世界樹に住む王は伯爵令嬢を溺愛する
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世界樹の王ライと伯爵令嬢アリスのお話。
神でさえも世界樹によって作られた
世界樹の数多く並ぶ中で、真ん中に立つ世界樹が一番古かった。今は新しくなったので、倒れることはない。
その世界樹を統治しているのは雷王と言われる神だった
何故雷王は誕生したのか。気が付いたら、そこにいたという感覚だった。
周りには雷王の他にいなかった
雷王は一人でいることに飽きてしまった
普段は雷を纏う鳳凰の姿をしていたが、人間の姿にもなれた。人間の姿の時は髪が白銀で、瞳は黒色で、目鼻立ちが整った少年のようだった。どちらも雷王の姿だった。長い時を生きている電王は自分の年齢を知らなかった。
「今日はどの階層の世界に行こうかな」
一人でいることの退屈さを紛らわせようと世界樹の中の世界に降りて行くことがしばしばあった。鳳凰の姿で行くこともあるし、人間の姿で行くこともあった。
世界樹は階層の世界になっていて雷王は自由に行き来することが出来た。階層は沢山ある。
何回層だろうか、多分この階層辺りだったはずだ
雷王は、まだ行ったことがないであろう世界に降りることに決めた。
「この世界はどんな世界だろう」
電王は、いつ降りたか覚えていない、降りたかも分からない階層に少年の姿になり降りていった。
雷王が下りた階層は
西洋風中世的貴族がいる世界が広がっていた
あまり綺麗とは言えないが大きな屋敷の庭で
伯爵令嬢アリスは畑仕事に精を出していた。伯爵家とはいえ、没落している訳だから、使用人はほとんどいない。弟のパリスも一緒に畑仕事を手伝っている
「この人参を見て、パリス。立派に育ったわ」
「すごいね!姉上。野菜いっぱいのスープを作ろうよ」
伯爵令嬢、令息とは思えない会話である。全ては貧困からきているのだが、なんともたくましい姉弟である。
白銀髪の目鼻立ちが整った少年が少し離れた所に立って、アリスとパリスを見ていた
アリスはライに気が付いた
(わあ、なんて可愛い子なの!)
ライの姿に思わず、見とれてしまう。
(こんなに可愛い子、見たことないわ。)
白銀のサラサラで、肩まであるストレートな髪が、少年の整った顔によく似合っている。瞳は黒くて、黒曜石のように輝いていた。
「どこから来たの?」
アリスは思わず声を掛けていた。我が家には、このような可愛い使用人はいない。
なぜ庭にいるのだろうか。迷子なのだろうか?
全く使用人らしくない出で立ちから、どこかの貴族の子かしら、とアリスは頭を捻りながら考えていた。
「あなたは迷子かしら?」
「違うよ」
「なら、どこから来たのかしら?」
「ここではないところから来たよ」
「う―ん、まあ、それは確かに正しいわ」
アリスは理解した。この子は迷子に違いない。
(どこから来たかも分からないほどの迷子なのかしら?)
「えっと、お家の方が心配していると思うわ。私はアリスというの。貴方のお名前は?」
「ライ。・・・お家はないよ」
(ええっ、もしかして孤児!?)
アリスは少し混乱してしまった。ライの事が心配だ。
ライはアリス達と一緒に暮らすことになった。ライは毎日が楽しかった。畑仕事などはしたことがなかったので、新鮮だった。
いつしかライはアリスのことが好きになった。
ある時、ライはアリスに訴えた。
「ああ、アリス!アリス。僕はいつまでも君たちといたい」
アリスはライに微笑んで
「当たり前よ。私たちお友達でしょ?いつまでも一緒にいましょう!」
しかし、ライは不安になった。
(いずれアリスは一瞬のうちに僕の前からいなくなってしまう。人間であるアリスの一生は短い。)
ライは長い時をまた寂しく過ごさなければならない。
アリスの一生をライは独占したくなったが、ライにはどうしていいか分からなかった。
ライは悶々とした日々を過ごした。愛しいアリスとずっと一緒に暮らしたい。
(暮らしていてもアリスだけ歳を取りいずれ朽ち果てていくだろう。アリスが居なくなったら、僕は気が狂ってしまうだろう。)
今まで雷王は一人でも寂しいとは思わなかった。それが当たり前だったから。アリスと出会ってその甘美なる感情を知ってしまったら、もう元の孤独には耐えられない。
ライはアリスを好きになっていくことを止めることが出来ない。
アリスと一緒にいる方法。それはきっと世界樹の記憶にあるはず。世界樹の核とも言える所には記憶の保管を司る所がある。神であるライはそこに行くことが出来る。
ライは世界樹の根幹にある知識の源に触れ、多くある世界の記憶の中で、アリスと共にいる方法の答えを探そうとした。
(アリスと別れなくてすむ方法がどこかにあるはずだ)
ライはどんどん過去に遡って世界樹の記憶を見ていった。
そうしてついにライは世界樹の記憶の中に答えを見つけた
「これだ!これならずっと一緒にアリスといることが出来る!」
それは世界樹にある、ライの誕生の記憶であった。
そこには白銀の青年が立っていた。
「もしかして、ライなの?」
「僕は普段は少年の姿をしているが大人になることも出来る。アリスと愛し合うことだって出来るんだ」
(これって、ショタの世界だわ!危ないわ、私)
アリスはライの手を取ることが出来ない。
長髪で白銀、黒い瞳。横から見た姿は人間とは思えない
神々しいライの姿に驚いたアリスは声を震わせて尋ねた
「あなたは何者なの?」
「アリス、アリス!君を愛しているんだ。離れたくない。ずっとそばにいて欲しい」
(それは無理よ。)
アリスは理解した。ライは私たち人間とは違う存在なのだ。少年にも青年にもなれる。最初は魔法使いかと思ったけど、違う。
「貴方は私達人間とは時の流れが違うのではなくて?」
「そうだとしても、僕はアリスのそばにいたい」
「ああ」
アリスはライに捕まってしまった。多分これからはライはアリスを離さないだろう。
「愛してる、アリス。愛してる」
(甘々な言葉だわ、ああ)
アリスは身も心もライに捕まってしまった。
(メロメロで、でろ甘な二人の世界だわ)
アリスも心の奥から湧き上がる、ライを愛しいと思う気持ちを偽ることは出来ない。
「ああ、ライ。私もあなたの事、愛してるわ」
「ああ、アリス。いつまでもあなたと共に」
ライはその言葉通りにアリスの傍にいて、アリスの一生を見届けた。
アリスは一生を終えた。
アリスの魂がその身体から出てきた。ライはアリスの魂を両手でそっと掴まえ、世界樹のてっぺんに持って行った。
世界樹の頂きにアリスの魂をかざすと、世界樹の生命の溢れる神秘の力により、若い頃のアリスの体が復活した。
アリスは人間ではなく、ライと同じ永遠に生きることが出来る存在になった。
「アリス、目覚めたかい?」
「ええ、ライ、おはよう」
「とこしえにあなたと共に」
以前は孤独だったライ。
階層に下りて、アリスという愛しい人を見つけた。
アリスの魂はライによって世界樹の力で復活した。
永遠の存在となった二人は、たまに各階層を回って楽しみ、いつまでも幸せに暮らしている。
二人のある姿を見たものは口々に言う
「ああ、吉祥の証である番の鳳凰を見るとは、今日は縁起がいい!」
「虹色に輝く二体の鳳凰が空飛ぶ姿はなんとも神々しい!」
いつしか番の鳳凰は、仲の良い夫婦の象徴として人々に崇められるようになった。