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第25話 6000億円返済大作戦

 告げられた額の余りの多さに、呆然とするユズキ。


「6000億円……そんなに払えるんですか?」


「まさか。もちろん2人にそんな額支払えるわけ無いわ。」


「それじゃあ……。」


「まあ適当な仕事をしつつ少しずつでも返済していくしかないわね。弁護士に話を聞いてみたけど、自己破産しても免除されるかは難しいって話だったみたいだし。」


 そもそもひとり3000億円なんて、探索者を続けていても生涯かけてそんなに稼げ無い人が大半なのに、ライセンスを剥奪されたハルヒとナツキにはなおさらどうしようもない額である。


「ちなみにパーティを解散したのは、請求された時点で所属しているパーティの資金があるとそれは問答無用で没収されて賠償に充てられちゃうから。ちょっとズルい話だけど先に解散届を出しておいたから、資金の残り……カマクラバクフからのバックアップ報酬を入れると4億円ちょっとあったんだけど、それは4人に等分されたの。だから私とフユちゃんの口座に振り込まれた1億円ずつは取られずに済むってわけ。」


「つまりハルヒさんとナツキさんはその1億円も返済に充てられて、あと2999億円ずつの借金ですか……?」


 1億円。とてつもない額ではあるが、借金が多すぎて雀の涙である。


「そう言うことね。一応返済期限として2ヶ月間の猶予は貰っているけれど、それが過ぎたら財産という財産を差し押さえられちゃうわ。いくらなんでも真っ当に稼げる額じゃ無いからどうしようかって言うところね。」


 アキはお手上げのポーズをとった。


「あの、鎌倉ダンジョンのボスを倒した魔石や素材、ダンジョンコアの残骸とかって売れてないんですか?」


 カンナはせめてなにか方法は無いかと考え、差し当たって先日のボスの素材を売る事を提案した。少しでも補填になればという思いだ。


「あれは売ってないというか、私達には売れないのよ。」


「どうしてですか?」


妖精譚(フェアリーテイル)が所有権を放棄したから。今回のボスの魔石、素材、ついでにコアの残骸あたりは現時点で全部柚子缶のものなの。」


「へ?」


「さっき言ったパーティ資産から勝手に借金返済に充てられるのを事前に防ぐための処置ね。脱出前にイヨちゃんが端末でさっさと所有権放棄の処理しておいてくれたわ。」


「今は全部鎌倉支部の倉庫に私の名前で預けてあります。ユズキさんが退院したら一緒に取りに行きましょう。」


「そ、それを売ってハルヒさん達の借金に充てて下さい!」


 ノータイムで叫ぶカンナと頷くユズキ。


「気持ちは物凄く有難いけど、遠慮しておくわ。」


「ど、どうしてですか……?」


「おそらく全然足りないから。ボスの魔石も素材も、コアの破片もこれまで取引された事がないから買い手の言い値で売るしか無いんだけど、それでも他のダンジョンのボスの相場とかで考えると、魔石で2000億円、素材が500億円ぐらいがいいところかしら?」


「ボス素材は純ミスリルなんですが、鎌倉ダンジョンが無くなったので日本でミスリルが手軽に採れる場所が無いって事を売りにすればもうちょっとふっかけられるかも。それでも精々1000億円になれば良い方かな。コアの方は魔石と性質自体が違うからエネルギー原として欲しがる企業はないと思うけれど、研究用に欲しがるところがあるかもってところ。いくらの値がつくかは全く未知数だけど、残りの借金を返すには至らないんじゃないかなと思います。希望的観測もこめて、いったん1000億円で売れると見込んでおきましょうか。」


 イヨが捕捉してくれる。つまりボスの魔石が2000億、素材が1000億、コアの残骸で1000億円だ。


「それだけあれば、2/3も返せるじゃないですか!」


「2/3って言うとすごいんだけどね。借金が6000億円から2000億円に減ったとしてもどうしようもない事には変わらないのよ。」


 アキの言う通りだった。そもそも探索者業ができなければ仮に5900億円返せたところで残り100億円を返しようが無い。まあ借金の肩代わりは禁止されて居ないのでそこまで減らせればなんとかなりそうではあるが、残り2000億円の捻出は流石に難しい。そもそも柚子缶のパーティ資金もカマクラバクフのバックアップ報酬を除けば2000万円程度だった。


