第20話 カンナの誕生日(後編)
「「ハッピーバースデー ディアカンナ〜♪」」
ユズキとカンナママがケーキを前にしたカンナに歌う。カンナは照れながらも嬉しそうに2人の歌を聴いていた。
「「ハッピーバースデー トゥーユー♪」」
歌の終わりに合わせてカンナはロウソクを吹き消した。ユズキとカンナママが楽しそうに拍手する。
「……嬉しいけど、やっぱりこんな風に歌ってもらうのは恥ずかしいね」
「まあ大人になるとこんな風に歌を歌われる機会は無くなっちゃうからね。子供のうちだけの特権という意味では、カンナも今年が最後かしら」
「お母さん、私今日で18歳になったんだけど?」
「あなたがお腹から出て来たのは日付が変わるギリギリだったから大丈夫よ。あと5分遅かったら明日が誕生日になるところだったからよく覚えてる」
「つまりあと数時間は17歳って事なのね」
「し、知らなかった……」
カンナママは笑ってホールケーキからロウソクを抜くとカットして取り分けてくれる。
「せっかくユズキちゃんも来てくれたから久しぶりにロウソク立てて歌ったけど、最近はカットケーキを食べるだけだったものね。なんか懐かしくなっちゃった」
「小学校の頃まではミサキやトモも一緒になってお誕生会やってたんだよね」
中学生以降、集まらなくなったのは成長してお互いの距離が変わってしまったからか。或いは父親が居なくなった事で家族同士で集まらなくなった事が要因かもしれないなとユズキは思ったがさすがに追求はできず、代わりに自分の思い出を話す事にする。
「私は子供の頃からこんな風に家族で誕生日パーティってやったことなかったから新鮮で楽しいわ」
「そうなの?」
「えっと……」
まずい事を言わせてしまったという空気になるカンナとカンカママ。ユズキは慌てて手を振って否定した。
「あ、大事にされてなかったとかそういうのではなくて! プレゼントは貰ってたし夕食後にケーキも用意してあったけど、我が家は普段通りの食事しつつデザートにケーキを食べて、食後にプレゼントを貰ってお終いってスタイルだっただけです」
「なんだ、びっくりしたよ」
「……じゃあ次のユズキちゃんの誕生日には私とカンナで歌ってあげないと!」
ホッとした表情で笑うカンナ達。
「ええっ!? それは恥ずかしいなぁ……」
「ユズキの誕生日は9月だよね、盛大にお祝いするから楽しみにしておいてね!」
この親子はどこまで本気なのだろうか? たぶん100%本気なんだろうな。そう思うとユズキは今から恥ずかしい気持ち半分、楽しみな気持ち半分になった。
「さて、じゃあプレゼントタイムと行きますか! どっちから行く?」
「私はカンナと一緒に買いに行ってて、何か分っちゃってるのでお母様からどうぞ」
「あら、そう? じゃあカンナ、おめでとう」
カンナママからプレゼントの箱が手渡される。
「ありがとう! 開けて良いよね?」
言いながらラッピングを剥がして行くカンナ。綺麗な箱から出て来たのは香水であった。早速フタを開けて香りを確認する。
「……良い香りがする」
「カンナももう大人だからね。こういうオシャレも覚えていくといいわ」
「ありがとう! 大事に使うね!」
ふんわりと笑うカンナママ。カンナは香水の口をユズキにも向ける。「良い香りね」と笑うユズキを見て、早速次のデートで付けていこうと思った。
「じゃあ次は私。はい、おめでとう」
「ありがとう!」
ユズキは紙袋からラッピングされた箱を取り出してカンナに渡した。中身は当然、先日一緒に購入したペアリングである。
「あらあら!」
カンナママはそれを見て楽しそうに笑う。カンナはお母さんに見られるのが少しだけ恥ずかしかったけど、それ以上に楽しみにしていた指輪をもらえる事に心が高鳴った。
「着けるね?」
やや緊張した面持ちで指輪を手に取るカンナ。しかしユズキは自然な流れでカンナの手を取り、指輪を取り上げる。
「左手、出して」
