Lo105.神帝さんちの親子関係
多少のトラブルはありましたが、首都オウカでの日々は瞬く間に過ぎていきます。
そう、まるで試験前の一週間のように……
その日私はなんとなく武器庫に来てました。
そこにはエルフさんがいて、武器や防具に【祝福】とかいうバフをかけてるところでした。
「ひーちゃん。来ましたよー!」
「あらー、ちーちゃんさんじゃないですかー」
私の挨拶に、エルフさんが柔らかな物腰で返します。このエルフさんこそ、この国で一番偉いかもしれない九代目神帝ヒオウギアヤメさんことひーちゃんです。
なお、サクちゃんは彼女の登場で偉い人ランキングからランクダウンしました。よく分からないですけど、現役の方が偉いと思います。
ひーちゃんは偉い人なのに今日も護衛もつけずに不用心だなぁと思いましたが、すぐそばにふよふよ浮いてる【知性ある剣】の戸塚さんがいるので多分大丈夫なのでしょう。なんかオートで動くっぽいので。たぶん敵対したら切り刻まれます。こわひ
先日の式典でひーちゃんがめちゃくちゃ偉い人ってのは分かりましたけど、結局特に対応は変えてません。だって一度フレンドリーに接して許されてるのに、今更畏まった対応するのも変じゃないですか。
もし私が幼女にそういう風に対応を変えられたらつらいです。だから私は幼女らしく、フレンドリーに接しますよ! 幼女だからきっと許されます!!
「ちーちゃんさん、今日は修行は無いんですかー?」
「あと2日後に決戦ですからねぇ。疲れを残さないように完全休養日として過ごすことにしました」
がんばり屋なユーくんも今日と明日はお休みにさせてます。なんか首都を観光したいらしく、ココッテちゃんと一緒にどこか行っちゃいました。デートですね、分かります。
まぁ、真面目な話ココッテちゃんを放置するとトラブルに巻き込まれそうなので……先日のココッテちゃん誘拐騒動も、ココッテちゃんが分かっててわざと拐われたっぽいんですよね。そしてアジトで暴れたと。ココッテちゃん、狂犬です。
一方、インドアな私はお留守番です。いやー、人の多いところ苦手なんですよねぇ。東京とまではいかないですけど、首都だから割と人口密度が高いんです。
あと2日間はゆったり過ごそうと思います。
私はスケッチブックを開き、筆を手に取りました。
「おや、ちーちゃんさんは何をやってるんですか?」
「模写ですね。武器や防具のデザインって参考になるんですよ」
「へー、この子たちも注目されて喜んでますよー」
そう、この武器庫は色々な武器や防具が収納されてます。現世であったコスプレ用の武器ではなく、本物の武器ですよ!
こういうの見るの好きなんですよ。うーん、幼女に持たせたいですねぇ。
「ちーちゃんさんには余裕を感じますねぇ。その様子だと、必殺技は完成したんですか?」
「やったらなんか出来ましたね、必殺技。なんかもうあっさり」
そう、私達は悪神討伐に向けて必殺技を練習してたんですけど、なんか思ったよりあっさり出来てしまったのです。不思議。
まるでメドローアを一発で習得した某大魔道士みたいです。
「私、経験上こういうのは絶対苦戦するタイプなんですけど……なんで神気だとこんなに上手くいくのか不思議なんですよね」
「それは、ちーちゃんさんが絵を描くからじゃないですかねぇ?」
「絵を?」
「神術を使うには強いイメージが必要なんですよ。だけどちーちゃんさんは絵を描くのが得意だから、既に頭の中で具体的なイメージが出来上がってるんですねぇ。そしてそのイメージを実現する為の神気の量も十分あるんです。
つまり、最初から『神術の習得要件』を満たしてるんですよぉ」
「そうだったんですか……」
なんか私がなんとなくで出来てしまう理由が判明してしまいました。確かに、頭の中には既に絵が出来てるわけですよね。後はそれを出力するだけ、と。
「なんか神術って絵を描くことと似てますね……」
「うちの子も絵を描くんですけど、ちーちゃんさんと同じことを言ってましたねぇ」
「なるほどー」
アンコロモチさんも言ってたならそうなんでしょうね。よく分かんないですけど。
じゃあアレですね。ユーくんに私が必殺技を使うときの具体的なイメージを絵にして伝えたのが好を奏したのかもしれませんね。
「そういえば、ひーちゃんはアンコロモチさんと親子関係なんですよね? なのにあんまり一緒にいるところを見ないんですけどなんでですか?」
「うぐっ、痛いところを突かれましたねぇ……」
ひーちゃんが胸を抑えます。あれ、もしかして親子で不仲なんですか!?
