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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第22話 あなたに、契約を申し込みます!

 大好きな人のその胸に、剣を突き立てることに抵抗がないと言ったら嘘になる。


 でももう、この剣に関しては(自分が突き立てられたことも含めて)2回ほど使用経験済みだ。

 さまざまな躊躇を振り切って、とにかく眠りから覚めてほしいと、アスラン様の胸に剣を突き立てる。


 これが、刺す時の手応えがなければ罪悪感もないのだけれど、しっかり手応えがあるから不安に駆られてしまう。


 わたしが祈りを込めてアスラン様に剣を突き刺すと、それまで荒い息を吐いて眠っていたアスラン様が、「うっ……」と眉間に皺を寄せる。


「アスラン様……」

「……エステル?」


 わたしの呼びかけに、アスラン様がうっすらと瞳を開ける。


「エステル……、いや、エリシエル……?」

「アスラン様?」

「ああああああああっ! せっかくいい夢を見せてあげていたのに、何で起こしちゃうんですかあ!!!」


 アスラン様が目覚めたことに気づいた【甘言】が、レイヴンと争いながらもこちらに向かって喚き立てる。


「……! お前は……!」

「なんなんですかもお! 今度こそアース様ゲットできると思ったのに! 相変わらず聖女は邪魔だし! お兄ちゃんはお兄ちゃんで今度は揺るがないし!」

「うるせえ! お兄ちゃんって呼ぶな!」


 【甘言】が嘆きながらレイヴンに向かって攻撃するが、レイヴンはそれを防ぎながら文句を言い返す。


「あれは……レイ……? いや……」


 アスラン様が、混乱の残った様子でレイヴンを見ながら呟く。

 さっきから、アスラン様が過去の人物の名前をぽろぽろと漏らしている。

 ――隷属の剣の影響で、前世の記憶が戻った?

 いやでも、わたしが過去に刺された時にそんな影響はなかったし……。


 もしかしたら、前世に行った直後のわたしの影響とかもあるのだろうか?


 いろんな思いが脳裏をよぎるが、今はそれより、レイヴンと戦っている【甘言】を何とかするのが先だ。


 わたしの隣に立つアスラン様も、同じ結論に至ったのか、「……加勢しないと」と言って、一歩足を前に踏み出す。


「待ってください」


 そうして、加勢に出ようとするアスラン様を、わたしは押しとどめる。


「エステル……?」


 理由はよくわからない。わからないけれど。

 さっきの宝物庫の鍵の時から、いや、その前から――やたらと力がみなぎっているように感じるのだ。


 わたしは、アスラン様を押しとどめ、そのまま――離れたところでレイヴンと戦う【甘言】に向かって声を掛ける。


「止まりなさい! ()()()!」


 その言葉で、今まさにレイヴンに攻めかかろうとしていた【甘言】が、ぴたりと動きを止める。


「なぜ……、その名を……」


 驚愕の表情を浮かべながら、リリスと呼ばれた【甘言】は、ゆっくりとこちらに顔を向ける。


「それが、貴女の本当の名前なんですね」


 わたしの言葉に、きゅっ、と唇を噛み締める。


 わたしがなぜ、彼女の本当の名前を知り得ることができたのか。

 答えは至極簡単なことだ。

 ――視えたのだ。彼女の名前が。


 もちろん、最初から見えていたわけではない。

 きっかけは、さっきの宝物庫。

 あそこで、あんなにもあっさりと鍵を解除することができたのなら、もしかして本当の名前も読み解くことができるのではと思ったのだ。


 隷属の剣を手にして戻ってきて、アスラン様を覚醒させてから【甘言】を目にして――。

 彼女の魂に『祝福』を与えよう――、そう考えた瞬間に、視えた。

 

「なっ……。この短時間で、どうしてそんな桁外れに神聖力が高くなっているんですかあ!?」


 わたしと目が合った瞬間、【甘言】――リリスが、ギョッとしたように身を引いた。

 どうしてと聞かれても、わたしだってよくわかっていない。

 エリシエル様に修行をつけてもらったからだろうかと思ったが、それにしても、過去でリリスや魔獣になったレイさんと対峙した時よりも圧倒的に力に溢れている気がする。


「リリス」

「ひっ……」


 名前を呼ぶと、呼ばれた方の当人は怯えるように身をすくませる。


「貴女に、契約を申し込みます」

「ひ……、へっ?」

「おい!」

「エステル!!」


 わたしの言葉に、身をすくませていたリリスはキョトンとした表情を浮かべ、レイヴンとアスラン様は慌てたようにわたしを静止する。


「仮にも聖獣なら、わたしとだって契約して問題ないはず……。あなたをそこらへんに放逐しておくより、わたしと契約して管理下においた方が断然安心な気がしました」

「仮、じゃなくて、ちゃんとした聖獣ですう! それに、なんなんですか! その理屈! 人を爆発物みたいに」

「……どう考えても爆発物そのものじゃねーか」


 わたしとリリスのやりとりに、レイヴンが呆れたようにツッコミを入れる。

 

「大丈夫です。あなたが身勝手なことをしなければ、わたしはちゃんと貴女のことを丁重に大切に扱いますから」


 わたしがリリスに向かってにっこりと笑うと、「うう……、反発したい気持ちもあるのに、真名を知られたせいか身を委ねたい気持ちにあらがえないいいい!」とリリスがプルプルと震える。


「でっ、でもでもでもお! いいんですかあ!? 契約して私をそばに置いておくと、またいつアスラン様を誘惑しちゃうかわかりませんよお!」

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