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第21話 VSボス・ミスリルナイト(前編)

 カンナとユズキは藍色の騎士……ミスリルナイトの攻撃を冷静に見極める。右手に持ったランスの突きと払いを紙一重でかわして何とか反撃を叩き込んでいく。


「硬い! 前回の探索時のシルバーゴーレム戦を思い出すね。」


「私とカンナでは攻撃力が足りないか……。」

 

 ナイトの攻撃はランスの突きと薙ぎ払いだ。攻撃の前に一度ランスを構える動作が入るので、身体強化したカンナとユズキなら構えを見てから避ける事は比較的余裕を持ってできる。ただ2人の攻撃では全くダメージが入らないので、このままではどこかで致命的な一撃を貰ってしまうか、そうでなくともいずれは魔力か体力が尽きてしまう。……とはいえ今はとにかく攻撃を続けるしかない。


「っ! カンナ!」


「うん!」


 ユズキの合図で、騎士から大きく距離を取るカンナ。ナイトはカンナとの距離を詰めようと迫ってくるが、その横から斬撃が飛ぶ。


 ザンッ!


 狙い澄ました一撃は騎士の肩口に傷を付ける。


「ハルヒさん! やった!」


 ハルヒの飛ぶ斬撃ならダメージが入る。その事実がカンナとユズキを勇気づける。不意打ちを受けてぐらりと揺れるナイトに、次はナツキが二刀流で斬りかかる。息もつかせぬ連続攻撃は、こちらもナイトの硬い装甲を貫き、少しずつであるがその身体に傷が付いていく。しかし『上級剣術』と『二刀流』は攻撃力にこそ高い補正がかかるものの身体強化はされないため、高速で振るわれるミスリルナイトの攻撃を柚子缶のように捌く事は難しい。体制を整えたナイトのランスによる反撃がナツキに迫る。


「させない!」


 カンナがナツキとナイトの間に割り込んで攻撃を受ける。カンナからすればこの攻撃をかわす事はさほど難しくないが、ナツキを庇うとなると話は別である。全神経を集中してランスの突きの軌道を見極めてその先に剣を差し出す。


 ガンッと音を立てて剣とランスが交差する。辛うじて攻撃を横にそらしたカンナはナツキを抱えてもう一度ナイトから離れた。


「助かったわ、ありがとう!」


 ひとまず安全圏に移動するとナツキはカンナに礼を言う。


「今の連携を続ければいつか倒せますかね?」


「うーん、このまま一度も攻撃を貰わずにアイツが動けなくなるまで当て続ければ……? あまり現実的とは言えないわね。」


 カンナがミスリルナイトをみると、丁度二発目の斬撃を飛ばしたハルヒに襲いかかるところだった。ユズキが先程のカンナと同じように間に入って庇っている。自分が受けた時は夢中だったけれど、離れて見ると紙一重で攻撃を受けており、見ているだけでハラハラする光景だ。


「……あんまり心臓に良くはないですね。」


「だよね。どこかで受け損ねそう。」


「それに仮に完全に受け切ってても、多分先に限界が来るわ。」


 アキが2人に話しかける。


「あの攻撃を受け続けるには武器の耐久が足りない。カンナちゃんの剣もユズキちゃんの剣も、あと数回、あの攻撃を受けたら折れるわよ。」


「『鑑定』?」


「うん。明らかにヤバい音がしてたから見てみたの。多分内部にヒビが入ってるわ。」


「それでもやるしかないんじゃ……ってユズキがそろそろヤバイ!」


 ユズキの反応がほんの少し遅れ始めたと察知したカンナは再びナイトの懐に飛び込むと、無駄だと分かりつつも斬りつける。ダメージにはならなくともある程度攻撃し続けるとその標的を自分に向ける事が出来る。


 カンナがナイトを引きつけている間に、今度はユズキ、ハルヒがナツキとアキの元に駆け寄った。


「カンナちゃんには話したけど、これ以上正面から攻撃を受けてたら剣が折れるわ。その前に何とかしないといけないけど、今のペースだとまず保たないわね。」


「どうすればいい?」


「イヨちゃんとフユちゃんが今あっちで作戦立ててくれてる。……ユズキちゃんとカンナちゃんはそれまでもうちょっとだけアイツの攻撃を引きつけて耐えられる?」


「分かりました!」


 ユズキはカンナをフォローすべく飛び出す。どんな案が出てくるかは分からないが、妖精譚を信じるしかない。ならば彼女達少しでも長く安全に作戦を練られるように時間を稼ぐのが自分とカンナが出来る最善の策であると考えた。


