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第32話 決着と再会

 超遠隔の『広域化一点集中身体強化』を発動する事で一転、羆男に対して優位に立ったように見えるカンナ。事実、羆男は想定外の事態に浮き足立っている。


 しかし一方でカンナもまた内心焦りを覚えていた。


(あれで勝たせてくれないのか。)


 渾身のカウンターパンチからの、助走をつけて勢いもタイミングもばっちりだったドロップキック。どちらも完璧に羆男の意識の外側からクリティカルヒットさせた手応えがあり、例え中級クラスのダンジョンのボスモンスターだってこの連携を受ければ頭が潰れるか、そうでなくとも意識を保っている事など不可能だ。それだけの攻撃を受けたというのに、羆男()はまだまだ戦闘継続可能な様子である。それなりにダメージはありそうなのは救いか。


(あまり長くは保たなさそうなんだよね。)


 カンナはタイムリミットが迫って来ている事を悟っていた。魔力がものすごい勢いで消耗しているのだ。明らかに無理なスキルの使い方をした反動であった。


 もともとカンナが『広域化』できるのは、100mぐらい先までだった。それ以上離れた対象には自分のスキルを『広域化』するのも、対象のスキルを自分に『広域化』するのも出来なかった。2年以上このスキルを使い続けて来て、練度は上がっている自覚はあるがこの効果範囲は当初からほとんど延びていない。とはいえユズキ達との検証で、2年前……2人でパーティを組み始めた頃と比較すると数mは距離が広がっているので全く成長の余地が無い部分でも無いなと思っていた。


 だがいまこの時、軽く数kmは離れた……さらに正確な居場所すら定かで無いユズキの『一点集中身体強化』を発動しなければ命が無いという極限状態に陥ったカンナは強引に()()()()()()()()()


 普段、ユズキのスキルを『広域化』する時に感じる魔力(温かさ)を、半径数kmの範囲に対して捜索(サーチ)する。見つけた魔力を『広域化(スキル)』を通して自分に伝える。この奇跡のような神業をほんの一瞬で、ただ一度の失敗も許されない状況で成功させてみせたのである。


 ユズキの方でも少しでもカンナが自分の魔力を見つけやすいようにと加減無しの全開で『身体強化』をするというアシストも確かにあったが、やはりこれは「2人の愛の力」が起こした奇跡である。


 無事に『広域化一点集中身体強化』を発動し、羆男を圧倒したカンナであったが、代償として信じられない速さで魔力を消耗し続けている。


(このまま突っ立ってても、あと2、3分くらいで魔力が尽きちゃうか。)


 ならば攻めまくるしか無い。カンナは姿勢を低くして羆男に迫った。


「……ふっ!」


 懐に入り込むと折れてない方の腕で鳩尾にパンチする。


 ドゥっ!! コンクリート壁にクレーン車の鉄球を叩きつけたかのような鈍い音が大きく響く。


「ぐぅ!?」


 やはり浅い……ダメージは入っているが勝負を決める一撃にはならない。羆男は腕を胸の前で交差させてカンナを捕まえようとする。素早くその軌道から身を逸らすとハイキックを側頭部に叩き込む。


 バシィィィイインッ!!


 モロに蹴りを受けた羆男だが、これも脳を揺らすに至っていない。羆のように太く変形した首が頭部へのダメージを軽減してしまっている。


「その……程度かぁっ!!!!」


 腕を、脚を、これでもかと振り回す羆男。カンナはその攻撃を冷静に躱しつつ、的確に反撃を挟んでいく。しかしダメージの蓄積こそするものの、ダウンに至らない。


 そんな攻防を繰り返し、気付けば2分以上が経過した。カンナが当初設定したタイムリミットまではあと1分を切っている。


 ひと通り急所と言えそうなところに攻撃はしてみたが、相変わらず倒れる気配を見せない羆男。一番効いたのが最初のカウンターパンチだった事を考えると、もう一度意識の外からカウンターパンチを叩き込むしか無いかとカンナは覚悟を決める。


 策は練った。あとはやるだけだ。


 羆男の鋭い連続攻撃を避けつつ、カンナは一度大きく距離を取る。グッと腰を落として正拳突きの構えをとった。


 そんなカンナの様子を見て、羆男は警戒する。これまでは自分の攻撃の隙をついて反撃をしてきた相手が、しっかりとした構えをとった事で何か仕掛けてくる事を悟った。


(だがこれはチャンスでもあるな。)


 相手の方が速いと言いつつ、あんな見え見えの攻撃であれば見て避ける事は出来る。なんなら一発喰らってやればいい……先ほどから何度も攻撃を受けているが、どうせ相手には自分を一撃で倒せるだけの威力は出せないのだ。くると分かっている攻撃なら尚更耐える事が出来る。そうして攻撃の後の隙を突いて今度こそ必殺の一撃を自分が撃ち込んでやる。


「はあああぁぁぁっ!!」


 羆男も神経を集中させ、両脚に力を込めると一気にカンナとの距離を詰める。


 掛け値無しの全力全開の突進。世界に対して自分だけが加速し、時の流れが置いていかれたかのような錯覚にすら陥るほどのスピード。ほら、もう目の前にカンナが迫っており――?


