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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第24話 こんな雑なお別れなんて、あんまりです

「……え?」

「たぶん、エステル様がわたしに契約をふっかけてきたあたりじゃないですか? 終わってますよお、浄化」


 終わってる?

 浄化が?


 言われて、目の前のレイヴンをまじまじと見る。


「あ、え……? そういえば……?」


 レイヴン自身も、言われて初めて気づいたように自らを探るように確認する。

 確かに、今の、何だかよくわからないけど力が強くなったわたしの状態なら解る。

 目の前にいるレイヴンからは、魔獣の――怨嗟や怒りといった、負の力がかけらも感じられないのだ。


「あれ、レイヴン……、なんか光ってない?」

「あ……?」


 見ると、レイヴンの体がきらきらと細かい粒子で輝き出しているようだった。

 そして、徐々に輝きが増すのと比例して、レイヴンの存在自体がこの世界から希薄になっていく。


「え、ちょっと、やだ、やだよ」


 引き止めるように、レイヴンの腕を両手で掴む。

 400年前、レイさんだった時は、見上げるような大人の男の人だった。

 今は、わたしよりも少しだけ背の低い、少年の姿のレイヴンを。


 行かないで、というのは、わたしのエゴなのだろうか。

 わたしは、レイヴンに何をしてあげることができただろうか。

 本当に、これでよかったのだろうか。


 いろいろな後悔と疑問が頭の中をよぎっていく。


 焦るわたしとは対照的に、だんだんと存在が消えゆく自分を認めたのか、諦念の表情でレイヴンが笑う。


「いいんだ、エステル。大丈夫だから」

「レイヴン……」

「…………レイ」


 わたしの声に遅れるように、背後から聞こえてきた悲痛な声に思わず振り向く。


「アスラン様……?」


 声の主は、わたしの背後でレイヴンを見つめるアスラン様だった。

 だけど、なぜだろう?

 見上げた先でなぜか、アスラン様の表情が、かつて見た記憶のある、アース様の表情と重なって視えた。


「……思い出したのか?」

「全部じゃない……とは思うが」


 レイヴンが、アスラン様に問いかけ、アスラン様が苦しげに答える。

 多分、レイヴンが尋ねたのは、アスラン様がアース様だった時の記憶を思い出したか、ということを聞いたのだ。

 レイヴンのことを『レイ』と呼んだのも、きっとそうで。


 わたしは、この時になってようやく悟ったのだ。

 今が神様が言った【顛末を見届ける時】なのだと。


「なんだ皆。辛気臭い顔するなよ」


 レイヴンがぷはっ、と笑う。


「ああ、でも俺。なんで猫が、死期が近くなるとそっとどこかにいなくなるのか、わかった気がするわ」

「しっ、死期とか言わないでよ……!」


 そう口にした瞬間、ぶわっ、と、それまでずっと抑えていたものが決壊した。


「大体、昔っからわたしに対する扱い雑だし、口も悪いし荒いし、そのくせ変なところで自分を抑えて我慢して、なんでもかんでも背負い込むのやめてよ! 女子か!? ツンデレ女子か!? いや、逆にだから私の親友枠だったのかもしれないけど……!」

「親友枠かよ」

「そうよ親友よ! 親友で、お父さんで、お兄ちゃんで、弟みたいな時もあって」

「お前、俺に役割与えすぎだろ」

「そうです! だからいなくなったら困るって言ってるのに!」

「……」

「最後のお別れまでこんな雑な別れ方なんて……」


 そう言って、顔中びたびたになった涙を、隣のアスラン様の洋服の袖でぐいっと拭う。


「絶対、転生して幸せにならないとダメなんだからね……。なんなら神様脅して定期報告してもらうから」

「ぶはっ。お前それ……、どんだけ大物なんだよ」

「エステル……、レイ……」


 レイヴンが吹き出して笑うのに、それまでじっとわたしにされるがままで立ち尽くしていたアスラン様が声を放つ。


「ま、いつまでもこうしてグズグズしててもしょうがないし。俺、この400年と、エステルのそばにいるようになった数年で、散々考え尽くして後悔とかもうなんも無いんだわ。だから、俺がいなくなった後、お前らに湿っぽくされるのが一番困る」

「……」

「じゃあな、兄弟。なんだかんだ、お前と長い時間を過ごしてきたけど、俺、お前と兄弟で楽しかったわ」

「レイ、俺も……」

「エステル、エリシエルも。コイツのこと頼むな。コイツだいぶ嫉妬深いから」

「レ……」


 レイヴン……!

 最後に、そう名前を呼ぶ前に、じゃあな、と一言だけ残して、レイヴンは消えてしまった。


「レイヴン……! うっ……」


 レイヴンが立っていたはずの場所に、そこに何かしらの痕跡が残っていないか目を凝らすが、そんなものは何もなく。


 気がつけば、空はもう陽が傾き、1日の終わりを告げようとしていた。


 残照の残る地面に、そこにあったはずのものが無くなってしまった事実を認めて、わたしは声をあげて泣いた。


 そう。

 わたしはいつも気づくのが遅いのだ。

 遅くて、後から気づいて、後悔する。

 そうして、今日みたいに、悲しみに暮れて涙するのだ。

 

 しばらくしてから、いつのまにか両肩に添えられていたアスラン様の手のひらの熱に気がついた。

 今度はもう、こんな、今日みたいな後悔をしないで済むよう、涙せずにいられるよう、大事な人を守ることができるよう。

 わたしは、もっともっと、成長しなければならないと思った。

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