 正直言って金の規模がインフレし過ぎてて全くもってピンとこないレベルではある。


「なんとかならないですかね……? せめて借金を返し終わるまでは探索者を続けさせてもらえないかとか。」


「一応それも交渉はしてみるけど。結局このまま一般企業に就職したところで金利すら回収出来ないんだし、だったら首輪を付けてでも稼がせた方が協会にとっても前向きじゃない? 例えばあと20年間、二人が探索者としてひたすらお金を稼ぐために活動すればもう数億円は稼げるわけで。」


「でも、協会は実利より面子を大切にする面もあるんだよ。お姉とハルヒさんを探索者として働かせた方がメリットがあると分かっていても、一度とりあげたライセンスをもう一度与える事はしないと思う。」


「フユちゃんの意見も尤もで、結局のところあちらの匙加減。それとコアを壊すって重罪だけど滅多に起きない事だし、ここで甘さを見せたら今後同じような事が続くかもって考えて、だからこそ厳粛に対応される可能性が高いのよね。……まあ結局姉さんとナツキさんの問題だし、2人がそこまで気にしなくて大丈夫よ。」


 アキとしては若い2人にお金の心配をさせたく無いので気にするなと声をかける。これはこの場に居ないハルヒとナツキも同意見である。一方でカンナとユズキとしてはそうですかと言うわけにもいかない。


「あの場には私達も居たんですから、関係無いなんて言えないです!」


「何か出来ることって無いですかね……?」


 カンナは後ろに座っているイヨとマフユを見る。イヨは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑う。


「実はなんとか6000億円用意出来る案が2つほどありまして。」


「あるの!? 2つも!?」


 イヨの言葉に、アキの方が驚いて目を丸くした。


「うん。どっちの案もうまくいく保証は無いけど、併せ技一本もありならほぼ何とかなるかなっていうのが。でも良いんですか? ユズキさんもカンナさんも、ハルちゃんとナッちゃんの個人の借金なんて気にしなければ鎌倉ダンジョンの成果を売るだけで既に一生遊んで暮らせるだけのお金になってますよ?」


「なんでそんなこと聞くんですか? ハルヒさんとナツキさんを犠牲にしてまでお金なんて欲しく無いです。」


「うん。名義は2人の借金かも知れないけど、私達全員で返さないと。だって仲間じゃ無いですか!」


 数千億円のカネを前にして、仲間――それも結局正式にパーティを組むに至らなかったというに――のためにそれすら要らないという2人。


 アキとマフユ、そしてイヨはこの純粋な心の持ち主である二人に出会えた事に感謝する。それと同時に、やはり今後彼女達が探索者を続けるつもりであるのなら、汚い大人から自分達が守る必要があるとも感じた。


「じゃあまず1個目の案ですね。さっき言ったボスの魔石、素材、コアの破片に加えてコレを売るって作戦です。」


 そういってイヨが取り出したのは綺麗な藍色の輪っかであった。


「コレってなんですか? ……バングル?」


「お、さすがユズキさん。実はコレも先日のボス討伐の戦利品の一つです。破片に紛れて落ちてました。」


「と言う事は純ミスリルで出来たバングルってことですか? 確かに珍しいし高価ではありそうですけど、他の素材と比べてそこまで高く売れるとも思えませんが……。」


 バングルをイヨから受け取ったユズキは繁々と眺める。単純にアクセサリとしての評価は高そうだが、別に他の残骸を加工して同じものを作れないわけでも無さそうだ。


「そう思うでしょう? これっておそらくボスの魔力が強烈に染み付いている……もしくはこれ自体がボスに魔力を与えていた可能性すらあるぐらいのアクセサリで、実は国宝級のシロモノです。」


