第10話 フェアリーテイルとの顔合せ
「それでは、柚子缶と妖精譚の出会いに、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!」」」
11月某日。ついに妖精譚とのミーティング? が開かれる事になった。カンナとユズキは探索者協会の会議室での顔合わせを想像していたのだが、妖精譚側から「場所を押さえました!」と指定されたのはまさかの居酒屋であった。
一応個室を売りにしたイタリアン居酒屋という事と、時間帯が土曜日のランチタイムなので周りの席でオッサンが飲んだくれてる訳ではないのだが、柚子缶の2人は初めての居酒屋――カンナはもちろん、ユズキもこういう店は初めてであった――の雰囲気に完全に飲まれていた。そして妖精譚のメンバーは皆、がっつり中ジョッキの生を頼んでいる。
「それじゃあ自己紹介から始めようか! 私から時計回りでいいかな!」
この場にいるのは柚子缶2人と妖精譚5人の計7人。もう完全に女子会……というか合コンのノリである。先ほど乾杯の音頭をとった女性が自己紹介を始める。
「私が妖精譚のリーダーやってます、ハルヒです! スキルは『上級剣術』と『身体強化』を持ってます! 年齢は28歳、恋人募集中です!」
ビシッと手を斜めに構えてウインクするハルヒ。明るく染めた金髪に色白の肌は、ぱっと見でハーフと言われても納得のいく美人さんだ。そんな風にカンナが考えていると「ほら、次ヨロシク!」と言われてしまった。そう、ハルヒの左隣に座っているのがカンナであった。
「え、えっと。柚子缶のカンナです。年は17歳で、高校生です。スキルは『広域化』です。」
頑張って自己紹介をして頭を下げる。すると妖精譚のお姉様方から「かわいいー!」と声が上がる。
恥ずかしくてたまらくなったカンナは隣に座るユズキをつつく。ユズキは軽く笑ってから、自己紹介を始める。
「柚子缶のリーダー、ユズキです。今日はお招きありがとうございます。年は21歳。スキルは『一点集中』と『身体強化』、『障壁』を持ってます。」
ユズキが頭を下げると、次は「若ーい!」とか「肌キレイ!」などの声が上がった。ユズキは嬉しそうに笑ってお褒めの言葉を受け取る。
「次は私ね。妖精譚のサブリーダーのナツキです。スキルは『剣術』と『二刀流』。年はハルヒも一緒で28歳よ。」
ナツキはショートヘアーが似合う、ボーイッシュな美人である。入り口から見て奥に座っている4人の自己紹介が終わったので、通路側に座っている3人の番だ。
「ハルヒの妹で、アキです。年は26歳。スキルは『鑑定』、『短剣術』になります。」
26歳と言うけれど先の2人、ハルヒとナツキよりも落ち着いた雰囲気である。ハルヒの妹……言われてみれば顔が似ている。
「マフユ。24歳。スキルは『氷魔法』。ナツキの妹です。宜しくね。」
マフユはナツキとあまり似ていなかった。ナツキがお姉さん系ならマフユはズバリ妹系……ぶっちゃけかなり童顔で、カンナより幼いく見えると言っても過言では無い。次が最後の1人である。
「えーっと、私は厳密には妖精譚のメンバーでは無いんですが、事務処理とかお金の管理とか、果ては探索に同行して動画撮影から編集までやってます。いわば裏方ですね。高原イヨ、23歳です! スキルは『毒耐性』……残念ながらいわゆるハズレスキルです。今日はハルちゃんに無理言って同行させてもらいました!」
イヨはにっこりと笑って手を振った。23歳ということでユズキの二つ上。快活な雰囲気が魅力的である。
さて、自己紹介も終わり。カンナは全員の顔と名前、それとスキルを頭の中で再確認する。
テーブルのこちら側の角に座るハルヒを起点に時計回りにカンナ、ユズキ、ナツキの4人が座り、そのまま時計回りに向かい側、アキ、マフユ、イヨと座っている。各自のスキルは以下の通りだ。
ハルヒ……『上級剣術』、『身体強化』
ナツキ……『剣術』、『二刀流』
アキ……『鑑定』、『短剣術』
マフユ……『氷魔法』
高原イヨ(裏方)……『毒耐性』
カンナとユズキも正直にスキル名を明かしているが、これは今後コラボ配信するにあたって、お互いに出来ることをきちんと把握しておくためだ。
「というか妖精譚って皆さん全員すごく美人ですね!」
「えー! 嬉しいこと言ってくれるじゃん!」
「カンナちゃん、私は? 私は?」
「イヨさんも美人さんです!」
「やったー! 褒められた!」
「こら、高原。調子に乗らないの。」
