第14話 ヒカリとの再会
渋谷ダンジョンでいつも通り訓練を終えた柚子缶の4人。
「2人とも『広域化一点集中身体強化』状態でだいぶ動けるようになって来たね。」
「やっと体が慣れてきたって感じかな。」
「一度コツを掴むと早いはず。私とカンナの時もそうだったから。」
「イメージの話なんだけど、なんか身体の動かし方がそもそも違うんだね。自分の体を動かすっていうより意識を切り離して操縦するって感覚。」
イヨが手をグーパーしながら話す。
「高原、そんな小難しく考えてるの? こうグッとしてパッとな感じでいけない?」
「私もそんな難しい事考えて無いなぁ。練習してたら何となく動けるようになってたし。」
「操縦って感覚はちょっと分かるかも。意識の切り替えって感じかしら。」
「カンナさんとフユちゃん先輩は感覚派で、私とユズキさんが理論派という事だね。」
「まあ動ければどっちでもいいよ。」
「いやいや、こういう事象を理論立てて考えていくのが楽しいんじゃん! 感覚派と理論派の違いはどこだろうみたいな。例えば血液型でタイプが分かれるとかだったら面白く無い? ちなみに私はAB型!」
「私もAB型だよ、知ってるでしょ。」
「奇遇ですね、私とユズキもAB型なんですよ。」
「全員ABなんだ。高原の血液型理論が一瞬で崩壊したね。」
楽しそうに笑うマフユ。
「べ、別に例えばの話だったし!」
あははと笑いながらダンジョンから出た4人はそのまま受付で探索終了を告げ、駐車場に移動する。
「さて、夜の打ち上げに向けて準備しますか!」
「このまま買い出しに行っちゃおうか。」
車に乗り込んだ4人。戦闘服のインナーは流石に脱げないが、アウターの方はささっと車の中で着替えてしまう。
「いつものスーパーで良いよね?」
「うん!」
スーパーに到着する。
「フユちゃん先輩、そういえばティッシュとトイレットペーパーとついでにシャンプーの買い置きが切れてたよ。」
「お前はなんでこのタイミングで言うかな……。」
「横のドラッグストアを見て思い出したんだい。」
「買ってきていいよ。食材の方はユズキと買ってくるから。」
「ありがとう! えっと……。」
「いつもの生ビールだよね?」
「はい! あざます!」
満面の笑みを浮かべるイヨとこっそり口の端を上げるマフユを見送って、カンナとユズキはスーパーに向かった。
「マフユさんってイヨさんに仕方ないなあって感じだったけど実は一番たくさんお酒を飲むよね。」
「だからさっき嬉しそうだったじゃない。1ダースで足りるかしら。」
お姉さん組のビールを確保したのち、慣れた感じでポイポイと食材をカゴに詰めて行くカンナ。スーパーをぐるりと一周する頃にはカゴはいっぱいになっていた。レジに向かおうとする手前で鞄に手を入れると顔を青くした。
「……ゴメン、お財布車に忘れてきちゃった。」
「私のお財布あるわよ。」
「ポ、ポイントカードがね……。」
弱々しく呟くカンナ。億万長者のくせにこの辺りの感覚は庶民なんだよなぁ。ユズキは笑って車のキーを渡した。
「お会計せずに待っててあげるから取りに行っていらっしゃい。」
「うう、ごめんね。」
未精算のカゴをユズキに預けるとカンナは慌てて財布を取りに行った。ユズキはレジコーナーの横のベンチに座ってカンナを待つ事にする。
「しっかりしてるようで抜けてるんだから。」
とはいえそんなところも可愛く思えるのが惚れた弱みだ。なんとなくカゴに入った食材を眺める。あの子はこれでどんな料理を作ってくれるのだろう。すっかりカンナに胃袋を掴まれているユズキは、晩御飯が楽しみで仕方がない。訓練でお腹は空いているが、それも最高の調味料になってくれるだろうと考え小腹を満たす事は我慢する。
そんな風にカンナの手料理を想像してニヤニヤしているユズキの前に1人の女性が立った。
「もしかして、ユズキ?」
「はい?」
不意に声をかけられたユズキは間の抜けた声で返事をした。慌てて意識を現実に戻し、前に立つ女性を見上げる。
「やっぱりユズキだ! 久しぶりだね!」
「……ヒカリ?」
「うん。こんなところで会うなんて偶然だね!」
そこに立っていたのはかつてユズキが親友と認識しており、高校卒業と共に違う道を歩む事になった相手……夜月ヒカリであった。
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「あれ、カンナさんどしたの?」
車に戻ったカンナはその前で待っていたイヨとマフユと合流した。2人はドラッグストアで買い物を済ませた後「どうせすぐに戻ってくるでしょ」と思って車の前で待機していたのだ。
