第23話 討伐、回収、救出
イヨの死亡フラグは成立せず、ミスリルナイトの復活もボスのおかわりも無かったので、部屋には静寂が訪れていた。
妖精譚のメンバーは、ハルヒとナツキが魔力の枯渇と全身の軽い凍傷。アキは全身に裂傷、マフユは無傷だが魔力が枯渇しており、イヨは1人だけピンピンしているがそもそも戦力外である。
1192→1185は、リーダーのマサトの腕がランスで貫通しており重傷、出血を防ぐために自身の炎魔法で傷口を焼いたがあくまで応急処置でしかなく、顔色はすこぶる悪い。エリカは怪我こそないが魔力が完全に枯渇している。残りの2人の男性はミスリルナイトの初撃で吹っ飛ばされてそのまま意識不明。
そして柚子缶。カンナは全身の凍傷だけで魔力には少し余裕ありだが、ユズキが身体を壁に強く打ちつけてたダメージで意識不明、さらにミスリルナイトを殴りつけた右の拳が真っ赤になって腫れているのでもしかすると指の骨が砕けているかもしれない。
控えめに言っても満身創痍であり、お世辞にもこれ以上は戦える状況ではなかった。
「入ってきた方の出口も開いたけど、とても地上まで歩いて帰れる状態じゃないわね。」
ハルヒが傷を庇いながら口を開く。ちなみにハルヒとナツキ、そしてカンナの凍傷はマフユの冷気を至近距離でもろに受けてしまったためである。短時間で冷気は解除されたため、さほど深刻な怪我ではないが万全のパフォーマンスには程遠い。
ここは6層の最奥部。地上までのルートには様々なゴーレムが徘徊しているので、それらに見つからないように怪我人を抱えて移動するのは現実的では無い。途中でゴーレムに発見されてしまえば今度こそ全滅が濃厚だ。
「魔力の回復は待てないか……?」
「見てもらったから分かると思うけど、私達は前衛過多なパーティだから魔力だけあってもこのコンディションじゃ雑魚ゴーレムだって碌に狩れないわよ。そもそも薬も無いし、この場で魔力の自然回復を待っていたら何人か死ぬわよ。」
ハルヒが重傷者達を指す。アキは意識があり、ぱっと見で命に別状は無さそうだが精密検査をしたらどうなるかは分からない。だが意識の無いユズキとカマクラバクフの男性陣の合計3人は一刻も早く病院に担ぎ込む必要があると思っていた。
「だったらどうする? ここから救援を出しても迎えに来れるパーティがすぐに見つかるかどうか……。」
「ダンジョンコアを壊すわ。そうすればこのダンジョン内の全てのモンスターは活動を止めるから、協会に救援が出せる。」
「なっ……!?」
躊躇なく言い放つハルヒに、マサトは言葉を失う。
「正気か!? 許可無くコアを壊すのは探索者法の中でも重大な違反だ。どんなペナルティがあるか分かっているのか!?」
「分かってるわよ。だけどそんな事を気にしてたら仲間が死んじゃうじゃない。というわけでイヨ、動画は回してる?」
「うん。しっかりと。」
「じゃあここに宣言するわね。私、妖精譚のリーダー、ハルヒの独断で、人命救助を優先して鎌倉ダンジョンのコアを破壊します。その責任は全て私が1人で負う事を宣言します。」
そのままボス……ミスリルナイトが飛び出してきた部屋の奥に歩いて行くハルヒと、その様子を動画に収めるイヨ。部屋に入るとそこは10m四方の部屋であった。その中央には台座があり、そこに虹色に輝く直径30cmほどのオーブがあった。
「これがこのダンジョンのコアね……綺麗。」
「なあ、考え直さないか? これを壊したら何百億……いや何千億円って損害になりかねないぞ。」
「それで仲間を死なせてもいいの?」
「そうじゃない! だけど何か別の方法があるかも知れないだろ?」
「イヨ、妙案ある?」
ハルヒに問われたイヨは静かに首を振った。
「ユズキちゃんやあなたのパーティの二人の容態は一刻を争うわ。悠長に待ってる暇なんて無いのよ。」
そう言って剣を構えるハルヒ。『上級剣術』でオーブ……ダンジョンコアを破壊しようとする。しかし魔力が枯渇しているせいでうまくスキルが発動出来ない。
「……ちょっとさっきの戦闘で無理し過ぎたか。仕方無い、スキル無しで割りましょう。」
「そんなチンタラやってる時間無いでしょう?」
いつの間にか部屋に入って来ていたナツキが声をかける。その右手にはヒビの入ったユズキの剣が握られている。左手でハルヒの剣を取り上げるとそのまま2本の剣を構える。
「――『二刀流』。」
スキルを発動してダンジョンコアに斬りかかる。カンッ! と小気味の良い音を立てて剣はダンジョンコアに突き刺さる。ダンジョンコアはその一撃で真ん中から真っ二つに割れた。
「ナツキ! あなたなんて事を!」
「自分1人で責任を負うなんて、ハルヒにだけ格好いい事させないわよ。私だってサブリーダーなんだから。これで実行犯は私って事で同罪ね。」
「……バカ。」
呆れたように、でも少しだけ嬉しそうに、ハルヒは呟いた。
「さて、このまま協会に救援依頼を出しましょう。重傷5名、軽傷3名かな?」