「カンナ! 加勢する。」


「ユズキ、大丈夫!?」


「うん! いまみんなが作戦練ってるから、その時間を稼ぐよ!」


「わかった!」


 2人は改めてミスリルナイトに向かい合った。


--------------------


「フユちゃん、イヨちゃん、どう?」


 アキがマフユとイヨのもとに駆け寄った。


「ハルちゃんとナッちゃんの攻撃なら多少はダメージ通るんだよね。あと柚子缶の2人ならヤツの攻撃を避けつつこちらの攻撃を当てることが出来る。

 ……つまり、前回柚子缶の2人がシルバーゴーレムに勝てなかったのと同じ状況って事だよね。だから、あの2人の攻撃力を底上げできれば勝てると思う。」


 イヨの考えにマフユも頷く。


「つまり、今日上の階層でやってきた事。それがやつにも出来れば勝機はある。」


「それは私も分かるけど……フユちゃん、あいつは攻撃の激しさは言うまでも無いでしょ? 柚子缶のぶっ壊れ身体強化だから攻撃をやり過ごせてるけど、『上級剣術』の広域化に切り替えたらダメージは与えられても攻撃を避けられなくなると思うわ。事実、姉さんとナツキさんも柚子缶の二人が庇ってくれなきゃさっきの攻防でやられてたわ。

 それに多分耐久力も五層で私達が倒したダイヤモンドゴーレムとは比べ物にならないわよ? 姉さんの『上級剣術』でもせいぜいかすり傷だもの。ダイヤモンドゴーレム相手でももうちょっと明確なダメージがあったから、同じ戦法はとても無理よ。」


「うん。だから今、イヨと相談していた。一撃のダメージを高めるにはどうすればいいかって。」


「一撃のダメージを高めるって言っても……今日やってきたみたいに、姉さんの『上級剣術』やナツキさんの『二刀流』をカンナちゃんに『広域化』して貰ってユズキちゃんに適用、それを『一点集中』で高倍率に引き上げるってやり方以外なく無い?」


「基本的にはね。」


「何か思いついたんだ?」


「うん。そのためにはそこで腰抜かしてるヘタレ女の尻を叩かないといけない。」


 そういうとマフユはエリカの方に歩き出した。


「彼女の説得はフユちゃん先輩に任せよう。ハルちゃんとナッちゃんにも作戦を説明しないと。」


 イヨはアキと共に前線で待機するハルヒとナツキの元に向かった。今は柚子缶の2人がミスリルナイトを引きつけてくれているが、もしも彼女たちの連携が崩れた場合には命を賭けてでも2人をカバーできるように見守っていたのだ。


「イヨ。良い案は浮かんだ?」


 ハルヒとナツキは、目を離さずにイヨに問い掛ける。幸い、ユズキもカンナもミスリルナイトの攻撃をなんとかかわし続けている。だけどいつ致命的な一発を貰ってもおかしく無い。そんな綱渡りの攻防を、かれこれ数分間続けている。


 たかが数分、されど数分。広域化一点集中身体強化によって常人離れした動きが可能なカンナとユズキだからこそ稼ぐことが出来た時間であり、それ以外の人間では10秒も保てば上出来だといえるぐらいミスリルナイトの攻撃は疾く、重く、鋭い。


「あんまり良い案ではないけど。勝ち筋は考えた。」


「良い案ではないんだ。」


「……ハルちゃん、ナッちゃん、アキちゃんは多分よっぽど運が良く無いと死んじゃうと思う。」


「マジ?」


「マジ。だけどこれ以外、勝ち筋はないと思う。だから説明するね。」


 イヨはマフユと共に立てた作戦を3人に説明する。


「……やるしかないんじゃない?」


 説明を受けたハルヒはその作戦に同意する。


「一応十分勝算はある。柚子缶の2人ならやってくれるよ。」


「まあ、他に案も無いしね。イヨの見立てならよっぽど運が良ければ私達も死なずに済むんでしょ?」


「そうだね。」


「じゃあやろう。時間が経てば経つほど柚子缶の2人が消耗して成功率が下がってくし。」


「……みんな、ゴメン。」


「イヨが謝る事じゃ無い。作戦を書いた上で、これ以上の方法は無いとみんなが判断したわけだし。……それに、私達が死ぬって決まったわけじゃ無いでしょ? 運が良ければ全員生還できる可能性だって、ゼロじゃ無い。」