「私、お財布忘れちゃってて。ユズキから鍵借りて取りに来たの。2人の荷物もしまおうか。」
ラゲッジを開けてティッシュボックスとトイレットペーパー、シャンプーコンディショナーその他諸々のストックをポイポイと放り込んでいく。
「たくさん買ったね。」
「フユちゃん先輩がせっかく車で来てるんだしって……。」
「こら、バラすな!」
「あはは、でもこの車大きいからいっぱい荷物入るもんね。」
まだまだ荷物は入るのでカンナの食材を入れるスペースも十分にある。
「さて、ユズキを待たせてるし行ってくるね。」
「待って、私たちも行くよ。」
「荷物くらい持たせて下さいな、と。」
3人は連れ立って店内に戻る。
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「いやー、こんなところで会うなんて偶然だね! ユズキは何してるの?」
ヒカリは当たり前のようにユズキの隣に座り話しかけてくる。
「ん? 夕ご飯の買い出し。」
「それは見ればわかるって。まだ探索者続けてるの?」
「あー、うん。そうだね。」
「北の誓いは解散したって聞いたけど、ユズキはソロで?」
「ううん、別のパーティ。……ヒカリこそ何してるの?」
「私は大学4年生になったから、絶賛就活中。今日は姉貴の家に泊めてもらって明日は朝から面接3つハシゴだよ。」
「ふーん。頑張って。」
「なーんかユズキ、冷たいね。前はもっと楽しそうに話してくれたじゃん?」
「別に冷たくしてるわけじゃないけど……。」
ユズキに言わせれば以前と変わらない調子で話しかけてくるヒカリの方がよく分からない。気不味さみたいなものは無いんだろうか。無いんだろうなぁ。
「もしかして3年前のこと、まだ根に持ってる?」
「別に、もう今更だと思ってるよ。」
「よかったぁー! 仲直りできずに別れたしその後連絡くれなかったし、嫌われたままだったらイヤだなって思ってたんだよね。」
そういってユズキの手を取ってブンブンと振るヒカリ。
「じゃあこれで仲直りっ!」
ニカッと笑うヒカリ。そういえば、この人懐っこい笑顔に弱かったんだよなとユズキは思った。
「ユズキ、お待たせー。……えっと……?」
カンナが戻ってきた。イヨとマフユも居る。カンナはユズキの隣に座るヒカリを見て戸惑っている。するとヒカリはパッと立ち上がった。
「なんだ、お連れさんが居たんだね。じゃあ私ももう行くから。ユズキ、またね! 今度メッセージ送るから!」
そう言って手を振るとそのままカンナ達が来た方向と逆に向かってさっさと行ってしまった。
「……お友達?」
「なのかなぁ?」
「なんで疑問形なの?」
「うーん、ちょっと複雑というか……とりあえず会計済ませちゃおうか。あの子のことは後で話すよ。」
ユズキはよいしょ、とカゴを持ち上げた。
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「あ、お姉ちゃん!」
ヒカリは姉を見つけて手を振った。
「ヒカリ、お正月ぶりね。元気してた?」
「うん。お姉ちゃんこそ。もしかして仕事帰り?」
「そうそう。4月から新しい部署で、まだペーペーだから休日出勤も有るの。まあ振休も貰えるんだけどね。」
「お姉ちゃんの会社みたいな大きなところでもGWに仕事あるのかぁ。私は就職できるかなぁ。」
「まあ頑張りな。応援してるわ。ご飯食べた? まだなら食べに行こうか。奢ってあげるわよ。」
「やった、さすが社会人! ……お義兄さんはいいの?」
「……あの人は今日も遅くまで仕事して帰ってくるんじゃ無いかしら。」
「忙しいんだね。」
「そうなんじゃない?」
姉の様子に違和感を覚えたものの、ヒカリは深く追求せずに切り替えることにした。
「じゃあ私、お寿司食べたい!」
「お寿司かぁ……ま、いっか。」
「やった! お寿司お寿司〜。」
「やたらテンション高いわね。何かいいことでもあった?」
「そう! さっきそこのスーパーの前通ったらユズキが居てね、高校卒業する時にちょっと気不味くなってたんだけど、無事に仲直りできたんだー。」
「ユズキって昔仲良かった天蔵の?」
「そう、そのユズキ。今でも探索者やってるって言ってた。」
楽しそうにユズキの事を語るヒカリ。姉はふーんと興味なさそうに聞いていた。
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