「あのー、なんか悪いこと聞いちゃいました……?」
「いやー。別に仲悪いわけじゃないんですよ……たぶん。でも、会っても何か会話が続かなくってぇ……」
「そうなんですか?」
「モチちゃんが早熟なんですよぉ。20歳くらいで親離れしちゃって……」
「それは長命種感覚で早熟であって、人間だと普通ですからね?」
「私自身、結構遅くに出来た子どもなので大切にしたいんですけどねぇ。共通の趣味も無いですし、話すことが……」
「ひーちゃんの趣味って何ですか?」
「無機物と話すことですねぇ」
変わった趣味をお持ちですね……
とにかく、親子でギクシャクしてるのもあれですし、せっかくなら仲良くしてほしいのでお節介ながらアドバイスをします。
私も親不孝しましたからね。
「とりあえず、なんでもいいんで話しかけてみたらどうですか?」
「なんでもいいんですかねぇ? うざがられないですかねぇ?」
「たぶん大丈夫ですよ」
そんなわけでひーちゃんを連れ出して、モチさんに会わせてみることにしました。
モチさんは今日も絵を描いてます。ひーちゃんがそんなモチさんに恐る恐る声をかけます。
「も、モチちゃーん……」
「ん、オカンじゃないっすか。何か用?」
あれ、モチさんの口調違いません!? オカンって呼ぶんですか!?
「モチさんがいつものござる口調じゃない……!?」
「ちーちゃん氏!? あ、あー……あのござる口調は敬意を持ってる方への話し方でござる……」
「敬語だったんですか!? 色々と間違ってると思いますけど!?」
「あと、キャラ付けの濃さを狙っていたでござる……拙者、忍者ゆえ……」
「忍者だったんですか!?」
なんか色々と変な事実が発覚してしまいました。何ですかこの子、属性多くないですか!?
ひーちゃんはそんなモチちゃんに話しかけました。
「あのね、モチちゃん。今日は私とお話してほしいの。何でもいいから……ね?」
「え、いま何でもするって言った?」
「いや、何でもするとは言ってな」
「じゃあ服を脱いで女豹のポーズをしてほしいっす」
いや、なんでですか!? 変態ですか!?
「べ、別に服を脱ぐのはいいんだけど……その、めひょうのぽーずってのは?」
「服を脱ぐのはいいんですか!?」
「まぁ、よくやってますので……」
「よくやってるんですか!?」
とんでもねぇことばかりが判明します。何ですかこの親子!?
「チーちゃん氏、エルフの美少女の全裸は模写に適してるのでござるよ」
「ぜ、全裸ですか!? 下着すら身に付けないんですか!?」
「肝心なところが見えないと意味がないでござる!」
「自分の母親ですよね!?」
「だからいいんでござるが?」
真顔で言うアンコロモチさん。この子、大人しそうな見た目して一番やべーやつです。
「チーちゃん氏も一緒に模写するでござるか? 全裸の四つん這いエルフを」
「じゃあちょっとだけ……じゃなかった! ひーちゃんはそれでいいんですか!?」
「正直モチちゃん以外に見せるのは恥ずかしいんですけど……モチちゃんが望んでるなら……」
「顔真っ赤じゃないですか!?」
「それがいいんでござるが? 300歳越えてるのにこのウブな反応だからやらせる価値があるんでござるが?」
「確かに……じゃなかった! いやいや、流石にひーちゃんとの友情を失いたくないのでお断りします!」
「残念でござる……」
アンコロモチさんが大分鬼畜だと判明してしまいました。ひーちゃんは現役神帝で偉い人だと思ってましたけど、家庭内ヒエラルキーはひーちゃんが一番低かったんですね……
私は二人を残してそっと部屋を退出しました。
……正直、見たかったですね。全裸エルフの女豹ポーズ。友情と天秤にかけることは出来ませんけど。
ま、まぁ親子仲は良好そうなので言うことなしですね!
こういうストーリーの本筋に全く関係のないどうでもいい話ほど筆が進むんですよね。
ちなみに裏設定ですが、神帝の家系はこの異世界でも珍しい超雑種な血筋です。
ヒオウギアヤメはハーフエルフで、アンコロモチはハーフ忍者です。あと獣人とか妖精とか色々混じってます。




