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第16話 フェアリーテイルの事情

 部屋に戻ったカンナとユズキ。こちらも既に布団が敷いてあり、いつでも寝られるようになっていたため、歯を磨いて布団に入った。


 おやすみを言って電気を消す。


 ユズキは布団の中で思考を巡らせる。身体は疲れていたが、寝付けなかったのはやはり先程の話のせいだろう。柚子缶の事、妖精譚(フェアリーテイル)からのお誘いの事、そして何よりカンナの安全の事……これからどうしていけば良いか、頭の中がごちゃごちゃだった。


 暗い天井を見上げながら頭の中を整理して行く。しばらくそうして思考の海に沈んでいると、不意に隣から声をかけられる。

  

「ユズキ……まだ起きてる?」


「ええ。カンナも寝つけない?」


「うん。……ねぇ、そっちにいっていい?」


 ユズキは黙って掛け布団を持ち上げて手招きした。


「……ありがと。」


 布団に入るとそのままぎゅっと抱きついてくるカンナ。先程は周りにお姉さん方が居たのでそれでもカンナなりに自重があったようで、二人きりになった今は遠慮なく全力でユズキに抱きつく。ぎゅうっとしがみついてくる全身からカンナの不安を感じ取ったユズキは、できる限りの優しさで応えようと強く抱きしめ返す。


「大丈夫?」


「うん……。ユズキ、もっと強くぎゅってして?」


「こう?」


 寝そべった姿勢のまま、抱き締める腕に力を込めるとカンナは満足そうに頷いた。


「ありがとう。……ユズキ、好き。」


「うん。私もカンナが好きよ……んむっ!」


 答えたユズキの唇が塞がれる。抱き合ったまま、カンナが唇を重ねて来たのだ。


「んっ……んむっ……んんっ……。」


 相変わらずキスをする時は息を止めてしまうため徐々に苦しくなるカンナだが、それでもユズキから口を離そうとしなかった。


「ん、んん……。ぷはぁっ!……んっ!」


 一度大きく息を吸い込むと、再びユズキにキスをする。キスと息継ぎを繰り返す。抱き合ったまま、気が付けばカンナはユズキの上に覆い被さり、夢中でキスをしていた。


「はぁ、はぁ……ユズキ、ユズキ……っ!」


「ちょっと、カンナ……?」


「んむっ……、ちゅぱ、あむっ……。」


 一心不乱にキスを続けるカンナ。恋人に求められるのはもちろん嬉しいが、尋常でないカンナの様子に心配になるユズキ。それでもカンナは止まる事なくユズキの唇を求めた。


 …………。


 どれだけ接吻を繰り返したのか、口からだらしなく涎を垂らしつつもカンナはようやく落ち着いた様子で、おずおずとユズキの上から体を下ろすと、恥ずかしそうに俯く。


「……ごめんなさい。」


「別に謝られるような事はされてないけど。」


「ちょっと、はしたなかったかなって……。」


 ユズキはそんなカンナの頭を優しく撫でると乱れた浴衣を直してあげる。このままカンナの着衣がはだけたままだと、いつ自分の理性が抑えられなくなるか分からなかった……正直今だってこのままカンナを求めたい気持ちを必死に抑え込んでいた。恐らくこの場でユズキが求めたらカンナは応じてくれるだろう。

 

 実際、カンナが無我夢中でキスを繰り返したのは欲求の発散方法を他に知らないからだ。初めこそ不安を埋める為にユズキにキスをした。キスをすれば気持ちいいし、心が満たされる。だけどそうすることで今度は身体の内から際限無く湧き上がるモヤモヤをどう発散すれば良いか分からない。何十分も好きな人に抱きつきひたすらキスを繰り返す事で、ようやく体が落ち着いたのである。


 それでもユズキとしては先程の話で精神が不安定になっているカンナに手を出すのはフェアじゃないし、何よりカンナとの初めての営みが弱った心を慰めるような形になるのは嫌だと思った。