隣のマフユに諌められるイヨ。
「うるさくてごめんねー? この子、柚子缶の大ファンなのよ。それこそウチの動画より柚子缶の切り抜き作るのに熱心なくらいで。」
「はははハルちゃん! そ、それは言わないお約束だよ!?」
「えー、うちの切り抜き動画も作ってくれてるんですか?」
「あ、まあ趣味みたいなモノですので、フヒヒ。」
笑って誤魔化すイヨだが、その笑い方が不審者のそれである事に本人は気付いていなかった。美人が台無しな笑い方である。
「配信サイトにアップしてます? 見てみたいです!」
「そそそそんな、ご本人に見てもらうなんて恐れ多いっスわ! 後生ですから堪忍してくぁwせdrftgyふじこlp!」
真っ赤になって手を振るイヨに笑う一同。おかげでいい感じに緊張感も解れてきた。
場が温まったところで、とりあえず今日はコラボ云々を抜きにして親交を深める目的で会話を楽しむ事にする。
「柚子缶の2人ってわりと歳離れてるけど、どうやって出会ったの?」
「お互いソロで潜ってる時に、たまたま私のピンチにこの子が助けに来てくれたんですよ。それで話したら意気投合してって感じですかね。」
「えー! すごいドラマチックじゃん!」
「妖精譚の皆さんは?」
「ウチらは、最初私とナツキが別のパーティいたんだけど、そこのリーダーがセクハラ野郎でさぁ。2人で辞めてやる! って言って辞めたのよ。」
「まあハルヒはリーダーボコボコにぶん殴ってほぼほぼクビにされたって感じだったけどね。」
「いやいや、パーティ内でセクハラとか殺されても文句言えないよねぇ? 雑魚寝してるとなんか気付くと隣で寝てたりするし……こっちはビジネスでやってるんだから男女の関係持ち込むんじゃねーよって感じ。」
「あー、わかります。私も前のパーティは男女混合でしたけど、その辺りは気を付けてました。」
「そうそう、それでしばらく2人でやってたんだけど、私達って2人とも前衛スキルだからやっぱり結構キツくって。だからお互いの妹を誘ってみようよって流れで4人になったの。」
「それが私とフユちゃんね。姉さん達はもともとプライベートでも仲良かったし、たまに4人で遊んだりもしてたから一緒に探索者やるのも楽しそうだなって思って参加することにしたの。」
「なるほど。」
「4人の形になったのがもう6年前で、最初は自分達でカメラ持って配信してたんだけど、やっぱり探索しながらリアルタイム配信って話題にも気をつかうじゃない?」
「ええ、まあそれなりには。」
「プライベートな情報が漏れないように、とかだよね? 私も最初の頃はそういうのうっかりしがちで、ユズキからは台本以外の事は極力喋るなって言われてたし。最近は勉強して気をつけるようになってるけど。」
ユズキとカンナが頷く。柚子缶の配信を始める前に「実際に配信を想定して探索してみよう」とリハーサルをやった時、カンナは高校の最寄駅を言ってしまったり、朝7時半に家を出ているなど「積み重なれば個人情報がほぼ特定できるヒント」になる話題を出してしまった。
編集動画であればその辺りの発言はカット出来るのだが生放送ではどうしようも無い。ユズキも編集するスタイルに変えようかと悩んだが動画編集するスキルも時間も無かったので発言を制限する方向にしたのだ。
「とはいえ柚子缶さん、結構雑談も多いですから熱心なファンならヒントは掴んでると思いますよ。カンナさんの高校ってここですよね?」
そう言ってスマホを見せるイヨ。そこに表示された情報はズバリカンナの通う高校であった。
「ぶっ!?」
思わず吹き出してしまうカンナ。
「え、すごい。私も気を付けてるのに解っちゃうものなんですね?」
「フヒヒ、執念の勝利です……。」
「……とまあこんな具合に怖い人も居るし、編集してから公開する事にしたんだけど、私達全員そういうの不得意で……。」
「それで、私の高校時代の後輩の高原に声かけてみたの。この子そういうのオタクだったから。」
「はい。そんなわけで、フユちゃん先輩から無事ヘッドハントされたって訳です。さっきカンナさんの高校を特定できたって事は、逆に言えば私は特定に繋がる情報がわかる側の人間って事ですからね。そういう部分をカットしつつ上手く動画を作る訳ですわ。」
「なるほど。」
「まあそれでハルヒさんとフユちゃん先輩の家に入り浸ってたらいつの間にか裏方全般やることになったわけですけどね。」
「あら、不満?」