「もう依頼したよ。ダンジョンコアを破壊するからモンスターももうじき全部消えるって付け加えてね。いまハルちゃんの宣言とナッちゃんが壊すところの動画も送ったところ。……メッセージ返って来た。1時間くらいで到着見込み。『回復魔法』持ちも来てくれるって。」
「さすがイヨ、仕事が早い。」
「さて、救援が来る前に持ち帰るものを選別しましょうか。といってもこの割れたコアとボスの残骸と魔石、あと何かある?」
「そんなもんじゃ無いかしら? 素材はうちの総取りで良いわよね?」
「……そういう依頼だったからな。」
マサトは悔しそうに同意する。まさかボスを討伐できるとは思っていなかったので、バックアップ時の素材は全て妖精譚と柚子缶のものとなる契約だったのだ。ミスリルナイトの討伐に際してエリカの炎魔法による援護も有ったが、そもそも自分たちのチョンボで――知らなかったとはいえ――ボスと戦う状況となってしまったのだ。その上仲間を助けるために妖精譚はダンジョンコアまで破壊している。ここで難癖をつけて分け前を要求するほどの厚かましさは持ち合わせていなかった。
ハルヒ達が広間に戻る。カンナはユズキの隣で泣きながら声をかけ続けていた。マフユとエリカがその横に寄り添って励ましている。
「ユズキちゃんの容態は? ついでにアキも。」
「脈も呼吸も安定しているから命に別状はないと思う。……というか私をついで扱いするな。こっちだって十分重傷だっての。」
アキが冷静にツッコむ。
「ヤバいのはそっちの2人ね。最初の奇襲でほぼ無防備にボスの一撃もらっちゃってるから。内臓を傷めていたら地上まで保たないかも知れないし。」
そういってカマクラバクフの男性二人を指した。
「イヨが救援呼んでくれてる。あと1時間くらいで『回復魔法』持ちも来てくれるって。」
「さすが、コアを壊した甲斐があるわね。あとは彼らの生命力に賭けるしかないか。」
ハルヒは頷くとカンナの元に歩み寄る。
「ユズキ……ユズキ……。大丈夫だからね、すぐに助けが来るからね……。」
大粒の涙をポロポロと流しながらユズキの手を握り声をかけ続けるカンナは、そんなことしか出来ない自分が不甲斐無くてしかたがなかった。もしも先程のボス討伐で『回復魔法』のスキルを覚えていればこの場でユズキを治すことが出来るのに……。生憎そんな都合の良い奇跡は起きていない。
ハルヒに気付いたイヨとマフユ。
「ハルヒさん、カンナちゃんの隣に居てもらえます?」
「いいけどイヨとマフユは何するの?」
「今のうちに拾うもの拾っておきます。怪我が無いのは私達だけなので。」
「ハルちゃんとナッちゃんはここで座ってて。カンナさんもそうだけど、その凍傷も十分大怪我でしょ。」
「……そうさせて貰おうかな。正直身体中が火傷したみたいにヒリヒリしてる。カンナちゃんも痛いでしょ?」
ハルヒが聞くと、カンナは小さく首を振った。
「私はまだ、我慢できるから……。ユズキの方が大変だし。」
「カンナさん、ユズキさんが心配なのも分かりますけど自分の怪我もちゃんと把握しておかないとダメです。悪いところがあるならこの場で応急処置しておかないと後遺症残ったりしますから。」
「あ……、ごめんなさい。でも大丈夫、私も凍傷で全身火傷したみたいになってるぐらいです。」
「それはそれであまり大丈夫では無いと思いますが、まあ仕方無いですね。」
あらよっと立ち上がるイヨとマフユ。エリカがそれに続いた。
「……手伝うわ。」
「いいんですか?」
「ええ。カマクラバクフで元気なのは私だけだし、ちょっとくらい手伝わせて。」
「じゃあお言葉甘えて。」
3人は戦利品の回収を進める。ミスリルナイトの魔石は勿論、そのバラバラになった身体の残骸も出来る限り拾い集めた。
「これ、高純度のミスリル鉱だよね?」
「多分。下手すると100%じゃ無いの?」
「だとするとこれだけで一生遊んで暮らせるわよね。」
ミスリルはダンジョンでのみ採取できる希少鉱石である。ミスリルゴーレムの身体を破壊して持ち帰ればそこから精錬できるが、ミスリルゴーレムでも含有量は5%未満とされている。つまり10kgの部位を持ち帰ったとしても500g程度しか得る事が出来ない。
それに引き換え、ミスリルナイトの破片はざっくり100kg分ほどありこれが丸々ミスリルであったとしたらその価値は計り知れない。
ミスリルは合金に混ぜて武器などに使われるが、3%も混ぜれば十分その強度を高めると言われており、カンナとユズキの剣もミスリルが含まれたショートソードだが重さが大体1.5kgぐらい、そのうち3%なので実はミスリルは50gも含まれていない。それでいて一本250万円もしたと言うことから、100kgのミスリルの値段は50億円……さらに手間と費用がかなりかかる精錬の必要が無い純ミスリルで有ることを考えればもはやその価値を予想することさえ困難だった。
「流石にカバンに入りきらないね。」
