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第12話 毒ガスダンジョン

「今日のフェアリー配信ですが、特別ゲストをお呼びしております! ドゥルルルルル……、ジャン! 柚子缶の2人でーす!」


 ハルヒがカメラに向かって自前のドラムロールと共に柚子缶とのコラボを告げる。


「こんにちは、初めまして! 柚子缶のユズキです。」


「か、カンナでしゅ!」


 いつもと違う雰囲気に緊張して出だしから噛むカンナ。


「で、です! 違う、カンナです! ……すみません、テイク2お願いします!」


「だーめ。面白いからそのまま使うわ。」


 慌ててやり直しを要求するがハルヒが笑って拒絶した。


「まあSNSではお互いにコラボ準備中って事で匂わせていたから気付いていた人も居たかと思いますけど、今日から何回か、女子大所帯でダンジョン攻略をしていきまーす。」


「今日来てるのは、殺生石ダンジョンだね。 ここは毒ガスが厄介で、あんまり人が来ないダンジョンです。全員分のガスマスクを用意するのも大変だからソロで一層や二層に潜る人はたまに居るけど、配信でここをやってるパーティはこれまでに居ないんじゃ無いかな?」


「ガスマスク集団が歩いてるとか怖すぎるもんね。」


「怖いかどうかは主観だけど、まあ華やかさは無いよね。」


「おっとアキさん。まるで私達は普段華やかだと言わんばかりの発言ですね。」


「華やかだろぉ!? ああ、姉さんはどっか行っていいよ。私はナツキさんとフユちゃんと柚子缶の2人が居ればそれでいいから。」


「はぁ? このパーティのリーダーは私なんだが?」


 バチバチと睨み合うハルヒとアキ。そんな様子を「いつもの事だし」と気にすることもなく先に進むナツキとマフユとイヨ。


「あ、あの、いいんですか? 止めなくて。」


「いいのいいの。いつもあんな感じだから。イチイチ気にしてたら疲れちゃうもん。というかカンナちゃん口数少ないねー。」


「カメラも回ってるしうっかり個人情報を漏らさないように、お口にチャックしてます。」


「お口にチャックって! かわいいな!」


 カンナのワードチョイスに楽しそうに笑うナツキ。


「気遣いは偉いけど、今日の動画は後でイヨが編集してくれるから大丈夫だよ。プライバシーに関わる部分は丸々カットするか「ピー」を入れてくれるから。」


「伊達に専属編集者やってませんからね!」


 イヨもピースサインで応える。


「そういえば私達、コラボ前に妖精譚(フェアリーテイル)の配信を見たんですけどイヨさんの存在を知らなかったんですよ。というか4人全員がカメラに収まるシーンって殆どなくて、てっきりカメラをパスし合っているんだと思ってました。」


「フッフッフ。裏方はその存在すら視聴者に気取らせないんですよ。」


「流石ですね!」


「だからこの会話も動画には使えませんね。あまり気にし過ぎる必要も無いですが、私のことは黒子だと思っていて貰えると編集がしやすくなるのでお願いします。お話は攻略完了後にしましょう。」


「それはそうなんだけどさ、『毒耐性』はイヨのスキルじゃない。どうやって動画に説得力を持たせるの?」


「アキちゃんがいい感じに説明してくれるって言ってましたよ。」


「はいはーい、呼んだ?」


「ああ、いきなり夫婦漫才してたアキが返って来た。ほら、ここの毒をどうするかって話。みんなに説明しないと。」


「ああそれね。実はこれまで私たちの誰かが『毒耐性』スキルを持っているんですよ……これまで数年間内緒にして来ましたけど。」


「さらっとカミングアウトしたな!?」


「まあこれまでの活動で使い道ゼロだったからね。今回柚子缶ちゃんとコラボするにあたって、これは殺生石ダンジョンいけるんじゃね? と思って初めて真剣に使い道を考えたという事です。」


