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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第21話 戻ってきてください、アスラン様

「――わあああああああああああああああああああああああ!」


 えええええええエステルです!

 わたしがなぜ冒頭から叫んでいるかというと!

 落下!

 まさに今、落下している最中だからです!!


 あの、不思議空間での神様との対話の後。


 こっちだよ〜、と言わんばかりに指し示された道を辿り、辿った先に仕掛けられていた落とし穴にあっさり嵌り。

 滑り台のように落とし穴をするすると滑り落ちた後、ぽろっとなにもない中空に放り出されたのである。


「わあああああああああああああああああああああああああ」


 え?

 嘘!?

 嘘ですよね!?

 せっかくこれからみんなを助けに行こう! みたいな切り出しで神様と別れたのに、まさかの空中落下死バッドエンドとかありえます!?


 とか思っていたら、地面が見えてきた!

 うをををををををををを!

 ショック死しなかった自分超偉い!

 でも怖い!


 と思っていたら、急激に何らかの力が体にかかり、落下の勢いが弱まった気配がした。

 同時に「結界を自分に貼りながら落ちればいいかも!」と頭に浮かんだので、迷うことなく、というか、迷う余地なくそれを実行する。


 どぉん!!


「うっ!」

「きゃぁっ!!!!」


 何かに弾き飛ばされる衝撃と共に、聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえる。

 しかし、一方のわたしの方は、それが誰だか冷静に考えるだけの余裕もなく、ごろごろと地面を転がった後「うう……」とうめくのが背一杯で。


「ったた……」

「エステル!」


 駆け寄ってくるレイヴンの声が、なんだか懐かしく響く。


「エステル! お前、今転移させたばっかりなのに何で……」


 レイヴンがこちらを心配そうに見下ろす。

 そしてその向こうで、ゆっくりと起きあがろうとするエヴァンジェリン様の姿が――。


「あっ! 神様!」

「えっ!?」


 咄嗟に、大声を出してあらぬ方向を指差し、レイヴンとエヴァンジェリン様――いや、【甘言】がそれに気を取られたその隙を狙って皇宮内へと駆け出す。


「おっ、おい!? エステル!?」


 走りながら、離れたところで地面に寝そべったままのアスラン様をチラリと見る。

 ――本当は、今すぐに駆け寄って助け起こしてあげたい。

 でも、その気持ちをぐっと飲み込んで、皇宮内の目的の場所へと一目散に駆ける。


 目指すは、宝物庫。

 そこに収めてある――隷属の剣。

 前回の魔獣騒動の後、聖王国には戻さずに、帝国の宝物庫に収めておいたのだ。


 エリシエル様が言っていた。

 わたしたち聖女は、生き物を傷つけることができない。

 だから、隷属の剣という媒介を使って、他者に影響を与えることで身を守る。

 

 と、思ってやってきたのだが――。


「鍵がかかってる!?」


 目的の場所まで辿り着いたのに、勢いも虚しく、鍵のかかったドアは虚しくガタガタと音を立てるのみ。

 そりゃ、そうですよね……。

 宝物庫ですもんね……。


 鍵……、はおそらく、クラウス様が持っている鍵庫の鍵を開けて出してもらわなければならない。

 まず、クラウス様を見つけなければいけないが、そうすると必然的に巻き込んでしまうし、時間を大幅にロスしてしまう……。


 こうしている間にも、外ではドン! ドン! と魔力が放たれている音が響いている。

 

 ううう……!

 ええい!!


 半ばやぶれかぶれ、やけくそ気味で力を放つ。

 鍵のかかったドアに祝福をかけたのだ。

 鍵を解除すると、この国を守れると。

 あなたが今すぐ鍵を解除しないと、この国が危機に陥りますけどいいですか――!? と。


 がちゃり。


 あ……。


「開いた!?」


 え!? うそ!?

 だいぶやけっぱちの方法だったけど、この方法、通用するの!?


 自分でやっておいて心底驚いたけれど、ゆっくり驚いている暇もないのだと慌てて宝物庫に入る。

 隷属の剣の場所はわかっている。

 最近、わたしがアスラン様と一緒にしまったのだ。


「あった……!」


 ついさっき、400年前の過去で触ったばかりの剣が、400年前と全く変わらぬ姿形でそこにあった。

 懐かしいような、ずっと手に馴染んでいたような不思議な感覚。


 しかし、ここでも干渉に浸っているわけにはいかないのだ。

 きっ、と気を引き締めて、元来た道を息を切らしながらひた走る。


 そこには既に、異変に気づいた皇宮の人々が集まってきていた。

 これだけどんぱちしてたらそりゃあ、気づかないわけないよね……。


 しかし、周囲に集まってきた人々は、レイヴンと【甘言】の激しい攻防に割って入れるものはおらず、ただ固唾を飲んで見守るだけだった。


「レイヴン!!」


 ざっ、と到着して、仁王立ちになったわたしは、戦闘中のレイヴンに向かって大声を上げる。

 瞬間、レイヴンとわたしの視線が、確かにかちりと交差した。


「戦闘中に目を離すなんて! そんな余裕、ないんじゃないですか!」


 その隙を狙って、【甘言】が攻撃を仕掛ける。

 しかし――。


 わたしの狙いを正確に理解したレイヴンは、【甘言】への攻撃より、わたしの転移を優先させた。

 そして。

 わたしが転移させられたその先は――。


「アスラン様、戻ってきてください――!」


 エヴァンジェリン様の後方で静かに横たわる、アスラン様のその真上だった。

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