「うん。じゃあマフユの準備が出来たら柚子缶の2人に説明しようか。」


------------------------------


「無理よ! あんなの倒せるわけないでしょ!? さっき見たでしょ、アイツには私達の炎も全然効かなかった!」


「単純に温度が低かっただけ。限界まで温度を上げた炎ならある程度のダメージは期待できる。……うちのリーダーの攻撃は、かすり傷とはいえ効果があった。」


「そんな「ある程度のダメージ」でどうにかなる相手じゃない!」


 すっかり怯えて戦意を喪失しているエリカ。1192→1185(カマクラバクフ)の残りのメンバーはみんな3人とも既に戦闘不能。だから高火力の炎魔法による一撃はエリカに頼るしかない。マフユは説得を続ける。


「大丈夫。そのダメージを起点に一気にヤツを倒し切る。だからお願い。一撃だけ、力を貸して欲しい。」


「無理よ。どうやったって勝てるわけない……勝つことも逃げることもできない。私達はここで死ぬんだわ。」


 力なく呟くエリカ。マフユはエリカの胸倉を掴むと強引に立たせて壁に押し付けた。


「誰のせいでこうなったと思ってる! 少しでも責任を感じているんだったら、最低限の仕事をしろ!」


「が、はっ……。」


「アレを見ろ。アンタ達が以前馬鹿にした2人だ。相変わらず全然攻撃は効いてない。……だけど2人とも、諦める気なんて微塵も無い。私達がやつを倒す方法を考えるって言ったら「分かった」って言って命をかけてヤツを引きつけて時間を稼いでくれている。

 馬鹿にした2人が懸命に立ち向かっているのを見て、アンタは何も感じ無いのか? さっさと諦める事がそんなに立派な事か? 私は何もアイツを倒せだなんて言ってない。たった一発、全力の一撃を撃ってくれればそれでいい。」


 マフユはエリカから手を離す。エリカはそのまま床に倒れ込み、ガハッガハッと咳き込んだ。


「何よ、偉そうに! そこまで言うならやってやるわよ! 奴に魔法を撃てば良いんでしょ!?」


 そう言って魔力を高め出すエリカ。しかしマフユはそんな彼女を制した。


「まだ。 タイミングを合わせないと。」


「タイミング?」


 マフユは、15メートルほど離れてこちらを見ていたイヨに親指を立ててみせる。説得が成功した合図だった。


------------------------------


「フユちゃん先輩、OKです。さすが。」


「じゃあ2人に説明しよう。ユズキちゃん! カンナちゃん! 作戦考えたからこっちに来て!」


 相変わらずミスリルナイトの攻撃をかわし続ける柚子缶に声をかけるハルヒ。


 カンナとユズキは一瞬アイコンタクト。先にユズキがハルヒ達の元に戻ってくる。


「ユズキちゃん、ありがとう。イヨちゃんから説明してもらうね。」


「はい、お願いします。」


「ユズキさんにお願いしたいのはトドメの一撃です。これからアイツの防御力をガクンと下げますので、そこに全力の一撃を撃ち込んで下さい。」


「それだけでいいんですか?」


「それだけを、全力でお願いします。それ以外の事はしないで下さいね。たとえハルちゃん達がアイツにぶっ飛ばされたとしてもです。」


 イヨは真剣な顔でユズキに訴える。


「それでは作戦の詳細を説明します。」


------------------------------


「カンナ! 交代!」


「わかった!」


 一分ほどで作戦を聞いてそれに同意したユズキは、カンナと交代してミスリルナイトの相手をする。今度はイヨがカンナに同じ説明をする間、自分が時間を稼がないとならない。ダメージにならない攻撃を何発も叩き込むと漸くミスリルナイトはユズキの方を向き、それを確認したカンナが妖精譚の方へ駆けていく。


 ……ハルヒたちを犠牲にする事が前提の作戦。あの子はなんと言うだろう。


 再び対峙したミスリルナイトの前ではそんな思考をする余裕は無い。避けることに全神経を集中させろ。ユズキは既に耐久値の限界が近づいている剣を構え、ランスの攻撃に備えた。

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