「はい! そういうわけでした! 詳しい種明かしは出来ないけど、柚子缶チャンネルの視聴者さんなら薄々気付くかな?」


「コメント欄で議論してくれてもいいけど、答え合わせは出来ないから、先に謝っておくね。まあ一つ言えるのはこのダンジョン……ガチで毒ガスが充満してるのでもしも来てみたいと思う人がいたら『毒耐性』でもガスマスクでも、万全の準備をしてからにして下さいね。」


「字幕も付けるけど、準備不十分でここにくると本当に死にますよ! それでもしもの事があっても妖精譚は責任を負えません!」


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 殺生石ダンジョンを進む柚子缶と妖精譚。このダンジョンは毒ガスが充満している事がネックとなるので実はモンスターは全然強くない。


「あ、また居た。溶岩蜘蛛(マグマスパイダー)ね。ハルヒ、宜しく。」


「はいよー。」


 うりゃっ! と斬撃を飛ばすと蜘蛛は真っ二つになる。マフユがさっさと魔石を回収するとそのまま先に進む。


「こんな岩しかない場所でモンスターは何を食べているのかしらね?」


「うーん、空気中の魔素を取り込んでるとか? そもそもモンスターが食事をしているかって未だにはっきりしてないんでしょ?」


「らしいね。獣型のモンスターは他の小動物型モンスターを襲うことはあるらしいけど、少数派みたいだし。」


「ダンジョンって、不思議よね。50年くらい前に世界中に現れたんでしょ? それまでは石油を燃やして電気を作るのが主流だったとかなんとか。」


「今は魔石が主なエネルギー源ですもんね。」


「私達からすれば生まれた時からダンジョンがあるのが当たり前だからね。「ある日突然現れた得体の知れない場所」と言われてもそんなのピンと来ないわよね。」


「うん。ただ入るのに資格が必要で、凶暴な動物(モンスター)が出て、効率よくお金が稼げる場所って感じ。」


「お爺ちゃん世代だとその辺りの時代の変化に立ち会ったって言ってますよね。」


「ああわかる。お正月に親戚で集まるじゃない? 私達が姉妹で探索者してるっていうとお年寄りには「そんなよく分からない遊びみたいな仕事して……」って言われるのよね。」


「ダンジョンが無かった時代を知ってる世代には、未だに冒険者っていうのを遊びみたいなモノだと認識してる人が一定数いるのよね。こっちは真剣にやってるってのに。」


「ダンジョン探索自体、大企業がやるべきって考えも根強いからね。……フリーランスより組織に所属した方が年寄りウケがいいのはどの業種でも一緒みたいだけど。」


「私の親はすごく応援してくれてますよ。私のお母さんとユズキは2人でお酒飲んだりしてますし。」


「マジで? お母さんとまで仲良いとか凄いわね。」


「カンナのお母さんってすごく可愛らしい人なんですよ。だから誘われるとホイホイついて行っちゃいます。」


「美魔女?」


「うーん、魔女なのかな? カンナ、どう思う?」


「いや、自分の母親が美魔女かどうかなんてわかんないよ!」


「だそうです。」


「違いない。」


 そんな風に和気藹々とおしゃべりしながら、猛毒漂うダンジョンを進んでいく一行。たまに出てくるモンスターは「次、私ね」みたいなノリで順番に攻撃して倒していく。カンナの魔力が尽きたらその時点でイヨ以外が毒ガスを防げなくなるため『毒耐性』の『広域化』以外は行わないように厳命されており、さらに魔力を1/3ほど消費したらどんなに好調でもそこで探索を切り上げようという事に決めていた。

 


 ところどころで休憩を挟みつつ、気が付けば殺生石ダンジョンの最下層と呼ばれる四層まで到達していた。


「最下層のわりに、モンスター自体は一層と変わらないのよね。」


「そうなのよね。過去に協会が一度だけ、大枚を叩いて最高級のガスマスクと防護服をいくつも用意してボスの討伐までしたらしいけど、一層から四層(最下層)まで出てくるモンスターと強さは全く変わらないらしいわよ。」


