第14話 議題は柚子缶の問題点と解決策
赤穂ダンジョンを出た一行は協会支部で魔石を換金する。そのまま車に乗り込んで事前に予約しておいた温泉旅館にチェックインした。
「すごい豪華!」
ロビーに入り、思わず感動の声をあげるカンナ。
「マフユが予約してくれたのよ。せっかくのコラボなんだし綺麗なところに泊まりましょうって。」
「さすがフユちゃん先輩。きちんと動画映えする宿を押さえてますね。」
「え、ここも撮るの?」
「探索自体は絵的にちょっと盛り上がりに欠けるなーって思ってたからたまにはオフショットも動画にしようかなと。せっかくのコラボだし。」
「まあいいか……じゃあ部屋に移動しましょうか。」
妖精譚は5人で一部屋、柚子缶はお隣の部屋に2人である。流石に寝る時まで一緒だと緊張するだろうと配慮してくれたのだ。
「夕食は1時間後、こっちの部屋に全員分持ってきてくれるって事だから先にお風呂入っちゃおうか。大浴場は朝5時まで入り放題、2階から渡り廊下通って別棟だって。瀬戸内海が一望できるらしいよ。」
「じゃあ各々汗流して、1時間後に妖精譚の部屋に集合で!」
そう言って部屋に引っ込んだお姉さん方。カンナとユズキも自分達の部屋に入る。
「こっちもキレイな部屋ね。」
「うん、お布団を敷くタイプなのかな?」
「こういう旅館は仲居さんがお布団を敷いてくれるはずよ。だからこっちの畳側の部屋ではスーツケースを広げっぱなしにしちゃだめよ?」
「了解。いつもの遠征だと宿にはあまり拘らないからこういうところはワクワクするね!」
「そうね。せっかくだし目一杯楽しみましょう。」
温泉に入りたかった2人であるが、このあとオフショットも動画を回すような事をイヨが言っていたので「風呂上がりの姿を晒すのはちょっと」という意見が一致。とりあえず部屋でシャワーを浴びて汗を流すに留める。
約束の時間までお茶を飲みつつまったり休憩する2人。
「オフショットも撮影か……柚子缶には出来ないなあ。」
「やろうと思えば出来るかもだけどあんまり楽しい配信にはならない気がするね。編集した動画を投稿する妖精譚ならではの発想。」
「ユズキはオフショットも配信したいの?」
「そういうわけじゃ無いんだけど……。」
ユズキはダンジョン内でのイヨとの会話をカンナに伝える。同じ投稿者の目線で今のままではダメだとハッキリ伝えられたことは少なからずユズキにショックを与えていた。
「なるほど。じゃあイヨ先生にちゃんと相談だね。」
「ええ。そういえばカンナは毒ガスダンジョンの動画見た?」
「見た見た! イヨさん凄いよね! 編集も自然だし、字幕の入れ方が面白いし。……イヨさんってうちの切り抜き動画を作ってくれてるって言ってたじゃん? 私、前にユズキがすごく丁寧な切り抜き動画作ってくれてる人がいるって言ってた「伊予柑」さんがイヨさんじゃないかなって思ってるんだけど。」
「やっぱり? 私もそう思った。直接聞いてみようか?」
「もしそうだったらいつも丁寧な切り抜き動画を作ってくれているお礼を言いたいもんね。」
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「今日も無事に探索を終えることができました! カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
中ジョッキの生で乾杯する妖精譚。あれ、反省会するって言ってなかったっけ? とユズキとカンナは思ったものの敢えて突っ込まない。突っ込んだらいけない気がした。
「……ぷはぁ! この一杯のために探索してるよなぁ。」
「お姉、ほどほどにね。」
「分かってるよ。酔っ払ったら真面目な話が出来ないからね。」
するんだ、良かった。こっそり胸を撫で下ろした柚子缶。しかし美味しく夕食を頂きながらやはり雑談に花が咲く一同。
「そういえば私、柚子缶の2人に聞きたいことあったんだ。」
マフユがふと思い出したと言った感じで柚子缶の2人に訪ねる。
「なんですか?」
「2人って恋人同士なの?」
「ぶっ!?」
「ふぁっ!?」
思わず口に含んでいた烏龍茶を噴き出すユズキと箸を取り落とすカンナ。
「……ふむふむ、図星か。」
「ななななな、な。」
「なんでって? 2人の雰囲気からなんとなく。」
「フユちゃんが聞いたかぁ。」
「アキさんも知ってたんですか!?」
慌てて訊ねるユズキ。カンナは顔を真っ赤にして固まっている。イヨはそんな2人の様子を見て尊死しかけていた。
「私もそうじゃないかなって思ってた。」
「ああ、私も。やっぱりそうだったかぁ。」
なんと全員薄々気付いていた。
