第17話 これって、どう言う顛末ですか?
「シエル! 無理をするな!」
アース様が、遠くで結界を貼り続けているシエル様に向かって声を張り上げる。
エリシエル様のお腹の中には、アース様の子供がいる。
わたしだって、身重の女性に無理なことはさせたくない。
それになにより――、おそらく、エリシエル様のお腹の子の子孫が、アスラン様につながるのだ。
「わたしが、この剣を使って、レイさんを魔獣から聖獣に戻せないか試してみます」
「……そんなことできるのか?」
「わかりません。でも、試してみる価値はあるかと……」
以前、レイヴンが魔獣の魂に飲み込まれた時も、この隷属の剣で戻す事ができた。
あの時とは状況が違うが、もしかしたらできるかもしれない可能性に賭けてみる。
くるりと振り返り、獰猛な獣の姿のレイさんを見上げる。
――正直、怖い。
人間より一回り大きな獣の姿のレイさんに、軽く薙ぎ払われるだけでおそらく重症だ。
わたしとエリシエル様の作った結界で押さえつけているけど、それだっていつまで持つかわからない。
――でも。
迷っている暇はない。
ここでなんとかしなければいけないのだ。
たっ、とレイさんに駆け寄り、エリシエル様から託された隷属の剣を、思い切ってレイさんに突き立てる。
「レイさん――! 戻ってきて――!!」
――――――――――!
隷属の剣を突き立てられたレイさんは、声にならない咆哮をあげ、短剣から逃れるよう力強く抵抗する。
「レイさん! レイさん!」
わたしは、それに振り払われないよう必死でしがみつくが、レイさんの力は全く弱まる様子もない。
というか。
――だめだ。
半ば直感的に悟る。
前回は、400年かけてだいぶ浄化された後のレイヴンだったから、隷属の剣でもなんとか対応できた。
でも今は、レイさんの堕ちた闇が深すぎて、隷属の剣では全く呼び戻せるように思えない。
そ、早計すぎたかも――!?
一瞬、弱気になった瞬間をつかれて、レイさんから振り払われてしまう。
「きゃあっ!」
危うく、地面に激突しそうになったところを、アース様に受け止めてもらって免れる。
「あ、ありがとうございます……」
「シエル!!!!」
アース様の叫び声のような声に振り返ると、戒めから解かれたレイさんが、エリシエル様に向かって突進していくところで。
「レイさん!」
アース様が凄まじいスピードでレイさんに追いつこうとするが、その手は一歩届かず――。
そこからは、まるで一瞬の出来事がスローモーションのように緩やかに見えた。
アース様が伸ばした手が、もう一歩のところで届かず。
しかし、一歩先のところにあるレイさんの体を、どこからともなく現れた光の矢が打ち抜いた。
どぉん……! と、光の矢に貫かれたレイさんが、その巨体を地面に横倒しに倒れていく。
「な……」
「レイ――――――――!!!」
驚愕するアース様と、悲鳴を上げてレイさんに駆け寄るエリシエル様。
わたしは、あまりにも一気に色々な事が起こりすぎて、あたまが真っ白で――。
「あ〜あ、なにこれ。あまりにもカオスなんだけど」
突然、聞こえてきた少年の声。
いや、もしかしたら少女なのかもしれない。
振り返って声の主に目をやると、少年とも少女ともつかない、非常に中性的な顔立ちの、人とは思えない美貌の持ち主が、呆れたように立っていた。
「甘言の後始末が大丈夫かと思って様子を見てたけど、ひどいね、これ」
そういって、ひどい有様になっている周囲をぐるりと見回す。
「あ、あなたは……」
「しかも、歪みもまだ閉じられていないし。どうなっているのかな、アース」
「は……」
そう言って、恐縮して頭を下げるアース様を一瞥した後、その視線がぴたりとこちらに向いた。
「ちょっと……。しかも、この時代の人間じゃない魂まで紛れ込んでるじゃ……、あ〜、これも甘言がらみかあ……」
「あ、あの……」
「あーはいはい。僕が誰かって思ってるよね。まあそりゃそうだよね。うん。あのね、神だよ」
「は……?」
麗しい美貌にに使わない、軽い口調に違和感を覚えながら、思わぬ言葉が相手から出てきたことに、思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。
「まー、あれか。神だなんて言うと大仰か。ま、君たちの世界の管理人みたいなものだね。施工主 兼 管理会社の社長みたいなものね」
「は、はぁ……」
なんだかよくわからない単語がポンポンと出てきて困惑するが、問いただすわけにもいかず納得したようなしてないような相槌を打つ。
「で。話を戻すけどさ、アース。僕、確かに君に人間を愛しちゃいけないとは言ってないけど、勝手にそういうことしていいとも言ってないよね? なに? 人間と聖獣の混血って。そのために君たちを人型取れるようにしたわけじゃないんだけど」
「……大変、申し訳ありません……」
「謝って済むなら警察いらないんだわ。て言うかさ、わかってる? 聖女って一応、神的な存在からするとお気に入りキャラなんだけど、そんなのに手を出す? 神の使い的な存在が」
「……」
アース様が、とうとう言葉もなくただうなだれる。
どうやら、相当面目ないことをしでかした、と言うことらしい。
神様の言っていることの半分くらい理解できないことだらけだけれど、状況的な何かだけはうっすらわかる。
「まあいいよ。できちゃったものは仕方ないし。いまさらどうこう言わないけど」
「……」
「とりあえず、罰として君は聖獣から人間に降格。あと、向こう400年くらい転生なしね」
「えっ……」
「そこの聖女も。今後400年転生なしだから。いい?」
「は、はい……。あの……」
神様に声をかけられたエリシエル様が、短く返事をした後、躊躇いがちに、横たわるレイさんをチラリと見遣る。
「ああ、この子ね……。まあ、正直この子に関しては可哀想だなって思うところが多かったから……」
そう言うと、神様も傷ましそうにレイさんをちらりと見つめる。
「でも罰は罰だからね。罰と言っても、この子に対する罰だけじゃなくて、君たちに対する罰かな」
「え……?」
「これから、この子は向こう400年くらい怨嗟で苦しむ」