「そうなんですね。じゃあ下層に来ると毒が強くなるって事ぐらいですか?」


「ええ。今カンナちゃんが『広域化』を解除したら冗談抜きで私達は即死するから、くれぐれも魔力の残量に気を付けてね。」


「ひ、ひぃぃ……気を付けます。」


 分かってはいたが、実際に「ここで魔力が尽きたら即死する」なんて言われると震えずにはいられないカンナ。


「まあ一層の時点で即死はしなくても数分で死ぬレベルの毒ガスだったし、正直このダンジョンは階層ごとの違いなんて誤差みたいなものよね。下に行くほど質のいい魔石や素材が手に入るってダンジョンのセオリーもここについては通用しないわけで。」


「は、はい……。」


「というわけで、さっさとボスを倒しちゃおう!」


「そんなノリで倒せちゃうんですか?」


「20年前の協会の調査が間違ってなければ、毒対策さえ出来ていればここのボスはあまり強くないハズなんだよね。」


「カンナは初めてのボスになるわね。……まあ今日は毒耐性広域化係だからトドメはさせないけど。」


「ああ、それ気になってたんだけど。前に札幌でエルダートレントを倒したじゃん? あれってボスじゃなかったの?」


「おそらくボスだと思われてるけど、証拠が無いのよね。」


「ボスの証拠?」


「ええ。そもそもボスの定義の話になるんだけど、カンナはダンジョンのボスの役割を覚えてる?」


「うん。ダンジョンコアを守ってるんだよね。」


「そう。コアを壊すとその時点でダンジョン内のモンスターは活動を止めるの。そして徐々にその体が朽ちていくわ。全てのモンスターが朽ち果てた後はダンジョンそのものが奥から崩壊していって数日もすればダンジョンは跡形も無くなるの。」


「だからボスは自分のダンジョンを守るためにコアを守っている。うん、講習で習ったよ。」


「ええ、そういう理由でボスっていうのはそのダンジョンで一番強いモンスターになる事が殆どなんだけどね。エルダートレントの場合はダンジョンコアが見つかってないの。普通はボスが鎮座するフィールド……エルダートレントの場合は私達が戦った地下のドームね、あそこに隣接してコアが保管されているであろう部屋があるらしいんだけど、札幌ダンジョンの場合はそれが無い。」


「ボスじゃ無いってこと?」


「コアルームがすごくわかりにくい場所にあるのか、そもそもまだ見つかってないだけでエルダートレントよりも強いモンスターが居るのか。それは分からないわ。ただ、ボスが守護するダンジョンコアが見つかっていないから、エルダートレントは厳密にはボスとはされていないの。あくまで「ボスクラス」って言う「ボスと呼べるくらいの強さですよ」ってカテゴリなわけ。他にもそういうタイプのダンジョンはいくつかあるわ。」


「なるほど……。」


 ユズキとカンナがそんな話をしているのを妖精譚が微笑ましく眺めている。その後話の流れでエルダートレントを倒した時の事を聞かれたりとしているうちに、やたら豪華な装飾を施された石造りの扉の前に辿り着いた。


「さて、この先にボスが居るわけだけど。みんな、魔力の残りはどのくらい? まずはカンナちゃん。」


「感覚的には7割くらい残ってる感じですね。」


「あら、1/3減ったら撤退って話してたから結構ギリギリね。じゃあパッパと倒さないと。他のみんなは? 半分以下だなーって人はいる?」


 ハルヒが残りのメンバーに問いかけるが全員首を横に振る。


「オーケー、問題無しと。じゃあ行こうか!」


 そう言うとハルヒは両手で扉を開き部屋の中に入る。全員、ハルヒに続いて入っていく。全員が部屋に入ると扉は音もなく閉まった。


「ボスはあそこね。あいつを倒すまで出口は開かないわ。」


 ハルヒが指を刺した先には体長50mはあろうかと言う巨大な蛇がいた。蛇は舌をチロチロと出して獲物を品定めしているようであった。

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