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【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜  作者: 遠 都衣
第二部

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第16話 わたしが、レイさんを止めてみますね

「ゔぁあああああああああああああああ!」

「レイ!」

「レイさん!」

 

 悲痛な声で叫ぶレイさんを中心に、強大な魔力が膨れ上がり。

 人の形であったものが、溶けるように黒い魔獣へと姿を変えていく。


「うふふっ! ほらほらぁ! とっても素敵な姿になったじゃないですか……あっ?」


 エヴァンジェリン様が言い終わる前に、レイさんが放った魔力の塊が、ぐさりとエヴァンジェリン様を貫いた。


「あら……」


 そうして、驚いたように自分の胸もとを見つめていたエヴァンジェリン様を、薙ぎ払うように力強く跳ね飛ばす。


「う……、ええ……? 矛先私に向けます? て言うか、レディーに手を出すとかあり得なくないですかぁ……?」


 悪態を吐きながら、エヴァンジェリン様がよろよろと起き上がる。


「私、曲がりなりにも聖獣なんで、この人と相性良くないこと忘れてましたね……。でも、ちょうどいい場所に飛ばしてくれてありがとうございます! 私はお先に、一時撤退しますね」


 そう言うと、ちょうど歪みのすぐ近くに跳ね飛ばされたエヴァンジェリン様は、その歪みの中心に手を伸ばし、吸い込まれるように体が消えていく。


「な……、待て!」


 消えゆくエヴァンジェリン様を静止しようと、アース様が手にしていた剣を投げつけるが、わずかに及ばずエヴァンジェリン様の姿は掻き消えてしまった。


 この場に残されたのは、魔獣に落ちたレイさんと、エリシエル様とアース様、そしてわたし――。


「うっ……」

「シエル!」


 わたしがじっとレイさんを見つめていたら、エリシエル様が苦しそうな声を上げるのが聞こえた。

 そちらに目線をやると、地面に手をついたエリシエル様が、荒い息をつきながらお腹を抑えているのが見えた。


 ――怨嗟だ。


 魔獣の怨嗟が、エリシエル様のお腹の子に影響を与えている――。

 見ると、アース様も苦しそうに額に脂汗を浮かべているのが見えた。


 エヴァンジェリン様に唆されてしまったレイさんの怨嗟が、二人にかかってしまっているのだ。


 アース様は、脂汗を浮かべながらも、自らも姿を白い獣に変化させ、嵐を巻き起こしながら怨嗟を撒き散らす魔獣に対峙する。

 わたしも急いで、エリシエル様の近くへと駆け寄っていった。


「エリシエル様。浄化を……」

 

 わたしが浄化をかけると、エリシエル様の表情が少し和らいだように見えた。

 

「エステルちゃん、これを……」


 そう言って、エリシエル様は、背中にしまっていた隷属の剣をわたしに向かって差し出してくる。

 本当は、私がすべきなのだけど……、と前置きを置いて、エリシエル様がわたしに向かって微笑む。


「私の代わりに……、レイを……止めてあげてほしいの。お願い……」


 その頬に。

 はらはらと涙が流れ落ちていくのが見ていられなくて、わたしは差し出された隷属の剣に目を向ける。


「……わかりました」


 かつて、この時代より先の未来で振るったその短剣を、再び手に取る。

 背後では既に、アース様とレイさんが、激しい戦いを繰り広げていた。






 振り返って、戦いを繰り広げる二人に対峙する。

 

 ………………。


 ……これ、戦いが激しすぎて、下手に割って入るとわたし死んじゃわない?

 正直、ところどころ目で追うことさえできなくて、怖くて迂闊に近寄れないのですが。


 そう思いながら二人の戦いを見つめていたら、ふと一瞬、アース様がこちらに目配せしたのが見えた。


 あっ。


 瞬間、なんとなくどうすればいいのか閃いたわたしは、アース様がレイさんと距離を置いた隙を狙って、レイさんの周りに結界を張る。


 エリシエル様に修行してもらった通りに……。

 大きめに結界を張って、結界を狭めて、その分凝縮させる……。


 ……できた!


 狙った通りに事が運んで、レイさんが身動き取れないくらいの狭さになった結界が、レイさんの動きを封じてくれる。


 今のうちに……!


 結界の中でもがいているレイさんの力が強いので、そんなに長い時間結界を維持できない。

 動きを封じられているうちに、隷属の剣を突き立てないと……!


 そう思って、結界に近づいた時だった。


「何考えてる!」


 アース様に襟首を捕まえられて、動きを静止された。


「あっ……」


 はらりと、それまで頭にかぶっていたフードが背中におちる。


「お前……! エリシエル……?」


 そう言うと、アース様は遠くでこちらの様子を伺っているエリシエル様とわたしを見比べる。


「いや、違う……。別の時代の転生体か。なんでここにいるんだ?」

「わ、わかるんですか……?」


 アース様が一瞬でわたしの正体を見抜いたことに驚く。


「わからないわけがないだろう。魂が同じなんだから」


 そう言って、アース様が目を細めてわたしを見ると、


「……生まれ変わっても聖女なのか……」


 と、眉間に皺を寄せる。

 つくづくどうして――、とアース様がうめくが、今はそれどころじゃないんです――!


「あ、あの。いまはそれより、レイさんを止めなきゃいけないと思うのですけど」

「――それもそうだな」


 わたしの言葉に、アース様はすんなり納得してくれ、ふたりで隣で暴れ続ける魔獣を見上げた。

 よく見ると、さっき貼った結界にヒビが入り始めている。


 あっ、これは、まずいのでは――。


 と、思ったら、上から新しく結界が補強される。

 振り向くと、エリシエル様がわたしの貼った結界の上に新しく結界を貼り直してくれたみたいだった。

 

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