「大丈夫、私がカンナを守るから。」


「うん。……ありがとう。」


 改めてその身体を強く抱き締めるユズキ。


「ぁん……、ユズキ……。」


 無意識に発せられるカンナの嬌声に、揺らぎそうになる心を精一杯押し留めるユズキ。


「カンナ……。ずっと一緒だからね。」


「うん……うん。私もユズキとずっと一緒に居たい。」


 そう言って抱き締め返すカンナは、先程までは不安で一杯だった心が今はユズキへの好きと信頼で満ちている事を自覚する。落ち着きを取り戻したカンナは、そのままユズキの胸の中で安眠を得ることが出来た。


 ユズキも、カンナから規則正しい寝息が聞こえて来た事で安心し、そのまま目を瞑り明日に備えて眠ることにした。


---------------------------


 一方で妖精譚の部屋では五人が未だにグダグダとお酒を飲みつつくっちゃべっていた。


「ちょっと脅し過ぎだったんじゃないの?カンナちゃん泣いてたじゃん。」


「まあ少しだけ大袈裟に言い過ぎたかも。だけど可能性は十分ある話だよ。カンナさんは『広域化』(自分のスキル)がどれだけ凄いかもうちょっと自覚した方がいいもん。」


「それにしたって殺されたり軟禁されたりなんて言って、その直後に勧誘した私たちもそういう事するって思われたらどうするのよ。」


「というか姉さんよくあの話の流れで勧誘したわね。バカじゃ無いかと思ったわよ。」


「だって今日あたり勧誘しようって話だったじゃん!?」


「タイミングが悪過ぎるとは思わなかったの?」


「思ったけど、あれはイヨがカンナちゃんを脅すから!」


「まあでもあそこで勧誘してまさか妖精譚(ウチ)がそんな酷いことをするとは思わないでしょ。」


「さすがにそれは楽観的過ぎると思うけど……でももう勧誘しちゃったんだしポジティブに考えるしかないよね。」


 そもそも妖精譚が柚子缶にコラボを打診したのは、最終的に2人に妖精譚に加わって欲しかったからである。もちろん人間的な相性もあるのでコラボをやってみて「あ、この子達とは合わないな」と思ったらコラボが終わればさようならすれば良い。そう考えていたのだ。


 実際に会ってみれば2人とも気を遣えるいい子だったので性格面は問題無かった。スキルの強さは言わずもがな、短期間で急成長しているということで懸念していた安全への配慮という点も思っていた以上にしっかりとしていて彼女達が作ってきたコラボのプランはむしろ妖精譚側が「こんなに?」と思ってしまうほど地に足をしっかりとつけた良く言えば堅実な、悪く言えば面白味に欠けるモノであった。

 ……かと思えば先程の「障壁サーフィン」や「武器スキルのお手軽習得」といった意見が出てくる発想力もある。


 長いこと停滞気味の妖精譚を変える起爆剤として、是非とも欲しい2人ではある。


「まあ若い二人が入ってくれたら私達もそろそろ本格的に婚活に力を入れられるしね。」


「まだ引退を考えるには早くない?」


「そうは言ってもあと2年で30だよ? 結婚出産を考えるとぼちぼちリミットじゃない?」


 今どき30過ぎても独身なのは珍しくもない。そうはいいつつもやはり体力的な事を考慮すればそろそろ本気で婚活したい。ハルヒは冗談めかして言うが十分本気であったし、ナツキにしたっていつまでも目を背けるわけにも行かない問題であった。


「アキはいいよね。彼氏がいるからいざとなったら即ゴールインじゃない。」


「そうは言ってもこっちはこっちで面倒なのよ。個人探索者って事で相手の親にはあまり良く思われてないし、さっさと辞めてくれないかって雰囲気を最近感じるもの。」


 探索者は自営業のようなものなので明確な定年は無い。ただ、どんなに体を鍛えていても30代後半には衰えを実感する。企業に属する探索者であれば40歳前後からのライフプランとして裏方や後進育成に回れるし、そうでなくとも大きい企業なら居場所を用意できる。


 だが個人探索者はそうではない。40歳までに一生分の金を稼いで引退するか、企業に経験を売り込んで雇われ人として残りの人生を歩むかというどちらかが主流である。

 だが40歳で残りの人生を過ごせるだけの貯蓄を形成できる個人探索者はそう多く無いし、雇われにしても企業側としては高校を出てから20年前後も個人探索者をやってきた人間は、プライドが高いわりに社会常識に乏しい人材であるという印象を持ち、端的に言うと欲しく無い。余程タイミングとお互いのニーズがマッチしなければ採用とはならない。そんなわけでセカンドライフを上手くこなせる個人探索者はそう多く無いのも現実だ。

