大剣を手にしてテンションマックスのまま外に出ていきました。
さっき泣いた子がもう笑う。ユーくんの切り替えはめちゃくちゃ早いようです。
「……いいんですかね、本当に」
「んー? なにがー?」
「ユーくんが全く敵わなくて死にそうになった相手ですよ。今戦わなくてもいいじゃないですか。もっと力をつけてからでも……」
「まぁそうねー。あの剣使っても負ける可能性の方が高いわねー」
「そう思うなら、どうして……」
私が抗議するようにそう言うと、ユナさんが何故か私を持ち上げて抱きました。猫を抱くような抱き方です。猫抱きです。なんで???
「まぁ、何もしなかったら多分10年か20年そこらでこの世界は終わるからねー」
「えっ?」
ユナさんはとんでもないことを言いました。この世界が終わる……? 10年か20年かそこらで??
「ここらへんまで混沌魔物が現れたのは、本当にヤバいのよ。ここらは少なくとも数百年間は混沌魔物が出現した記録は無いわ。魔王の影響がそれだけ強まってるってこと」
「そんなにヤバいんですか!?……えと、ちなみに嘘じゃないですよね?」
「……チーちゃーん?」
ユナさんは返答の代わりに私のほっぺをつまみました。私のほっぺ、めちゃくちゃ伸びます。みょいーんと伸びてます。いたいです。
「この世界にはね……勇者が必要なの。魔王を倒す勇者が。あの子が本当に魔王を倒すつもりがあるなら、こんなところで負けちゃいけないの」
ユナさんは私のほっぺたをつまみながら言いました。
この世界には勇者が必要……ですか。たしか、アワシマ様は私のことを勇者みたいに言ってましたね。あのときは何故私が勇者にならなければならないのか疑問でしたが……
正直ここまで切羽詰まった状況だとは思いませんでした。どうやら私の認識が甘かったようです。
……それはそれとして、私は何でユナさんに猫抱きにされてほっぺたつままれてるんですかね? この人、特に理由もなく手慰みにやってませんか、これ?
べ、別に嫌じゃないですけど?