「国宝!?」


 思わずバングルを取り落とすユズキ。間一髪、隣に座っていたカンナが空中でキャッチした。


「ナイスキャッチ! まあ滅茶苦茶頑丈ですから仮に落としてても傷一つ付かないですけどね。」


 イヨがカラカラと笑った。


「そうかも知れないけど、やっぱり国宝なんて言われるとおっかないですよ……。それでコレって何がすごいんですか?」


「よくぞ聞いてくれました! アキちゃんの『鑑定』によると、身に付けた人物のスキルを1段階強化するとんでもアクセサリーなんです!」


 どうだ! と言わんばかりに手を広げるイヨ。


「はぁ……。」


「それってすごいんですか?」


 しかしユズキとカンナのいまひとつピンときていない反応にずっこける。


「うわあ、この凄さが分からない人達……これだからユニークスキル持ちは。アキちゃん、説明してあげて!」


 悔し気なイヨを押し退けて、アキが説明する。


「『鑑定』した結果、正確には「特定のスキルを1段階進化させる。」という効果みたい。」


「はあ。」


「えっとね、例えばフユちゃんがコレを付けている間は『氷魔法』が『上級氷魔法』に進化するし、私が付けると『短剣術』が『上級短剣術』に進化するわ。ユズキちゃんが付けたら『身体強化』は『上級身体強化』に進化して『障壁』も『鉄壁』になるんじゃないかしら?」


「ええっ! それってすごくないですか!?」


「すごいのよ。ボスを倒す事で稀に起こるスキル進化を、コレを付けている間だけとはいえ任意に起こす事ができるんだから。」


「分かってくれたようで良かったです。」


「……こういうのってボスがよく落としたりするんですか?」


「付けるだけで『風魔法』が使えるようになる通称風魔法リングってアイテムが過去に一度、10年ほど前にオークションに出品された事があります。出品者は不明ですが、その時は大企業が5000億円で落札しました。入手経路は不明ですが、おそらくいずれかのボスを倒した戦利品だったんじゃないかって言われていて、もしかするとボスを倒した時にこういったトンデモアイテムが手に入るんじゃないかって言うのがこれまで探索者の中では都市伝説として存在してました。」


「それでイヨさんはこのリングを見つけてピンと来たんですね。」


「もしかしたらって思いましたけど、本物だった時は流石に震えましたけどね。」


「風魔法リングが5000億円の値段がついたって事は、このスキル進化リングもそのくらいになりますか?」


 カンナが訊くとうーんと悩むイヨ。


「分からないっていうのが正直なところです。効果だけを考えたら5000億どころか1兆2兆してもおかしく無いんですけど、逆に評価しようがなくて二束三文の値しかつかない可能性もあるって感じですかね。」


「それでもボスの魔石と素材、コアと合わせて6000億円にはならないですかね?」


「なんとかなる気はします。上手くいけばコレ単体で6000億円で売れるかも知れないし、ボスの素材と合わせて6000億円って言われるかも知れないし……。ただ、私の意見としてはコレを売るのは反対なんです。」


「どうしてですか?」


「色々と理由はありますが、とりあえずすぐに売らなくてもコレの価値はまず下がらないので。むしろこれを有効に使って二人が今後も快進撃を続けるほど、それを支えたこのリングの価値が上がって行くと思います。」


「でもそうすると6000億円の借金が……。」


「そこでプランBです。状況的な事を鑑みてもとりあえず私はこっちをオススメするんですが。」


 なんとイヨは他にも借金を返済する方法があると言う。


「どんなプランですか?」


「はい、カンナさんのカラダを売ります!」


「えっ!?」

「はぁ!?」


 衝撃的な発言に、思わず身体を隠すように身を捩るカンナと、そんな彼女を守るように手で庇うユズキ。


「さしあたって、協会のそれなりに偉い人とコネってありますかね?」


 そんな2人の様子を楽しそうに眺めつつ、イヨは話を進める。

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