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エピローグ

 妖精譚(フェアリーテイル)は解散し、ハルヒとナツキとアキは探索者を引退、地元に帰って行った。鎌倉ダンジョンでの騒動からしばらく配信も出来なかった柚子缶だが、明日久しぶりの探索配信をする予定だ。


 コラボをしていた期間は妖精譚側の配信に出演という形だったので、柚子缶としての配信はおよそ4ヶ月ぶりという事になる。


 新生柚子缶の4人は久しぶりの配信について入念に準備を進めてきた。暫く間が空いてしまった事で良くも悪くも注目される久しぶりの配信。そこできちんと視聴者の心を掴めるように動画の構成もしっかりも考えてある。


「……とりあえずこんな感じでいいかな。」


「うん、いいと思う。」


「これで視聴者のみんなもついてきてくれるといいな。」


「じゃあ明日、頑張ろう!」


 準備も終わり、最後に手を重ねておーっ!と気合を入れた4人。あとは明日、やりきるだけだ。


「……じゃあ今日は早めに休みますか。フユちゃん先輩、帰りましょ。」


「うん。ユズキちゃん、カンナちゃん、また明日ね。」


「はい、お疲れです。」


「また明日よろしくお願いしま……よろしくね!」


 カンナはどうしても出てしまう丁寧語を言い直す。自分とも最初はこんな感じだったなとユズキは少し懐かしい気持ちになる。


 先に帰ったマフユとイヨを見送り、ユズキとカンナは2人きりになる。明日は朝から探索に向かうので、カンナは今日、ユズキの部屋にお泊まりである。


「明日、頑張ろうね。」


 ユズキが笑いかけるとカンナはうん!と頷いた。


「晩御飯、準備するね。」


 とてとてと台所に向かうカンナ。


「手伝おうか?」


「うん、ありがとう!」


 柚子缶事務所兼ユズキの自宅となった新築タワーマンションはキッチンも広々で、小柄な女性……ユズキとカンナであれば、2人でキッチンに立ってもお互いに邪魔になる事なく調理できる。


「ユズキ、お塩取って。」


「はい。」


「ありがとー。あと入れ忘れてるのないかな……。」


「鷹の爪入れた?」


「あ、忘れてた!」


「ニンニクは?」


「あー、入れた方が美味しいんだけど……。」


「だけど?」


「口臭がね、あとでチュー出来なくなっちゃう。」


「……それは困る!」

  

 2人で仲良く並んで調理していると、なんだか新婚さんみたいで楽しい気分になってくる。手際良くクリームパスタとサラダを完成させるとダイニングに運ぶ。


「いただきます!」


「どうぞ召し上がれ。」


「……おいしい!」


「ふふ、お口にあって良かったよ。」


 お母さん相手に練習した甲斐があった。週末はこうして手料理を振る舞う事が多いので平日に色々と試しているのである。好きな人を自分の手料理で虜にしたい。カンナはそんな価値観を持つ女の子であった。


 食事を終え、ささっと洗い物も済ませるとカンナは紅茶を淹れてリビングで待つユズキのもとに向かう。


「全部やらせちゃって、ごめんね。」


「ううん、私がやりたくてやってるから。はい、お茶どうぞ。」


「……ありがとう。」


 ティーカップを渡し、2人並んでソファに掛ける。紅茶を飲んでホッと一息。


 ここ1、2ヶ月は妖精譚のメンバーと『広域化』によるスキルの習得をしたり、新生柚子缶としての準備に奔走してきたため、なんだかんだでこんな風に2人きりでまったりするのは久しぶりだ。明日は探索だし、2週間後には札幌への長期遠征でまた忙しくなる。札幌遠征中はホテルを用意して貰える事にはなっているが、カンナは長時間『広域化』を使うと魔力を消費した反動かその後猛烈に眠くなるので、遠征中はこんな風にユズキと一緒にまったりできる時間は取れないだろうと思っていた。


 となればこの機会を逃すわけには行かない。甘えられる時に甘えておかなければ、ユズキは他の子に目移りしてしまうかもしれない。どうやって甘えようかな、そわそわ、そわそわ。


 そんな挙動不審な動きを始めたカンナに、ユズキは優しく手を広げた。


「おいで?」


「……うんっ!」


 遠慮なくユズキの胸に飛び込むと、そのまま手を首に回して唇を求める。


「ちょっと、カンナったら。」


「……ダメ?」


 ユズキは困った様な笑顔を見せると目を閉じて唇を差し出す。カンナは夢中でキスをした。


「ん、んん……。ふぅ、ぁん……。」


 なんとカンナはキスをしている最中は鼻で呼吸をすれば良い事についに自分で気が付いた。しかし興奮して鼻息が荒くなっている事にはまだ気付いていない。ユズキはそんなカンナが可愛くて、愛おしくて、背中に手を回してぎゅっと抱きしめた。


「ふぁ……。ユズキ……。」


 唇を離し、トロンとした目でユズキを見るカンナ。ユズキはこの目に弱く、「カンナが成人するまでは手を出すわけにはいかない」という良識のあるお姉さんとしての意思がこれまで幾度も揺らぎかけていた。


 今日もこのまま押し倒したい衝動を必死に堪え努めて冷静を装うと、カンナから身体を離した。


「明日も早いし、今日はそろそろ休もうか。先にお風呂に入る?」


 しかしカンナはブスッと不機嫌な様子でユズキを見る。


「カンナ?」


「ユズキは、いつになったら襲ってくれますか?」


「へ?」


「私は、ずっと待ってる。今日だってカワイイ下着を着けてきてるし。……今日だけじゃない、もうずっと前から「今日こそは」って思ってる。」


「だってあなたまだ未成年だし、」

 