「いえいえ滅相もない! お給料も多いし、やることやってれば昼寝もオヤツもついてくるし最高の職場ってス!」
「よろしい。」
「そんなわけで、かれこれ5年以上は4人で探索しつつイヨちゃんがマネージメントしてくれてるって感じでやってきてるわね。」
「5年間って凄いですね。ケンカとかしないんですか?」
「そんなのしょっちゅうよ。」
「仲良い分どうしてもねー。特に多いのが姉妹同士の喧嘩よね。柚子缶の2人は喧嘩しないの?」
「私たちは喧嘩らしい喧嘩ってしたこと無いかな。」
「先月討伐失敗した時に私が凹んでカンナに叱られたくらい?」
「討伐失敗……。鎌倉の時ですね。」
さすが、ファンを自称するだけあってイヨは柚子缶の討伐失敗配信もしっかり把握していた。
「あの時はイヨちゃんも荒れてたわよねー。1192→1185に嫌味言われて、「私の柚子缶に酷い事言うなよ!」って。私達が討伐失敗してもヘラヘラしてるのに、まさかの柚子缶の失敗でガチ凹みしてるこの子を元気付ける事になったのよ。というかそもそもお前の柚子缶って。」
「アキちゃん! それは私と2人だけの秘密じゃ……。」
「いやいや、全員知ってるから。」
「はぅっ!」
そんな風に笑い合ってる妖精譚のメンバーはなんだかんだ楽しそうで、本当に仲が良い集まりなんだなとユズキは思った。北の誓いの時は幼馴染6人のパーティだったのでそれなりに仲が良かったと思っていたが、気が付けばビジネスライクな感じになってしまっていたので5年もこんな風に仲良くしていられる関係は素直に羨ましかった。
自分も5年後、この子と仲良くしていられるかな。そんな風に考えて隣に座るカンナを見る。カンナはハルヒとマフユにかわいがられて嬉しそうだ。そんなカンナを微笑ましく眺めているとふと視線を感じる。顔を上げると、イヨがにやにやしながらユズキとカンナを見ていた。何か? と聞く前に、隣に座るナツキとその向かいのアキに話しかけられてそちらに応える。
話がひと段落して改めてイヨの方を見ると、トイレにでも行ったのだろうか、1人席を外していた。
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トイレで化粧を直しながら、イヨは1人興奮していた。
「ああー! 柚子缶まじてぇてぇ! ハルちゃん、連れてきてくれてマジで感謝だわぁ。……ってかカンナちゃんマジで尊すぎん? 私服の破壊力パネェわ……。あとやっぱりあの2人、付き合ってるよね? 確定でいいかな? 聞いて良いかな? でも隠れて付き合ってるって背徳感もスパイスだよなぁ……。 ああ、まじでてぇてぇよぉ……。」
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「イヨさん、トイレ長くないですか? お酒も飲んでたし倒れてたりしてないかな?」
「ああ、高原はいつもの拗らせだから多分大丈夫。多分もうちょっとしたら色々とスッキリして帰ってくるよ。」
「……色々と?」
「うん、色々と。」
にっこり笑うマフユ。カンナは「お腹以外にどこがスッキリするんだろう」と不思議に思ったが、深入りしてはいけない予感がしたので気にしない事にする。
お姉さんを5人も登場させたせいで書き分けが出来ていない件(汗
本文中では省略してますが、妖精譚の中でのお互いの二人称を紹介しておきます。今後しばらく妖精譚は出てくるので、会話文が読みづらくなると思いますが基本的には カンナ or ユズキ or 妖精譚の誰か のセリフだなって思いながら軽い気持ちで読んでいただいて大丈夫です。
あとから「実は第10話のこのセリフはハルヒがナツキに対して仄暗い想いを抱いているという伏線で……。」みたいな事はありませんので。笑
ハルヒ
→ナツキ:ナツキ
アキ :アキ
マフユ:マフユ
イヨ :イヨ
ナツキ
→ハルヒ:ハルヒ
アキ :アキ
マフユ:マフユ
イヨ :イヨ
アキ
→ハルヒ:姉さん
ナツキ:ナツキさん
マフユ:フユちゃん
イヨ :イヨちゃん
マフユ
→ハルヒ:ハルヒさん
ナツキ:お姉
アキ :アキちゃん
イヨ :高原
イヨ
→ハルヒ:ハルちゃん
ナツキ:ナッちゃん
アキ :アキちゃん
マフユ:フユちゃん先輩
最大限気を付けては居ますが、作者が二人称を間違えていることもかあるかも知れません。その場合は申し訳ないです!汗
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