優しく微笑むユズキ。カンナは嬉しくなって左手を差し出した。その薬指にリングがはめられる。
「……似合ってる」
「嬉しいっ! ユズキ、ありがとう!」
指輪をつけた手を見て満面の笑みを浮かべるカンナ。
「カンナ、良かったわね。……急な展開だったけど、我ながら良い写真が撮れたわ」
カンナママは咄嗟にスマホのカメラを構えてユズキがカンナに指輪をはめる瞬間を写真に収めていた。ほら、と言って見せて来た写真は、まるで恋愛ドラマのワンシーンのようだった。
「ちょっと恥ずかしいです」
「ふふ、母親の前でこんな事しておいて今さら恥ずかしいとか無いでしょ。あとで写真は送ってあげるわね」
「お母さん、ありがとう! ……あれ、ユズキ。まだ何か入ってる?」
カンナはユズキから空箱と共に渡された紙袋を持ち、中にまだ箱が一つ入っていることに気付いた。
「それはチェーンね。カンナの事だから学校にまで着けて行きたいって言い出すんじゃ無いかと思って。それをリングに通して首から下げれば制服の下に着けておけるでしょ?」
「あ、そうか。流石に学校に指輪を着けて行ったら目立っちゃうもんね」
早速首からリングを下げてみるカンナ。
「それもかわいいわねー」
「うん、似合ってる」
「自分だとよく見えないのが難点だね」
ほらっとユズキが写真を撮って見せると満足気に頷くカンナ。仲睦まじい2人を、カンナママは優しく見守っていた。
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パーティも終わり片付けは「今日くらいはお母さんお皿を洗ってあげる」というカンナママのお言葉に甘えたカンナは、ユズキと共にカンナの部屋に居た。
「えへへ、どう?」
カンナママからもらった香水をほんの少しだけ付けてみて香りを試すカンナ。
「うん、良い香り。私もこれ好きかも」
クンクンと匂いを嗅ぐユズキ。こんな風に顔を近付けて匂いを嗅がれると少し恥ずかしいし、妙な気持ちにもなってくる。
「ユズキ……」
「……お母さんもいるんだから、えっちな事はしないわよ?」
「むぅ、せっかく18歳になったのに、残念」
イタズラっぽく笑うカンナ。ユズキは仮にここでカンナを押し倒したら階下にカンナママがいても喜んで受け入れそうだよなぁ。でもこの子ってあの時の声が大きいから、さすがに実家ではするのは無理だわと自制する。
ユズキはカンナから離れると部屋を見回す。相変わらず可愛い小物に囲まれていて、女の子らしい部屋だと思った。ユズキはどちらかと言うと部屋をシンプルにしておきたい性質でファンシーな小物などを買わないので、カンナの部屋に来ると毎回ドキドキする。
「ん、またクマが増えてる」
戸棚に並ぶ10cmほどのクマのぬいぐるみに新しい仲間が増えているのを指摘する。別にお小遣いで
何を買っても構わないのだけど、カンナはへへっと誤魔化すように笑ってくっついて来た。かわいいやつめと頭を撫でてあげる。自然と見つめ合い、唇が少しずつ近づき……重なる直前に、ユズキのスマホが着信を告げた。
「……いいところで」
カンナは少しムッとした表情でユズキから顔を離した。
「ごめん、確認だけするね」
こんな時間に電話がかかってくるのは余程緊急な連絡である可能性があるため、スマホを確認する。しかしディスプレイに表示された名前を見て露骨に嫌な顔をする。
「出ないの?」
「うん、ほら」
そこにはヒカリの名前が表示されていた。
「………………」
露骨に嫌な顔をするカンナ。
「実はここに来る前にマンションの前でたまたま会ってね……」
着信を拒否したユズキは、そのまま夕方ヒカリに会った時の事を説明する。
「……それで、ユズキは話を聞くなんて言っちゃったんだ」
「借金のせいで夜のお店に行かないとなんて言われたら、おそらく嘘だろうとは思ってても強くは突き放せなくって……ごめんなさい」
気不味そうに謝るユズキ。カンナだってユズキが悪いわけでない事はわかっている。