「あとほんの3ヶ月だよ!? それで何が変わるの!?」


「それは……。別に何かが変わるってわけじゃないけど……。」


「私、お化粧だって頑張ってるし、かわいい洋服を着てるし、髪だって面倒でもしっかり結ってる! 料理も掃除も洗濯も頑張ってる! あと何が足りないの!? 年齢だけ!? それがそんなに大事なの!?」


 カンナは感情をぶつける。ユズキが大好きだから、自分から求めるだけでは足りないくて。ユズキの方から自分を求めて欲しい。でもユズキはいつだって大人な態度で最後の一歩を踏み出してくれない。

 だからカンナは頑張った。可愛くなろうと努力をした。家庭的になろうと頑張った。探索者として一人前になろうと頑張った。


 それでもユズキは自分を求めてくれない。18歳になったら? それだけでいいならこれまでの自分はなんなの? 大好きな人に求めて欲しいから頑張るのは無駄な事なの?


「年齢なんて関係ないじゃん! 私を……、カンナを見てよっ!」


 気付いたら涙が溢れそうになる。愛しくて、悔しくて……そのままユズキに抱きつくカンナ。涙を見せない様にその胸に顔を押し付ける。


 ユズキはそんなカンナを優しく撫でた。


「カンナ、ごめんね。そんな風にあなたを追い詰めちゃってたんだね……。私、カンナが大好きよ。出会った頃よりもずっとずっと、好きになってる。最近はどんどん可愛くなってるのも、勿論気付いてた。」


「ユズキぃ……。」


 胸から顔を離してユズキを見上げるカンナ。真っ赤な目をしたカンナに、ユズキは微笑む。


「だけどね……私、少し焦ってたの。カンナはどんどん可愛くて魅力的な女の子に変わっていくのに、私はカンナと出会った頃から変われてない。今は少しだけ早く探索者をやっていたからお姉さんぶれるけど、もうじきカンナに追い越されちゃうんじゃないかなって。」


「そんな事ないよ。ユズキもどんどんキレイになってる。ユズキのこと、大好きな私が言うんだから間違いない。私、ユズキみたいになんでも出来るお姉さんになりたくて……、ユズキの妹じゃなくて、隣に居て誰からも釣り合ってるって思われる様になりたいんだもん。」


「ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。」


 カンナのおでこにキスをするユズキ。


「……きっともう少しだけ、お姉さんで居たかったから、カンナは未成年だって自分にも言い聞かせてたのよ。カンナは私の隣に立とうとこんなに努力していたのにね。

 臆病でごめんね。……ユズキはカンナが思うほど何でもできるお姉さんじゃないの。いつだって不安で、寂しがりで、でも頑張らなきゃって精一杯虚勢を張ってお姉さんぶってて。最近はマフユさんとイヨさんが頼りになるからどんどん自信もなくなってて。

 そんな中でカンナに溺れたら、もう顔を上げられなくなるかもしれないって思ってる、弱虫な女なのよ。」


 だんだん声が震えてくる。カンナの前では強くて頼りになるお姉さんで居たかった。だけど一度弱音を口に出したらもう止まらなかった。カンナには頼りにされていたい、でも隣で支えてもらいたい。ギリギリのバランスで揺れている、そんな本音はもう隠せなかった。


 カンナはそんなユズキを見て、1ミリだって軽蔑する事はない。だって私がユズキを支えてあげるんだから。ユズキの頬に両手を添えると、真っ直ぐにその目を見つめる。


「ユズキはユズキだよ。マフユさんともイヨさんとも違う、私にとってはあなただけ。」


「カンナ……。」


「私に溺れちゃっていいんだよ。ひとりで顔を上げられなくても、2人で力を合わせたら何度だって上を向ける。私はユズキとそんな関係で在りたい。」


「カンナ……、カンナッ!」


 ユズキはソファにカンナを押し倒すと、泣きながらキスをする。何度も何度もカンナの名前を呼びながら夢中で唇を重ねる。そして気が付けば口から頬、そして首へとキスをする場所が下がっていった。鎖骨に唇を這わせたところで、ほんの少し冷静になったユズキの動きが止まる。


「ユズキ、来て……、お願い。」


 カンナの言葉がユズキの最後の理性を壊す。ユズキは荒々しくカンナの服をたくし上げると、その豊満な胸に下着の上からかぶりつく様にキスをした。


 カンナは少しだけ恥ずかしそうに、頬を染めるが、すぐに嬉しそうに笑ってユズキを受け入れる。


「ユズキ……、好き。大好き。」


 柚子缶が新しく生まれ変わる前日……2人だけの柚子缶としては最後の夜となるこの日、カンナとユズキは初めて身体を重ねた。最初は戸惑いながら、徐々に熱く、激しく、艶かしく。お互いの本音も弱音も全て曝け出したから、身体以上に心が深く繋がった。精も根も尽き果てた2人はお互いに強く手を握りしめ、生まれたままの姿で眠りについた。


 それはこれまでの柚子缶への決別で、新しい柚子缶として歩んでいく決意の表明、2人がこれからも強い絆で結ばれて迫り来る困難に立ち向かっていくための儀式であった。

これにて第2章完結となります。


これまで毎日更新をしてきたのですが、ここに来て執筆のストックがゼロになったので暫く書き溜め期間に入らせて頂こうと思います。


3章もおおまかな起承転結は出来ているのですが、書きながら公開していくと先のストーリーで矛盾が出たり文章や物語の質がどうしても落ちるのでしっかりと納得のいく物語をしばらく書き溜めてから投稿を再開したいと思います!


カンナとユズキの物語のラストシーン自体は決まっています。途中で放り投げる事なく、最後まで書き切る所存ですので、柚子缶との再会を楽しみに待っていただけると幸いです。


「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

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