「2人でいると幸せそうだし、私がカンナちゃんに抱きついた時にユズキちゃんめっちゃ焦ったような顔するからもしかしてヤバいことしたかと思った。」
「私もそこで気付いたわ。」
ハルヒとナツキが話した場面はユズキも覚えていた。お姉さん方に他意はないのでヤキモチは焼かないようにと言い聞かせていたのだが、ハルヒがカンナに抱きついた時は思わず顔に出てしまったのだ。ハルヒだけでなくナツキにも見られていたのかと思って真っ赤になるユズキ。
「別に2人を揶揄うつもりで聞いたわけじゃ無かったんだけど……ごめんね?」
騒動の元凶であるマフユが頭を下げた。
「い、いえ、大丈夫です。バレてると思ってなくてビックリしただけなので、揶揄われてるとは思ってない、です。」
手で顔をパタパタと仰ぎながら辛うじて反応するユズキ。
「カップルとして動画では公表しないの?」
「……初めからそういう関係で動画を出してたわけじゃないので、今さら付き合ってますっていうのもタイミングを逃したと言いますか……。」
「付き合ってるって言っちゃった方が変なの寄って来ない気もするけど。前にナンパ男に絡まれたって言ってたけど、そういうやつ避けになるんじゃないかな?」
「どうなんでしょう。メリットがあるなら公にした方がいいのかな?」
柚子缶の2人が付き合っていることを公表するべきかどうか。そんな相談をするユズキとマフユにイヨが待ったをかける。
「私としては公表しない方が良いかと。」
「お、ファンの高原からの意見。その心は?」
「今日のダンジョン内でユズキさんと話した、柚子缶の今後の話にも繋がるんですけどね。ちょうど良いタイミングですし真面目な話をしましょうか。」
イヨは姿勢を正す。その様子につられて、ユズキとカンナも思わず背筋を伸ばした。
「まあウチもチャンネル登録者数でいえば25万人ぐらいなので100万を目指す柚子缶の理想に対してどこまで助けになるかって部分はありますけど。少なくとも今のままでは伸び悩んで、どこかで頭打ちになりそうな予感はありますよね?」
ユズキとカンナは頷く。
「私個人としては柚子缶の配信は大好きですし、頑張ってる2人にこんな事を言うのも心苦しいんですけど……ぶっちゃけマンネリ化してます。」
「やっぱりそう感じます?」
「はい。固定ファンとしてはその安定感が好きっていう意見もありますけど、新規ファンを取り込もうと思ったらやっぱり新しい事を続ける精神は必要です。
柚子缶が活動を始めた当初は「普通コイツに近接だけで挑まないだろ」って敵をガンガン倒して行く目新しさがありました。だけど今はそのスタイルが定着しちゃってます。敵を変えたり倒し方を変えたりと工夫は見えますが、根っこの部分は一緒なんです。
先日エルダートレントを狩った後に一気に伸びたのは知名度が上がったのもあるし、「ボスクラスを倒す」っていう予想外の展開に期待してくれた人達が居たからです。そのあと通常営業に戻ったから、そこで期待した人が離れていったんじゃないかなって思います。」
ユズキにとっては耳の痛い指摘であった。だけどこうやって分析して厳しい事を言ってくれるイヨの指摘はありがたい。真剣な表情で彼女の声に耳を傾ける。
「高原、だったら尚のこと2人が付き合ってるって公にしたらカップルとしての2人を見たい層が増えたりするんじゃないの?」
「それは二重の意味で悪手だと思う。まず一つは小手先のテコ入れ感がすごい。チャンネル登録者数が徐々に減ってるのは登録者数をポチれば推移がグラフで出るから誰でも分かるけど、ここで「実は付き合ってました、これからはカップル探索やっていきます」ってとってつけた感がすごいですよ。仮にやるならエルダートレント討伐後の一発目あたりでやるべきでした。」
イヨが指摘したタイミングは奇しくもカンナとユズキが正式に付き合い始めた頃と一致していた。
「まあそれやってたとしても多分視聴者は増えてなかったと思いますけど。二つ目の理由が、そもそもカップル配信者って探索者関係なく好き嫌いが激しいジャンルなんですよね。何が楽しくて他人がイチャついてるところを見ないといけないんだって思う人は多いですし。」
「その割にはイヨちゃん、てぇてぇしてるじゃない?」
「アキちゃん、ファンが勝手に妄想しててぇてぇしてるのと本人達が認めちゃうのって雲泥の差があるんだよ。なんていうか同人で楽しんでたりネットのノリで盛り上がってたのに公式が絡んできちゃった時のガッカリ感みたいなのがあるの。」
「その感覚は全然分かんないけど、オタクって面倒くせぇなってのは伝わってきた。」
「フヒヒ、サーセン。……というわけで柚子缶としては今のまま、視聴者のご想像にお任せしますってスタンスでいいと思いますよ。まあ私個人としては言質がとれたしユズ×カンカップルは全然アリだと思うので今夜からマジで捗りますけどね。」