 

 だからこそ、婚活市場で価値がある内に家庭に収まるという選択肢は20代半ば以降の女性探索者には出てくるのも一般的な感覚で、アキの恋人もそんな常識に照らしてそろそろ……という空気を出して来ているのは、ある意味で仕方のない事である。


 そんなわけでアラサー女子が多い妖精譚としてはここ数年、そろそろ世代交代を踏まえた新規人材の獲得を……と考えていたが、そもそも男の探索者はこのパーティを作った経緯からして問題外だし、女性探索者は絶対数が少ない事からこれまでの勧誘実績はゼロである。


 初めてこの子達だ!と思えたのが柚子缶の2人であった。妖精譚をこれまで以上に成長させ、またゆくゆく世代交代していくことを考えれば喉から手が出るほど欲しい人材であるのは間違いない。

 

「アラサー組の婚活事情は置いとくとして。あとはウチに好印象を持ってもらえるように心掛けるしかないわよね。」


「そうそう。コラボ探索はあと3回やる予定だけど、その中で信用してもらうしか無いってことでこの辺りは当初の予定と変わらないじゃん? そう考えるとハルヒがさっき勧誘したのもあながち悪手ではないかもね。」


「じゃああと3回、お姉さんたちの包容力を存分に発揮すると言うことで今日はお開きにしますか!」


 おー! と、声を合わせて部屋片付けて寝る事にする5人。


 翌朝、朝食が部屋に運ばれてくる15分前にアキとマフユが辛うじて目覚めて慌てて残りの3人を叩き起こし、布団を畳んで超特急でメイクをする。

 時間ぴったりに運ばれて来た朝食と共に部屋を訪れた柚子缶の2人に、辛うじてお寝坊お姉さんズの情けない姿を見せずに済んだあたりは流石ベテランの探索者であった。


---------------------------


「昨日の話なんだけどね。」


 一緒に朝食を食べ終えた後、チェックアウトまではしばらく時間があったのでお茶を飲みつつ団欒する7人。ナツキがおもむろに切り出した。


「あ、はい。」


「柚子缶の2人に妖精譚に入って欲しいって言うのは私たち全員の総意で間違いないんだけど、それを強要するつもりは勿論無いの。入るメリットとデメリットを考えた上で、どうするかって2人で決めてくれればいいと思う。」


「はい、わかりました……。」


「うちとしてはOKを貰えれば嬉しいけど、もしもNOだったとしてもこれからも仲良くさせて欲しいとは思ってるわ。あと、昨日の武器スキルの習得についてだけど、出来るかどうかの検証は2人が正式に妖精譚に入ってくれるって事になったらにしようかなって考えてるの。」


「あ、そうですね。入らないってなったらスキルだけ覚えさせて貰ってさようならになっちゃうし、当然ですね。」


 納得するように頷くユズキに、ナツキは首を振って答える。


「そうじゃなくて。パーティを組まないなら私達はカンナちゃんの『広域化』で武器スキルを習得しない方がいいでしょう? 勿論他言するつもりは無いけれど、下手に私達のスキルが広がるとそこからカンナちゃんの広域化に辿り着く人がいるかも知れない……同じパーティなら誤魔化しが効くけどそうで無いなら念のため、ね。」


 そういってウインクするナツキに、ユズキとカンナは大きく頷いた。


「それも踏まえてもともと予定していた残りの3回のコラボ探索、猪苗代と甲府と鎌倉のダンジョンは当初の予定通り進めたいなって思ってるわ。一緒にやっていくかの返事は、その後に聞かせてもらえると嬉しいんだけど……それでいい?」


「はい。気を遣って頂いてありがとうございます。……とりあえずあと3回、よろしくお願いします。」


「こちらこそ、改めて宜しくね。」


 妖精譚と柚子缶は互いに頭を下げる。


 柚子缶が今後妖精譚と共にパーティを組んで探索を続けていくのか、その決断まで残り探索3回。

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