「別に、そういう優しいところもユズキの良さではあると思ってる。けどね?」
カンナはユズキの前に立つと、そのままベッドに押し倒した。
「誕生日くらいは、他の女の子は忘れて私の事だけを考えてて欲しいなって」
「もちろん、カンナの事が一番大事だよ」
「一番大事、じゃ足りないの。「カンナだけ」じゃないと嫌なの」
そう言って強引に唇を重ねてくるカンナ。ユズキは抵抗出来ず、その舌で口の中を蹂躙された。
「……んん……、ぷはぁ! カ、カンナ……」
カンナは妖艶に笑うと、ユズキのシャツのボタンを外し始めた。
「ちょ、ダメだよ……、お母さん下の階にいるんだよ……?」
そう言って抵抗するユズキの口をもう一度塞ぐ。
「だから、私以外の事を考えないで。……お母さんの事もダメだよ」
カンナは強引にユズキの服を脱がせ、下着も剥がしてしまうとそのまま丁寧に愛撫する。ユズキは気持ち良さに悶えつつ、階下のカンナママに声が届かない様にバレないようにと必死で声を抑える。
「ん……、あっ……、はぁ……、んんっ……!」
「ユズキ、かわいい」
ユズキが間違った事をしていない事は分かっている。それでもヒカリに対する嫉妬の様な感情は消せないし、どうしても突き放しきれないユズキの対応にもモヤモヤする。なにより、ユズキを信じている癖にそんな感情を抱いてしまう自分自身に対する嫌悪。そんな負の感情が少しずつ蓄積していたのだ。
やり場のない不安から目を背けるため、カンナはユズキを求める。ユズキに触れるたび、カンナは自分の心が満たされていくのを感じた。愛する人の身体に触れる事で独占欲が、自分の思い通りに反応して快感に悶えながらも必死で声を抑える姿に支配欲が満たされていく。
十数分後、カンナはようやく満足してユズキを解放した。ユズキはしばらく動けなくなるほどヘトヘトになってしまった。辛うじてタオルケットを掴み身体を隠すと、恨めしそうにカンナを睨む。
「……カンナのいじわる」
「ふふ。私の事で頭いっぱいになった?」
「うん……、もうカンナの事しか考えられない」
「よろしい」
満足のいく返事を聞くとカンナはにっこりと笑った。
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ようやく体力が戻ったユズキと共にリビングに戻ったカンナ。
「じゃあ、今日は帰りますね」
「あら、お泊まりはして行かないのね」
「明日も平日ですので……」
「それもそうね。じゃあ気を付けて」
ユズキは丁寧に礼をすると玄関に向かった。カンナは見送りに向かう。
「じゃあカンナ、また明日ね」
「うん。またね」
去っていくユズキの背中に手を振ったカンナ。そのままユズキが車に乗り込むのを見送ると、リビングに戻った。
「ユズキちゃん、行った?」
「うん。お母さんもお片付けありがとう」
「どういたしまして」
何事もなかったかの様にソファに座ったカンナに、カンナママは声をかけた。
「ねえカンナ、ちょっとだけいい?」
「ん、なあに?」
「ユズキちゃんと恋人同士である以上はお互いに好きって気持ちが高まるのはお母さんも理解してるわ」
「……う、うん」
「カンナも今日から成人になったわけだし、大人同士の付き合いにあまり口を出すつもりもないんだけどね。だからこそ節度は持って付き合いなさい」
「えっと、それってどういう意味で……」
ドキドキしながら訊ねるカンナ。カンナママは真剣な顔で一言。
「全部言わなくても分かるでしょ?」
バレてた! そう思ったカンナは顔を真っ赤にしてクッションに顔を埋めたのであった。
そんなカンナを見てカンナママは「鎌をかけてみたけど、この反応を見るに本当にやってたのか……」とビックリする。まあ釘は刺せたみたいだし、今後は気を付けてくれるでしょうと思うことにした。
やはりカンナママは、カンナより一枚も二枚も上手であった。
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