「置いていくわけにも行かないし、素材回収委託する?」
「流石に緊急出動対応費で4割持っていかれるのは割に合わないなぁ……私とフユちゃん先輩がここで陣取ってハルちゃん達に改めて依頼してもらうのは?」
「ダンジョン消失までに戻って来れるかな?」
「ああ、消えるまでには数日あるって言うけど奥から崩れていくとかだったら私達は素材と心中か……。」
どうしようかと頭を捻るイヨとマフユに、エリカがおずおずと提案する。
「あの、うちの男共のリュックって50リットルの大型だから、中身全部だしてこの破片を詰めれば3つに殆ど入りきると思う。」
「……いいの?」
「うん。最初に討伐予定だったダイヤモンドゴーレムを倒したら他のゴーレムを倒して魔石を回収するために大きいリュックってだけ。予備の装備は入ってるけど流石に純ミスリルとじゃ価値が違い過ぎるわ。重傷者のリュックに入れちゃえば救援で本人と一緒に地上に運んでくれるはずだし……。」
エリカの提案に顔を見合わせるイヨとマフユ。
「じゃあお願いしちゃいます! 手数料は5000万円で良いですか?」
「そんな、お金なんて受け取れない……。」
「いえいえ、安すぎるくらいかな、と。……ああでもウチっていま持ち合わせがないんですよね。代わりに現物支給でも良いですかね? たまたま妖精譚が持ってるダイヤモンドゴーレムの魔石を5000万円で買ってくれるってパーティがいましてね、そのお金を素材運搬の手数料として貰えると面倒臭い現金の移動が無くなってちょうど良いかなと思うんですが。」
イヨの言葉にエリカはハッとする。イヨはニヤリとシニカルな笑みを見せる。
「……ありがとうっ! ええ、ええ、それで良いわ!」
「いえいえ、お互い様ですから。」
そんな二人の様子を見て、マフユは「高原も協会の人間に負けず劣らずの詐欺師だな」と思った。後々になって金の話で揉めないように、5000万円でさっさと交渉を成立させてしまう。このような状況ではこの場で見積もった50億円の10〜20%、つまり10億円ぐらい要求したところで十分適正と言えるのだが、まるでダイヤモンドゴーレムの魔石を無償で譲るかのようなトークで5000万円で納得させてしまったわけだ。
そもそもダイヤモンドゴーレムの魔石は初めから5000万円で譲る契約だったのでそこは何も変わって居ないし、ミスリルナイトの破片を持ち帰るのはそれはそれ、これはこれである。
だいたいウチっていま持ち合わせがない? お前それ「手持ちの現金がない(口座にはある)」って意味だよな? 思いっきりミスリードさせてるな?
そんな事を考えているうちにイヨは「魔石のやりとりとかで揉めると面倒なのでさっさと記録残しましょ」とか言って専用端末を取り出し、エリカを言いくるめて契約も締結させてしまった。……もちろんマフユも気付いた上で黙っているので同罪と言われれば同罪だが。
「私、高原と友達で良かったよ。」
誰にも聞こえないぐらいの声で呟いたつもりだったがイヨには聞こえたらしい。エリカに分からないようにマフユにウインクしつつシーっというポーズを取った。この強かな友人の事がマフユは嫌いじゃ無い。
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カマクラバクフの男性陣のリュックにおよそ詰められるだけボスの破片を詰めて、入りきらなかった分はユズキとアキのリュックからシルバーゴーレムの魔石を捨てて開いたスペースに押し込んだ。そうやってなんとか素材の回収を終わらせたイヨ、マフユ、エリカの3人。
「あと忘れてるものは……ああっ!」
「な、なに!?」
急に大声を上げたイヨにびっくりするエリカ。
「ダンジョンコアの破片を忘れてました! あれはそんなに大きく無いからフユちゃん先輩のリュックの空きスペースにも入ると思うんで、エリカさんとフユちゃん先輩で取ってきて貰っていいですか?」
「ああ、そういうこと。わかった、行ってくるわ。」
マフユとエリカがコアルームに向かったのを見送ると、イヨはアキの元に移動する。
「アキちゃん。」
「どうしたの、小声でコソコソして。」
「これ、『鑑定』できる?」
「ん? どれどれ……。」
アキはイヨが手に持ってに見せたそれを『鑑定』する。
「……っ!?」
アキは思わずイヨを引き寄せる。その耳元に口を寄せて『鑑定』した結果を告げる。
「……わーお。」
イヨはとりあえずそれをポケットにナイナイした。
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そんなこんなでおよそ1時間。ついに救援がやってくる。その場で『回復魔法』で重傷者の応急処置を実施し、タンカで地上に運ぶ。軽傷または無傷の人間は疲れた身体に鞭を打ち、やっとの想いでダンジョンを脱出したのであった。
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