 なんだこれは? ()()()()()()()()()()()。自分の限界は自分が一番よく分かっている。極限状態で周りがスローモーションのように思える事があっても、あくまで感覚的な話であり本当に限界を超えた速さになっているわけでは無い。だが今は違う。そう、感覚が研ぎ澄まされて周りが遅く見えているのではなく、本当に――相対的にという意味で――周りが遅くなっているのだ。


 明らかに自分の限界の何倍もの馬力が出ており、自分の身体の動きの制御すらままならない。しかしそんな事を言ってはいられな……。


 スパンッッッッ!!


 自分の速さに混乱する羆男の顔面に、狙い澄ました正拳突きが撃ち込まれる。そこで彼の意識は途切れた。




「はぁっ! はぁっ! はぁっ! ……ふぅー、何とか成功して良かった。」


 カンナの狙い通りの渾身のカウンターパンチをお見舞いして羆男はその場に倒れ伏した。自分だけでは一撃で倒せる威力を出せないなら、相手にも上乗せして貰えばいい。そう考えたカンナは最後の攻防で『広域化一点集中身体強化』を羆男も対象に含めた。それによりカンナの攻撃には、羆男が限界をさらに超えて何倍にも加速されて突っ込んできた分の勢いが加わったのだ。


「思った以上に速かったから、タイミングが合わなかったらどうしようって一瞬ヒヤリとしたけど。」


 相手がさらに強化されてしまうのでは? という部分についてはカンナは全く心配していなかった。確かに『獣化』された状態に『広域化一点集中身体強化』が上乗せされれば手が付けられない強さになるだろう。……まともに動く事が出来れば、の話であるが。

 『広域化一点集中身体強化』はあまりにも全身が強化されるため、慣れていないとまずまともに動けない。この状態では普段の感覚で歩こうとしただけで地面を強く蹴り出しすぎてしまって足が浮いてしまい、そのまますっ転ぶ。そこから立ちあがろうと地面に手をつくと今度は強く押しすぎて反動で後ろに転がるといった具合だ。車の運転に例えるなら、アクセルをほんのちょっと踏んだら一瞬で100km/hまで加速するようなものである。そんなマシンを初見で乗りこなせる人間なんているわけがない。カンナとユズキだってずっと訓練してきた結果が今につながっているのだから。


 つまりこの作戦に対するカンナの心配は「ものすごい速さで突っ込んでくる羆男の顔面にタイミング良くパンチを叩き込めるか」だけだったのだが、無事に成功させる事が出来たわけだ。


 羆男は意識を失い『獣化』が解除される。カンナはふぅ、と息を吐くと遠くで倒れているイヨの元に駆け寄った。


「イヨさん!」


 イヨも気を失っては居るが、呼吸はしており脈も正常。命に別状はなさそうだとカンナはとりあえず一安心。こういう時は無理に動かさない方がいいんだよねと思いとりあえずその場に仰向けに寝かせておく。


「……襲撃者はまだ残ってるんだよね。」


 プレハブ小屋から見えた相手は3人組だったはず。2人倒したからあと1人残っている。……隠れている仲間がいるかもしれないが、少なくともまだ終わっていない事に間違いはない。


 カンナは注意深く周囲を警戒しつつ、まだ『広域化一点集中身体強化』を解除しない。タイムリミットとして見積もった3分は既に過ぎており、もはや魔力は枯渇してる。頭がガンガン痛み始めて目の前が霞んで来た。


「魔力がすっからかんになるとこんな風になるんだね……」


 1秒ごとに頭痛は酷くなり、目の前も霞んでいく。眠気とは違うが強制的に意識が薄れていく。


「でもまだ……、あとちょっと……」


 既にまともに動くことすら困難になり、その場にうずくまってしまう。そして本当の限界が訪れる寸前、ついに、待ち侘びた声がカンナの耳に届いた。


「カンナっ!!」


 広場の入り口には肩で息をするユズキの姿があった。カンナはなんとか片手を挙げてユズキに無事を知らせてみせる。


 ユズキは入り口からカンナ達までの数十mの距離を一瞬で詰めると、そのままカンナを抱きしめた。


「良かった、間に合った!」


 泣きながらカンナの無事を喜ぶユズキ。カンナは残された力を精一杯振り絞って笑う。


「うん、来てくれてありがとう。……ユズキ、愛してるよ……」


「うん、私も……。って、カンナ!? ちょっと、大丈夫!?」


 ユズキに感謝と愛を伝えたところで、カンナもついに力尽き、そのまま意識を失った。

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