「捗る……?」
「はい、捗ります!」
満面の笑みを浮かべるイヨに、やっぱり「何が?」とは聞けないカンナであった。
「さて、じゃあ柚子缶が100万人……とまでは行かなくても登録者数を増やすにはどうしたらいいかって話ですけどね。さっき言った通り新しい事をするしか無いです。というかチャンネルを伸ばし続けるには新しい事をし続けるしかないんですよ。現状維持は衰退である、福沢諭吉はよく言ったものです。
だから妖精譚もそれこそ儲け度外視で色々やってます。ウチの場合は減らなきゃいいやくらいの感覚でぼちぼち数を伸ばしてますけどね。それで5年以上やってきて今25万人です。」
「新しいこと……。」
「先日の殺生石ダンジョンの攻略動画、あれって妖精譚のチャンネルで公開しましたけど、そのあと柚子缶の登録者も微増しましたよね? やっぱり新しい事をすれば伸びるんです。ただここに胡座をかいて別の毒が出るダンジョンに行っても「またか」って思われてしまう。……難しいですよね。」
「カンナ、私達にできる新しいことってあるかな?」
「実は前にもユズキがマンネリで悩んでいた時から温めてたネタがあって。『障壁』でボードを作ってサーフィンをしてみるとか?」
ちょっと得意気にユズキに提案するカンナ。
「それはやったらバズると思いますよ。」
「『障壁』は魔力由来のものは通さないけど、物理的なモノは素通ししちゃうから水には浮かばないし上には乗れないわ。……というかカンナはそもそもサーフィンやった事あるの?」
「無いから練習風景から配信するのはどうだろうかと思ったんだけど。最終目標を琵琶湖ダンジョン内の仮想琵琶湖をサーフィンで踏破する! とかにしてサーフィン初心者からの成長過程をシリーズ配信するって案とか考えてたんだけど……そもそも乗らないのかぁ、残念。」
「楽しそうな案だから、『障壁』の上位スキルと言われている『鉄壁』だったらいけるかも? スキル進化は新しいスキルを覚えるよりは可能性が高いらしいし期待しちゃうわね!」
「お姉、それでもボスを倒して2〜3%程度らしいから狙って行けるものでもないでしょ。そもそもボスだってそうそう狙って倒せるものじゃ無いし。」
実はボスを倒すことその強さ云々以前に容易な事では無い。何故なら大抵のボスの落とす魔石や素材は雑魚の落とすそれとは段違いに高価であるため、ある安全なルートが固まっており攻略法が確立されているようなボスいるダンジョンは大抵大企業に独占されているからだ。
ダンジョンコアさえ破壊しなければ、ボスは一度倒さても決まった期間で再度現れる。その期間はどのダンジョンでも約28日。正確には666時間経過するとダンジョンコアが新しいボスを産み出すと言われている。
大企業はその人材とカネを駆使してこの期間毎にきっちりボスを狩れるように人を配置して独占しているというわけだ。
つまり「比較的弱いボスを倒してスキルゲットチャンスの抽選を沢山しちゃうぞ」は大企業の専売特許であり、個人探索者がボスを討伐しようと思ったらそれこそ採算度外視な旨味のないダンジョンを攻略するしかない。
……大企業が独占しているボスを横取りするという方法もあるにはあるが普通そんなことしない。資金も人材と豊富な大企業に正面から喧嘩を売っても良いことなどないのだから。
「殺生石ダンジョンならボスが再生する毎に独占できない? あそこならカンナちゃんとイヨちゃんがいる私たちの組み合わせ以外じゃまともに探索できないし。」
「私以外に『広域化』を持っている人が居たら、簡単に行けちゃうと思いますけど……。」
確かに殺生石ダンジョンはド級の不人気ダンジョンであり、先日の柚子缶と妖精譚の攻略は実に数十年ぶりのボス討伐であった。
だが、動画を公開した事でやり方を模倣される事は往々にして起こり得る。実際、他のダンジョンではこれまで個人探索者が細々とボスを倒していたが動画を公開した事で大企業がマンパワーを投入して独占するようになってしまったというケースも多い。
「たぶんカンナちゃん以外に『広域化』を持ってる人は居ないんじゃないかな……少なくとも大企業には。仮にいたら絶対『毒耐性』とのコンボは考えると思う。」
それもそうかと納得するカンナ。
「そう考えると、月1回の殺生石ダンジョン参りは続けられると有り難いわね。毎月ボスを安定して倒せる環境なんてそうそう巡り会えないわけだし。」
ナツキがどう?と聞いてくる。もちろんユズキとカンナにとっても願ってもいない提案だった。
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